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遥海 『アルスの巨獣』EDの新曲「名もない花」は「心が空っぽになってしまった時、寄り添える曲に」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供 ソニーミュージックレーベルズ/アリオラジャパン

TVアニメ『アルスの巨獣』EDテーマ「名もない花」

注目のシンガー遥海の、人気TVアニメ『アルスの巨獣』のエンディングテーマになっている3rdシングル「名もない花」が2月22日に発売される。遥海が「誰にでも心が“空っぽ”になってしまう時があります。そんな時に寄り添える曲になれたら」と語る、強くも優しいバラードだ。この曲について、そして多くの経験をし「刺激をたくさん受けた」と語る、2022年の活動についても振り返ってもらった。全ての経験がこの「名もない花」という曲につながっている。

「ZONE」は『Fantasy on Ice 2022』で初披露

今回のシングルに収録されている「ZONE」は、昨年5月から開催された、羽生結弦選手や織田信成選手、田中刑事選手、荒川静香選手、そしてステファン・ランビエル選手、ハビエル・フェルナンデス選手など、オリンピックや世界選手権で活躍する一流スケーターたちが一堂に会した『Fantasy on Ice 2022』で初披露した(幕張、名古屋公演に出演)。大きな舞台、さらに広瀬香美、スガシカオという先輩アーティストとの共演は刺激になった。

『Fantasy on Ice 2022』 Photo/Uran Sakaguchi
『Fantasy on Ice 2022』 Photo/Uran Sakaguchi

「外国人スケーターも日本人の皆さんのスケーターさんも、スタッフの皆さんもこのイベントを愛していて、ファミリー感を感じるとても温かなイベントでした。最初は私のことを受け入れてもらえるのか不安でしたが、お客さんもとても温かくて、緊張しながらも気持ちよく歌うことができました。『ZONE』をここで初披露させていただきましたが、その他にもガブリエラ・パパダキス選手&ギヨーム・シゼロン選手ペア(2022年北京オリンピック金メダル)のパフォーマンスと共に、全編英語詞の『WEAK』を歌わせていただきました。二人の演技を見ていると、歌っていることを忘れてしまうほど感動しました。二人に寄り添う、支えるという意識で歌いました」。

「『ZONE』は自分に言い聞かせている部分も多いです」

「ZONE」は「自分に言い聞かせている部分も多いです」と言うように<だれかのルールはいらない><飛び越えろ><追いかけろ>という力強い言葉で、チャレンジしている人、頑張っている全ての人に捧げる応援ソングだ。遥海はこのイベントではさらに、残念ながら怪我で降板となってしまった樋口新葉選手のパフォーマンスと共に歌う予定だった「声」をソロで歌い上げた。

「声」は、昨年の史上最年少三冠王を獲得したヤクルトスワローズの村上宗隆選手が入場曲として使用していたことでも注目を集めた。同じくヤクルトスワローズの山田哲人選手は「Pride」を入場曲として使用。この両曲のタイトルが「ZONE」の歌詞には入っている。

『True Colors Festival THE CONCERT 2022』に出演。「音楽活動を通じて、誰もが声を上げられる世の中にしていきたいと思っています」

遥海は11月には、12カ国から障がいのある歌手や演奏者、ダンサーなどのパフォーマー約100名が集結した『True Colors Festival THE CONCERT 2022』に出演。スペシャルゲストのケイティ・ペリー等と共に東京ガーデンシアターのステージに立った。

『True Colors Festival THE CONCERT 2022』
『True Colors Festival THE CONCERT 2022』

「すごくいい経験になりました。私は日本とフィリピンのハーフで、『歌がうまいのはフィリピン人だからだよ』とか言われたりして、歌への努力はなかったものにされたり、ハーフで生まれた事は誰のせいでもないのに差別的なことを言われたり、自分の中でアイデンティティがおかしくなってしまうこともありました。でもあのステージに立っていたアーティストの話を聞いていると、自分の悩みがどれだけ小さいかということにも気づきました。私が今まで“Different is always beautiful!”=“みんな違って、みんな美しい”と言ってきたことが歓迎されている特別感を感じる、色々な壁を少しずつ壊せたんだなと思えたイベントでした」。

ここでも「ZONE」を披露し「音楽活動を通じて、誰もが声を上げられる世の中にしていきたいと思っています」とステージ上で語った遥海。思いを新たにすることができたイベントだった。

「人は孤独や辛さを経験したからこそ強さを手にでき、また咲くことができる――『名もない花』はそんな曲です」

「名もない花」(2月22日発売)
「名もない花」(2月22日発売)

「ZONE」と全く違うテイストの「名もない花」。それぞれの存在がそれぞれを“立てて”いる。「名もない花」はアニメ『アルスの巨獣』のエンディングテーマに起用され、主人公・クウミと自身の心情を重ね合わせた歌詞を、情感豊かに歌っている。1月20日に先行配信され、iTunes【R&Bソウル部門】で1位を獲得している。

「耳元で囁くように歌うというイメージで、やわらかい感じを心がけました。『ZONE』とは真逆のイメージ。火と水のような感じです。人は孤独や辛さを経験したからこそ強さを手にして、また咲くことができるという曲です」。

「ライヴ感覚を大切にした『名もない花』のピアノバージョンも聴いて欲しい」

遥海の優しさと力強さ、繊細な温度感を感じさせてくれるボーカルに、ギター小川翔、ピアノ宮川純、ドラム荒田洸(WONK)という豪華ミュージシャンの、クールかつ温もりのあるサウンドが寄り添う。

「この曲のピアノバージョンも聴いて欲しいです。このバージョンはライヴ感覚を大切にしたいと思ったので、どうしてもピアノの宮川(純)さんと一発録りがしたいと、レコーディングで初めて駄々をこねました(笑)。同じ空気を吸っているからこそ、その時にしか出せない二人の雰囲気、感情があったからこそできたものという感じがしています」。

自分の思いがきちんと入っていない歌は世の中に出したくないという、シンガーとしてのこだわりを貫いた。「ライヴ感覚を大切したい」と語ったこの曲は、昨年9月行った自身初の教会でのライヴ“『A Night To Remember』 -Church Live- Piano and Strings”で披露し、その映像が公開されている。

「この曲、最初は『空っぽ』という仮タイトルをつけていました。それは自分自身が去年は、空っぽになる瞬間が多すぎて自分との闘いだったからです。何にも残ってない、これ以上何にも出せない、『わからない』ということが多かったんです。そんな時にこの曲がある意味救いだったので『空っぽ』というタイトルにしようって。でもそれだとあまりに悲しくて暗い曲という印象を与えてしまうかもしれないので、最終的に『名もない花』というタイトルにしました」。

「名もない花」で、心に少し光が射してきたところに、「ZONE」でパワーを注入する、そんなイメージのシングルだ。そのため「曲間の秒数にもこだわりました」(遥海)。

3月からミュージカル『RENT』に出演。「前回は、ミミという役の最終形を確認できないまま公演が中止に。今回も努力し、進化を続けることで、武器を手に入れられると思う」

2023年3月からミュージカル『RENT』の日本版公演(東京・大阪・愛知)に、スパニッシュ系のドラッグ中毒のダンサー・ミミ役として2回目の出演が決定している。2020年同作品に出演するも、自身を含む出演者が新型コロナウイルスに感染したことで公演は中止。彼女は病院のベッドの上で苦しさと悔しさで涙に暮れた。今回こそは完走したいと意気込む。

「ミュージカルは自分にとって『居場所』です。ミミという役は全く自分の中にないものばかりなので、でもそれを自分の中で何かに例えられる、置き換えられることができてリンクした時、初めて嘘のない演技ができると、最初に演出家に言われて。その言葉で前が開けて、稽古を重ねて初日を迎えました。舞台は本番で進化し続けるものと思って、自分でも変化を感じながら演じていたのに、その最終形を確認できないまま途中で終わってしまいました。でも2回目だからこそできることがあると思うし、少しは余裕ができ客観的に見ることができると信じています(笑)。前回は毎日緊張していたけど、それは今回も変わらないと思うけど、それを乗り越えて進化を続けることができれば、またひとつ武器を手に入れられると思っています。フィリピン人のシンガーでミュージカル女優のレア・サロンガは、世界中で人気で、彼女にずっと憧れています。彼女のような表現者になりたいという夢があります」。

「今年は自分を褒めて、もっと自分のことを大切にしたい」

6月10日には東京・三井ホールで『HARUMI LIVE 2023 “UNFOLD”』を行なうことも発表されている。

「会場も大きいので、これまで手に入れたものを、全て皆さんに観せるつもりで臨みます。ミュージカルも含めて色々なことを経験したからこそ出てくる、遥海の新しい色に期待して欲しいです」。

“UNFOLD”と名付けられたこのライヴ。これまでとこれからを全て曝け出し、“その先”に“広がり”を見せる遥海の世界を楽しめることができそうだ。

「今までは本当に時間の流れが速すぎて、昔思い描いていた憧れの場所や世界に立てても、それをきちんと味わえる余裕がなかった。だから途中で“嬉しい”という気持ちがわからなくなりました。でも色々なことを乗り越え、チャンスを掴み、また次へ向かう、ということを続けている自分自身を、どこかで褒めてあげようという気持ちになれました。達成したら喜ぼう、自分を褒めて、自分を大切にしよう、embraceというのが今年のモットーです」。

遥海 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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