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政治家の「私」をほじくって喜ぶ日本人の愚劣さ

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(323)

長月某日

 7日発売の週刊文春が民進党山尾志桜里衆議院議員の不倫疑惑を掲載した。山尾議員とブレーンである年下の弁護士が党代表選挙の前後に週4回密会し、それが記事になることを知った民進党執行部は山尾氏の幹事長起用を撤回したという記事である。

 本人の説明が行われていないため事実関係を判断することは出来ないが、今日のテレビはワイドショーがその話題で持ち切りだった。そこでは公人たる政治家が不倫するのは許されないとする論調が多く、一方で本人が議員辞職の意向であるとの報道も流れた。

 果たして公人たる政治家の不倫は許されないのか、議員辞職をしなければならない話なのか、またそれが報道されるからと言って内定していた人事案を撤回しなければならなかったのか、事実関係が分からない段階では判断することができないのだが、フーテンにはなんとも日本的に過ぎる考えが横行している気がする。

 よく言われが、フランスのメディアは政治家の身の下話を報道する意義を認めない。政治家に愛人がいようが隠し子があろうが、それと政治家としての能力は何の関係もない。政治家に求められるのは国家の安全と国民の生活を守る使命を果たす能力である。

 ゲスな大衆が喜ぶ政治家の身の下話をほじくり出せば、政治家の能力を正当に判断できない大衆が政治家を血祭りにあげる喜びに狂い出し、国の政治を滅茶苦茶にするとフランスのメディアは考えるのである。

 一方、これと対照的なのがアメリカだった。セックス・スキャンダルはアメリカの政治家にとっては命取りだ。その背景にあるのは宗教の違いである。フランスはカソリックでカソリックは離婚を認めない。離婚が出来ない社会では秘かに愛人を持つことが暗黙の了解となる。フランスには愛人文化があると言われる由縁である。

 ところがピューリタンが建国したアメリカは厳格に一夫一婦制を守る。愛人を持つことは許されない。そのためアメリカでは男女が離婚結婚を繰り返すようになる。若い時のパートナーと壮年期のパートナーと老後のパートナーが同じ人間である方がおかしい、人間は離婚結婚を繰り返すのが自然だとアメリカ人は主張する。

 だから国民を代表する政治家のセックス・スキャンダルは命取りであった。ところがクリントン大統領の登場がアメリカを変える。クリントンはヒッピー世代だが、ヒッピーはベトナム反戦運動から生まれ、フリーセックスを唱えてキリスト教のモラルに叛逆する運動だった。

 そのクリントンは大統領選挙の最中から数々の女性スキャンダルを指摘され、極めつけはホワイトハウス内での女子学生とのセックスが暴露されたことである。議会で初の弾劾裁判にかけられた。しかしそれでも国民の支持は下がらず弾劾も見送られた。

 理由はクリントン政権がIT革命によってレーガン時代の双子の赤字を解消し経済が好調だったことによる。それを見てフランスのメディアから「未熟なアメリカ政治がようやく成熟してきた」と評価された。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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