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高中正義 稀代のギタリストの現在地「50年やっていても届けたいのはいい音、感じる音、琴線に触れる音」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/キョードーメディアス

昨年デビュー50周年&アルバム『虹伝説 THE RAINBOW GOBLINS』40 周年

ギタリスト・高中正義。昨年はデビュー50周年を迎え、さらに大ヒットアルバム『虹伝説 THE RAINBOW GOBLINS』のリリースから40 周年というWアニバーサリーイヤーで、精力的にライヴを行なった。その勢いはとどまることを知らず、今年は名盤『SAUDADE(サダージ)』のリリースから40周年を記念して、9月末から全国ツアー『高中正義 TAKANAKA SUPER LIVE 2022 SAUDADE』を開催。そしてその締めくくりとなる恒例のクリスマスライヴ『Merry Christmas LIVE サンタカナカクロースのプレゼント』を、12月23日東京・LINE CUBE SHIBUYAで行なう。このライヴへの意気込みと共に、50周年を迎えて改めて感じたこと、そして拠点でもある軽井沢での生活についてインタビューした。

「僕もそろそろ終わりだなと思ってたんですけど、矢沢永吉さんは74才でまだバリバリやってるし、ユーミンも50周年でツアーやるっていうし、まだ大丈夫かなって(笑)。18才の時、フライドエッグというバンドで活動を始めて、メンバーの成毛滋さん(G)もつのだひろさん(Dr)も年上で、サディスティック・ミカ・バンドにいっても加藤和彦さん(G/Vo)も年上で、みんなからずっと『高中はいつまで経っても若いな』って言われてたけど、もう全然若くないし(笑)」。

親しみやすいメロディ、歌っているようなギターの源泉は?

1976年アルバム『セイシェルズ』でソロデビュー後は「Ready To Fly」「Blue Lagoon」など多くの名曲と、アルバム『虹伝説』『SAUDADE(サダージ)』など日本のインスト音楽史に残る数々の名盤を発表。高中が作るメロディはどこまでもメロディアスで、そのギターはまるで歌っているようで、だから一度聴くと耳と心に残る。さらに中森明菜「十戒」(1984年)を始め、コンポーザーとしても活躍。また井上陽水のアルバム『氷の世界』(1973年)やYMOのアルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』(1978年)を始め、数々の名作にギタリストとして参加し“高中節”を響かせてきた。そのメロディメーカー、プレイヤーとしての源流、源泉を改めて教えてもらった。

「ビートルズ、ベンチャーズ、シャドウズ、寺内タケシさんをよく聴きました。その後、ニューロックの時代が来て、レッド・ツェッペリンやクリームも一生懸命聴いていました。でも一番好きだったのはTen Years Afterのギタリスト、アルヴィン・リーで、『Woodchopper’s Ball』という超早弾きの曲をレコードが擦り切れるまで聴いて、必死にコピーしました。サンタナも好きでした。それと渡辺貞夫さんの本を読んだら『もっとうまくなりたかったらアメリカのバークリー音楽院に行きなさい』って書いてあったので『行ってみようかな』って思っている時、アルヴィン・リーがちょっとジャズっぽいロックをやって、『こっちの方がいいや。アメリカに行かなくていいや』って(笑)。だからジャズはあんまり勉強していなんです。カシオペアとかフュージョンバンドが使う分数コード、ジャズ的なコードは得意じゃないんです。どちらかというとビートルズのフォークソング的なわかりやすい曲が大好きだったので、自分が曲を作る時もわかりやすい、歌いやすい、難しくない、という感じになっているのかもしれません」。

「これは持論だけど、作曲能力というのは20代の頃の生命力、精力が溢れている時が全盛だと思う」

毎年ライヴDVDはリリースしているものの、オリジナル作品は2010年の『軽井沢白昼夢』、2011年のカバーアルバム『40年目の虹』以来発表していない。そこには現在の音楽マーケットの事情や自身のクリエイティブへの考え方の変化などが影響しているようだ。

「痛いところを突いてきますね(笑)。今は曲をほとんどパソコンで作っていて、当然ミュージシャンとレコーディングした方がいいものができると思うけど、コストがかかりすぎる。コストに対しての売上げということを考えるとなかなか…。しかもパソコンで作ると評判もあんまり良くないし。これは僕の持論だけど、作曲能力というのは、20代の頃の生命力、精力が溢れている時が全盛で、いい曲が作れると思っていて。ビートルズの全盛だって全員が20代の時でしょ?ローリングストーンズは今もやっているけど、ライヴで盛り上がるのは昔のヒット曲だし。ちょっと話が飛躍するけど、僕が住んでいる軽井沢では6月にセミがすごく鳴くんです。それは多分交配相手を呼んでいる鳴き声で、だから音楽も曲を作って何かを訴える力があるのは、やっぱり20代の精力がある時なのかなって思います。その話をしたらある人は『画家は70歳でもいい絵が描ける』って言うけど、音楽はどう? 70歳で大ヒット曲出すロックシンガーとかギタリストっています? だから僕もジェフ・ベックのライヴを観に行ったらやっぱり昔の曲を聴きたいし、打ち込みを使った新曲は、あんまり聴きたくないんです」。

「ライヴで同じ曲を何百回も弾いていると確かに飽きてくるけど、でもアレンジはなるべく変えない。その方がお客さんに喜んでもらえる」

アルバムを作らない理由をそう教えてくれたが、一方で作曲は日々様々なサウンドにチャンレジしているようで、同様に、精力的行なっているライヴに向けての練習も欠かさず行なっている。

「小さくて、そんなに高くなくてもいい音が出るアンプがどんどん出てきて、それを使って色々な実験を家でやって、iPhoneに録音して、寝る前に聴いて『これはよかったけど、あれは駄目だ』みたいな感じでやっている時間が楽しい。練習は1時間ぐらいしか続かないけど(笑)。だって音を楽しむのが音楽だから。ライヴではやっぱり『Blue Lagoon』とか『Ready To Fly』といった昔のヒット曲を何百回も弾いていると、確かに飽きてくるからアレンジを変えたくなるけど、でもなるべく変えずに、昔の雰囲気を忘れずにやるようにしています。よくアレンジを崩してやる人もいますが、僕は崩さずにできるだけそのままのアレンジ、音色を聴いてもらうようにしています。その方がお客さんにも喜んでもらえると思うし、これでいいのかなって」。

22年前から軽井沢での生活を楽しむ。「健康だったらギターも弾ける」

22年前に拠点を東京から軽井沢に移し、自然の中で心地いい時間を楽しみ、健康的な生活をしながら音楽と向き合っている。

「毎日同じ時間に同じ運動をルーティンとして、もう何十年も続けているのが体にも心にもいいのかもしれません。冬以外は電動ママチャリで、首からスマホを下げて音楽を聴きながらきれいな森の中をサイクリングしています。森林浴にもなって本当に気持ちいい。お酒は相変わらず飲んでますが、健康だったらギターも弾けるので」。

12月23日、恒例のクリスマスライヴ『Merry Christmas LIVE サンタカナカクロースのプレゼント』をLINE CUBE SHIBUYAで開催

12月23日には恒例のクリスマスライヴ『Merry Christmas LIVE サンタカナカクロースのプレゼント』を、東京・LINE CUBE SHIBUYAで開催する。高中のライヴには欠かせない超一流ミュージシャン(斉藤ノヴ(Per)/岡沢章(B)宮崎まさひろ(Dr)/宮崎裕介(Key)/本間将人Key&Sax)/AMAZONS(大滝裕子・斉藤久美・吉川智子)とのセッションで、生の音楽の良さを届ける。

「基本は“いい音”を届けたい、ということです。自分が(エリック・)クラプトンやジェフ・ベックのライヴを観にいて、どれだけここ(胸)に来るか、それともここ(肚)なのか、琴線ってどこにあるかわからないけど、どこまで感じさせてくれるかに期待します。昔は古い言い方でエレキギターに“しびれる”とか言っていましたが、どれだけいい音を感じられるかが全て。僕のライヴもそう。目的はとにかくいい音を聴いてもらうことなんです。何十年やっていても届けたいのはいい音、感じる音、琴線に触れる音です」。

高中正義オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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