Yahoo!ニュース

感染の不安を煽るより、今だからこそバレーボールを楽しもう。「Vリーグが始まるよ」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
17日に開幕するVリーグで連覇がかかるジェイテクト(写真は18年)(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

リモートだからこそ味わえる、勝負を変える「声」

 バレーボールの国内リーグ、Vリーグが17日に開幕する。

 コロナウイルス感染予防を第一に、会場やチームによっては初めから観客を入れずにリモートマッチとして行う試合もあれば、観客数を50%に制限する試合もあり、対応はさまざま。

 シーズンが開幕すれば試合が行われる各地を選手やチームと共に転戦してきたファンの方々からすれば、試合が開催される、配信でも見られるとプラスに取ることもできるが、やはり現地で見て、声援を送りたい。そう思うのが大半だろう。

 だが、リモートならではの楽しみ方もある。

 たとえば昨シーズンのV1決勝。2月29日に開催された男子V1ファイナル、ジェイテクトSTINGSとパナソニックパンサーズの優勝決定戦は新型コロナウイルスの感染拡大の余波を受け、急遽無観客での試合を余儀なくされた。ジェイテクトは初優勝、パナソニックは3連覇がかかる大事な一戦。両チームのファンや家族、会社や地域の関係者、多くの人たちがその場にいて、共に戦いたい。そう思うのも無理はない。実際、音楽は流れていたが手拍子や声援のない会場で1本のサービスエースやブロックポイントが決まるたび、満員の観衆がいたらどんな雰囲気になったのだろう、と想像もした。

 ただ、ボールを叩く音や、床を蹴る音。プレーが止まった間に聞こえる互いの選手たちの声。この場面で、こんな声を出しているのか、と新たな発見にもなり、実は1つ、その「声」が勝敗を分ける場面もあった。

 1-1で迎えた第3セット、17-19と2点をリードするパナソニックをジェイテクトが追う。そこで投入されたのが、リリーフサーバーの袴谷亮介だった。対峙するパナソニックの主将でセッター、深津英臣の「このサーブ、いいぞ、集中!」の声が響く中、対角線に打った袴谷のサーブはコーナーギリギリに決まる素晴らしいサーブで、サービスエース。試合後、ジェイテクトのエース西田有志も「あのサーブがめちゃくちゃ大きなポイントだった」と振り返るその1点、1本を、袴谷はこう振り返った。

「コートに立つまでは独特の空気で、緊張もありました。でも深津の『このサーブ、いいぞ』という声が聞こえた時、あ、俺のサーブがこんなに警戒されているんだ、と思ったら気分がよくなって。だったら怖がらず、思いきり打ってやろう、と思って、余計なことを考えずに打ったのがあの1本でした」

 味方を鼓舞するはずの声が、時に相手を盛り上げる。競り合った場面、コートでどんな声が飛び交うのか。リモートマッチならではの醍醐味ではないだろうか。

感染リスクのある中、コートでも戦う医療従事者たち

 感染対策という面に目を向ければ、月に一度のPCR検査も必須とされるため、各チームの選手やスタッフは移動リスクや本来ならばリフレッシュもしたいオフの外出制限など、さまざまな制限も加わる。選手起用に関しても、いつ何時、何が起こるか予想できない。

 特に苦労を強いられるのが、V1女子のKUROBEアクアフェアリーズ、V1男子のVC長野など地元の複数企業を母体とするクラブチームだろう。選手はそれぞれスポンサー企業や、地元企業や学校など職場が異なるため、すべてこれまで通りとはいかない。KUROBEの丸山紗季主将も「職場が違うのでコロナ感染へのリスクは(他と比べれば)非常に高い」と前置きし、だからこそ「対策は十分とり、チーム内でも極力接触がないように。出勤も昨年までは(リーグ中も)週2日だったが、今シーズンは週に1回。各スポンサー企業やチームにも対策、配慮してもらっていることに感謝したい」と述べた。

 クラブチームではないが、V1男子の大分三好ヴァイセアドラーも特筆すべき例だ。母体が三好内科循環器科医院である大分三好は「事務職だけでなく、看護師もいる。病院で働く選手の数を念頭に入れて病院経営が成り立っているので、シーズン中も通常通り勤務する」と米田亘希主将は言う。同様にV2女子の千葉エンゼルクロスは選手が介護職に就き、V2男子のヴィアティン三重に属する米村尊は病院の救命救急センターで働く看護師。リーグ中も選手として働く一方、医療従事者として職務に当たらなければならず、感染リスクは決して低くないが、千葉の名原寧音主将は「介護の仕事をするうえで、自分たちだけでなく、周りの方も不安があったと思うし、実際に全員が集まって練習することもなかなかできなかった。それでも試合ができる、大会に参加できる以上は、これまで以上に感染対策を徹底しながら1戦1戦、1日1日の練習を大切にしたい」と意気込む。

マイナスをプラスに、今できることを

 2月のV1男子決勝以後、すべての公式戦が中止となり、試合ができる、試合が見られると心待ちにする一方、屋内競技の感染対策として万全なのか。不安の声も聞こえないわけではない。

 実際、Vリーグ開幕に先立って、関東大学男子バレーボール秋季リーグの代替大会が3日から開催されたが、出場校で複数の感染者が出たため、代替大会そのものが中止になった。

 大学生と実業団の違いはあれど、代替大会でも観客は入れず、選手を含む関係者も事前申請の上に健康チェックシートと検温、選手は公共交通機関を使わずバスで移動し、体育館に入場時は消毒をするなど万全を期して臨んだが、それでも感染者は生じ、その結果、事前のガイドラインや管轄保健所の指示に伴い、大会は中止。ようやく試合をする機会が訪れた、と目を輝かせてプレーしていた選手、特に4年生の心情を思うと、仕方ない、という言葉では到底表せない。

 だが、やるべき感染対策をして、そのうえで感染してしまった以上、誰のせいでもなく、誰にでも起こり得ること。

 関東大学男子一部リーグに属する選手たちも、大会中止に大きなショックを受けながらも気持ちを切り替え、今は11月30日から12月6日まで行われる予定の全日本インカレに向け、新たに始動した。

 不安は尽きない。だが、待ちに待った開幕なのだから、楽しみだって尽きない。

 再びVリーグへ話を向ければ、今季から就任したサントリーサンバーズの山村宏太監督も「選手たちには苦しい制限があり負担をかけるが、さまざまな状況を想定し、攻撃力のある布陣、守備的な布陣、その時々で最大限の力を発揮できるように、いろいろな想定を考えている」と言うように、感染予防を念頭に置きつつも、ファンにとっては固定したメンバーで戦い続けるのではなく、対戦相手やコンディションによってさまざまなチーム構成が見られるかもしれない。同じサントリーで言うならば3シーズンぶりに復帰した柳田将洋も「ベテランの域になり、指示を受けて動くのではなく、自分も時に指示を出し、リアクションをうかがいながらできるのは、若い選手たちがいるからこその楽しみ」と言うように、これまでとは違う新たな姿が見られる、楽しみにもつながるはずだ。

 何があるかわからない。それでも、選手たちは例年と変わらず全力で1戦1戦に臨む。V1男子で連覇を目指す、ジェイテクトの本間隆太主将が言った。

「生で見てもらうのとオンラインでは、迫力は違うかもしれない。それでも、負けそうな時に暗い表情で試合をするのと、最後まで諦めずかつまで食らいつく姿勢を見せるか。どんな試合、状況でも相手に向かっていく姿を見せること。初優勝、連覇を目指しますが、僕たちの一番の仕事はバレーを通じて日本中に元気を届けることだと思っています」

 今できることをやり遂げる。新たなシーズンの開幕は、間もなくだ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

田中夕子の最近の記事