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高橋洋子 “エヴァ”を歌い続けてきた稀代のシンガーの矜持「生活の中に歌がある、人生が歌に出る」後編

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/キングレコード

【前編】から続く

4年ぶりのマキシシングル「EVANGELION ETERNALLY」

マキシシングル「EVANGELION ETERNALLY」(5月10日発売)
マキシシングル「EVANGELION ETERNALLY」(5月10日発売)

そんな進化を続ける高橋の現在地を、存分に感じることができる4年ぶりのマキシシングル「EVANGELION ETERNALLY」が5月10日に発売された。表題曲として『シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース × バンダイナムコ』プロモーションソングとなる新曲「罪と罰 祈らざる者よ」を収録する他、デジタルシングルとしてリリースされていた『エヴァンゲリオン』シリーズ遊技機搭載の「Teardrops of hope」「Final Call」、そして鷺巣詩郎が手掛けた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』劇中曲を、高橋が歌唱したバージョン「what if?」が収録されている。リード曲「罪と罰~」は、壮大なコーラスが印象的なドラマティックな世界観で、高橋が歌詞を手がけている。

新曲「罪と罰 祈らざる者よ」は、「厚いコーラスや世界観も含めて、今までエヴァでやってきた全部の要素を表現しています」

「『罪と罰~』は、高橋洋子×大森俊之でこれぞ『エヴァンゲリオン』という雰囲気のものを、というオーダーでした。エヴァの世界に身を置いてきて、今だからこそ書けるものを表現しました。年齢的にもそうですが、私という人間が、みなさんの母親になった視点だったらどんな思いなんだろうって考えました。タイトルはメロディが連れてきてくれました。厚いコーラスや世界観も含めて、今までやってきた全部の要素を表現しているのがこの曲なんです」。

「Teardrops of hope」では英語での作詞にチャレンジ

包容力を感じる歌詞だ。久々に作詞・作曲の両方を手がけた「Teardrops of hope」では全編英語詞での作詞にチャレンジしている。英語詞は高橋の長女に協力を要請したが――。

「ミドルテンポで英語で、というリクエストがあり、最初は戸惑いました(笑)。英語が得意な長女に手伝ってもらおうと思ったら、『ママの名前で載るんでしょ、自分で頑張って』、『……ですよね』ってなりました(笑)。『エヴァンゲリオン』そのもののストーリーとはちょっと違いますが、悲しみで終わるのではなく、未来に続く光のような道を歩いているんだということを、みなさんにお伝えできたらいいなって」。

「『what if?』は、まず一番近い存在のスタッフやその家族に届けたいという気持ちを込め歌いました」

「what if?」は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021年)の劇中の印象的なシーンで流れる、名匠・鷺巣詩郎作・編曲の音楽に歌詞をあて、高橋が歌っている。幸せを感じさせてくれる歌だ。

「映画劇伴ではコーラスで参加させていただいて、単曲としても改めて歌わせていただいて、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の完結編に立ち合うことができた幸せを噛みしめながら、レコーディングしました。仮歌を録るためにスタジオに行って、その時、変かもしれないんですけど、遠くにいる見えないオーディエンスに繋げるというよりも、そこに繋がる一番側にいる人たち、近い距離感にいるスタッフやその家族にまずは届けたいって思いました。だからうまく歌おうとしなかったというか。このチャンスをいただけたことへの感謝、歌わせていただけるだけでありがたいなっていう、その感謝の気持ちで歌いました」。

「とにかく前に進むことで、自分の次のステージに繋がっていく」

「KING SUPER LIVE 2018 in 台湾」(C)KING RECORD
「KING SUPER LIVE 2018 in 台湾」(C)KING RECORD

その歌声や表現力を通して、まさに今が充実の時と思わせてくれる。これまで数々のチャンスを掴み、苦労も経験し、その人生全てが歌に昇華される高橋の歌はどこか尊い。そしてその言葉もひと言ひと言が説得力を纏って心にスッと入ってくる。

「人生ってボートを漕ぐように進んでいく。私はそう捉えています。前に見えているものが過去で、未来に向かってボートを漕いでいく。時折後ろを確認しながら漕ぐことが必要ですが、でも怖がっていたらそこから動けなくなってしまいます。怖いし見えないけど漕いでいくことで、自分の次のステージに繋がっていくと思います。ただ怖いと思うのではなく、もしかしたらそこに自分にとってのギフトがあるかもしれないし、何か探してみる価値がそこにあるのかもしれない、と思うことが大切です。いつも思うのは、“強さ”って全方向のど真ん中が一番強いと思う。どれかひとつだけに偏ると、ポキっと折れてしまう可能性が高くて、何度も同じようなアクシデントが起きるとしたら、立ち止まって自分が偏っていないかを確認する必要性もあるかなって私は思います。そうやって多角的に見ていくことによって、自分の中にある中心軸みたいなものが見えてくると、意外と安定してくる。嫌なことと悪いこととは別だと思う。嫌だからやらないのか、嫌だけどやるのか。やってみて嫌じゃなくなるのか、嫌なままなのか、それって自分でしかコントロールできないんです。ここをしっかり持っていれば、どんなシーンが訪れてきても生き抜けるはずです」。

「達成感はない。完璧だと思ったらそこから進歩がないかもって思ってしまうかもしれない」

「KING SUPER LIVE 2018 in 台湾」(C)KING RECORD
「KING SUPER LIVE 2018 in 台湾」(C)KING RECORD

キャリア30年を超え、歌うことへのモチベーションについて聞いてみた。

「毎回どうしようっていう課題があって、でもなんとか乗り越えようとします(笑)。達成感はなくて、それはこの仕事は消しゴムでは消せない仕事だから。逆にいうと完璧だと思ったら、そこから進歩がないかもって思ってしまうので、それも違うかなって。なのでこのままいくんじゃないですかね(笑)」。

5月28日、Zepp Shinjuku(TOKYO)で、初の『エヴァンゲリオン』をテーマとした単独有観客ライヴを開催

高橋は、先日オープンし話題を集めている東急歌舞伎町タワー内のライヴハウスZepp Shinjuku (TOKYO) で、5月28日『YOKO TAKAHASHI EVANGELION ultimate Live「月十夜」』を行なう。これは高橋にとって初の『エヴァンゲリオン』をテーマとした単独の有観客ライヴで、『エヴァ』の世界観にどっぷり浸れる貴重なライヴになりそうだ。

高橋洋子オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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