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中島美嘉 デビュー20周年、今が充実の時 「遅いですが、少しずつプロっぽくなってきた気がする」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

デビュー20周年、「今が転機」

今年20周年を迎えた中島美嘉。今充実の時を迎えている。昨年10月にアルバム『JOKER』をリリースし、今年の夏には、延期になっていた全国ツアー『MIKA NAKASHIMA CONCERT TOUR 2021 JOKER』をやり切り、ニューシングルも発売。YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」への出演、さらに「オフコース・クラシックス・コンサート2021」を始め様々なイベントにも精力的に出演し、歌うことを心から楽しんでいる。そこには歌手人生を変える大きな心の変化が存在した。「今が転機」と語るシンガー・中島美嘉の現在地をインタビューした。

耳の病から解放され「ライヴでピッチがずれているのがわかることが嬉しい」

10月22日に放送された音楽番組「MUSIC BOOD」(日本テレビ系)に出演した中島の発言が、大きな反響を呼んだ。それは2010年に公表した耳管開放症が未完治のまま、これまでライヴやレコーディングを続けていたということと、今年聴力が戻って聴こえるようになった、という衝撃の告白だった。苦しみながら、しかしそんなことは感じさせずに10年以上も歌い続け、ファンを楽しませてきた。「耳のことはわざわざ言うことでもないと思っていたので、マネージャーやごく一部の人しか知りませんでした。でもよくよく考えると、そんな状態で歌っているのって失礼ですよね」と語り、しかし今は「ライヴでピッチがずれているのがわかることが嬉しい」と教えてくれたが、どれだけ苦しくもどかしい思いと緊張とを抱え、ステージに立ち続けてきたのだろうということを考えると、胸が苦しくなる。だから「今が転機」なのだ。

緩いMCと圧倒的な世界観の歌。「ひとりでしゃべるのは何年経ってもうまくならなくて…」

11月7・8日ブルーノート東京「MIKA NAKASHIMA LIVE at BLUE NOTE TOKYO」
11月7・8日ブルーノート東京「MIKA NAKASHIMA LIVE at BLUE NOTE TOKYO」

8月29日に観た『MIKA NAKASHIMA CONCERT TOUR 2021 JOKER』の最終公演でも素晴らしい歌を響かせ、涙を流しているファンもたくさんいた。万全の状態で一曲一曲を丁寧に伝えるように歌う中島の歌は強く繊細で、しなやかさを感じさせてくれた。これが20年選手の“底力”か、と改めて感動した。一方で20年選手でもMCが苦手とハッキリ口にし、メモを片手にしゃべる姿を見ていると、人間性を包み隠さず見せるところに、ファンも惹かれるのだと感じた。

「私は歌というのは、CDやライヴで聴いていただいた時から、もうみなさんのものという感覚が強いですが、歌っている瞬間だけは自分のものだと思って、全力で歌っています。ひとりでしゃべるのは何年経ってもうまくならなくて、一度、MCがあまりに下手なので見かねたスタッフが『MCなくてもいいですよ』って言ってくれたことがあって、でも私が『せっかくファンの人と直接しゃべれる機会だから、これをなくしたら楽しくなくなるから』って言ったんです。そのくせに相変わらずしゃべれてないという…(笑)。CDの告知の時も『聴いてね』とは言えても、『買ってね』のひと言が言えないんです(笑)」。

そんな“ぐだぐだ”な、でも人柄が伝わってくるMCもファンは楽しみにしている。しかしいざ歌い始めて、ひと声発した瞬間にその世界に引き込まれてしまう。そんな強烈なメリハリにファンは魅力を感じている。

「欠かせない人」、プロデューサー河野伸の存在

11月7・8日ブルーノート東京「MIKA NAKASHIMA LIVE at BLUE NOTE TOKYO」
11月7・8日ブルーノート東京「MIKA NAKASHIMA LIVE at BLUE NOTE TOKYO」

このコンサートに最後に中島が作詞作曲した、ツアーを支えてくれたスタッフへの感謝の気持ちを込めた歌を披露した。ステージの後ろや横に向かって歌うその姿にグッとくるものがあった。ライヴやツアーでサウンドの要、そして中島の心の支えになっているのが、20年の長きに渡って共にステージに立っているバンマスの河野伸(P)だ。音楽プロデューサーとして様々なアーティストを手がけている河野だが、特に中島は「欠かせない人」と語ってくれた。

「(河野)伸さんは言葉は少ないんですけど、音で背中を押して、サポートしてくださるし、色々なことが伸さんがいないと難しくなってきて、それほど頼りっぱなしです。クリックなしで伸さんのピアノで歌うシーンは、伸さんとだからできると思うし、クリックを聴かないで一緒に歌に入れる人って、他にいるのかなって思ってしまいます。それだけ息が合っているのだと思っています。新しいアイディアが浮かんで提案しても、伸さんは『それは無理だよ』って絶対言わないし、『やってみようか』ってやってみて、それがダメでも気づくまで一緒にやってくれます。なので本当にお世話になっています(笑)」。

最新シングルで秋元康と20年ぶりにタッグ

10月27日にはシングル「SYMPHONIA/知りたいこと、知りたくないこと」をリリース。「知りたいこと~」を作詞した秋元康とは20年ぶりのタッグとなり、注目を集めた。デビュー曲「STARS」、そして「WILL」「TEARS(粉雪が舞うように…)」という、中島美嘉の音楽の骨格を作る上で欠かせなかった作品を手がけた秋元が、“今”の中島に託した言葉とは。

「私に向けて書いてくださっているのが伝わってくるので、さらにこちから歌詞に寄せて歌っていくということが必要ないので、とても歌いやすいです。聴いて下さった方にはリアルに伝わっていると思います。<誰もみな知らぬ間に不都合な記憶失って 運命の残骸を涙で洗い流すでしょう>という歌詞は、もっと若い時に歌っても、例えこういう経験をしていなくても言葉が強いから逆に面白いと思うし、色々な経験を経て今歌うことで、リアルに受け取っていただけると思います」。

「下積みなしでデビューしたので、20年目で長い下積みを経てようやく“整った”感じです」

20周年、今が転機という中島は、これまでも様々なことにチャレンジしてきたが、ますます色々なことにチャレンジしたいという。気持ちに大きな変化があった。

「色々やっても落ち込むことが減った気がします。元々自信がないタイプで怖がりなので、周りがどれだけよかったよって言ってくれても、自分で粗を探す性格です。昔は出来上がったCDを聴いて、もっとこうした方がよかったってずっとひとりで反省していました。だからすごくイライラしていました。こう聞くといつも何かに立ち向かっているように聞こえるかもしれませんが、ただのビビりなだけなんです(笑)。自分を褒めることも忘れていました。もちろん大きな目で見ればすごく楽しい20年でした。私は特に下積みを経験しないでデビューしました。だから今20年目で長い下積みを経て“整った”って、みんなで冗談で話していますが、でも本当になんとなくではあるけど、色々なことがやっと身になり始めて、遅いですが、少しずつプロっぽくなってきたという言い方が合っているのかもしれません」。

12月22日アコースティックカバーアルバム『MESSAGE~Piano&Voice~』発売

『MESSAGE~Piano&Voice~』(12月22日発売/通常盤)
『MESSAGE~Piano&Voice~』(12月22日発売/通常盤)

12月22日にアコースティックカバーアルバム『MESSAGE~Piano&Voice~』をリリースした。この“Piano & Voice”シリーズはピアノと弦を中心に生楽器と共にレコーディングするスタイル。ライヴ感や生々しさと共に「言葉を大切に歌いたい」と語る中島の思いが伝わってくる。今回も「サンサーラ」「粉雪」「One more time, One more chance」「JUMP」「愛が降る」など、“明日”を思い今届けたい曲を歌っている。歌詞とその行間に漂う作者の思いを丁寧に掬い、そこに中島の思いを乗せ、聴き手に届ける。2022年2月からはアコースティックツアー「Mika Nakashima Premium Live Tour 2022」がスタートする。“新生”中島美嘉の歌を堪能したい。

中島美嘉オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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