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「失敗を恐れるな」。NECレッドロケッツがホームゲームで描く未来

田中夕子スポーツライター、フリーライター
「夢をつなぐ」を掲げ一体感をつくり出せるか(写真提供/NEC SPORTS)

新リーグで何が変わったのか

 10月26日に開幕したV.LEAGUE。男子に続いて女子、11月半ばにはDIVISION1、DIVISION3とすべてのカテゴリーが開幕した。

 バレーボールの事業化を銘打ち、新リーグとしてスタートした今季、ホームゲームの開催権は都道府県協会からチームに譲渡され、基本的には試合運営もすべてチームに委ねられ、収支も管理する。収益を上げるためには1人でも多くの人に足を運んでもらわなければならない。そのためにも各チームがそれぞれのホームゲームで趣向を凝らした演出で、まずはチームを、Vリーグを知ってもらおうとさまざまな努力や工夫をしている。

 何よりもまず「変化」を求める今季、昨シーズンからいち早くプロジェクションマッピングや試合中の実況MCを取り入れたサントリーサンバーズは、応援スタイルを一新した。チームスタッフが自ら客席に立ち、これまでのバレーボール会場とは異なる音響と併せ、応援を先導。サントリーのホームゲームで開幕を迎えたことに加え、従来のスタイルを変える、という意味でも大きな一歩を踏み出した。

 サントリーに限らず、ホームゲーム限定弁当やカフェ、豪華なゲストの招聘など、多くのチームが変化の兆しを見せつつあるが、全体を見渡せば、「変わった」という印象を生み出しているかというとそうではない。応援も変わらず、特段イベントがあるわけではなく、ホームゲーム以外の試合はこれまでバレーボールを見ていた人にとってはその変わらない光景に違和感はなくとも、あれほど「変化」や「新リーグ」と謳う割には何が変わったのか。他競技と比べても、その振り幅は小さいと感じざるを得ないのも現状だ。

 VC長野やKUROBEアクアフェアリーズなど、複数企業を母体とする地域密着型のクラブも参入してきたが、まだまだ圧倒的に少数で、大半は大企業に属するチームがトップカテゴリーで戦うのがバレーボールの特徴でもある。そんな中で、各チーム、チームを有する企業は何を変えようとして、どんな取り組みを行っているのか。社内のファンクラブだけでなく社外のファンクラブの設立、運営や、地元商店街とのコラボ、キッチンカーの導入など女子チームの中ではこれまでも積極的な仕掛けを展開してきたNECレッドロケッツ、野田謙一部長と中村貴司GMに話を聞いた。

まずは社内の認知度を高める

 NEC玉川事業場の総務部長で玉川地区責任者も務める野田氏がレッドロケッツの部長に就任したのは今年4月。優勝した16年の決勝など、何度か会場に足を運んだことはあったがそれほどバレーボールに精通していたわけではない。だが実際部長としてベンチに入れば目の前で繰り広げられる試合に心が躍り、「自然とガッツポーズが出た」と苦笑いするほど門外漢であったはずの自分も、見ればハマる。バレーボールという競技、チームの魅力をより多くの人に知ってもらうために何をすべきか。まずは着手したのは、社内の認知度をいかに高めるか、ということだった。

「玉川事業場では1万8千人が働いています。じゃあその中でどれだけの人がレッドロケッツのことを知っているか、というと非常に少ないのが現実です。今は会社の事業も好調かといえば非常に厳しい部分もある。まずは会社を元気にする、という意味でもそれぞれがプロアクティブに動き、コミュニケーションも取ってアイディアを具現化しようという気持ちになることが大事だな、と感じ、そのために何かを変える環境をつくらなければならない。そういった意味でもレッドロケッツというバレーボール部の存在は非常に大きな財産であり、大きな起爆剤になるはずなんです。バレーボールが好きだから見に行くというだけでなく、自分たちと同じ会社に属する選手が働いているのだから見に行ってみようかな、行ってみたら面白い、また行こうかな。そのループをつくりあげるための環境をつくる。もちろんそれは企業内だけでできることではないし、地元や、外の方々に愛されるチームをつくりたいし、そうでなければ社員も『自分たちのチームだ』と誇りを持てない。とにかく知ってもらう、来てもらうためにどうすればいいか。その1つのきっかけになるのが、ホームゲームだと思っていますし、今季のテーマは『カッコいい』だけでなく、女子選手の『かわカッコいい』なんですよ(笑)」

休部の苦い経験を糧に「リーグ発展のために」

 男子選手の多くがリーグ期間中以外は社業に携わるのが大半である中、女子は練習時間も長く、職場で勤務する機会は限られる。食事もこれまでは体育館内で弁当を食べるなど、内々の世界で済ませてしまうことが多かったが、週に一度は社員食堂で食事をし、館内放送も選手が行うなどまずは地道な活動からスタート。社外に向けてもホームゲームのビラ配りや地域の清掃活動にも積極的に参加。バレーボール教室も、全員で行うのではなく、人数を分けて複数会場で行うなど、狭い世界ではなく、広い世界とのつながりを求めた。

 その背景には、今季からチームを率いる金子隆行監督の存在も大きい、と言うのは中村GMだ。現役時代はNECブルーロケッツに所属、大学在学時から試合出場の機会を得るなど中心選手として活躍したが、社会の荒波には勝てず09年に休部を発表。当時、チームディレクターを務めたのが中村氏であり、NECからサントリーサンバーズに移籍、現役を引退した金子監督をチームスタッフに招聘したのも中村氏だった。

「今までは固定観念として、女子選手は守られなければならない、という発想が強くありました。でもそれでは何も変わらない。多くの人と触れ合うことが人間力の形成にもつながるし、何より選手1人1人も発信することの大切さを感じて、行動しなければなりません。金子監督自身、休部という経験をして、サントリーで社会人として、企業人しての経験も重ねた。取材対応やチームのPRに関する時間も積極的に割いてくれるので、選手もその姿勢を自然に受け入れて、行動する。ホームゲームのポスターやメンバーズガイドなど、自分たちから地元の商店街に持って行くようになりました。チームとして勝つこと、結果はもちろん大切ですが、それだけでなく、NECの看板を背負う選手、バレー界の一員としてプレーの面でも、さまざまな活動に対しても積極的に取り組む。それがバレー界の発展、リーグの発展につながることだと思いますし、常に我々がその先頭に立っていてほしいという気持ちで、ホームゲームも盛り上げたい。それがバレー界、チームを取り巻く方々の思いなんだと思います」

 自チームだけが潤えばいい、という安易な考えではなく、その先に描く未来こそが大事だ、中村氏の言葉も熱が帯びる。

「底辺拡大も含め、バレーボールの魅力を発信すること。リーグ全体が活性化しなければ、活動を休止せざるを得ないチームも出てくるかもしれない。そうなればそこまで築いて来たものもなくなってしまいます。互いを盛り上げ、互いを高める。まずはホームゲームから、ただ『NEC頑張れ』ではなく、相手のいいプレーにも自然と拍手が生まれるような、そんな環境をつくっていくことがスタートだと思っています」

「変わることを恐れるな。変わらないことを恐れろ」

 その第一歩となるのが、今週末、24、25日に東京・大田区総合体育館で、12月1日に地元・川崎のとどろきアリーナで開催されるホームゲームだ。

 これまでと同様に、種類豊富なキッチンカーやレッドロケッツ仕様の赤いビールなど酒類の販売、音響や照明に工夫を凝らした演出など多彩なイベントも企画されているが、試合中に流す音楽やMCによる実況、どこまでがOKで、どこからがNGなのか、その線引きも曖昧で、当然ながらアウェイチームとの兼ね合いもある。

 新しい取り組みに着手することを好意的に受け入れる人もいれば、従来通りの形を好む人もいて、何が正解かはわからない。よかれと思って提案したことも、受け手によっては否定的に捉えられることもあるかもしれない。

 だがそれこそが、何よりの財産。野田氏はそう言う。

「よく社員に話すのは、『変わることを恐れるな。むしろ変わらないことを恐れて下さい。失敗することを恐れるな、失敗しないようにすることを恐れて下さい』と。新しいスタートを切るためにはどんどんやる。何でも積極的にやる。そうしないと変わらないですから、思いきり振っていけばいい。チームスローガンとして『志、さらなる高みへ』と掲げていますが、失敗を恐れているうちは高みに到達することなどありません。失敗してナンボ、チャレンジするからその高みに近づく。バレーボールもまさにそうですよね。何も考えずにプレーした結果のミスはダメだけれど、考えて、狙って、ここは攻めようと思って打ったミスは失敗を恐れて縮こまるよりずっといい。不安定は安定、安定は不安定。不安定というとマイナスにとらえられがちですが、安定するため、成長するためには絶対に必要なものです。むしろ積極的に不安定をつくればいいし、仕掛けをすればいい。そこに生じるどんなご意見も受けますし、失敗しながら、来ていただいた方々に『面白かった』と帰っていただけるように、どんどん変えるためのチャレンジをしていきたいですね」

 このチームのホームゲームが盛り上がった、と聞けば、では次に自分たちがどう盛り上げるか。新たな刺激となり、その連動が全体を活性化させ、バレーボールを知ってもらい、盛り上げるための要素となるはずだ。

 どう変わるのか。変わったのか。失敗を恐れず新たなチャレンジの行方を確かめるためにも、さまざまなホームゲームに足を運び、自らの目で見て、多くの人にぜひ、体感してほしい。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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