Yahoo!ニュース

「ふれあい」「俺たちの旅」「恋人も濡れる街角」 50周年の中村雅俊が一夜限りのアレンジでセッション

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BS-TBS

日本を代表するアレンジャーが、この日限りのアレンジを作り上げ、凄腕ミュージシャンとアーティストがセッションする、生演奏にこだわるライヴ番組『Sound Inn S』(BS-TBS)。

1月20日放送回には今年デビュー50周年を迎える中村雅俊が登場。代表曲3曲をこの日だけのアレンジで披露した。

小椋佳作詞・曲「俺たちの旅」を坂本昌之がアレンジ

一曲目は「俺たちの旅」(1975年)を坂本昌之のアレンジで披露。この曲は1975年に放送された中村主演の同名ドラマの主題歌で、作詞・曲はシンガー・ソングライター小椋佳。この曲は大学時代に観た映画で、小椋が手がけた音楽を聴きファンになった中村自身が「ドラマのプロデューサーに懇願して小椋さんに書いてもらった」という。この曲の他にも小椋は中村の初期の楽曲を何曲か手がけている。

坂本昌之
坂本昌之

小椋といえば、「シクラメンのかほり」「揺れるまなざし」「夢芝居」「愛燦燦」等数々のヒット曲を生んだ稀代のメロディメーカーで、その音楽は物語性に溢れ、繊細かつ豊かな薫りが立ってくる楽曲が多い。自身が歌った「さらば青春」やこの「俺たちの旅」は、青春の光と影をつづった色褪せないスタンダードナンバーだ。そんな曲を坂本は「中村さんのライヴ音源を聴かせていただいたら8ビートで歌っていらっしゃったので、元の16ビートに戻してストリングスを厚くして、温かみのあるサウンドにしました。ドラマの劇伴と原曲を演奏しているトランザムの音が大好きでした」と語っているように、印象的な美しいストリングスと、間奏の佐々木“コジロー”貴之のギターソロもたっぷりと聴かせるアレンジを構築。中村も「サビに行くストリングスのアレンジメントがすごくかっこよくて、歌っていて気持ちよかった」とセッション終了後は坂本と語り合っていた。

このドラマを観て人生が変わったというファンも多い。“青春ドラマの金字塔”として今も多くのファンを持つ『俺たちの旅』が、『昭和傑作テレビドラマDVDコレクション』(アシェット・コレクションズ・ジャパン)シリーズとして刊行されるや、一時売り切れるなど再び注目を集めている。ドラマも主題歌も決して色褪せない。

桑田佳祐作詞・曲の「恋人も濡れる街角」を冨田恵一がアレンジ

2曲目は「恋人も濡れる街角」を冨田恵一のアレンジで披露。この曲は1982年桑田佳祐が提供し中村を“変えた”曲として、忘れられない一曲だという。「当時中村雅俊というと『ふれあい』みたいな曲が多いよね、というイメージを多くの人が抱いていたと思いますが、この曲で別の中村雅俊が出てきた、という印象を持っていただけたと思います。この曲によってライヴパフォーマンスも変わったと思います」。実直で好青年というイメージが強かった中村が、桑田が作ったエロティックな歌詞とメロディを歌い、それまでとは違う顔を見せた。「<愛だけが>という歌詞を“ああ、いい、だけが”って、エロティックに歌って欲しいと桑田君に言われたんです」と制作秘話を教えてくれた。

冨田恵一
冨田恵一

この誰もが知る名曲を、冨田はイントロから“冨田節”を炸裂させ、クールかつ温かみ、そして熱さを感じさせてくれる今の時代の「恋人も濡れる街角」を作り上げた。「この曲は桑田さんが内山田洋とクール・ファイブが歌うようなムード歌謡をイメージして作ったと何かで読んで、今回はムード歌謡の部分を少し抑えて、ややラテンに寄せたアレンジにしました。AメロBメロCメロでシーンがはっきり分かれる曲ですが、中村さんがこのメロディを歌うことで、ひとつの繋がったストーリーに聴こえるんだと改めて感じました」(冨田)。

デビュー曲「ふれあい」を十川ともじが「ファン目線で」アレンジ

ラストはデビュー曲にしてミリオンヒットを記録した「ふれあい」(1974年)を十川ともじのアレンジで歌った。この曲について改めて聞かれた中村は「やっぱりこの曲との出会い、歌うことを生業とすることになったし、結果も出してくれたので今でもしつこく歌っているという(笑)。そういう意味では本当に想像もしていなかった自分の運命を、ちゃんと作ってくれた大切な曲です」と、役者と歌手両方をやっていく決意をするきっかけになった曲であると語った。

十川ともじ
十川ともじ

ドラマ『われら青春』の主題歌で、十川もこのドラマを観て「ふれあい」が大好きになった一人だ。「中村さんの素朴というか朴訥としているところ、テクニカルに歌い上げるのではなく等身大で歌っているのがすごく好きでした」と語り、それだけにアレンジは「確か中学一年の時ドラマを観ました。だから『ふれあい』もあのままのアレンジで聴きたい一人なので、原曲に近い、ある意味ファン的なアレンジになりました」と、オリジナルアレンジをリスペクトしながらも、アコギとストリングス、フルートの柔らかな音が印象的な、シンプルかつ滋味深いサウンドを作り上げた。そこに中村の温かな歌声が乗ると、温もりと瑞々しさ感じさせてくれる世界が生まれた。

歌い終わった中村は「ワンコーラス目からツーコーラス目に行く時の短いストリングスを聴いた時に、デビューした頃のあの感じだって当時を思い出しました。今はこのアレンジで歌うことが少ないので、逆に新鮮でした」とセッションを楽しんでいた。デビュー曲がいきなり大ヒットになった時「自分で典型的な一発屋のパターンだと思った。だから余計に一作一作を大事にしていこうという気持ちで、今まで歌ってきました」と語った。

「表現方法が違うだけで、内側にある思いを真っすぐ伝えるという意味で、役者と歌手は同じ」

役者と歌手、どちらも真正面から向き合い走り続けた50年だった。その表現の違いを聞かれた中村は「表現方法が違うだけで、内側にある思いを真っすぐ伝えるという部分では同じだと思う。言葉で届けるか、メロディに乗せ届けるか。自分が主人公になって歌えるラブソングは気持ちがすごく入りやすいですが、例えば『俺たちの旅』とか心の描写というか、客観的なところにカメラを置いて別の景色を色々と見ている感じがする曲は、また違う感覚、感情で歌っています。芝居をしている自分も、歌を歌っている自分も好きです(笑)」と表現者としての矜持を教えてくれた。

中村雅俊のパフォーマンスが楽しめる『Sound Inn S』は、1月20日(土)18時30分~BS-TBSで放送される。

『Sound Inn S』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事