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森口博子 6年ぶりのガンダム映画主題歌で決意を新たに 「60代になってもガンダム主題歌歌います!」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/キングレコード

映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の主題歌「Ubugoe」を歌う

6月3日に公開される注目の映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』(監督/安彦良和)。その主題歌「Ubugoe」を歌うのは森口博子。これまで数々のガンダムシリーズ主題歌や、近年はシリーズ3作全てがオリコンウィークリー3位以内を記録した『GUNDAM SONG COVERS』などガンダムソングと縁が深い森口が、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』(2016年)のテーマソング『宇宙の彼方で』以来、約6年ぶりに映画主題歌を担当する。“ガンダムの女神”とファンから支持され続ける理由は?そのシンガーとしての“現在地”をインタビューから紐解いていく。

「やった!夢が叶った!」

――約6年ぶりにガンダムシリーズの映画主題歌のオファーが来た時はどう受け止めましたか?

森口 「やった!夢が叶った!」と。というのは、『THE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』のテーマソング「宇宙の彼方で」を歌わせていただいたのが40代で、安彦(良和)監督にその作品でお世話になったんです。当時、監督が私のコンサートに来てくださった時、MCで監督やファンの皆さんの前で「50代になってもガンダムソングを歌います」ってオファーも来ていないのに、宣言したんです!

「言霊パワーを信じているので、50代になってもガンダムソングを歌う!と宣言しました」

――結果的に有言実行になりました。

森口 私は言霊パワーを信じているので、「歌いたい」ではなく「50代になっても歌います」って言いたかったんです。それはこれまでのようにガンダムソングを歌っていくという意味もありますが、この時はまた新しい主題歌を担当するんだ、という決意表明でした。私は4歳の時から歌手に「なりたい」ではなく「なる」と言い続けていました。だから今も言霊を信じています。

――口に出せないような夢は夢にさえならない、と。

森口 そうです。その時のことを安彦監督が覚えててくださっていて。「なぜ私を選んで下さったんですか?」とお聞きしたら「今回のこの作品に森口さんの声が欲しいと思ったんです。そろそろ50代になった頃かなと思ってオファーをさせていただきました」って言ってくださって。もう嬉しくて震えました。私がコンサートで言ってしまったことを覚えていてくださったことも感激でしたし、何よりも声が欲しいと言っていただけたことが、歌手としての存在意義を感じました。

「安彦監督の40年越しの夢が叶った映画。胸が熱くなりました」

――この映画は安彦監督にとっても思い入れが深い作品ということですが。

森口 そうなんです!! 1979年のファーストガンダムの第15話をブラッシュアップした、1エピソードが映画化されたものです。その15話を観た時、後に余韻が残りました。いきなり宇宙とは異なる世界から、孤島での物語になって、異彩を放っていたんです。安彦監督もずっとこの15話が当時から気になって、大切に思っていたそうで、その作品の映画化ということで、監督自身40年越しの夢がかなったんです!そのお話を伺って、胸が熱くなりました。

「大人の私達も毎日生まれ変わって“産声”をあげていることを忘れないようにしたい」

「Ubugoe」(6月1日発売)(C)創通・サンライズ
「Ubugoe」(6月1日発売)(C)創通・サンライズ

――「Ubugoe」は作詞松井五郎さん、作曲doubleglass、そして冨田恵一さんがサウンドプロデュースを手がけています。この曲を最初に聴いた時にどう感じましたか?

森口 優しくて壮大で美しくて、人が触れて心地いいものが全部入っていると思いました。doubleglassさんの琴線に触れる大きなメロディ、冨田恵一さんのリッチなアレンジ、そして松井五郎さんの沁みる歌詞は涙が出ました。

――登場人物の少女カーラの心情を描いている歌詞ですよね。

森口 はい。テーマは母性です。カーラも両親を失って傷ついているのに、自分よりも小さい子の面倒を母親代わりとしてみて、その小さくて大きな母性に、私は心が震えました。そして<それぞれが見てる世界はそれぞれに正しい でも荒れた地平に訪れる夜明けはひとつ>という歌詞があるんですが、ここで泣いてしまいました。これはまさにガンダムを象徴しているなと。<夜明けはひとつ>、イコール、地球はひとつ、人類は尊い存在なのに、なぜ争いごとが起きるのか? 毎日ニュースで本当に胸をえぐられるような現実が報じられていて、まさに時代がどんなに変わってもこの精神は変わってはいけないと思いました。「Ubugoe」って「産声」、命を繋いできた証だと思います。この歌詞は少女カーラの心情でありながら、実は大人の私達も、毎日生まれ変わっていて、「産声」をあげていることを忘れないようにしたいというメッセージが込められています。そこが私自身も刺さって、そうだ、日々に慣れるってことはないし、ましてやもう確かな明日がないからこそ、私たちは今を精いっぱい生き抜かなければいけないんだと改めてこの歌詞に教えられました。

――そんな思いが歌から溢れ、それをまた冨田さんが作るサウンドが聴き手にまっすぐ伝えてくれます。

森口 とにかく美しさの究極ですよね!しかもこんなにゆったりなのに、ドラムはスリリングで、その相反する感じにはドキッとします。

安彦監督からのリクエストとは?

――MISIC VIDEOのコメント欄にも感動したというコメントがたくさん寄せられています。

森口 「素直に泣けた」「また主題歌を歌って欲しいなと思っていました」というコメントもSNSでたくさんいただけて、中でも「歌声がさらに深くなって良くなってる」というコメントは、歌手として一番の力になる感想です。あのMV、「どこでロケしたんですか」ってよく聞かれるんです。爆笑問題さんのラジオに出演させていただいた時も、太田さんに「すごいねMV、壮大で」って褒めてくださって。それで「あれどこなの?ロケは」って聞かれたので私が「ククルス・ドアンの島です」って言ったら、「あー」って(笑)。それで田中さんに「お前行ったことある?ククルス・ドアンの島」って太田さんが質問したら、田中さんが「うん、遠足で行った」っていう、そんなやり取りがあったんです(笑)。みんなもそういうふうにその世界を受け止めてくれているのが、すごくいいなぁと。でも本当に原作の舞台と同じようにダイナミックで、ドローンも使って俯瞰の絵も撮れたので、あの島のイメージが表現できて大満足です。室内の映像もあまりにも神秘的で異次元の美しさなので、CGだと思われがちですが、実在する建物です。自然との融合を是非観ていただきたいです。

――“今”の森口さんの歌で表現できることが、安彦監督も欲しかったのではないでしょうか?

森口 実は監督から「ひとつだけリクエストがあります。森口さんのあの温かい声で、最初は優しく歌って、最後は歌い上げるだけ歌い上げてください」とオーダーをいただきました。あそこまで歌い上げて、これでもかって最後に転調がくる曲は、今までの私の楽曲にはなかったので、自分自身の中でもかなりの挑戦でした。

「ガンダムとかアニソンとか森口博子に興味がない人にも、この曲は届くと思います」

「Ubugoe」(通常盤)
「Ubugoe」(通常盤)

――この曲もそうですが、ガンダムソングは例えガンダムを観たことがない、知らない人でも、ひとつの曲、音楽としてイイと思えるクオリティが高い楽曲が多いですよね。

森口 本当にそうなんです。ガンダムとかアニソンとか森口博子に興味がない人にも、この「Ubugoe」という楽曲は届く作品になったと思います。私としてはデビュー当時から悔しい思いがあって、ガンダムシリーズにはこんなにいい楽曲がたくさんあるのに、食わず嫌いとか先入観で聴いてもらえなかった時代を経験しているので、いいものはジャンルを超えていいということを発信していきたいです。J-POPとアニソンというフィールドの架け橋じゃないですけど、私はどちらも歌ってきているので。岸谷香さんや西脇唯さん、広瀬香美さん、平松愛理さんに楽曲を書いていただいた90年代のポップスもあったり、ガンダムソングで人生の軸を作ってもらったり、どちらもあるので、その良さをたくさんの人に声を大にして届けたいです。実際、『GUNDAM SONG COVERS』シリーズはガンダムや私の歌声を知らないたくさんの方々も聴いてくださり、手応えを感じました。音楽仲間でSING LIKE TALKINGの佐藤竹善さんが「博子ちゃんしかできないことだよ」って言ってくださって。ビッグバンドスタイルの『翔べ!ガンダム』など、「ジャズ畑の人たちだったり、アニソンの人たちを博子ちゃんがこうやってシンクロさせてくれてありがとう」ということを言ってくださったんです。すごく嬉しくてありがたい言葉でした。

「本当に濃厚な4年間で、人生のご褒美をいただいたと思っています」

――森口さんは2019年から『GUNDAM SONG COVERS』シリーズを3作リリースして、今回の「Ubugoe」も含めて、深くてとてつもないパワーを必要とするガンダムソングを歌い続けてきて、この4年間でシンガーとして、さらに“鍛えられた”のではないでしょうか?

森口 そうなんです。どの曲も難曲でメッセージ性が強いし、かなりのエネルギーを注ぐ緊張感に包まれながら、様々なジャンルに挑戦させていただきました。しかもシリーズ3作が全てオリコンウィークリーランキングの3位以内に入ることができて、50代に入ってなかなかできない経験だと思いました。おかげさまで、長年聴いてくださったファンの皆さんとはより深くつながれました。新しくファンになってくださった方は「バラエティに出てる面白いおばさんと思っていましたが、歌に泣きました」とか「森口博子、なめてました。ライブにも行きたいです」って言ってくださる方もいて(笑)、広がりがありました。本当に濃厚な4年間で、人生のご褒美をいただいたと思っています。だから近年の出来事がモチベーションに繋がって突き動かされる原動力になります。これをきちんと音楽に還元して、皆さんの日常の中に必要と思ってもらえるアーティストでい続けたい、という気持ちがより強くなりました。

――昨年10月には1年越しの開催となった『35周年アニバーサリーコンサート〜蒼い生命〜』を行ない(東京国際フォーラムC)、森口さんのお母さんにも客席から大きな拍手が贈られたとお聞きしました。

森口 そうなんです!アンコールが終わって、私はもうステージから捌けていたのに、大勢のファンの皆さんが客席にいる私の母親に気付いて拍手をしてくださいました。母がいてくれたからこうやってファンのみなさんとも出会えたし、みなさんがそこを感じてくれているかのように母へのねぎらいの拍手に、驚きと感激でいっぱいです。後で映像を観たら、母が涙を流しながらお辞儀をして、みなさんへの感謝の気持ちを伝えていて、それを観てまた感動しました。映像監督が「様々なコンサートに携わりましたけど、あんな素晴らしい光景初めてでした」と言ってくれました。私が17歳のときに福岡から上京することを許してくれたからこそ、私は今こんな幸せな瞬間を37年経って迎えられているので、母には感謝です。その母への拍手というのは、逆にファンの皆さんにもありがとうございますという気持ちで一杯でした。

「ずっとライヴをやり続けていることが、歌手・森口博子の生命線になっています」

――37年間、ジャズも含めてずっと精力的にライヴを行なっているイメージがあります。

森口 デビューしてソロコンサートまで時間はかかりましたが、ずっとライヴをやらせてもらっていたというのが、歌手・森口博子の血となり肉となり、生命線になっています。小学一年生から六年生まで毎年、服部良一先生が審査委員長だったちびっこの歌番組に出演した時、生バンドで中野サンプラザのステージで歌って、そこで生バンドの快感を知ってしまったのが、私のライヴの原体験です。音楽をやるために生まれてきたって思えるし、そこは譲れない最大の居場所だと思うし、そこで成長しなかったら私の人生どこで成長するんだ、という思いです。コンサートって、そこに向けて、それを楽しみにみんな日常生活を送って、顔も名前も育った環境も知らない人たちがそこに集まって。歌声を通じて生きる喜びとか悲しみが共鳴する空間じゃないですか。この声が誰かの生きる力につながることが私の生きがいであり永遠のテーマです。

――先日も『GUNDAM SONG COVERS』シリーズ3作を引っ提げて、昭和女子大学 見記念講堂で「森口博子コンサート“Starry People”」を、ゲストに寺井尚子、The Voices of Japan(VOJA)を迎え行いました。

森口 もうあんなコンサートは、なかなか経験できないんじゃないかと思うほど興奮と感動のひとときでした。アルバムに参加してくださっていますジャズヴァイオリニストの寺井さんの情熱的な演奏に、期待以上に痺れて胸を打たれボーカルがまた覚醒しました!そしてゴスペルコーラスグループのVOJAさんの壮大で圧巻の歌声で、神がかったアンコールに! 今思い出しても泣けます。ファンの方のSNSでの感想を見たら「号泣した」「人の声ってこんなにすごいんだって歌い出しから鳥肌が止まらなくて寒いぐらいでした」など興奮のコメントをたくさんいただきました。そしてここで「Ubugoe」を初めてファンの方の前で歌ったのですが、今までとは違う深い、クラシックコンサートのような余韻の長い拍手を頂きました。このコンサートは6月5日まで絶賛配信中なので、是非チェックしてくださいね。

「60代になってもガンダムの主題歌を歌います、オファーはまだ来ていませんが」

――ちなみにあまりに感動しすぎて、コンサートでの大切な“お約束”を忘れてしまったとか?

森口 大失態です(笑)。いつもコンサートでやっているお約束のコミュニケーション方法があって、私がしゃがんで靴ひもを結ぶふりをして、最前列のファンの方たちに「あ、嫌だ、今ちょっと衣装の下、あれ、パンツ見えちゃった?」って言うんです。そうしたら前の人がいやって首を振って、「うそ、見えたでしょう」、「見えない」、「見なさいよ」っていうお決まりがあるんですけど、これをやるのを忘れてしまったのが、最大の後悔です(笑)。関係者の方にも家族にも「今日やらなかったね」って言われて(笑)。この日はTBSアナウンサーの安住紳一郎さんが観に来てくださっていて、安住さんのラジオ番組にゲスト出演させていただいた時に、その“お約束”の話をしたら、安住さん大爆笑で「もうこれ、古典芸能の域ですね」って言ってくれて(笑)。それでコンサートにそれを確認しに来たのだと思うんですが、そこでやるのを忘れてしまって、もうその日は眠れませんでした(笑)。

――最後にこれからの野望を聞かせてください。

森口 60代になってもガンダムの主題歌を歌います。オファーはまだ来ていませんが、歌います。言霊を信じて!

森口博子「Ubugoe」特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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