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日本が礎を築いたケニアバレー。W杯最終日のアフリカ対決は今大会最大の大一番。

田中夕子スポーツライター、フリーライター
W杯バレーボール、日本対ケニア戦の試合終了後に両チームが揃って記念撮影(写真:築田 純/アフロスポーツ)

日本へのリスペクトを込めた記念撮影

 初めて見る光景だった。

 試合後に勝利したチームが、そのままコートで集合写真を撮るのは何度も見るが、23日に札幌で行われた日本対ケニア戦。3-0で日本がストレート勝ちを収めた後、両チームが一緒に集合写真を撮っていた。

 聞けば、「一緒に撮ろう」と申し出たのはケニアチーム。試合後の記者会見でのポール・ビトーク監督のコメントも、日本への敬意に溢れたものだった。

「いつもは日本を相手に10点も取ることができませんでした。でも今日は内容もよく、何より日本の観客の方々が、日本だけじゃなくケニアも応援してくれたのが、とても嬉しかったです」

 リスペクトの理由は他にもある。

「日本とケニアのバレーの歴史において関わりは深く、1979年に日本人コーチが初めて来て下さった。以後、毎年何らかの形で日本の指導者が来てくれています。日本のバレーボール界の貢献に、心から感謝しています」

日本とケニア、バレーが架け橋

 1979年に桧山弘氏がケニアへ渡り、当時はナショナルチームといっても小さなアフリカでの大会に出場する程度だったチームに、世界と戦う機会がもたらされた。その後、1995年には菅原貞敬氏が監督に就任しワールドカップに出場。2000年にはアフリカ勢として初となるシドニーオリンピック出場を果たした。

 その菅原氏のもと、アシスタントコーチとして師事を受け、06年に日本での世界選手権にも出場したのがビトーク監督だ。

 当時はまだ指導者としてのキャリアが浅く「まだあまり理解していなかった」と言いながらも、日本人の指導者から多くのことを学んだ、とビトーク監督は言う。

「誠実であること、時間厳守、自分を律すること。そしてどのようにして選手を育てるか。今、私がこのレベルに達することができたのはそれらを学んだおかげです。ただ、当時はまだ速く展開するとか、精度をより上げるとか、完成に向けては忍耐が伴うとか、そういうことをあまり理解していませんでした。今、自分が監督となり、教える立場になって同じことを聞いて学べたら、もっとよくできたんじゃないかと思っています」

 菅原氏が退任した後も日本とケニアの交流は続き、「男子の選手で君のように背が高い、いい選手はいないか?」と問われ、ビトーク監督のいとこであり元ケニア代表のフィリップ・マイヨを紹介。06年に大分三好でプレーし、その後もケニアから2選手が日本へ渡り、ビトーク監督がケニア代表の前に指揮を執ったルワンダからヤカン・グマを送り込むなど、ビトーク監督自身も、日本との架け橋となっている。

ケニアと東京五輪を目指す日本人コーチ

 そして現在のケニア代表でストレングス担当を務める日本人が片桐翔太氏。中学からバレーボールを始め、山形南高在学時には全国大会にも出場を果たし、ウガンダでもプレーした経験がある。もともと教員志望で青年海外協力隊としてウガンダへ渡り、2010年から12年まで小学校教諭を務めたこともあり、選手としてのキャリアを終えたら指導に携わりたいと思い続け、ニューヨークの私立学校や日本のオーカバレーボールスクールでもコーチを務めた。

 今年4月にケニアへ渡り、5月中旬からチームにコーチとして携わり、ウォームアップやウェイトトレーニング、コンディショニングを担当している。ナショナルチームへスタッフとして帯同するのはこれが初めてだが、日々、新たな発見があると言う。

「アフリカでバレーをする機会をずっと探している中、ケニアチームと出会い、一緒に東京オリンピックへ出場したいと思いました。バレーを通していろいろなことを学びました。自分が教えることで恩返しになるのか、という疑問は常につきまとっていますが、次の世代に何かを伝えたい、残したいという気持ちがあります」

大一番は最終日

 環境は決して十分ではなく、むしろ恵まれているとはお世辞にも言えない。

 国営の体育館が1つあるだけで、使用料が高額なためナショナルチームでも体育館が使えるのは年に2、3日。大会も室内ではなく屋外で行うことが多く、今回のワールドカップでも「体育館の中でボールを扱う感覚に慣れていないので、試合も練習だった」とビトーク監督は言う。

 16日間で11試合とタイトな日程。後半に差し掛かれば割り当てられた練習時間をキャンセルし、休養にあてるチームも少なくないが、ケニアは日本戦の後もコンビ練習を重ね、片桐氏が「たぶんどのチームよりも長い時間練習している」と言うように、試合の前後、試合がない休息日も練習、練習の日々。

 万全な環境が整っているから、それを十二分に利用するというだけでなく、それほどまでに練習を重ねる理由をビトーク監督はこう説く。

「我々にとって一番大事な試合は同じアフリカのカメルーン戦。来年の東京オリンピックでアフリカ代表の座をつかむために、この試合は絶対に負けるわけにはいきません」

 ここ2試合はケニアが勝利しているとはいえ、その時はカメルーンのオポジットのレティシア・モマが出場していない。アコノ・ベコノ・ジャン・ルネ監督がフランスリーグのクラブで監督を務め、選手もフランスリーグへ送り出しているカメルーンと比べれば、資金面、環境面において見劣りするのも否めないが、中田久美・日本代表監督に「ミドルの攻撃をかなり決められた」と言わしめた、日本戦のような高いパフォーマンスが発揮できれば、十分勝機はある。

 セルビアやアメリカ、ブラジルなど出場国の多くが主力を欠き、オリンピックの出場権がかからないため「五輪の前哨戦」と謳うにはいささか物足りなさを感じるワールドカップではあるが、最終日に行われるケニア対カメルーン戦は紛れもなく大一番。

 女子ワールドカップバレー最終日。試合開始は17時。

 今大会唯一といっても過言でない、「五輪の前哨戦」。アフリカ対決に注目だ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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