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Omoinotake ライヴレポ&インタビュー。結成10年、「路上ライヴ時代のマインドは忘れない」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

キャリア最大規模のツアーのファイナル

「踊れて泣ける」グルーヴを響かせ続け、結成10周年を迎えた島根発の3ピースバンドOmoinotake。2021年11月、アニメ『ブルーピリオド』主題歌「EVERBLUE」を収録した同名のEPでメジャーデビュー。映画『チェリまほ THE MOVIE』の主題歌「心音」がロングヒットになるなど、常に注目を集める存在として10代20代の若いファンを中心に、幅広い世代から支持されている。2022年12月20日、渋谷Spotify O-EASTで行なった『Omoinotake ONE MAN TOUR 2022“DECADE”』のファイナル公演にも、幅広い層のファンが集まった。渋谷での路上ライヴで地力をつけてきた3人が、キャリア最大規模のツアーのファイナルを渋谷で行ない、会場は熱狂で包まれた。

12月21日にリリースした、彼らのこれまでの10年とこれからを鮮やかに映し出したEP『Dear DECADE,』を、ツアーファイナルのライヴレポートと、福島智朗(エモアキ/B)、藤井怜央(レオ/Vo&Key)、冨田洋之進(ドラゲ/Dr)、3人へのインタビューから、この作品に込められた思いや熱に迫りたい。

「踊れて泣ける」グルーヴで熱狂を生む

開演前、楽器だけのステージを深い蒼のライトが照らしている。Omoinotakeの爽やかさと切なさを湛えたグルーヴを色にするなら、少し影を感じるこの蒼だ。この日のライヴではオープニングナンバーの「One Day」から、この色が印象的に使われていた。コロナ禍で生まれた、繋がりの大切さを歌ったこの曲を、藤井が伸びやかな声で、まるで客席を抱きしめるように歌う。2曲目「fake me」からおなじみのサポートメンバー柳橋怜奈(Sax)とぬましょう(Per)が加わり、音がさらにふくよかになる。続く「プリクエル」と、渋谷が歌詞に出てくる楽曲が続く。この日藤井が「ストリートライヴをやっていた時のマインドはこれからも持ち続けたい」と語っていたが、それはメンバー全員の言葉でもあり、聴き手の耳と心に瞬時に自分達の世界に届けるべく、一音一音、ひと言ひと言にこだわり、丁寧に紡いでいくという決意だ。その決意が形になったのがEP『Dear DECADE,』だ。このEPにも収録され、ライヴでは何度も披露しているインディーズ時代の人気曲「雨と喪失」を歌うと、会場には切なさが充満する。サックスがさらにその切なさを際立たせる。

新たなファン獲得のきっかけになった、映画『チェリまほ THE MOVIE』の主題歌「心音」

藤井怜央(レオ/Vo&Key)
藤井怜央(レオ/Vo&Key)

「この曲で僕達の音楽に出会った人も多いと思います」(藤井)と、映画『チェリまほ THE MOVIE』の主題歌の、強いミディアムバラード「心音」を歌うと、客席の温度がさらに高くなる。「空蝉」「mei」「東京falling」「モラトリアム」など新旧の楽曲を演奏し、これまでの旅を辿るように届ける。藤井の美しいファルセットは強さを増し、艶やかさを増した地声と行き来するミックスボイスが、曲の表情を豊かに演出する。「EVERBLUE」が作る高揚感に客席の熱気が加わり、その圧倒的な熱の高さが、Omoinotakeがまたひとつ上のステージに上がったことを教えてくれた。本編ラストは「自分だけの人生が、愛しい人がどんどん増えていって、愛おしい人のための人生に変わっていきます」(藤井)と語り、これまでの道のりで手にしたバンドとして、人間としての強さと優しさを素直に言葉にした歌詞が感動的な「カエデ」だ。

アンコールで披露した、ライヴには欠かせない「Never Let You Go」は、まさに「踊れて泣ける」、このバンドを象徴する曲だと思う。イントロから3人の演奏と歌、サックス、パーカションの音色とビートが一体となって、高揚感だけではなく切なさを連れてくる。ラストは3人だけで「彼方」を披露。ストリートライヴの“その先”にある、しかし目指す場所の途中でもあるこのツアーファイナルを、力強く締めくくった。

この日のライヴの核になっている最新EP『Dear DECADE,』について改めて3人に話を聞いた。

『Dear DECADE,』(2022年12月21日発売)
『Dear DECADE,』(2022年12月21日発売)

島根県出身、中学の同級生3人が、東京でOmoinotakeを結成して10年。「変わらない」その関係性について話を聞くと、抜群のバランスで成り立っていることがわかる。

冨田 個人的にはボーカル(レオ)中心の考え方で、レオがやりたいことをやっていくことが大切で、そこは昔から変わらないです。

福島 僕の場合、性格的にこれは絶対嫌だということがたぶん人より少ないと思うので、歌詞、言葉の以外の部分は、バンドとしては強い思いを持っている人のことを優先することが多いです。それも昔から変わらないです。

藤井 10年間で変わったことでいうと、僕以外の2人が色々なことを受け止めてくれるありがたみを感じることが、多くなってきていると思います。最初の頃はそんなに感じなかったんですけど(笑)。

「ライヴはまるでご褒美のような感覚」(藤井)

2017年に初の全国流通盤のアルバム『So far』をリリースし、それを伝えるために渋谷でストリートライヴを始め、少しずつその評判が伝わり始めた。「とにかく聴いて欲しい」という強い心持ちで人前で歌うことの積み重ねが、“地力”となってバンドの強度を高めた。ライヴというものへの意識は、どう変わってきているのだろうか。

藤井 10年間という視点で捉えると、単純に自分たちのことが大好きで観に来てくれる人がすごく増えたことが本当に嬉しくて、自分たちも伸び伸びできるようになって、ライヴがご褒美という感覚が強くなっていっています。

福島 “チェリまほ”で僕たちの音楽を知ってくれて、ライヴに来てくれる人がすごく多いです。

福島智朗(エモアキ/B)
福島智朗(エモアキ/B)

ライヴの動員も増え、MUSIC VIDEOの再生回数も右肩上がりで、注目度は高くなる一方だが、2019年以来これまで何度かインタビューさせてもらっているが、言葉の端々から「もっと売れたい」という思いが伝わってきていたが、現状をどう捉えているのだろうか。

福島 大きなライヴハウスに、たくさんお客さんが集まってくれた光景を見ると着実に道を歩いているという実感がありますが、それまで調子がいいなんて一切思いませんでした。それは誰もが知るヒット曲がまだないからで、なのでヒット曲を出して「紅白歌合戦」に出るという目標はブレていません。

10代の時に作り、根強い人気を誇る「雨と喪失」をリアレンジ。「今のアレンジで音源化できてよかった」(福島)

そんな愛おしくも険しい10年間を辿り、“次”へ向かう3人の音を提示しているのが最新EP『Dear DECADE,』だ。一曲目から注目だ。ファンの間で人気が高かった、福島が16才の時、詞・曲を書いた「雨と喪失」をリアレンジし収録。メロディ、サウンド、そして歌、全てから切なさが薫り立ってくるような名曲だ。

福島 ファンの人はもちろん、色々な方からこの曲を褒めていただけて。高校時代にやっていたバンドの曲で、背伸びして書いていたのがわかるし、ようやく年齢が追いついたと思います。ライヴでずっとやってきましたが、説得力がなかったと思うし、今のアレンジで音源化できてよかったです。

藤井 自分で作ると、どうしてもキーが高いところに行きがちなんですけど、エモアキが書いているので、そこまで高いところをついてこないので、そこが大きな違いになっていると思う。この曲の原型を知っているので、それをいかにOmoinotake節をふんだんに盛り込んでリアレンジするか、そのコード進行とかがバチっとハマったことによって、歌のニュアンスの方向性が見えてきました。

「詞先の『カエデ』の歌詞の“純度”を、メロディでそのまま伝えたかった」(藤井)

「雨と喪失」で<生きてく意味や涙の訳を 飛べない僕は君に求めた ずっと笑っていてね>と歌い、6曲目の新曲「カエデ」では<人生は美しいねって いつかあなたの傍で 言葉にしたいんだ>と歌う。10代の時、背伸びをして書いたラブソングと、等身大のラブソングを聴くことができる。

福島 ラブソングの形も変わっていくし、そこが美しい変化というか、変わって当たり前だと思えるようになりました。昔は変わることがすごい嫌だったし、この10年でもそれは思っていたし。でも、こういう自分になりたいという、想像の自分がたくさん存在するのに、変わりたくないって頑なになるのも変だなという矛盾もたくさん抱えてきました。それも全部美しい変化の一部だったんだなと今は思えます。この曲は最後にできた曲で、“Decade”という文字を見ていたら、アナグラムで「カエデ」という言葉が浮かんできて。正確には“D”が余るんですけど(笑)、まず「カエデ」の花言葉を調べてみたら“美しい思い出”とか“美しい変化”だったので、そこから着想を得て書きました。

藤井 僕は「カエデ」の原型になっている歌詞が本当に刺さって。この曲は詞先だったので、エモアキから出てきたものがすごく純粋だと思ったし、同い年で見てきた景色も一緒だから、すごく通じる部分を感じたので、「カエデ」の歌詞が完成した時は感動しました。どうすればこの歌詞の純度をそのまま伝えることができるメロディが書けるか、悩みました(笑)。

「Omoinotake流の青春パンク的なラブソング」(福島)「トロイメライ」

今回新曲は「トロイメライ」と「カエデ」の2曲。「トロイメライ」はすでにライヴで披露している、80年代のニューウェイヴ風のファンキーなラテンポップ。ライヴでこの曲を藤井は鍵盤から離れハンドマイクで歌っている。

藤井 この曲はスクリッティ・ポリッティにかなり影響された曲です。オートチューンはバンドを結成した頃は結構使っていて、エモアキが高校生の時T-ペインをよく聴いていたので僕も聴くようになって、なので、ある意味原点回帰感もあります。

福島 「トロイメライ」は“夢想する”という意味があるので、これも後付けになるかもしれませんが、原点回帰というテーマがいいなと思って、青春パンク的な片思いの歌を歌おうと。僕もレオもルーツが銀杏BOYZとかガガガSPなので、Omoinotake流の青春パンク的なラブソングにしようと思いました。夢想=トロイメライというが言葉が一番しっくりきました。

「彼方」は専門学校のCMソングで、自分達の現在地から未来へ向けた、自らを鼓舞させるようなメロディと歌詞だ。

藤井 いつもメロディはデタラメな英語で曲を作りますが、その時は歌詞を付けずにそのままのデタラメ英語をクライアントさんに聴いていただいて、この英語の感じがすごくいいと言っていただけて。なので珍しく英詞が多い歌詞になっています。

福島 「EVERBLUE」と同じように、ちょうどメジャーデビュー発表前に書いていた曲で、バンドとして今の視点での決意を書いておきたかったので、メッセージ色が強い曲です。

『お題』に沿った『物語』を投稿する小説&イラスト投稿サイト“monogatary.com”とのコラボ楽曲「プリクエル」、ファンが音源化を待ち望んでいた真っすぐなラブソング「この夜のロマンス」と、ずっと応援してくれているファン、そして新たにOmoinotakeの音楽の虜になったファン両方が満足できるEPになっている。

藤井 「この夜のロマンス」は僕がアルバイト時代、サビのメロディがふと浮かんできて、でも仕事中なので楽器が使えないので、メモ用紙に書いたものが原型になっていて。

福島 4~5年前の曲で、当時わたせせいぞうさん(漫画家、イラストレーター)の「ハートカクテル」のような、おしゃれな世界観を突き詰めたようなものを書きたいと思っていた名残りというか。それで、いい曲だから改めて音源化しようってなった時、歌詞を全部変えることもできましたが、ある程度はこのままの方がいいという結論になり、一部だけ変更しました。タイトルはドラゲが考えてくれました。

「レオのクリエイティブの引き出しがものすごく増え、エモアキの歌詞はどの曲にも絶対に心に突き刺さるフレーズがある。そこが10年経って変わったところと変わらないところ」(冨田)

冨田洋之進(ドラゲ/Dr)
冨田洋之進(ドラゲ/Dr)

「この夜のロマンス」はシティポップの薫り漂う、90年代のJ-POPのような煌びやかさが印象的だ。このEPを聴いただけでも作曲担当の藤井の幅広い音楽性、3人のルーツミュージックの多彩さが伝わってくる。

冨田 レオが書いてくるメロディ、アレンジを聴くと、引き出しの数がすごく多くなっていると感じています。最近はアレンジも完結させてしまうことも多くて、すごく研究していると思います。エモアキの歌詞も、メンバーがメンバーを褒めるのも変ですが、どの曲にも心に刺さってくる感覚が必ずあるので、それはずっと変わっていなくて、曲と歌詞、アレンジがどんどん進化していくのを一緒にやっていて今強く感じています。

メジャーデビュー曲「EVEERBLUE」は、デビュー前からOmoinotakeの音楽を高く評価していた、蔦谷好位置が手がけ、藤井はその時のアレンジに大きな影響を受けたという。

藤井 自分自身で限界までアレンジをして、そこからブラッシュアップされていく過程で、何がプラスされ、何が減ったのか具体的に見えるので、非常に大きな経験になりました。そういう経験を積めば積むほど、他のアーティストの曲の聴き方も変わってくるというか、アレンジャーの方とやればやるほど勉強になって刺激を受け、スキルは上がっていくはずです。今、憧れているのは、宇多田ヒカルさんや米津玄師さんのアレンジをやられている坂東祐大さんです。坂東さんのアレンジ、ストリングスアレンジが本当にカッコよくて、いつかご一緒できる機会があれば嬉しいです。

2023年3月から自身最大キャパでの東阪ワンマンライヴ『Omoinotake SPECIAL LIVE 2023“SUEHIROGARI”』を開催する。いつものサポートメンバー柳橋怜奈(Sax)とぬましょう(Per)に加え、ブラスセクションを加えた8人編成で、自分達が理想とする音を響かせる。3月21日大阪・なんばHatch、東京公演はバンド結成日である4月28日(=しぶやの日)にZepp DiverCity(TOKYO)で行なう。

Omoinotakeオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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