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ポスト安倍は菅官房長官だと思わせる統一地方選挙前半戦

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(432)

卯月某日

 亥年の選挙の第一弾となる11道府県知事選、6政令市長選、41道府県議選、17政令市議選は、自民党が堅調な戦いを進めて議席の過半を獲得する一方、保守分裂の選挙が党内のパワーバランスを変化させ、ポスト安倍を巡る政争の芽を生み出す結果となった。そして選挙協力に腰の引けた野党はまったく振るわない。

 野党のだらしなさは知事選で唯一の与野党対決となった北海道の結果によく現れている。自公が推す鈴木直道候補と、立国共由社の野党5党が推す石川知裕候補の得票差はおよそ66万票、昔から革新が強いとされてきた北海道でのこの差は大敗と言える。

 ところが立憲民主党の長妻昭選対委員長は「惜敗」と言った。1月に行われた山梨県知事選挙でも何の失政もない現職知事を落選させながら「惜敗」と総括した長妻委員長にフーテンは呆れたが、その時は得票差で3万票、得票率で5対4の割合だった。それが今度は6対4の割合だから「惜敗ではないでしょう」とフーテンは言いたくなる。

 こうした姿勢は野党が選挙結果を真剣に反省するつもりがないと国民に思わせる。野党の選挙協力は顔見世興行だけで、勝つ気のない腰の引けた選挙協力としか思えない。自公が長年培ってきた選挙協力とは覚悟において雲泥の差がある。それが選挙で自公を勝利させてきた唯一の要因だとフーテンは思う。

 2年前の総選挙は安倍政権が権力を失う可能性があった。もし小池百合子都知事が職を投げ打って選挙に出馬すれば政権交代はあり得た。しかし小池氏は「排除」の論理だけを言って出馬しなかった。おかげで安倍自民党は権力を失わずに済んだ。

 野党は大混乱して分断されるが、しかしその選挙で自公と日本のこころが獲得した比例の合計票数は、希望の党と立民、共産、社民が獲得した比例の合計票数よりおよそ49万票少ない。つまり立民、共産、社民が希望の党を敵視せず、安倍政権打倒で協力すれば政権交代は実現した。

 2012年に安倍自民党が政権を奪還したと言っても、自民党が昔のような票を獲得できる政党ではないことを自民党が一番知っている。だから権力を維持するために最も重要なのは野党を分断しておくことだと考えている。自分たちが公明党と行っている選挙協力のやり方を野党にはやらせない。それが自民党の生きる道である。

 政策に重きを置けば自公連立がうまくいかなくなることは必定だ。ぎりぎりの妥協と誤魔化しで支持者を納得させるテクニックを編み出したが、それを野党にはやらせない。そして野党はその壁を崩すことが出来ない。政策を金科玉条のごとく掲げ、妥協や誤魔化しを排除するのが政治だと思っているからだ。

 しかし政策は権力を握らない限り実現できない。国民の声をよく聞き、その最大公約数を実現するため大胆に妥協する。そして権力を握るため大胆に選挙協力する。それが野党にできない。その結果、立民が政令市議選で議席を増やしたと言っても民主党時代と比べれば大きく後退している。共産も社民も同様だ。議席を減らして存在感を失いつつある。

 7月の参議院選挙までに野党がどれほど変われるかを考えても頼りないとしか言えないが、しかし今回の選挙結果は日本の政治に少なからずインパクトを与える。ポスト安倍を巡る政局に火をつける選挙だった。すなわちポスト安倍の一番手に菅官房長官が浮上した選挙だったのだ。

 今回の選挙の特徴は、保守分裂の知事選が4つも行われたことである。また大阪では自公を敵に回して維新が知事と市長をクロスさせる選挙を行った。結果は4つのうち2つで自民党推薦候補が敗北し、また大阪では大差で自公候補が維新に敗れた。いずれも自民党にとって衝撃的な結果だった。

 まず福岡県知事選挙では麻生副総理兼財務大臣がごり押しして現職知事に対抗馬を擁立した。これに山崎拓元副総裁や古賀元幹事長、それに二階派の国会議員らが反発し、現職を支援した。選挙応援に駆け付けた麻生派の塚田一郎前国土交通副大臣の「忖度」発言もあり、麻生氏の推す候補は100万票近い差で現職に惨敗した。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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