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工藤静香 35周年、充実の時を迎えた今“工藤静香”を歌う――全国ツアーで見せた、歌への溢れる情熱

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン

工藤静香は1987年8月31日にシングル「禁断のテレパシー」でソロデビューし、以来35年間、歌に真摯に向き合ってきた。先日、インタビューした際も「歌に対しての情熱や思いはずっと変わらない。それがなくなったら自分じゃなくなる」と語ってくれたが、その溢れんばかりの情熱を感じさせてくれのたが、デビュー記念日の8月31日日本青年館で行った、デビュー35周年を記念した全国ツアー『工藤静香 35th Anniversary Tour 2022〜感受〜』のファイナル公演だ。

7月20日に発売された初のセルフカバーアルバム『感受 Shizuka Kudo 35th Anniversary self-cover album』を引っ提げた今回のツアーは、アルバムの世界観、温度感を生で伝えるべくカルテット(クラッシャー木村ストリングス/ヴァイオリン×2、ヴィオラ1、チェロ1)を帯同。美しいストリングスの音色がこのライヴを彩る大きなポイントになっていた。

ヴェルサーチェのフルスリーブ、シフォンロングドレスというセクシーかつ上品な衣装で工藤がステージに現れると、客席から拍手と歓声があがる。1曲目はアルバムのオープニングナンバーでもある「慟哭」だ。工藤がインタビューで「より『慟哭』になった」と語っていたこの曲は、村松崇継がアレンジ。ストリングスが曲の輪郭を作り、工藤の歌が浮かび上がり、原曲では明るく歌っていた苦しい女心を歌った歌詞が、より深く伝わってくる。「黄砂に吹かれて」「激情」とヒット曲達が新しい洋服(アレンジ)に着替え、工藤の迫力と繊細さを感じさせてくれる歌をより“立てる”。

「デビュー日にこうしてライヴができることが嬉しい」と感激した面持ちで語り、駆け付けたファンに感謝した。「MUGO・ん...色っぽい」はボサノバ調のアレンジで披露し、ため息が出そうなほど美しい、ピアノとストリングスのイントロが印象的な「めちゃくちゃに泣いてしまいたい」は、高低差の激しい歌がドラマティックな世界を作り上げる。「そのあとは雨の中」のせつないメロディをストリングスがさらにせつなくさせ、工藤が切々と歌い上げる。

ここで「Blue Velvet」のセルフカバーバージョンのMusic Videoで着た衣装に着替え、改めてその変わらないスリムなスタイルに客席は驚く。ロックナンバー「禁断のテレパシー」ではパンチのあるボーカルを聴かせ、「くちびるからの媚薬」はラテン調に、「Blue Rose」はスウィングジャズ調にアレンジされ、伸びやかな声が客席に響き渡る。

「みなさんとそれはそれは会いたかった」と、コロナ禍でファンと再会を果たせたことを喜び合い、「Blue Velvet」をエモーショナルに歌う。タイトなボディスーツに身を包み。ロングヘア―をなびかせ、スタンドマイクで歌うその姿は、ロックスターのようなオーラを放っていた。

衣装チェンジの間、ピアノの澤近泰輔が「雪・月・花」のメロディを弾き、黒のドレスに着替えた工藤が登場すると「大好きな曲」と、そのままセットリストになかった「雪・月・花」の一節を披露した。「パッセージ」「哀しみのエトランゼ」という1stアルバム『ミステリアス』(1988年)に収録されているナンバーを今の工藤の歌で、瑞々しさを湛えたまま伝える。17歳の時にこんなに難しい曲にチャレンジしていたのかという驚きと、この日披露したシングルを中心にした曲は全て、工藤が語っていたように圧倒的に「強い」。当時のクリエイターが全精力を傾け、トップアイドルの楽曲を丁寧に練り上げたことを改めて感じた。

「ずっと応援してくださっているファンの方達が好きな曲です」と紹介し、ストリングスのせつない調べのイントロが印象的な美しいバラード「奇跡の肖像」を歌い、同様にストリングスとピアノが華やかな音世界を作る「千流の雫」を披露。

「35周年経った今も歌い続けることができて、感謝しています」

「曲と香水はすぐにタイムトリップできます」と、ファンとの絆を再確認し「みなさんとの思い出に残っている曲をこれからも大切に歌っていく」と、ファンの人生の思い出の一部になっている自身の曲を歌い続けていくと約束した。「恋一夜」は迫力あるボーカルで引きつけ、「嵐の素顔」では「アレンジが変わると難しい」といいながらおなじみのあの振付けを、少し照れながら披露。「抱いてくれたいいのに」を歌い上げ、35年歌い続けることができることの感謝を言葉にし、本編ラストは「Ice Rain」だ。映画音楽のような壮大で豊かな音に乗せ、自身も大好きだというこのバラードをひと言ひと言大切に歌い、伝える。

アンコールの拍手が鳴り響くと、工藤はすぐに登場。これは「アンコールの手拍子でみなさんの手が痛くなるのが心配」という工藤の気遣いだ。さらに「待たせるのが嫌」と衣装はとにかく歌舞伎並みの早替え、そして客席でリクエスト曲を書いたカードを持つファンを見つけると、それに応えたり、とにかく徹底したファンファーストを貫いているところも、工藤が支持され続けている理由のひとつだ。

昨年、中島みゆきが工藤に書き下ろした「島より」を、丁寧に、愛おしそうに歌う。改めてこの曲も含めて、中島が工藤に提供する楽曲は、工藤の声の一番強く、美しいところを徹底的に引き出すように、プロデューサー目線で作られているように感じた。

全ての演奏を終え、バンドメンバーがステージを後にしようとすると、工藤が澤近を呼び止める。Wアンコールだ。その場で打ち合わせを始める二人。予定外のセッションの始まりだ。工藤が選んだのは「きらら」。ピアノ一本で、その繊細な声質がさらに際立つ。歌の余韻が消えない中、拍手に送られ工藤はステージを後にした。ライヴ後、ファンがSNS上に投稿したメッセージにこんな一文があった。「20周年、25周年、30周年コンサートにも行きましたが今日の歌が一番よかった」――伸びのある声、押し引きを抜群のさじ加減で繊細に表現するその圧倒的な表現力、35年という経験から滲み出てくる説得力が、歌詞の行間に流れる感情までをきちんと掬い、さらに深く伝えてくれる。薫り立つような歌だ。まさに今が充実の時と確信させてくれたライヴだった。

この公演を収録したLIVE Blu-ray&DVDが12月21日に発売される。最新アルバム『感受』の収録曲を含む全22曲を収録予定で、さらに完全予約生産限定盤Blu-ray&DVDは、特典として36Pブックレット、更にはライヴ写真を使用した2023年オリジナル卓上カレンダーをセットにしたSpecial Box仕様になっている。

工藤静香 ポニーキャニオンオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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