いかに「この1点」を自らの力で高められるか

 拳を握りしめ、石川祐希が吼える。

 サーブで崩されてもなお攻撃が決まった後。そして長いラリーを、自らに託され決めた後。

「お客さんがいれば、同じ1点でもそれが勝負を決める大事な1点だったら、応援に後押しされて2点、3点ぐらいの大きさにつながることがあるんです。でも、無観客の場合は違う。いかに自分で『この1点だ』と高めることができるか。声を出す、鼓舞する、というのは前より意識するようになりました」

 東京五輪に限ったことではない。

 昨季、イタリアセリエAの試合はすべて無観客開催。ホームのサポーターやアウェイのサポーターの熱狂的な応援がある環境とは異なり、その状況でいかに自らを、チームを盛り立てることができるか。自らプレーする中で、嫌というほど感じて来た。

「自分のプレーをやりきる。なおかつ声を出し、周りも鼓舞するというのは簡単なことではありません。でも世界の強豪クラブで戦い、各国代表の中心選手、キャプテンとして戦う選手たちはそれも当たり前にやっている。その姿を見ていたら、絶対に必要なことだと感じさせられました」

 拳を握り、声を張り上げ、チームを鼓舞する。

 エースとして得点を重ねるだけでなく、身体全体でチームを牽引するその姿に、かつて高校時代にタイトルを総なめにした星城高の同級生で、現在はVリーグのウルフドッグス名古屋でプレーする川口太一は感嘆する。

「高校時代から祐希はダントツにうまかったし、リーダーシップもありました。でも今とは全然違う。当時はそもそも『自分はこう思う』と発言するタイプでもありませんでしたが、今は『こうするんだ』と強く言葉でも発信している。今の祐希を見ると、本当にキャプテンだな、と思うし、間違いなく、日本を代表する選手だと、見ている誰もに伝わっていると思います」

まぎれもなく強いリーダー、主将としてのチームを牽引する。東京五輪でも石川の存在感は際立っている
まぎれもなく強いリーダー、主将としてのチームを牽引する。東京五輪でも石川の存在感は際立っている写真:ロイター/アフロ

「心の底から好きなバレーボールを楽しんでいる」

 発言の変化。川口が言うように、この数年だけでも石川が発する言葉は変わった。

 プロ選手として自身が周囲に与える影響を自覚し、常に結果を求める。その姿勢を、石川がイタリアで活躍するクラブシーズン、18年から20年まで自身もフィンランドやドイツでプレーした川口は「海外での影響が大きいのではないか」と言う。

「祐希はベースが優しいので、学生時代は基本、言うことは言うしやることもやるけれど、でも周りも気遣う。みんなで楽しく勝とう、という感じで考えていたと思います。だけど海外はそうじゃない。それぞれがプロで、競争の世界なので大げさに言えばクラブの成績が良くても自分がダメだったら評価されないし、トップ選手はトップクラブで自分も活躍する。そういう場所でプレーして、祐希も『個が強くないとダメ』と感じたから言葉にする機会が増えたと思うし、代表でもメダルを獲るとか、絶対勝つとか、結果を強く求めるようになった。もともと芯は強いけれど、比較にならないぐらい今は『自分はこう考える、こうしたい』という、ものすごい芯の強さを感じます」

 何を考え、どんな経験がその発言やプレーに至ったのか。共に海外でプレーした頃は2~3時間電話で話すこともあったと言うが、バレーのことをを尋ねても「『よくわからん』とかごまかして、教えてくれない」と笑う。だが、現役選手である今も多くの交友範囲を持ち、さまざまなことをインプットしたいという川口に対し、石川は「今はバレーボールにすべて集中したいから」とあえて、周囲に関心を向けずバレーボールに集中する。何気ない会話の端々や、行動の1つ1つが、川口にとっては新たな気づきにつながることばかりで、何より、日本代表の主将としてコートに立つ今の石川の姿は、これ以上ない刺激でもあると川口は言う。

「高校時代からすごかったですけど、今は想像以上です。1人だけ次元が違うぐらい、すごい場所にいっちゃった感じはあります。でも、休みの時に会えば変わらないリラックスした祐希のままで、それも彼の良さ。かなりのプレッシャー、責任があると思いますが、力に変えられる選手だし、タフな状況の時ほど力を発揮できるのは高校から変わらない。祐希はバレーボールが大好きで、心の底から好きなバレーボールを楽しんでいるのが伝わってくるから、オリンピックの舞台、日本代表のキャプテンという責任あるポジションも、楽しんで戦ってほしいです」

イタリアのクラブシーズンで重ねた経験を武器に、東京五輪でも攻撃の中心を担う。石川は幾多もの高い壁を乗り越えてきた
イタリアのクラブシーズンで重ねた経験を武器に、東京五輪でも攻撃の中心を担う。石川は幾多もの高い壁を乗り越えてきた写真:ロイター/アフロ

カナダ戦の2本のプレー、ポーランド戦の笑顔

 初戦でベネズエラに勝利し、第2戦のカナダにも勝ち2連勝。決勝トーナメント進出に向け1つのカギであったカナダに対し、日本が見せたのは「負けられない」とがんじがらめになるのではなく、最高の舞台で一番いいパフォーマンスをする姿。

 象徴的だったのが、2-1で日本がリードした第4セットの終盤だった。

 23-19とリードし、日本は山内晶大がサーブに下がる。レシーブして速攻で切り返して来た相手の攻撃を山内が拾うも、ボールはアンテナの外へ。だがそれを高橋藍がつなぎ、再び日本コートにボールが上がる。

 打って返すことはできても、スパイカーにとって簡単ではない状況で、迷わず打ち抜き、決めたのが石川だった。

「パイプ(に入る位置)あたりか、レフト寄りの真ん中に上がってくると予想していたので、打てる準備は常にしていました。実際に上がって来たのがパイプの位置だったので、西田(有志)選手も打つ準備はしていましたが、打ちきれるな、と。高橋選手が二段トスにして打てる球を上げてくれたので、勢いよくいくことができました」

 見せ場は続いた。1点を返され、なおも日本のマッチポイント、点数は24-20。一回では決まらずも、カナダの攻撃をセッターの関田誠大がレシーブ、24点目を打ち切った時とほぼ同位置にいた石川が再びバックアタックの体勢に入る、と見せかけ、オポジットの西田にトスを上げ、西田が25点目を鮮やかに決めた。

 自ら打ってマッチポイントにしたかと思えば、最後はフェイクセット。

「あの場面はベストな体勢でスパイクは打てないと思ったので、西田選手に託しました。カナダ戦に関して言えば、僕の二段トスを西田選手がよく決めている印象があったので西田選手に託しました」

 世界王者ポーランドと対した第4戦。2-0とリードされた第3セット、21-22でタイムアウトを取った後、コートに戻る石川は笑っていた。

 この緊迫した状況で笑顔が出る。メンタルの強さに心底感服すると共に、何よりこれほど強い相手と戦えることが楽しくて仕方がないのだろう。強さと楽しさ、どちらも感じさせる笑顔だった。

 1次リーグ最終戦、日本対イラン。両国共に負ければ終わり、の大一番で日本代表は、そして石川はどんなプレー、姿を見せるだろうか。

 もっとこの日本代表を見ていたい、と勝利を願う一方、石川の言うそれぞれがベストを尽くす「個」の強さが結束した、最高の試合が見たい。

 決戦の時が、間もなく訪れる。

アウトサイドヒッターの石川と対角に入る高橋。若い選手にとって石川の姿はこれ以上ない追うべき背中でもある
アウトサイドヒッターの石川と対角に入る高橋。若い選手にとって石川の姿はこれ以上ない追うべき背中でもある写真:ロイター/アフロ

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】