Yahoo!ニュース

男子バレー世界選手権開幕。「ベスト8、ベスト4を目指す」日本代表が4年で進化を遂げた理由

田中夕子スポーツライター、フリーライター
男子バレー日本代表が出場する世界選手権がいよいよ開幕(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

4年前は開催国と開幕戦「日本なら絶対勝てる」

 4年前の2018年、イタリア、ローマ。

 屋外コートの「フォロイタリコ」で行われたナイトゲームで、日本代表は自国開催のイタリアと開幕戦を戦い、イタリアの応援一色の完全アウェイの中、試合は3対0。日本はストレート負けを喫した。

 屋根のない会場で夜空の下、風が吹く中バレーボールの試合をする。開催地であるイタリアでも開幕戦だけが唯一、フォロイタリコで行われたこともあり、幻想的な雰囲気と試合前に会場中で大合唱されたイタリア国歌や、試合間に沸き起こる大声とスマートフォンのライトで照らす演出は、バレーボールの試合という枠を超え、どこかお祭りのようだった。とはいえ日本もイタリアもベストパフォーマンスには程遠く、ふわふわしたまま試合が進み、あっという間に終わった。

 だが見ている分には楽しく、きっと同じ空間、雰囲気でバレーボールの試合が見られることなど二度とない。取材をしながら思わずその光景に何度もスマートフォンのカメラを向けたが、何度かふと、冷静に思い直した。

 イタリアは、日本なら確実に勝てると思っているから開幕戦の相手に選んだ。なめられているんだよなぁ、と。

 あれから4年。日本代表は26日、スロベニアで世界選手権の開幕を迎え、カタールと対戦する。昨秋のアジア選手権でも勝利した相手で、日本より世界ランキングも下。フィリップ・ブラン監督は「確実に勝たなければならない試合」と明言するように、むしろただ勝つだけでなく次につなげるべくどんな勝ち方をするか、ということに着目している。

 当然ながら選手も同じで、もはや目線はカタールのみに留まらない。

 主将の石川祐希が代弁する。

「カタール、ブラジル、キューバ。どこも強い相手ばかりですが、僕たちが目標とするベスト8。さらにその先の準々決勝を勝って次に進むことを考えれば、カタール、キューバは勝たなければならない重要な相手。ブラジルも強いですが、絶対に勝てないだろうな、という思いはありません」

 力強い言葉に、自信をのぞかせる。背景には確固たる理由があった。

4年前にイタリアローマ、フォロイタリコでの開幕戦を戦うもイタリアにストレート負けを喫した(筆者撮影)
4年前にイタリアローマ、フォロイタリコでの開幕戦を戦うもイタリアにストレート負けを喫した(筆者撮影)

屋外でのナイトゲーム。幻想的な雰囲気の中、強豪イタリアは「確実に勝てる相手」として開幕戦に日本を選んだ(筆者撮影)
屋外でのナイトゲーム。幻想的な雰囲気の中、強豪イタリアは「確実に勝てる相手」として開幕戦に日本を選んだ(筆者撮影)

世界に誇るサーブ力

 世界を見上げるのではなく、互角に戦える。その源は何か。石川はこう言う。

「技術の部分で言うならサーブ。サーブで攻めることができれば、どんな相手に対してもブレイクが獲れ、サーブポイントも増えればそれだけ勝てる確率も上がる。実際に東京オリンピックや(今季の)ネーションズリーグでも、サーブが走ればどの相手にも十分戦えることを証明できたと思います」

 ネーションズリーグでも全体2位、3位のサーブ成績を残した石川、西田有志を筆頭に、効果的なハイブリッドサーブを武器とする関田誠大、高い打点からのジャンプフローターを打つ山内晶大など、チーム全体のサーブ戦術が高まり、劣勢からでも追い上げる。「ミスを恐れず入れる」のではなく「リスクがあっても攻める」という意識が個別の選手ではなく全員に浸透した。

 振り返れば、日本代表でも柳田将洋が試合終盤の1点を争う場面で迷いなく打ったサーブがサービスエースとなり、勝利に導くシーンがあったように、これまでならば比較的安全策を取ってきた場面でも、常に攻める。サーブミスをした際によく起きた会場でのため息も、今では見る者も「攻めた結果」とポジティブにとらえるようになり、責める声は圧倒的に減った。

日本のみならず世界に通ずるビッグサーバーに成長した西田有志
日本のみならず世界に通ずるビッグサーバーに成長した西田有志写真:松尾/アフロスポーツ

「中央から攻める意識」を浸透させた関田と藤井

 もう1つがコート中央からの攻撃回数の増加。さらに決定力が向上したことだ。

 前衛ミドルブロッカーの攻撃と、後衛中央から同時に仕掛けるバックアタックをサイドアウト、ラリー中を問わず、セッターがどの位置にいても同じように仕掛ける。

 現在のチームでファーストセッターを務める関田が「Cパスからでもミドルやバックアタックを消さないということは常に意識している」と言うように、セッターは積極的に中央からの攻撃を選択し、アタッカーもいつトスが上がってきてもいいよう常に準備する。

 これも関田のみならず、世界選手権に出場する大宅真樹や、東京五輪に出場した藤井直伸も同様だ。特に藤井が日本代表に初選出された2017年の国際大会で、それまではトスがサイドに偏りがちだった日本が、ミドルブロッカーの李博に打数を集め、いかなる時もバックアタックを使う。離れた位置からの速攻も効果的で、明確に変化した日本のバレー、ミドルを積極的に使ってくる日本のスタイルは藤井が築き、世界に「日本が変わった」という意識も植え付けさせた。

 時を経て、メンバーも変わる中、ブレずに貫いてきた「サーブ」と「コート中央からの攻撃展開」を仕掛ける重要性。最初からすべてが完璧だったわけではなく、効果を得られない時もあったが、それでも「世界で勝つために」と日本のオリジナルを貫くのではなく、世界のトップで戦う当たり前のバレーを、日本も同様に当たり前と捉えて挑戦し、個々の力を発揮し、役割を果たす。

 そうやって1つずつ得られた自信が今、「ベスト8、ベスト4を目指す」と力強く確信を持って発することのできる強い日本代表につながった。

 あと数時間すれば、世界一をかけた戦いが始まる。

 積み上げてきた成果をいかように発揮するのか。どれほどワクワクするような試合が見られるのか。開始の時を心待ちに。その瞬間は、間もなくだ。

東京五輪に続いてのベスト8、さらにはその上を目指し男子バレー日本代表が世界選手権に挑む
東京五輪に続いてのベスト8、さらにはその上を目指し男子バレー日本代表が世界選手権に挑む写真:ロイター/アフロ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

田中夕子の最近の記事