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brainchild's メンバーもファンも待ちわびた3年振りの有観客ライヴで響いた鳴りやまない拍手

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ/アリオラ・ジャパン

3年振りの、そして「7期」にMAL(Key)が加入後初となる有観客ライヴ

EMMA(菊地英昭)率いるコラボーレションプロジェクト・brainchild’sが、3年振りとなる有観客ライヴ「brainchild's "ALIVE SERIES" 21-22 Limited 66 《COMES ALIVE at TOKYO》」を、9月16日東京・EX THEATER ROPPONGIで行なった。このシリーズは東京・名古屋・大阪で行われ、ツアータイトルにもあるように66分間というコンパクトさの中に、バンドの“現在地”をギュッと詰め込んだより熱量が高いライヴだ。もちろん3公演ともに違う構成で行われ、この日は初期の2作、ミニアルバム『HUSTLER』(2016年)、『PILOT』(2017年)からの楽曲を中心にセットリスト組み、さらにピアノのMALが加入して初の有観客ライヴということで、どんな演奏を聴かせてくれるのか、その期待感で開演前から会場の空気は熱を帯びていた。

ギター・菊地英昭(THE YELLOW MONKEY)、 ボーカル・渡會将士(FoZZtone)、ベース・神田雄一朗(鶴)、ドラム・岩中英明(WHITE LIE)、キーボード・MAL(ArtyPacker)、改めてメンバーの名前を見ただけでも、そのバンドアンサンブルを想像すると心が躍る。

EMMA
EMMA

「Phase 2」でスタートし「Rolling Rola」「群衆」までノンストップで披露し終え、MCに入るまで客席からの拍手が鳴りやまない。ライヴを待ちわびていたファンの想いだ。こんなシーンは初めて見た。5人もとにかく楽しそうに演奏している。ミニアルバム『HUSTLER』は荒々しさの中に、大人の色気と遊び心がパッケージされた作品で、ライヴではその熱が余すことなく放熱され、強力なエネルギーを感じる。EMMAは「ライブをやるのがどれくらいぶりか忘れたくらい久しぶりですが、みんな集まってくれてありがとうございます。マスクがとても似合ってます」と感謝を伝え、太いリズムとメロウなメロディが印象的な「Blow」へ。MALの美しいピアノが、曲の表情をさらに豊かにし、歌を“立てる”。昨年の配信したスタジオライヴが実質的に加入後初ライヴになったMALだが、この日改めて生で彼の音が彩るバンドの音を聴いたファンは、新鮮でハッとしたはずだ。EMMAのギターとMALのピアノが絡んで色気ある世界が薫り立ってくる、EMMAがボーカルをとる「まん中」、渡會のエモーショナルなボーカルが心を揺らす「春という暴力」を披露。

そしてミニアルバム『PILOT』からは、現代社会への風刺を描きながら、強さを与えてくれる「SexTant」を披露。「Flight to the north」はイントロからメロディアスで印象的なギターがリードし、神田と岩中が作るリズムが心地いい。ここでもMALのピアノが曲の輪郭をよりはっきりさせる。昨年バンドにインタビューした際、MALは「僕はタイプとしては弾く時は弾くんですけど、弾かない時は要らないよねって引いてしまうんです。シンプルな方がカッコいい時もあるし」と語っていたが、この曲も含めてこの日の彼の演奏を聴いていると、その“メリハリ”のあるプレイから生まれる音像は、鮮やかな印象として残る。

この日に配信がスタートした新曲「Brainy」を披露

渡會将士
渡會将士

「もう8曲。やればできる」と、EMMAがいつもの長めのMCを封印して臨んでいることを伝えると、渡會も「もしかしたら、いつもこれくらいパキッとしたのがいいって思っている人もいるかもしれませんね(笑)」と笑顔で客席を眺める。間奏でEMMAのハードなギターソロが炸裂する「恋の踏み絵」に続いて「Rock band on the beach」を披露。「Rock~」では、手話で東京を表現し、客席と振り付けを楽しむ。ファンクの薫りが漂う「Mellow Downtown」、そして本編ラストは、この日配信したばかりの新曲「Brainy」を初披露。疾走感の中に色気を感じさせてくれるロックナンバーだ。アンコールは「Set you a/n」。煌びやかなキーボードの音が、推進力を高める、ポップでグルーヴが心地いいナンバーだ。

イメージや枠組み、ジャンル、何にも囚われないbrainchild'sの音楽の“強さ”を改めて感じさせてくれ、それは強靭かつしなやかなバンドアンサンブルから生まれるものだということを教えてくれた。メンバー、ファン、双方がライヴの楽しさ、必要性を心と肌で感じた一夜だったはずだ。

ライヴ直後に、EMMA、渡會将士にインタビュー

ライヴを終えたばかりのEMMAと渡會を直撃し、久々の有観客ライヴを終えたばかりの気持ちと、新曲「Brainy」について聞かせてもらった。

――久々の有観客ライヴでしたが、5人が本当の楽しそうに演奏している姿が印象的でした。ど迫力の音が迫ってくるようで、圧倒されました。

渡會 「まん中」をやっている時に、改めて久々だなって感じてゾクゾクしました。楽しすぎたのか、リズム隊の二人は音がどんどん大きくなっていました(笑)

EMMA そうなんですよ。そうなるとPA的には他のメンバーの音も上げなければいけなくて、それでより迫力を感じていただけたのかもしれません。今日は、自分達のために皆さんが集まってくれること自体が久々ですし、たくさんの拍手もありがたくて、客席を見て「戻れそう」って思えました。

「このまま止まっているわけにはいかない。前に進まなければいけない」(EMMA)

――ファンの皆さんも久々にbrainchild’sの音楽を生で聴いて、思い出したという感覚と共に、この状況下になって言葉やサウンドがまた違う感覚で突き刺さってきて、新鮮に感じた人もいると思います。

EMMA DVDを観てくれたり、音源や配信ライヴを楽しみながら生のライヴを待ってくれていたと思うので、今日久々にライヴを観てbrainchild’sってこういう感じだったなって、再確認できたと思うし、やっている本人達もそうです。

――今回の東名阪での"ALIVE SERIES"をやろうと思ったきっかけを教えて下さい。

EMMA これまでのようにマスクなし、動員制限もなしで“普通”に全国ツアーができるのって、相当先になると思ったからです。個人的にはそれができないのに、アルバムを出すというのがどこか腑に落ちなくて。やっぱりアルバムを持ってツアーを回るのが好きだし、だったら曲も、やっていない昔の曲もたくさんあるので、それをやりつつ、新曲を披露するコンパクトなツアーをやろう、と今年に入って思いつきました。でもこの状況になって、お客さんの協力もあって、我々もスタッフも細心の注意を払ってやってきて、みんな努力しながらここまできているので、そういうのが積み重なって、普通になってできるようになれば嬉しいです。このまま止まっているわけにはいかないので、前に進まなければいけません。その中でどう楽しむかを考える方が健全だと思います。

――MALさんが加入してから初の有観客ライヴということになりますが、初期の作品もMALさんの鍵盤が乗ると、また違う表情になります。

EMMA そうなんです。初期の楽曲も練って進化させて、楽しんで聴いていただけると思いました。MALが入ったことで曲の世界観も変わったし、ピアノがつなぎ役となってくれるので、MCはいらないなって改めて思いました(笑)。僕自身ギタリストなんですけど、ピアノが凄く好きで、曲もギターで作りますが、曲によっては頭の中ではピアノの音が鳴っていたりします。

――このシリーズは66分と時間を決めてのライヴですが、今日のライヴを観ると、やっぱりフルサイズのライヴを観たくなりました。

EMMA 2時間やるとやっぱりMCが必要になりますね(笑)。

渡會 でも今日の感じだと、MC少な目で2時間いけそうな気もします(笑)。

配信シングル「Brainy」
配信シングル「Brainy」

――配信したばかりの「Brainy」を初披露しました。

渡會 「Set you a/n」とほぼ同じタイミングでできあがっていた曲で、出しどころを考えていました。

――それで「Set you a/n」同様、歌詞が社会への皮肉を込めたシニカルなものになっているんですね。

渡會 当時、EMMAさんからも、怒りを歌詞にして欲しいと言われていたので、あの時は政権に怒っていたのでそれを表現しました(笑)。世の中の皆さんのSNSも非常に荒れていたので、歴史としてこの気持ちを残しておこうと思いました。

EMMA 日本のミュージシャンが理不尽なことについて、あまりにものを言わないので、我々は発信しようと思いました。

渡會 ニュースやSNSを見て湧いてきた怒りを、ストレートにぶつけた感じです。

――素朴な質問ですが、新曲をはじめてお客さんの前で演奏する時は、どんな心持ちなんですか?今までそういう瞬間を重ねてきていると思いますが。

EMMA 考えすぎたり、やりすぎたりすると、曲の本質まで伝わらない気がしていて。だから楽しみながら演奏していますが、楽しみすぎても伝わらない気もするので、どこか俯瞰で見ていたり、そこのさじ加減は考えます。

神田雄一朗(B)、岩中英明(Dr)、菊地英昭(G/Vo)、渡會将士(Vo)、MAL(Key)
神田雄一朗(B)、岩中英明(Dr)、菊地英昭(G/Vo)、渡會将士(Vo)、MAL(Key)

「brainchild's "ALIVE SERIES" 21-22 Limited 66」は12月16日大阪・なんばHATCH、来年3月25日名古屋・ダイアモンドホールで開催される。それぞれの公演日に、新曲を配信リリースする予定だ。

brainchild's オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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