Yahoo!ニュース

女子バレー、セルビア戦へ。揃いのTシャツで同級生が託す思い。「逆境も、絵里香ならはね返せる」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
四度目の五輪出場を果たした女子バレー日本代表、荒木絵里香(写真:ロイター/アフロ)

「絵里香なら跳ね除けてくれる」

 予選リーグ2戦目にして、これからを占う大一番。

 決して大げさではなく、27日のセルビア戦は女子バレー日本代表にとって今後を占う山場と言っても過言ではない。

 25日の初戦、ケニアとの試合中にアウトサイドヒッターの古賀紗理那が着地時に負傷し途中退場。交代した石井優希やリリーフサーバーで投入された田代佳奈美の活躍で何とかストレート勝ちを収めたが、古賀のケガの状態はわからず、今後の試合に出場できるかどうかも未定だ。

 ネーションズリーグでチーム最多得点を記録したように、黒後愛、石川真佑とアウトサイドヒッターの三本柱の1人とはいえ、古賀が果たしてきた役割は大きい。目標とするメダル、さらには決勝トーナメント進出に向け危機的状況に見舞われた日本代表だが、この逆境すらも「(荒木)絵里香ならきっと跳ね除けてくれる」。そう信じて、四度目の五輪に挑む荒木を、かつて下北沢成徳で共に戦った仲間たちは各々離れた場所から、揃いのTシャツで荒木にエールを送る。

開会式前日のサプライズ

「これまで三度オリンピックに出ているのに、Tシャツをつくろうなんて考えたこともなかった。でも絵里香もオリンピックはこれが最後。何か記念になるものをつくろう、と四度目で初めてつくりました」

 そう言うのは、“絵里香Tシャツ応援隊”発起人でもある井上奈緒美さん。高校時代の同級生で、現在は出版社に勤務。広告担当としてバレーボールやバスケットボールに携わる。

 高校時代、チームの中心は主将を務めた大山加奈や荒木だったが、2人任命される副将の1人でもあった井上さん。高校時代は「絵里香はなかなかの暴れん坊だった」と振り返るように、感情をストレートに発揮する荒木は、同学年に限らず相手が先輩であろうと正面からぶつかる。「先輩と自分が、絵里香について滾々(こんこん)と話し込んだこともあった」と振り返る、コートでは頼れる存在、でも時に感情を抑えることのない暴れん坊。

 だがコートを離れれば一緒にふざけて、ムードメーカー的役割も担った荒木とは卒業後も親交は続き、19年に日本代表の主将に任命された時も、2人で食事へ。普段通りのふざけた話をしながら、置かれた立場やプレッシャー、荒木の胸の内を知った。

「冗談半分で『みんなのアップについていくために時間がかかる』とか『疲労が抜けるまでの時間がハンパない』とか、笑い話で言うけれど、でも必死は必死ですよね。チームの最年長で、それこそひと回り以上離れた子たちと一緒にチームとして戦う。若い子の話がわからなくて当然だし、それは絵里香に限らず私も同じ。会社や組織で若い子が増えれば、学生時代の距離感とは違います。だから、絵里香の話を聞いていて私もたくさん刺激を受けて来たし、おこがましいですけど、置かれた立場、位置関係は似ているのかな、と思うこともありました」

 高校時代から皆が家族ぐるみの付き合いで、荒木の家族とも旧知の仲。娘の和香さんも、友人の枠を超え、家族に近い立場で成長を見守って来た。

 長い合宿や海外遠征、娘と離れ自ら競技者として進む道を邁進しなければならない荒木の苦しさだけでなく、子育てに奮闘する荒木の母、和子さんの大変さも知っている。

 四度目の五輪で初めてつくったTシャツは、同級生を中心に、2学年下の木村沙織の代や、かつて東レアローズで一緒にプレーした荒木の後輩たちにも声をかけ、つくった数は約100枚。そしてそれは荒木と家族に向けたサプライズでもあった、と井上さんは言う。

「絵里香のご両親と旦那さん、和香ちゃん、5人分のTシャツを送りました。一緒につくった仲間には『絶対SNSにも上げちゃダメ』と言ってきたので、手に届くまでは秘密。届いたTシャツを、お母さんが和香ちゃんに着せて、絵里香に写真を送ってくれた。開会式の前日に絵里香から『やられたー!ほんとにほんとにありがとう。びっくりしすぎて、感激です』と連絡が来ました。ギリギリだったけど、間に合ってよかった。同じ場にいて応援することはできないけれど、絵里香や一緒に戦ってきたご家族が喜んでくれたのが、一番嬉しかったです」

下北沢成徳のユニフォームと同じえんじ色の応援Tシャツ。北京、ロンドン、リオ、東京。背番号と共に荒木が出場した四度の五輪が刻まれている(写真/井上さん提供)
下北沢成徳のユニフォームと同じえんじ色の応援Tシャツ。北京、ロンドン、リオ、東京。背番号と共に荒木が出場した四度の五輪が刻まれている(写真/井上さん提供)

「プレッシャーも力に変えるのが絵里香」 

 初戦から予期せぬアクシデントに見舞われた厳しい状況。ましてや間もなく戦うのは、どこから崩せばいいのか、と頭を抱えたくなるような最強の相手。追い込まれていることに代わりはないが、「絵里香ならやってくれる」と思うのは、希望的見地だけでなく、高校時代の忘れられない経験があるからだ。

「春高、インターハイを勝って、最後の国体をかけた関東予選。茨城代表を相手にフルセット、しかも最終セットは8-13で絶体絶命のところまで追い込まれました。私はベンチに入れなくて、スタンドで応援していたけれど、内心『これで終わるのか』と思ったんです。でも、そこから小川(良樹)先生にハッパをかけられた絵里香が奮起して、大逆転勝ちをした。高校時代の国体予選と、オリンピックは全然違うものだけれど、でも、絵里香ならやってくれる。プレッシャーも、力に変えられるのが絵里香だと思うんです」

 ケニア戦と同様に、セルビア戦も皆で揃いのTシャツを着て、仕事をしながら、子育てをしながら、それぞれ離れた場所でも同じ思いで荒木に声援を送る。

 たとえ、スタンドから声援を送ることができなくとも。「頑張れ」と心の限り、応援する。

 えんじ色のユニフォームがえんじ色のTシャツに変わっても。

 やってくれる、と信じて、思いを託す。すべて出し尽くし暴れてくれ、と。

すべて出し尽くしてほしい。離れた場所から、仲間たちは荒木に声援を送る
すべて出し尽くしてほしい。離れた場所から、仲間たちは荒木に声援を送る写真:ロイター/アフロ

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

田中夕子の最近の記事