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発売から40年、色褪せない名盤『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』をめぐる物語<前編>

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
(C)THE NIAGARA ENTERPRISES INC.(以下同)

名盤『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』発売40周年

『NIAGARA TRIANGLE Vol.2 40th Anniversary Edition』(3月21日発売/通常盤)
『NIAGARA TRIANGLE Vol.2 40th Anniversary Edition』(3月21日発売/通常盤)

『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』の発売40周年を記念して、3月21日に発売された『NIAGARA TRIANGLE Vol.2 40th Anniversary Edition』が好調だ。佐野元春、杉真理、大滝詠一が持ち寄った楽曲で構成されたこのセッションアルバムは、40年経った今でも、色褪せないポップネスはキラキラと輝いている。この作品に関しては、これまで色々なところで、本人達はもちろん、評論家やファンによって語られているが、今回発売されたVOX『NIAGARA TRIANGLE Vol.2 VOX』のブックレットの中では、2011年に行なわれた3人による鼎談や、杉と佐野の最新対談など、アーティスト本人による証言が収められている。紐解いていけばいくほどますます興味が深まる『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』について、改めて当時のことをよく知るスタッフにインタビューし、その“実像”に迫ってみた。

レーベル構想から生まれた<トライアングル>シリーズ

シュガーベイブ『SONGS』(1975年)
シュガーベイブ『SONGS』(1975年)

大滝詠一『NIAGARA MOON』(1975年)
大滝詠一『NIAGARA MOON』(1975年)

まず前段として、『~Vol.2』から遡ること6年、1976年3月に伊藤銀次・山下達郎・大滝詠一の3人による『~Vol.1』が<ナイアガラレーベル>から発売された。<ナイアガラレーベル>は1973年に大滝が設立したプライベートレーベルで、当時は大瀧詠一、シュガーベイブ、ココナツ・バンク(伊藤銀次のバンド)らが所属アーティストだった。1975年シュガーベイブ『SONGS』、大滝詠一『NIAGARA MOON』が発売され、レーベルとしてようやく動き始めた。しかしココナッツ・バンクは73年に解散、シュガーベイブも76年に解散、76年時点では所属アーティストは大滝一人になっていた。<ナイアガラレーベル>は大滝一個人の活動の場ではなく、あくまでレーベル(コロムビアレコードと契約)として運営していかなければいけない。しかしレーベル経営を続けるにはアーティスト数が足りない。年間4枚リリース、という契約があった。所属アーティストが増えてきたらそれぞれのアルバムプラス、<トライアングル>シリーズを出していく構想だった――という前段部分を踏まえて『~Vol.2』についてスタッフの証言を通して、改めてどんな作品だったのかを浮かび上がらせたい。

大滝詠一『A LONG VACATION』(1981年3月21日発売)
大滝詠一『A LONG VACATION』(1981年3月21日発売)

「『~Vol.2』って、発売当時はもしかしたら『A LONG VACATION』よりも“メジャー感”があったのかもしれません。それはシングル「A面で恋をして」(81年10月)が<ナイアガラレーベル>としてはそれまでにないヒットになったこともありますが、“一般”のリスナーに訴求できたからです。それこそ大滝詠一のおの字も知らない人たちも巻き込んで、学校や会社で『~Vol.2』が話題になっていました。意外かも知れませんが、後追いで『ロンバケ』を聴いた人の方が多かったように思います。そこから収録曲も色々な形で取り上げられたり、どんどん評価が高まっていって耳にする機会が増え、『ロンバケ』はミリオンヒットになりました。『~Vol.2』も50万枚を超えるヒットになって、ずっと皆さんに愛されてきた作品なので、今回こういう豪華な形でまた聴いて頂ける機会に恵まれましたが、今も新鮮に聴いて頂ける作品だと思います」

<ナイアガラレーベル>の存在を理解することで、それぞれの作品をさらに興味深く、面白く聴くことができる

『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』(1976年)
『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』(1976年)

『~Vol.1』に参加していた山下達郎、伊藤銀次も次第にメジャーシーンで注目を集め始め、それを作り上げた中心人物・大滝詠一という名前よりも<ナイアガラ>というレーベル名の方が音楽ファンの間では知られていた。「大滝さんが10年近くやってきたことに、ようやく時代が追いついたという感覚だった」という。大滝のプロダクト、そこに参加していたアーティスト、ミュージシャンも含めてスポットを浴び、メジャーシーン登場した。

「リスナーの受け取り方は『~Vol.1』があったからこそ。『~Vol.2』から始まっていたら全然違うものになっていたと思います。<ナイアガラ>という名前の方がメジャーだった時期だったし、今は全くその逆で、コアファン以外には<ナイアガラ>って?という感じになっていて、大滝さんとの関連性が離れていると感じています。なので今回の『~Vol.2』の40周年では、それがイコールということを広く伝えたいと思いました。当時は一アーティストによるレーベル構想ってなかったと思います。音楽が好きな人は海外ではそういう例があるのは知っていましたが、レーベルというと、一般的にはCBSソニー(当時)や日本コロムビアというレコード会社の中にあるものと思っていたと思います。だから大滝さんのレーベル構想というものが、なかなか浸透していなかったのですが、音楽好きな人は<ナイアガラ>の存在を面白がってくれました。でも<ナイアガラ>の意味を、今一度理解していただけると、それぞれの作品についてさらに興味を持っていただけるし、面白く聴いていただけると思います」

「これまでサブスクに関しては大滝詠一名義のものだけでした。でも今回『~Vol.2』はサブスクで聴くことができます。なので特に若い方達に、大滝さんの<ナイアガラ>レーベル構想を理解していただきたいと。そうしないと、なぜ杉真理さんと佐野元春さんが参加しているのか、ひいては山下達郎さんと伊藤銀次さんと大滝さんの『~Vol.1』がなぜあるのかというところも理解してもらえません。去年の『ロンバケ』40周年で、色々な方がカバーしてくれて盛り上がって、『君は天然色』がCMやアニメの主題歌に使っていただけて、でもここでいきなり<ナイアガラ>といっても、若い人の中ではリンクしないと思いました。レーベル構想があったうえで、大滝詠一もいる、シュガーベイブ、ココナッツ・バンクもいる、という流れの中のトライアングルという位置付け、レーベル構想が伝わらないとわかりづらいし、『~Vol.2』って何?って混乱すると思いました」。

大滝が大切にしている“縁”や“つながり”が結実した『~Vol.2』

ナイアガラ・トライアングルのプロジェクトは、60年代のポップスター、ジェームス・ダーレン、シェリー・フェブレー、ポール・ピーターセンの3人の曲を集めたアルバム『Teenage Triangle』(1963年)から着想を得たと、大滝は語っている。そして“トライアングル”ということが大切で、日本では伝統的に“御三家”“三人娘”“三大〇〇”と、“3”という数字が昔からよく使われるが、そこに大滝もこだわりがあった。そして大滝が大切にしている“縁”や“つながり”が大きなポイントになる。そういう意味では『~Vol.2』はその思いが結実したアルバムという見方もできる。大滝は佐野と杉について当時「リヴァプール・イディオムであったということはわかっていた」と語っている。メロディメーカとしての二人の存在は認知していた上に、伊藤銀次が佐野のプロデュース・アレンジを手がけていたり、杉真理の1stアルバムをのちの大滝のブレーンにもなるディレクターが手がけていたり、色々なことが“つながって”完成したアルバムだ。

「今回『~Vol.2 VOX』のブックレットには、30周年の時、2012年の『レコード・コレクターズ』誌に掲載した3人のインタビュー『レーベル構想と縁がつないだ<ナイアガラ・トライアングル>』という記事の完全版を入れました。そこで大滝さんも『平清盛以上に長いストーリーがある』と言っているように、まるで大河ドラマのような壮大なストーリーが存在するんです。82年当時は当事者さえも気付いていなかった数々の“縁”に、30周年の鼎談で初めてその全貌がわかりました。これは是非読んでいただきたいです』。<後編>に続く

NIAGARA TRIANGLE Vol.2 VOX(3CD+Blu-ray Audio Disc+完全復刻プロモーション用7インチレコード3枚組+豪華ブックレット+復刻キーホルダー)
NIAGARA TRIANGLE Vol.2 VOX(3CD+Blu-ray Audio Disc+完全復刻プロモーション用7インチレコード3枚組+豪華ブックレット+復刻キーホルダー)

ソニーミュージック『NIAGARA TRIANGLE Vol.2 40th Anniversary Edition』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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