男子バレーファイナル6開幕。「点を取る」リベロに注目

連覇を狙うパナソニックパンサーズのリベロ、永野健。熱い闘志とプレーで盛り立てる(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

抜群の存在感を発揮する2人のリベロ

 バレーボールが詳しい人ならばごく当たり前でも、見たことがない人にとっては「あれ?」と疑問に映る。

 初めてバレーボールの取材、撮影に来た人からもよく聞かれた。「どうして1人だけユニフォームが違うんですか?」と。

 多くの人はきっと、レシーブもして点を取る、華やかなエースポジションに目が向き、攻撃を操るセッターや、派手なブロックポイントが印象に残るはずだ。

 1人、色の違うユニフォームを着てコートに立つ選手は「リベロ」。守備専門で交代が自由。相手の強打をレシーブしたり、フライングレシーブでボールをつなげれば歓声や拍手が起こる一方で、相手のサーブを弾いたり、簡単そうに見えるジャンプフローターサーブの返球が崩れるとため息が起こる、損な役回りでもある。

 リベロはサーブを打つこともできないため、自身のプレーで直接得点を取ることはできない。だが、振り返れば「あの一本が大きかった」という「あの一本」を拾ったり、つなげたり、実はリベロが生み出した1点は多くある。

 3月9日に開幕したVリーグ男子ファイナル6もまさにそう。たとえ数字に残る1点ではなかったとしても、リベロが勝敗を決定づけた、といっても過言ではないような、抜群の存在感を発揮した2人のリベロがいた。

チームを乗せた永野のブロックフォロー

 落ちた、と思うボールが上がる。しかも一方からすれば打ったボールがブロックされ、違う一方からすれば完璧にブロックしたボールだ。

 前者からすれば「助かった」と胸をなでおろし、後者からすれば「嘘だろ」と言いたくなるような、そんなシチュエーション。ファイナル6の初戦、パナソニックパンサーズ対豊田合成トレフェルサの試合でもそんなシーンがあった。

 昨年はVリーグ、天皇杯、黒鷲旗とバレーボールの国内三大タイトルを制したパナソニックは永野だけでなく、清水邦広や福澤達哉、深津英臣や山内晶大、大竹壱青など全日本選手がズラリと顔を揃える。個人技はもちろんだが、サーブをどこに狙いブロックをどう跳んでレシーブでつなげるか、戦術遂行能力も高く、単なるスター軍団というチームではない。

 対する豊田合成はパナソニックのように全日本選手が多いチームではない。だが、2013年にアンディッシュ・クリスティアンソンを監督招聘以後、スウェーデン代表や欧州クラブで指揮を執り17年には世界バレーボール殿堂入りを果たした名将のもと、基本技術の向上、システムに基づいた高い戦術遂行に向けた力をつけ、14/15シーズン以降優勝、準優勝など常にトップ3に入る実力チームだ。

 ファイナル6の初戦で昨年のファイナルマッチの再現。どんな試合展開になるのか、互いがそれぞれの持ち味を発揮し合う中、1セット目序盤に流れを引き寄せたのが永野だった。

 アウトサイドヒッターの福澤が放ったスパイクを、豊田合成は完璧にブロック。誰もが落ちた、と思うボールを体で上げたのが永野だった。それも飛び込んで来たわけではなく、最初からそこにいる。「助走に入る位置や、トスを見てある程度は予想した」とはいえ、その1本がつながったことはチームにとって大きく、主将の深津も「勝ちたい思いが1人1人チームに移っていく、それがプレーに出てつながる、いい循環があのプレーから始まったと思う」と振り返ったほど。当の本人は「そう思ってもらえたなら嬉しい」と言いながらも、それこそが自らの果たすべき役割、とばかりにこう言った。

「あそこで流れが変わったかどうかは僕が決めることではなく、相手があることなので何とも言えないですけど、バレーボールはチームスポーツ。1人のスパイカーが打って止められることもあるし、オミ(深津)の乱れたトスをスパイカーが頑張って打ち切って決めてくれることもある。それがバレーボールで、人とのつながりだと思うのでそれを大事にしたいし、『落とさない』という気持ちが出たのかな、と思います」

 勝負だと思っていた、と永野が振り返る第1セットを制したパナソニックはその後も豊田合成を圧倒。ストレートで勝利し、翌日も堺ブレイザーズに勝利、2連勝で16日は東レアローズと対戦する。

チームの武器を増やす古賀のトス

 初戦でパナソニックに敗れた豊田合成は、翌日サントリーサンバーズと対戦。0-2と劣勢に立たされた。

 ファイナル6はレギュラーラウンドの勝利に伴いポイントが加算されるとはいえ、3位通過の豊田合成は決して有利と言えるような立場ではない。圧倒的不利な状況から、チームを勝利に導く流れをつくったのがリベロの古賀幸一郎だった。

 今季も3年連続5回目のサーブレシーブ賞を受賞するなど、守備力には定評があることに加え、クリスティアンソン監督が就任以後、6季にわたりチームの主将を務めており、チームにとって欠かせぬ存在であるのは言うまでもない。相手からすればサーブを打つ際もスパイクを打つ際も古賀のところを避けるのは当たり前なのだが、避けて隣の選手や空いたスペースを狙ったつもりなのに、気づけばそこにいて、難なくボールをつなぐ。それが他の選手から「一番嫌な存在」とまで言わしめる古賀の持ち味であり大きな武器だ。

 「守備専門」と言われるリベロではあるが、レシーブだけすればいいわけではない。たとえばセッターが1本目のレシーブをした際に2本目をトスするのもチームによってはリベロが担う、セカンドセッターとしての役割もある。豊田合成も多くのケースで古賀がセカンドセッターとしてトスを上げるのだが、単なる山なりのトスや、安易なアンダーハンドのトスではなく、落下点に素早く入りジャンプトスで左右に上げる。なおかつ今季はバックアタックや、ミドルブロッカーへのトスもバリエーションとして加わり、チーム全体の攻撃の幅が増えた。

 15/16シーズンの初優勝時にMVPにも輝いたイゴール・オムルチェンがチームの大砲ではあるのだが、昨季、今季はケガもありイゴールが出場しない試合も多くあった。当然ながらイゴールほどの打数を打ち、なおかつ決定力を持ち合わせるような大砲はいない。攻撃力を上げるための1つの策が同時に仕掛ける攻撃枚数を増やすことであり、それは決して万全な状態に限らず、リベロがトスを上げる場面でも同様。ミドルブロッカーの傳田亮太が「さすがにここはないだろう、と思う場面でも古賀さんはトスを上げて来る。まさかアンダーでクイックが来ると思わなくて失敗した1本もあったけれど、常に攻撃へ入らないといけない、と準備するようになった」と言うように、それがチームの攻撃に対する意識を高めているのは間違いない。

 サントリー戦も2セット目からはイゴールに代わってオポジットに椿山竜介が投入され、高さではなくスピードを活かすバレーを展開。ごく当たり前に、コートの至るところへトスを上げる古賀からのトスを鮮やかに椿山が決める。1、2セットとは全く違うスタイルで豊田合成が流れを引き寄せ、逆転の末、フルセット勝ちを収めた。

 足りないものばかりを見ていたら先はない。今ある力をどう活かすか、古賀がこう言った。

「今の自分たちのチームに、上からバコバコ打てる選手はいないのが現状なので、リベロからハイボールでオーソドックスに丁寧に上げるスタイルよりも、全員が常にアプローチして、自分がどこをチョイスするか。常に4つのオプションがある状況をつくれたほうが間違いなく武器になっていると思うし、それが強みとして確立されていると思います」

 レギュラーラウンド上位2チームとの対戦を1勝1敗で終えた豊田合成は16日、堺ブレイザーズと対戦する。

リベロを見ればバレーの楽しさが広がる

 決して目立たなくとも、数字に残ることはなくとも勝利を引き寄せる。そんな場面が間違いなくバレーボールには存在し、2人のリベロはまさに、そんな仕事をやってのけた。

 永野や古賀だけではない。リベロを見ればそのチームがどんな戦いをしようとしているのか。なぜサーブをリベロばかりが取るのか。そのためにどんな動きをしているのか。そこに注目するだけでも、きっと、バレーボールの楽しさは何十倍にも広がるはずだ。