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シティポップというジャンルの解釈を“深化”させたコンピ盤『ALDELIGHT CITY』

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
(写真:アフロ)

新レーベル“ALDELIGHT”。「90年代以降のアーティストや楽曲に再びスポットを当てて掘り下げていきたい」

写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

今年7月、ソニー・ミュージックダイレクト内に新レーベル「ALDELIGHT」(アルデライト)が発足した。そのレーベルコンセプトは「時代を超えて愛されてきた数々の名盤や、レジェンド・アーティストたちによる新録音など、常に“現在形”であるとともに、未来に向けて聴き継がれるべき音楽を届けていく」。ちなみにレーベル名は作詞家・音楽プロデューサーのいしわたり淳治によって“音楽の喜びを、すべての人へ。”という思いを込めてALL DELIGHT=『ALDELIGHT』と名付けられ、レーベルロゴのデザインは細野晴臣、大滝詠一などの作品を手掛けた岡田崇が担当した。

このレーベルは、ソニーミュージックグループやアルファミュージックの貴重な音楽資産を国内外に発信していくほか、レジェンド・アーティストの新譜を積極的にリリースしていく。その第1弾リリースはニューヨークを拠点に、ジャズピアニストとして活躍している大江千里の新作「Letter to N.Y.」(7月21日)だ。その後もT-SQUARE、PLATINUM900の復刻版、伊藤蘭の新作、岡村孝子、砂原良徳、葛谷葉子等の作品をリリースし、今後も新基軸のコンピレーションや名盤リイシューなど、音楽ファンの声や、時代の“気分”などを敏感に感じ取り、作品を発表していく。

『ALDELIGHT CITY-A New Standard For Japanese Pop 1975-2021-』(10月27日発売)
『ALDELIGHT CITY-A New Standard For Japanese Pop 1975-2021-』(10月27日発売)

「君は天然色 (40th Anniversary Version)」初CD化

そして10月27日に、“ALDELIGHTが考えるシティポップ”のコンピレーションアルバム『ALDELIGHT CITY-A New Standard For Japanese Pop 1975-2021-』が発売された。70年代~80年代のシティポップの定番曲に加え、90年代以降の名曲をコンパイルした2枚組だ。大きなトピックスとしては、大滝詠一「君は天然色」が40周年記念盤のMVで使用した40th Anniversary Versionが初CD化、さらに昨年驚異的なバズりで一躍注目を集めたインドネシアのユーチューバー・Rainych(レイニッチ)×evening cinemaの山下達郎「Ride On Time」のカバーも初CD収録。吉田美奈子「恋は流星」Part 1&2が同時にCD収録されるのも初だ。この作品の狙いを、担当ディレクター・蒔田聡氏(ソニー・ミュージックダイレクト)に聞いた。

「70~80年代のアーティストや楽曲に比べて、90年代以降のそれは未だに顧みられることが少ない」

「コンピレーション盤を作る際、レコード会社の枠を超えて選曲、ということがよくあると思いますが、今回は敢えてソニーミュージック(アルファミュージックも含む)の音源だけで制作しています。DISC-1は大滝詠一さんの「君は天然色 (40th Anniversary Version)」を冒頭に置いて、70年代~80年代の楽曲を中心とした、いわゆる<シティポップ>といえば、という選曲を心掛けました。一方DISC-2は、新しく立ち上げた『ALDELIGHT』というレーベルの方向性を見せるものにしたいという思いもあり、現在の音から90年代に遡る形で選曲しています。『ALDELIGHT』というレーベルの方向性をもう少し具体的に言えば、90年代以降のアーティストや楽曲に再びスポットを当てて掘り下げていきたいと考えています。ご存じのように70~80年代のアーティストや楽曲は常々再評価されて、様々なコンピレーションが発売されていますが、それに比べると、90年代以降のものは未だに顧みられることが少ないと感じています。90年代はCDが一番売れた時代であり、数多くのヒット曲が生まれ、だからこそとてもいい曲なのにその陰に隠れてしまっている曲達に、なかなかスポットライトが当たらなかった状況もありました。しかし90年代以降に活躍したアーティストで今も音楽活動をしている方は多く、そういう意味でも今の活動にもつながるような光の当て方が出来ないものかと考え、シティポップというテーマの中で、新しい提案という意味合いを込めたコンピレーションにしたいと思いました」。

DISC-1には蒔田氏が言うように、アルバムの顔になる、シティポップの金字塔ともいえる名曲、大滝詠一「君は天然色 (40th Anniversary Version)」を始め、EPO「DOWN TOWN」、ハイ・ファイ・セット「中央フリー・ウェイ」、小坂忠「流星都市」、YMO「君に胸キュン。-浮気なヴァカンス-」、そして桑名正博の知る人ぞ知る名曲「ダンシング」、吉田美奈子「恋は流星」Part 1&2等“さすがの”16曲が収録されている。吉田美奈子の「恋は流星」Part1&2が同時に収録されているということでも注目を集めている。

一方DISC-2は、これが初CD化となるRainychとevening cinemaの「RIDE ON TIME」を始め、和製ジャズファンクバンド・PLATINUM900の「恋のレスキュー隊」、比屋定篤子「メビウス(Single Version)」、Cindy「私達を信じていて」、葛谷葉子「サイドシート」、冨田ラボ「ずっと読みかけの夏 feat.CHEMISTRY(2019 Mix)、古内東子「Peach Melba」等、90年代以降の広く知られた曲、知る人ぞ知る名曲15曲がラインナップされている。

「シティポップというジャンルの解釈を広げていきたい」

「シティポップに影響を受けた若手アーティスト達が登場し、ネオシティポップといわれるシーンを形成していると思いますが、90年代以降、2000年代に至るまでのもので、そのムードが感じれられる楽曲をDisc-2では集めてみました。『これってシティポップなの?』と言われる楽曲もあるかもしれませんが、聴き手を広げたいというか、シティポップというジャンルの解釈を広げていきたいという提案にもなっています。海外の人が考えるシティポップは、我々がイメージする世界よりももっと広義なもので、J-POPを置き換えた言葉のような感じで捉えているのではないでしょうか。そこは言葉がわからない部分の面白さでもあって、欧米のものとは微妙に違うサウンドやリズム、アレンジを楽しんで聴いている部分があると思います。一方日本人は、都会的に洗練され洋楽志向のメロディや歌詞、アレンジが交錯してできる世界観をシティポップとして共有しているところがあるかと思います。そうやって考えると、海外の方のいい意味での“大きな誤解”が、視点を広げることにもつながって、一般的にはまだまだ知られていない名曲を発掘するチャンスも広がりますし、新しい楽しみ方ができるのではないでしょうか」(蒔田氏)。

昨今のブームを総括、かつ新しい提案によって、さらにシティポップの広がりを感じさせてくれるコンピレーションアルバムがこの『ALDELIGHT CITY-A New Standard For Japanese Pop 1975-2021-』だ。

otonano『ALDELIGHT CITY』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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