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V1女子決勝が中止に。Vリーグに求められる「ファンファースト」とは。

田中夕子スポーツライター、フリーライター
レギュラーラウンド3位から頂点に立った久光スプリングス(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

前日の中止発表

 突然の発表だった。

 4月15日、11時。翌日の決勝開始まで間もなく24時間というタイミングで、Vリーグから送られてきたリリースに思わず目を疑った。詳細は以下の通りだ。

ファイナル第2戦の中止について。

 レギュラーラウンドの終盤、多い時は10日で6試合という過密日程を、崖っぷちに立たされながら破竹の勢いで勝ち続け、ファイナル進出を果たした久光スプリングス。

 対するは、シーズン開幕前から目標に「三連覇」と公言し、09/10シーズンの東レアローズ以来となる記録達成に向け、レギュラーラウンド1位でファイナル進出を決めたJTマーヴェラス。

 レギュラーラウンドの3戦、昨年末の皇后杯を合わせた今季の4戦は久光が3勝1敗と上回り、10日に開催されたファイナル第1戦も3対1で先勝。このまま久光が勢いそのままに連勝するのか、JTの逆転勝利か。シーズンの最後、優勝を争うのにふさわしい大一番に胸躍らせていただけに、誰も想像すらしなかった「中止」という決定に耳を疑った。

日程調整がつかず「苦渋の決断」

 発表を受け、Vリーグは同日、日置康夫・事務局長が中止決定に至る経緯を記者会見の場で説明した。

 13日に両チームからそれぞれ1名が体調不良を訴え、翌日には数人が同じく体調不良を訴えた。該当者だけでなく、他の選手、関係者の抗原検査、PCR検査を実施したところ、複数名の陽性が判明。この事態を受け、國分裕之・Vリーグ会長と両チームの代表者によるオンラインでの協議の末、翌週以降にJTが出場するアジアクラブ選手権や、4月30日からの黒鷲旗全日本男女選抜大会、日本代表候補選手の合宿参加など、「罹患した選手の復帰期間を担保しつつ、(代替試合の日程を)見つけることが物理的に困難であり、再試合を行えないと判断した」と日置事務局長は何度も「苦渋の決断であった」と口にした。

 ホーム&アウェイ形式とはいえ、コロナ禍でのシーズン、全国の至るところで行われるVリーグの試合取材へ足を運べば、どの会場でもリーグが示すガイドラインに基づいたコロナ対策が徹底されていた。選手、チーム関係者や試合運営関係者と、メディア関係者、来場者の動線をそれぞれ分け、審判、ラインズマンのマスクやフェイスガード。ボールコレクターは手袋もして、その都度ボールを消毒する。リアルタイムで行われる試合が滞らないよう、選手がストレスなくプレーできるように、と目を配り、気を配りながらの運営は全体の統率や備品の手配に至るまで、相当数の時間を費やしたはずだ。

 だからこそ選手たちも、試合直後のコートインタビューや、その後のメディアに向けたインタビューの席上でも男女問わず、ほとんどすべての選手や監督が「試合を開催、運営して下さった方々に感謝したい」と繰り返し述べるのを聞いてきた。

シーズン終盤はマスクを着用したままプレーする選手も増えた(写真/Vリーグ)
シーズン終盤はマスクを着用したままプレーする選手も増えた(写真/Vリーグ)

圧倒的な説明不足で生じるズレ

 誰が悪いわけでもなく、想像すらできなかった事態なのだから仕方ない。「中止」という結論が出された以上、そう受け入れるしかないとわかっていても、どうしても解せない。

 理由は2つある。

 まず1つめは、コロナ禍でのシーズンは今季が初めてではないこと。感染力の強いオミクロン株の大流行という予期せぬ事態があったとはいえ、万が一陽性者が相次ぎ、試合が中止、延期になった場合の代替策をもっと最初から用意すべきではなかったのか、という疑問は消えない。

 実際に終盤では、男女共に順位がかかった状況で1つでも多く試合をこなすべく、前述の久光のように、通常の土日だけでなく水曜や金曜、月曜など平日にも急遽試合が組み込まれた。それでも会場の手配や日程調整は中止になった試合のホームチームがすべて行うため、すでに他の試合が組まれていたり、日程的に不可能な場合は「みなし試合」となり、Vリーグが定めた規則に伴い、従来の日程での開催中止、もしくは延期を申し出たチームが負けになる不可解な事態も相次いだ。

新型コロナウイルス対策に関する規則

 この決定により、V1男子がレギュラーラウンド終盤にそれまでの勝敗決定方式から勝率へ変わり順位も変動。さらにV2男女に至っては、突如生じた感のある「みなし試合」によって順位が変わり、降格を余儀なくされたチームもあった。

 そして、まさにこれこそが、なんとも解せない2つめの理由。「説明不足」だ。

 V1で戦うチームとはいえ、大半がホームアリーナを有するわけではなく、ホームゲーム開催に向け何年も前から会場を確保し、次年度の試合順やスケジュールが直前に決まるわけではないように、Vリーグの定める規約や規則も事前に発表はされている。

 だがあくまで、それは公式HPやSNSを通しての発信であり、簡単に目につくものではなく、自分から探しに行く、よほど興味がある人でなければわからない。そのため、Vリーグ側からすれば「事前に定めて記載している」というものも、受け取る選手やファンからすれば「知らなかった」とズレが生じる。

 さらに言うならば、女子決勝を延期することが難しかった理由に「今後の日程がすでに定まっていること」が述べられたが、これは2年前の19/20シーズン、V1男子のVC長野とV2男子のヴォレアス北海道で予定されていたチャレンジマッチが中止になった際も同様の理由が挙げられており、少なくとも2年、改善の気配はないどころか同じ理由が述べられただけだ。

 Vリーグは日本代表強化の一端を担う以上、代表のスケジュールに協力する。それも最もな話ではあるが、ならばVリーグを「世界一のリーグへ」と謳い、各チームに事業化を求め、事あるごとに「ファンファースト」を唱えるのはなぜか。日本代表はもちろんだが、それだけがすべてではなく魅力あるリーグにしたい、Vリーグからバレーボールの楽しさを伝えたい、という意志表示ではなかったのだろうか。

求められる真の「アスリートファースト」と「ファンファースト」

 V1女子決勝第2戦中止の報が届いたのは決勝前日の15日。前夜の14日に三者協議により中止が決定していたにも関わらず、12時間以上が経過してからだった。

 資料作成や発表に向けた準備に時間を要したことは想像にたやすく、何よりVリーグとしても中止にしたいはずなどなく、選手やファンと同様に大きなショックを受けながらも、目の前の仕事に取り組まなければならない。その痛みや苦労も、計り知れないものであったことは察して余りある。

 だが、決勝の中止という一大事において発表が遅かったことは否めず、記者から指摘を受けると日置事務局長は「至らず、本当に申し訳なかった」と謝罪しながらも、関係企業や該当チームとの確認作業に時間がかかったこと。「両者の言い分に違いがあってはならない」と注意を払ったことを明かしたが、そこは何より、翌日の試合を楽しみにしていたファンを最優先に考え、たとえ夜中でも、早朝でも詳細な理由は追って伝えると前置きをしたうえでも、中止という事実だけは先に伝えてほしかった。

 Vリーグ開幕時には、各チームの選手が数名登壇(この2年はオンライン開催)し、間もなく迎えるリーグに向けた決意を述べる。その模様はVリーグが配信するVTVを通じてファンもリアルタイムでの視聴が可能だ。

 ならば思う。この会見とまでは言わずとも、V1女子決勝が中止になったという理由の説明や、みなし試合による順位決定など、見る人からすれば関心の高い、そして大事な出来事の説明を、なぜオープンな場で伝えることはできなかったのだろうか、と。

 10月から行われてきた長いシーズンの中には、素晴らしい試合が数えられないほどにあり、Vリーグには日本代表であるなしを問わず、素晴らしい選手たちがいて、魅力にあふれたチームが数多くある。

 事実、17日に行われるV1男子決勝第2戦、レギュラーラウンド1位で1戦目に先勝したウルフドッグス名古屋と、レギュラーラウンド2位で昨年に続いての連覇を目指すサントリーサンバーズの一戦も、両チームの主将、監督が「すごい戦いになる」と口を揃えるように、迫力や細かな駆け引き、個人技や戦術がぶつかり合う、バレーボールの醍醐味を伝える決勝にふさわしい試合になるのは間違いない。

 見る人は何を求め、その人たちに何を届けたいのか。

 多くの観客が熱狂する中、選手が最高のパフォーマンスを発揮する試合を見せる。真の「アスリートファースト」「ファンファースト」を実現すべく、Vリーグは何をすべきか。

 これ以上、バレーボールを愛する人たちをないがしろにしないでほしい。

最高の一戦を最高の環境で。17日に行われるV1男子決勝に臨むWD名古屋、サントリーの両監督、主将も女子の決勝中止に胸を痛めながらも「熱い試合を」と意気込んだ(写真/Vリーグ)
最高の一戦を最高の環境で。17日に行われるV1男子決勝に臨むWD名古屋、サントリーの両監督、主将も女子の決勝中止に胸を痛めながらも「熱い試合を」と意気込んだ(写真/Vリーグ)

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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