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大滝詠一 日本ポップス界の巨人の尽きない探究心、好奇心が結実した“ノベルティ・ソング”【後編】

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
(C)THE NIAGARA ENTERPRISES INC.

【前編】から続く

ノベルティ・ソングの原点は?

『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』(3月21日発売)
『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』(3月21日発売)

大滝のユーモアと笑いへのリスペクト、実験的な側面が詰まったノベルティ・ソング。大瀧はなぜここまで力を入れ、ノベルティ・ソングを作り続けてきたのだろうか。これについて生前大滝が語っていたことを教えてもらった。

「原点はエルヴィス・プレスリーで、例えば『ハウンド・ドッグ』を始め、彼の曲を聴くと声を震わせながら歌う歌い方とかが、どこかコミカルに聴こえる、と。大滝さんの中では楽曲というのは真面目に歌っても、何か違うものが伝わってくるということが根底にあったようです。その後クレイジーキャッツしかりドリフターズしかり、テクニックはもちろん、アカデミックに研究された上で“ハジケけない”限り、ただただ崩壊した音楽になってしまう。それでエルヴィスとクレイジーキャッツをイコールでつなぐことができた、大滝さんなりの研究発表として、1stアルバムに収録されている『いかすぜ!この恋』や『ウララカ』『びんぼう』が完成しました。はっぴいえんどの時代の『颱風』も、あれも真面目に歌っているけど、ふざけた曲じゃないですか。歌詞も言葉遊びで、『NIAGARA MOON』(1975年)というアルバムはノベルティ・ソングに真面目に取り組んだものとして、ナイアガラ・レーベルの最初のアルバムとして発表しました」。

「70年代まではそうやってメロディ・タイプとノベルティ・タイプを分けて作っていました。でも80年代に入ると、例えば『君は天然色』(1981年)もオケだけ聴くと、お風呂屋のエコーが効いた空間で桶を置いたカキーンという音が入っていたり。サウンドの中にビブラスラップのパキン、ビヨーンという音を入れこんだり、タイプを明確に分けずに融合ができたのがあの『ALONG VACATION』でした。『Velvet Motel』のリズムパターンもめちゃくちゃ変わっているし、ノベルティっていうのは、コミック・ソングであると同時に、面白いリズミカルな楽曲とか滑稽な、という意味があります」。

「Let's Ondo Again」と「君は天然色」は地続き

1979年、コミックソングやパロディソングを集めたアルバム『LET'S ONDO AGAIN』を最後に、ナイアガラ・レーベルはコロムビアレコードとの契約を終了。そのラストに収録されている『Let's Ondo Again』は、いわゆる大滝版ウォール・オブ・サウンドが完成したといえる。そして名曲「君は天然色」と続いていく。

「『Let's Ondo Again』は『ナイアガラ音頭』をもう一度っていうことですよね。オリジナルはチャビー・チェッカーの『Let's Twist Again』で、『ザ・ツイスト』という曲をヒットさせて、3年後に、『Let's Twist~』という曲を発表して、そのパロディーも含めて『Let's Ondo Again』っていう曲を作りました。その曲の作り方は、実は、大人数の編成で一発録りで、曲調さえ変われば、実はもうほぼ『A LONG VACATION』と同じようなセッションの実験をしています。78年のこの曲の次が『君は天然色』なので、実はそこが地続きになっています」。

メロディタイプとノベルティ・タイプの曲をブレンドさせたことで、大滝作品は一般の人もマニアックファンも聴ける音楽に

更にメロディ・タイプとノベルティ・タイプは当初ブレンドされることはなかったが、80年代に見事にブレンドさせ、新しいものを作り上げた。その結晶が『A LONG VACATION』といえる。

「その後の『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』もそうですし、アルバム『EACH TIME』の『ペパーミント・ブルー』とか、きれいな曲だけどコーラスをあんなに重ねたり、リズムパターンを含め構造としては変わった曲です。そこが、やっとエルヴィスの域に達したのかなと思います。エルヴィスの音楽がそうだったように、大滝さんの作品は一般の人も聴けるけど、マニアックファンも聴ける構造、その両方を持ち合わせていると思います」。

圧倒的な情報量のノベルティ・ソング

このアルバムに収録されているノベルティ・ソングは、どの曲も圧倒的な情報量だ。ユーモア、オマージュ、伝統音楽への憧憬、一曲一曲を紐解いていくと凄まじい数の情報が緻密に構築されている。

「本当に何十曲もの上澄みを集めて作っているというか、おいしいところを凝縮した感じだと思います。だから聴く度に新たな発見がある。また、コミックソングを側面的に見ると、ミュージカル的な構造があると思います。展開が色々あるからこそ物語性があって、語ったり、歌ったり、そこがミュージカルのようだなと思います。表現の仕方として、まさに3分間のミュージカルだなって。大滝さんの『三文ソング』は、クルト・ヴァイルの『三文オペラ』をもじった曲ですが、構造としてミニミュージカルに聴こえます。『うなずきマーチ』もそういう曲なのかもしれません」。

曲順にもこだわり“大滝流”を踏襲

40ページを超える豪華ブックレットには、マスターテープや直筆の歌詞など初公開の写真や、音楽評論家・湯浅学氏によるDisc-1収録曲の解説文と、安田謙一(ロック漫筆)氏による解説文が掲載されている
40ページを超える豪華ブックレットには、マスターテープや直筆の歌詞など初公開の写真や、音楽評論家・湯浅学氏によるDisc-1収録曲の解説文と、安田謙一(ロック漫筆)氏による解説文が掲載されている

膨大な作品群から選曲し、Disc-1、2共に曲順はどうやって決めていったのだろうか。

「大滝さんは曲順に命をかけるくらい重要視していました。そのルーツは内緒ですがビートルズなんです。今回はそんな大滝さんのやり方に則って、Disc-1は新しい曲から古い順番に遡るパターンです。『NIAGARA ROCK'N' ROLL ONDO』は78年の曲ですが、どうしても勢いがある曲なので1曲目にきています。他はそんなに複雑な構造ではありません。そうすることによって時代感のグラデーションが、年代がばらばらでも歪な感じには聴こえなくて、なだらかに聴くことができます。Disc-2は逆です。古いものから新しいものへグラデーションになっています。こういうコンピレーションは時代感がばらばらなもので繋いでしまうと、音色も変わて聴きづらくなったりしますから」。

大滝と超一流ミュージシャンが新たな技術を取り入れ、実験と研究を重ね作り上げたノベルティ・ソング

Disc-1 には先述したナイアガラ・ファン待望の「ホルモン小唄~元気でチャチャチャ」、大滝詠一トリオ「うなずきマーチ」、ピンク・レディーナンバーのマッシュアップ、大滝詠一とモンスター「ピンク・レディー」、沢田研二への提供曲でティン・パン・アレイが演奏し、山下達郎がコーラスで参加している「あの娘にご用心」など、Disc-2にはうなずきトリオ「うなずきマーチ(テヌグイ・バージョン)」、片岡鶴太郎「スリラー音頭~ビートイット音頭(ステレオ・ヴァージョン)」を始め、植木等、三波春夫『新二十一世紀音頭』、他に角川博、クレイジーキャッツ、細川たかしなど、昭和の歌謡界を代表する歌手達のノベルテイ・ソングが詰まっている。大滝と超一流ミュージシャン達が新たな技術を取り入れ、実験と研究を重ね作り上げた結晶、それがノベルティ・ソングだ。

「『ビックリハウス音頭(take4)』(デーポ)とかもそうですけど、どの曲も今のように波形でエディットではなく、頭から最後まで通して全部生演奏です。それができるミュージシャンはやはりすごいと思います。ノベルティ・ソングはそうやって日本の音楽業界にそれまでとは違う楽しさを提供したと思います」。

Disc-1はアナログレコードとして4月26日に発売される。

『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK /NIAGARA ONDO BOOK』スペシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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