男子バレー石川祐希が掲げる「今、できること」。新型コロナ感染予防啓蒙活動に込めた選手、指導者への思い

ポスターやガイドラインを作成し、石川祐希は感染予防を呼びかける(所属事務所提供)

アスリートファーストの感染予防

 発信するのは「頑張ろう」や「あきらめるな」のメッセージではなく、「共に変わろう」の呼びかけだった。

 4日、オンラインで会見に臨んだ男子バレー日本代表のエース、石川祐希は全国のバレーボール選手へ向け、自ら発案した新型コロナウイルス感染予防啓蒙活動を発表。神戸大医学部付属病院監修のもと、「手、指は汚れている」「全員に感染リスクがある」という選手が持つべき2つの新たな意識や、「自分のカラダを知る」「免疫力を下げない」など、自らも実践する感染予防を6つの切り口から紹介。特設サイト(https://www.goodonyou.tokyo/imadekirukoto/)にガイドラインや、それぞれが考えて「できること」を記入するワークシートを提示し、新型コロナウイルスと共存し、スポーツを楽しむための感染予防を呼びかけた。

 各競技団体によるガイドラインは発表されているが、選手自らが子どもたちや選手に向けて感染予防を呼びかける機会は少ない。それでも自ら先頭に立ち、活動を行う理由を石川は「練習、試合、いろいろな方が選手の安全、安心してプレーする環境を整えてくれている中で、プレーする選手たちが自分の甘えるのではなく、自分たちで感染予防をして発信することが大切だと思った」と言う。

 石川自身も昨シーズンはイタリア、パドヴァに在籍しプレーオフ進出の可能性を残しながらリーグは中断。その後中止を余儀なくされた。帰国までの間、自宅でのトレーニングしかできず、「はやくバレーボールがやりたい」と思うと同時に、プロ選手として試合がない中、いかにモチベーションや生活を保つか。難しい現実にも直面した。

「試合がないイコール、僕たちは仕事できないということ。大げさに言えば職がなくなるということであり、実際にクラブによっては『試合がないから年俸も払えません』と、試合のない分年俸がカットされることもありました。プロアスリートとしてはそれも1つの心配要素ではありますが、何より僕たちは試合で勝つために練習しているし、それが1つの目標なので、試合がなくなってしまうとモチベーションをつくること、心のコントロールが難しくなると思います。ただバレーボールをするだけならば楽しくできますが、アスリートとして企業に属したりプロ選手として試合で勝つことを目的にしている以上、試合がなくなってしまうと、そこまでやってきたことがゼロになるわけではないとはいえ、何のためにやってきたのか、ということは感じました」

「絶望」をなくすためにも感染予防を

 それでもプロ選手である以上、大会がなくなっても来季の契約につながれば新たな目標を抱くことができる。イタリアの自宅でトレーニングに励みながら、石川が次の大会やシーズンに向けて始動する中、日本国内では小中学生や高校生の全国大会が相次いで延期、中止を発表。

 もしも自分がその立場に置かれたとしたら。石川はこう言った。

「絶望、というか。今の僕の立場は個人で次のシーズンを考えることができますが、中学校、高校の仲間や先生、その人たちと一緒にプレーができない、と考えると、絶望的な気持ちになるんじゃないかと思います」

 夏に開催される予定だった小学生や中学生、高校生の全国大会は中止を余儀なくされたが、インターハイ中止の決定を受けた後も、高校生たちは例年1月に開催される春高バレーに向け、今も努力を重ねている。正式な開催決定はJVAのガイドラインに基づき下されるが、目指す大会で目標とする成果が達成できるようにバレーボールの練習に励むことと共に、今、できること。それこそが、「感染予防」の行動でもあるはずだ。石川はそう言う。

「同じバレーボールプレーヤーとして春高をやってほしい、という思いはあります。でもプロ野球やサッカーが再開されましたが、感染者が出たら試合は中止。それは高校生も同様で、感染者が出てしまったら残念ながら大会自体開催されなくなってしまうので、春高を開催させるためには感染者を出さないことが絶対条件だと思うんです。そのために、感染予防対策を発信することで、それぞれが何をすべきか、考えて、実践して、感染者が出ない状況が続けば試合が開催される可能性もどんどん上がる。そのためにも感染リスクを減らして、感染予防に努めることが大切だと思います」

考え、意思を尊重、共有できる場所をつくるのは指導者

 だからこそ、自ら動く。

 先日の日本代表合宿時に行われたリモート会見で、男子バレー日本代表中垣内祐一監督が「(合宿に招集された)3人の大学生にとって、石川の姿勢や言葉は誰に言われることよりも響き、目を輝かせて聞く」と言うように、多くの小中学生や高校生、大学生にとって世界のトップで戦う石川は、紛れもなく憧れの存在だ。

 その石川が自ら「感染予防」を呼びかける現場への効果。金蘭会高の中野仁トレーナーは「どの学校も感染予防に対する意識は高く持って取り組んでいるが、小中学生や高校生にとって、石川選手のように影響力のある選手による啓発活動の効果は大きい」とし、中大時代、監督と選手として接し、現在は昨年春高を制した東山高でコーチを務める松永理生氏も「トップ選手がオリンピック開催に向けた準備をするように、石川が取り組んでいることを実践することは高校生にとっては春高に向けた準備につながる。石川の発信力は大きいので『みんなが考えてちゃんと予防すれば練習もできるし、大会も開ける』と思える力になる」と言う。

 とはいえ、「石川選手が言っているからやる」というのは少し違う。

 石川が望むのは「言われたからやる」ではなく、選手たちが自ら考え、できることから実践すること。加えて、行動する選手たちを受け入れる環境をつくってほしい、と指導者にも向けられた願いでもある。

「自分で考える、考えさせることは非常に大事なことで、自分たちの考え、意思を尊重、共有できるような場所を指導者がつくるべきだと思います。バレーボールの指導もそうですし、これから大人になっていく子どもたちへの指導というのは非常に大事で、指導者に教えてもらうこと、感じることによってその先は大きく変わっていくと思います。僕は指導者の知識は全くないですし、僕が思ったことしか言えませんが、自分で考えて行動していくためには子供の頃から変えていかないといけないと思いますし、他人を思いやりながら何かを決断すること、それに伴って責任も生じてくると思うし、そういう人たちが大人になった時、社会で生きていける存在になるんだと思います。僕はそれがよかれと思ってやっていることでも、選手にとっては違う考え方もあるし、その人にあった考え方、その人にあったやり方、みんな人それぞれ違うことを受け入れられる環境になってほしいと思います」

 ただし、例外もある。

「新型コロナウイルスの感染リスクに対しては人それぞれではなく、これは絶対、という決まりがある。そこは徹底してほしいと思いますが、僕もまだまだ無意識で触ってしまったりすることがある。1人1人、できることから周りと共有して、意識を変えていってほしいです」

 先のことを考えてもわからないことばかりで、嘆きたくもなるが、できることは必ずある。石川の呼びかけは、感染予防のみならず、明るい未来につながる提言でもあるはずだ。