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藤あや子 35周年、歌と愛猫と人生の楽しみ方を語る。「私の中でスタートラインは常に“今”」【後編】

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「女がひとり」ミュージックビデオ撮影時(写真提供ソニー・ミュージックレーベルズ)

【前編】から続く

演歌だけにとどまらず、音楽をジャンルレスに楽しむ。その結果気づいたこと

藤は2011年に女性アーティストの名曲をカバーした『WOMAN』、13年にはジャズアルバム『THE SHOW TIME』、17年には男性アーティストの名曲をカバーした『GENTLEMAN~私の中の男たち~』をリリース。さらに19年には“歌って踊れるヒップホップ民謡”をテーマに、音楽プロデューサーのm.c.A・Tと共演したシングル「秋田音頭-AKITA・ONDO-」を発表するなど、「好きだから歌いたい」という素直な気持ちで、演歌だけにとどまらずジャンレスに音楽を楽しんでいる。そして大切なことに気づいた。

「女がひとり」ミュージックビデオ撮影時
「女がひとり」ミュージックビデオ撮影時

「確かに35年間演歌を歌い続けてきましたが、元々は演歌が好きでスタートした歌手人生ではありませんでした。でも色々なジャンルの歌を歌ってみて特に思うのは、演歌でしか表現できない自分がそこにいるということです。他のジャンルはどなたが歌ってもそのジャンルが存在すると思いますが、藤あや子の演歌の世界というのは、やっぱり私にしか表現できないと思っています。演歌でしか表現できない自分のこの世界を守っていかなければと、35年経ってようやく自覚できました。『雪深深』(1998年)のようにド演歌と言えない“藤あや子の歌”の存在が大きくて、どんなジャンルの曲を歌ってもこの曲を歌っている時の気持ち良さは得られません」。

美川憲一に勧められて歌い始めたシャンソンも、最初は歌えるか不安だったが「いざ歌ってみると最高に気持ちよかった」と虜になったようだ。

35周年記念シングル第1弾は南こうせつの名曲「鳥」をカバー。「こういう曲が歌いたいと思っていました」

「鳥」(2022年6月22日発売)
「鳥」(2022年6月22日発売)

35周年記念シングル第1弾は南こうせつの名曲「鳥」をカバー(アレンジ/斎藤ネコ)。MUSIC VIDEOでは藤が車を走らせながら旅をするロードムービー仕立てになっている。

「昔からこうせつさんが書く切ないメロディが好きで、バラードも好きなので『こういう歌が歌いたいな』と思っていた『鳥』のような曲が、自分の作品として残せたのは本当に嬉しいです。今までずっと着物のジャケット写真が多かったので、そうじゃないものが新鮮でした」。

「北島先生の最後の劇場公演でこの曲を聴き、“ひと聴き惚れ”でした」

そして第2弾が北島三郎が1985年に発表した女歌「女がひとり」のカバーだ。藤が歌うとまさに“艶歌”と言いたくなる薫りが漂っている。カップリングは北島が書き下ろした新曲「人恋海峡」だ。35周年を王道演歌で締めくくった。

「女がひとり」(4月26日発売)
「女がひとり」(4月26日発売)

「明治座で北島(三郎)先生の最後の劇場公演を観させていただいた時、原田悠里さんが『女がひとり』を歌われて。先生が38年前に歌っていたことを知らなくて、男歌が多い中でこの女歌がすごく印象的でした。『いい歌!』と思って、先生に歌わせてくださいとお願いをしました。悠里さんもシングルのカップリングで歌っていたのですが『是非歌ってください」って言ってくださって。この歌詞は美しい日本語が並んで、女性が書いたのかと思うくらい、女性の本質をわかっている内容で、北島先生の中の女子力が溢れています(笑)。ちょっと紗が掛かかったような世界観で、そこがまた艶っぽくてたまらない雰囲気で、想像力を掻き立ててくれます。これぞ日本の歌という感じです。レコーディングしたものをスタジオで先生に聴いていただいたら拍手してくださって、もう歌手冥利に尽きるというか、今後の励みになります』。

演歌の奥深さに改めて触れ「まだまだ発展途上」と感じたという。これからも藤の歌手としての進化は止まらない。

“マルオレちゃんのママ”としても大人気

藤と愛猫マルとオレオとの日々を発信するTwitterは、フォロワー数約32万(5月5日現在)と“マルオレちゃんのママ”として、歌手・藤あや子のことを知らない層からも支持されている。保護猫活動に加え、乳児院や支援学校、福祉施設への支援など社会福祉活動にも力を入れている。

「コロナ禍になる一年前にあの子達が我が家にやってきて、本当に生活が豊かになったし、私の人生の師匠です(笑)。コロナ禍で仕事が全部キャンセルになって、ずっとうちにいた時、あの子たち見ていると、日々好きなことしかしないので、本当にストレスフリーなんですよ。『ああ、これだったら幸せよね』って学びました、もう好きなことしかしない、正直に生きようという姿勢を(笑)。困っている人や恵まれない子供達、親のない動物にも何かしてあげたいという気持ちはすごくあります。これもマルオレに教えられました。これからの野望は『マルオレフェス』を開催したいです。マルとオレオのカラー・白黒の服をドレスコードにして色々なアーティストや猫好きの人が集まって、平和な野外フェスを主催することが夢なんです。エレキギターも披露したいですし(笑)」。

「とにかく自分の気持ちに正直に生きていきたい。今この時が大切。だから私は猫なんです(笑)」

オレオ、マル
オレオ、マル

ネコという生きがいと出会い、ポジティブだった性格がもっと前向きになり、さらに還暦という節目を迎えてますます“自由”に人生を謳歌することに決めた。

「『これをしたい、やってみたい』という、とにかく自分の気持ちに正直に生きていこうというスタンスで、まるで小学6年男子ぐらいの感覚(笑)。「あれしたーい!」ってとにかく手を挙げるみたいな感じ(笑)。自分の人生なので今を一生懸命楽しもうと。迷ったら一旦立ち止まってもいいけど、方向を決めたらとにかくそこに向かう。ダラダラ生きていたらもったいない。私の中では常にスタートラインは今。今日この時なので今しか見てなくて(笑)、だから猫なんですよ(笑)」。

otonano 藤あや子「女がひとり」特設サイト

藤あや子 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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