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悔いを残さず「最後までバレーを楽しんで」。“黒後世代”の全日本インカレ、いよいよ開幕

田中夕子スポーツライター、フリーライター
4年前の春高を制した下北沢成徳。当時の高3が迎える大学最後のインカレが開幕する(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

最初で最後、特別なインカレ

 11月30日、いよいよバレーボールの全日本インカレが始まる。

 春季リーグ、東日本、西日本インカレは中止になり、秋季リーグも地域によっては開催されたが、関東男子一部リーグは代替試合も大会途中に中止を余儀なくされた。

 このメンバーでどんなバレーをするのか。このチームはどれだけ強くなるのか。いや、そんな大本命の強豪にも勝利するようなチームが出てくるのか。本来ならば春から夏、秋と課題を克服する過程にまた楽しみを味わい、成長を遂げるはずだった時間も、占めたのは「本当に開催されるのか」「また練習もできなくなるのではないか」という不安ばかり。この年で卒業を迎える4年生にとっては、ラストシーズンを存分に戦い切ることもできず、入学を迎えて以後ほとんど大学にも通えずにいる1年生にとっては、高校から大学への切り替えもできないまま過ごす日々。

 幾多もの犠牲と、努力の甲斐あって、ようやく全日本インカレの開催が決定したが、例年通りとは大きく異なり、男女とも出場校数も絞られ、全部員が帯同できるわけではない。さらに言うならば、抽選会の直前に新型コロナウイルスの陽性反応者や濃厚接触者が複数出た男子の中央大、東京学芸大は出場すらかなわなかった。

4年前の春高で輝いた選手たち

 4年前、最上級生の彼ら、彼女たちが高校3年生だった頃を振り返れば、男子は東京の駿台学園高が三冠し、女子は下北沢成徳が春高を連覇。世代を代表するエースとして注目を集めた都築仁(中大)を擁する星城高と、新井雄大(東海大)率いる上越総合技術高が1回戦から対戦し、勝ち上がったチームはシード校の駿台学園高と当たる、大会初日や2日目に行われるカードとは思えない組み合わせが続出。優勝候補の一角とされた創造学園高(現・松本国際高)が初戦で大村工高に敗れ、不完全燃焼のまま、やり場のない気持ちをぶつけていたエース、中野竜(中大)の姿は今もはっきりと覚えている。

 男子ばかりでなく女子も同じ。下北沢成徳高と金蘭会高がバチバチとぶつかり合い、戦前の予想は両チームが決勝で合いまみえるのだろう。大半がそう思っていた。だが、準決勝で金蘭会高は就実高に敗れ、決勝進出はかなわず。それでも点差が離されてからも、何が何でも勝つ。絶対に自分が取り返してやる、とばかりにブロックで応戦した金蘭会高、島田美紅(順天堂大)の目は、記者席にまで伝わるぐらいの強さで、だからこそ敗れた後に涙する彼女に、取材しなければならないと思いながら、なかなか声をかけることすらできなかった。

 卒業後はVリーグへ進み、今は東レアローズの主将として活躍する黒後愛、埼玉上尾メディックスで今季はスタメンセッターとして出場し続けている山崎のの花、アウトサイドヒッターの堀江美志、山口珠李、ユースやジュニアなどアンダーカテゴリー日本代表でも活躍した面々に加え、2つ下にはスーパー1年生として入学当初から注目を集め、その期待を裏切ることなくむしろそれ以上の活躍で1年生からレギュラーとして活躍した石川真佑(東レアローズ)を擁した下北沢成徳高。国体で金蘭会高に敗れ、三冠はかなわなかったが、決勝で就実に勝利し、多くの選手たちが喜びを爆発させる中、春までレギュラーだった3年生の渡邉かやは「試合に出るために、めちゃくちゃ練習した。本当に必死で、できる限りのことをやり尽したけれど、それでもやっぱり真佑はすごかった」と後輩を称え、「みんなはVリーグで頑張るけれど、私は大学でもっと頑張ります」と目を輝かせ、彼女は日大へ進み、猛打賞を獲得。大学を代表するスパイカーの1人となった今年、主将になった。

どうか最後まで楽しんで

 そんな彼ら、彼女たち。もっとたくさんの選手が4年間積み重ねてきたものや、1年をかけて、変化し、進化する過程を見たかった。

 取材者である以上、どんな出来事も平等に、冷静に見なければと思いつつ、おとなげない本音を言うならば、もっともっと、楽しそうに試合をして、輝く姿が見たかった。

 だが、嘆いたところで現実は変わらない。そして間もなく、その待ち望んだ舞台が始まろうとしている。短期間の戦いではあるが、これまで以上に特別な全日本インカレになるのは間違いない。

 同世代の選手、仲間たちに向けて。Vリーグ女子、V1カテゴリーで開幕から好調を維持。29日のJT戦も勝利し、11連勝を飾った東レの主将、黒後が言った。

「自分たちはこうしてバレーボールを仕事としているので、自粛生活もありましたが、きっと大学生の皆さんよりはバレーとの距離は近かったと感じています。大学が閉鎖になったり、練習できる時間が限られた中でのインカレ。同じバレーボーラーとして自分たちもリーグを頑張るし、大学生にもインカレを思い切り、バレーボールを楽しんでほしいです」

 今このチームで戦う最後の試合を、どうか存分に。全日本インカレは30日に開幕し、男女決勝は6日に行われる。勝利の行方とともに、1球、1試合にかける姿をしっかりと、追い続けたい。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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