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城 南海 with 1966カルテット クラシカルコンサート開幕 響き合う“五重奏”

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BSフジ

3年目のクラシカルコンサートのテーマは“ルーツ”

城 南海と、洋楽をクラシカルにカバーする女性ユニット・1966カルテット(松浦梨沙(ヴァイオリン/リーダー)、花井悠希(ヴァイオリン)、伊藤利英子(チェロ)、増田みのり(ピアノ))との『城南海 with 1966カルテット クラシカルコンサート 2021』が、10月16日愛知電気文化会館で幕を開けた(10月31日大阪・いずみホール、11月19日東京・紀尾井ホール)。3年目となる今年のテーマは“ルーツ”。それぞれのルーツミュージックを、“5人”の極上のアンサンブルを自分達でも楽しみながら、客席を楽しませた。

「アレンジが難しく、高度になっていませんか?」(城)、「歌に遠慮しないでやらせていただきました」(松浦)

1曲目は今年1月に発売したアルバム『Reflections』に収録されている「産声」(作詞・曲/森山直太朗)。まるで全てを包み込んでくれるような温かさと、慈愛に満ちた歌だ。城の歌はさらに“ふくよかさ”を増したように感じた。懐の深さとますます冴え渡る伝えるテクニックを、全ての歌で感じさせてくれた。おなじみの「サンサーラ」は城が歌い始めたその瞬間からグッとひきつけられ、最後まで感動の波にたゆたうように身を任せて聴き入ってしまう。弦とピアノの音が力強さと儚さ、光と影を絶妙の色合いで描く。感動をより増幅させる素晴らしいアレンジだ。城のデビュー曲「アイツムギ」のカップリング曲の「ピアノ」は、高校では音楽科でピアノを専攻していた彼女の音楽的ルーツに触れるナンバー。「アレンジが難しいというか、高度になってませんか?」と城がライヴアレンジを担当した松浦に質問すると松浦は、「歌に遠慮しないでやらせていただきました」と、5人のチームワークがより強固になったことで実現したアレンジであると教えてくれ、進化した“重なり合い”が心地いい。

「UKロックに感じる、ビートルズの音楽の遺伝子」(松浦)

エンヤの「Only Time」も城が影響を受けた一曲だ。弦のたおやかな音と城の深い歌が溶け合い、幻想的な空気感を纏う原曲の温度感も残しつつ、この5人ならではの解釈で届けてくれる。1966カルテットはビートルズのカバーをメインに、洋楽をクラシカルにカバーするという独特のスタイルが注目を集めている。松浦は「ビートルズをカバーしていると、他のUKロックにもビートルズの音楽の遺伝子を感じることができる」と、9月22日に発売した7年ぶりのオリジナルアルバム『DAIAMONDS』ではUK ロックの名曲をカバー。そこからクイーンの「RADIO GAGA」を披露。客席の手拍子が会場に響き渡り、城の歌も熱を帯び、エネルギッシュな一曲に。レディオヘッドの「Paranoid Andoroid」では、その独特の浮遊感を感じさせてくれつつ、1966カルテット流のアプローチで、どこまでもドラマティックなインストゥルメンタルを聴かせてくれる。

松浦の提案でカバーすることになったという、岩崎宏美「この愛を未来へ」は、モーツァルトのピアノソナタに歌詞を乗せたもので、屈託のない明るいピアノの音色と城の歌が交差し、大らかな愛の世界が真っすぐに伝わってくる。シマ唄メドレーはこのコンサートの大きな見どころ、聴きどころのひとつだ。コブシにファルセットをミックスさせた城の“グィン”、奄美三味線と、1966カルテットの弦とピアノが独特の「響き」を作り上げ、より叙情的に伝わってくる。「シマ唄って自由すぎる」(松浦)と、クラシックにはないセッション感を城と楽しんでいる。愛を紡ぐということと、奄美大島名産の紬を掛け、ファンを始め多くの人との縁を紡ぎたいという祈りを込めたデビュー曲「アイツムギ」は、キャリアを重ねるごとに言葉がより説得力を纏って心に届いてくる。

アルバム『尊々加那志〜トウトガナシ〜』(2015年)のラストを飾る「アイゆえに」を伸びやかに、繊細に伝え、歌い終わると大きな拍手が鳴り響き、公演初日の幕が下りた。

終演直後、城にインタビュー。「3回目になるので、1966カルテットの皆さんとの信頼感、絆がより強くなって、いい意味で力を抜いて歌うことができた」

終演直後で、まだ興奮冷めやらぬ城に初日を終えての感想と、今回のコンサートで目指しているものをインタビューした。

――まずは初日を終えての感想を聞かせてください。

城 初日にしては安定感があったというか、3年目ということでいい意味で余裕も出てきたかもしれません。お互いの息を読みながらというか感じながら、音と歌が気持ちよく絡んでいたと思います。

――歌がまたふくよかになって、さらに心地よく聴くことができました。

城 コロナ禍で、こうしてコンサートをみんなで楽しむことができる喜びを、純粋に楽しもうと思って、初日という緊張感はありましたが、いい意味で力を抜いて歌うことができました。それは1966カルテットの皆さんとも3回目になるので、信頼感、絆がより強くなったということが大きいと思います。

「“1+4”ではなく“五重奏”にしたかった」

――今回のテーマは“ルーツ”ということですが、3回目になると1+4ではなく“五重奏”のような“響き”が印象的でした。

城 今回はそれぞれのルーツをコラボし合うというコンセプトをまず決めました。私はいつかエンヤの曲を、自分の声を重ねてレコーディングしたいと思っていたのですが、楽器の音を重ねてやるのも面白いなって。彼女はアイルランド出身なので、1966カルテットが得意とするUKロックともつながりがあるのでやってみると、楽器は歌うように、私も楽器のように歌って、その時に“五重奏”だなって改めて思いました。城 南海とサポートという感じではなく“with”と言っているように、ちゃんとみんなと並んで踏み出すようなコンサートにしたかったんです。

――ステージ上でも言っていましたが、アレンジがさらに高度になっていって、高い技術のぶつかり合いから、それがひとつになって感動が生まれてきている感じでした。

城 演奏も高い技術が要求されますが、歌も色々なところの音を拾っていかないと歌えないアレンジになっていて。それは(松浦) 梨沙ちゃんがよりよくするためにぶつかってきてくれて、私も色々リクエストして切磋琢磨しながら作り上げました。

――前回よりも1966カルテットの音が歌を引き立てつつ、さらに自分達の音もしっかり立ててきている印象でした。

城 それは1966のメンバーのみんなも言ってくれたのですが、普通だったら“後ろ”で演奏している感じになるけど、私が“五重奏”のような感じでやりたいねと言っていたので、出るところは出て、控えるところは控えて、と5人でメリハリのある演奏を目指しました。

「シマ唄メドレーもよりクラシカルなアレンジを取り入れ、歌い慣れているはずなのにドキドキしました」

――メリハリのある演奏で、それぞれの“強さ”が響き合っていました。

城 お互いルーツはクラシックなので、原点を共有しながら楽しむことができるコンサートになっていると思います。シマ唄メドレーもよりクラシカルなアレンジを取り入れて、歌い慣れている曲なのにドキドキしたり(笑)、5人の進化した姿と音を楽しんでいただきたいです。

BSフジ『城 南海 with 1966カルテット クラシカルコンサート2021』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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