Yahoo!ニュース

伊藤 蘭 新作と44年ぶりの“野音”について語る「色々なことに挑戦できる幸せを、日々感じています」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

キャンディーズ解散から41年経った2019年、ソロ歌手としてデビュー

2019年5月、アルバム『My Bouquet』をリリースし、伊藤 蘭はソロ歌手としてデビューした。キャンディーズ解散から41年が経っていた。その際のインタビューで、ソロ活動をスタートさせた理由を聞いた時は「まだエネルギーがあるうちに、歌ともう一度向き合うのもいいのではないか思いました。間違いなくラストチャンスだと思ったので、最終列車に乗り遅れなくてよかったと思っています」と語ると同時に「せっかく動き始めたので、スローペースでもいいので活動を続けていきたい」とも意気込みを語ってくれた。当然ファンはスローペースでは許してくれない。2019年6月に東京と大阪で開催した「ファースト・ソロ・コンサート」が大好評だったことを受け、2020年2月からは「伊藤 蘭コンサート・ツアー2020 ~My Bouquet & My Dear Candies!~」を開催し、更に盛り上がりをみせた。

ソロデビューの大きな反響を受け「もっともっと喜んでいただくためにはどうすればいいのだろうってずっと考えていました」

2ndソロアルバム『Beside you』(9月1日発売 )   前作に引き続きトータス松本、佐藤準、森雪之丞が参加し、さらに布袋寅泰、多保孝一も加わり、多彩な楽曲を楽しむことができる。
2ndソロアルバム『Beside you』(9月1日発売 ) 前作に引き続きトータス松本、佐藤準、森雪之丞が参加し、さらに布袋寅泰、多保孝一も加わり、多彩な楽曲を楽しむことができる。

そして2ndソロアルバム『Beside you』が、キャンディーズのデビュー記念日である9月1日にリリースされた。さらにこのアルバムを携えてのコンサートツアー「Beside you & fun fun Candies!」が東京・大阪で行われ、その追加公演が9月26日に日比谷野音で開催されるが、ここは1977年7月17日にキャンディーズが解散宣言を行った、ファンにとっても伝説の場所で、伊藤がこのステージに立つのは約44年ぶりとなる。2ndアルバムに込めた思い、そしてこの野音公演を含むツアーについて、伊藤にインタビューした。

「盛り上がってきたところで、世の中がこういう状況になってしまって、でももう一度自分の足りない部分や、もっとこうしたいという部分に焦点を当てて、じっくり考える時間ができました。コンサートでファンの方が喜んでくださっているのを感じると、もっともっと喜んでいただくためにはどうすればいいのだろうって考えていました」。

コロナの影響でコンサートが延期になったり、活動がストップしてしまった中で、改めてその活動を振り返り、何をやるべきか、どうすればファンに楽しんでもらえるかを考えた。そんな中でもっと色々な歌いたいという思いが大きくなっていき、2ndアルバム『Beside you』へとつながっていった。

「前作がオーガニックなハーブティーのようなイメージだとしたら、今回は甘さの中にほろ苦さや強さを感じる、カフェオレのようなイメージ」

「前作の『My Bouquet』というアルバムも、色々な方がバラエティに富んだ楽曲を提供してくださいましたが、その色合いをさらに濃いものにしようという意見が、スタッフとの話し合いの中から出てきました。前作がオーガニックなイメージで、例えばハーブティーみたいな感じのものだとしたら、今回はカフェオレのような、甘さの中にほろ苦さや強さを感じる、少しタッチの強い歌を歌ってみようと思いました」。

その言葉通り『My Bouquet』には井上陽水、阿木燿子×宇崎竜童、トータス松本、森雪之丞他、豪華アーティスト、作家陣が「今の伊藤 蘭に歌って欲しい」11曲を提供した。『Beside You』も前作に引き続き、トータス松本、佐藤準、森雪之丞が参加し、さらに布袋寅泰、多保孝一も名を連ねている。

オープニングナンバーはハードなサウンドとキャッチーなメロディが印象的な「ICE ON FIRE」。シングル「恋するリボルバー」で聴かせてくれた、ロックな伊藤 蘭がここでも炸裂している。ふんわりとしたソフトなイメージの伊藤とのギャップが楽しめる。伊藤も「強めのサウンドでメロディアスなものが、個人的にも好きです」と、思い入れが強い一曲になっている。

森雪之丞×布袋寅泰のコンビが手がけた、アルバムのラストを飾るストリングスとピアノの美しい音色と印象的な「家路」は、“等身大”な歌だけに逆に表現の仕方に試行錯誤したという。

「森雪之丞さんが『布袋君はきれいな曲を書きますよ』っておっしゃていたので、バラードが来るかなと思っていたら、本当に静かな、素晴らしい曲を書いていただきました。シンプルな楽曲で、沁み入るような歌詞とメロディで、無理のない大人の普遍的な男女の歌なので、逆にどうやって歌おうって悩みました。岩里祐穂さんが歌詞を書いて下さった『You do you』も、大人の女性が、無理のないところで前を向いていきましょうよ、という感じが等身大で、歌いやすくもあり、難しくもありという感じでした」。

「愛して恋してManhattan」と「名前のないChristmas Song」で作詞を手がける

伊藤も「愛して恋してManhattan」と「名前のないChristmas Song」の作詞を手がけている。2作とも作・編曲はアルバムのプロデュースとバンマスを務める佐藤準だ。

「『愛して~』は(佐藤)準さんが書いて下さった曲に“ドゥワップ”という仮題がついていて、だからなんとなく60~70年代のレトロなニューヨークの街のイメージが、まず浮かんできました。そこで出会った2人が、今も仲良く付き合ってるみたいな感じを、懐かしい映画の雰囲気を入れて書いてみようと思いました。『名前のない~』は、準さんは最初秋のイメージで曲を書かれたと思います。でも冬の曲も欲しいなって思っていたので私がさらに寒くしちゃいました(笑)。なんとなくキラーンと冷たい空気感、冬の夜空の世界観でイメージを広げてみました」。

シングル「恋するリボルバー」で、伊藤の新たな一面を引き出した多保孝一が新たに提供した「ひきしお」は、男と女の情事を描くポップなナンバーだ。

「歌詞から感じる空気がベタっとしていなくて乾いた感じで、60年代のカトリーヌ・ドヌーブの映画のような雰囲気だと思いました。この曲を聴いたスタッフが『スティーリー・ダンっぽい』と言っていましたが、確かにオシャレでクールで、私もスティーリー・ダンが大好きなので、この曲も個人的にお気に入りです」。

トータス松本が手がけた「あなたのみかた」は、歌っている伊藤自身も「励まされ、元気になれる曲」だ。

「トータスさんの曲はとてもストレートで、でもジーンとしてしまう温かい曲です。トータスさんの仮歌を聴いた時に、すごく素敵な世界ができあがっていたので、これを私がどう表現すればいいのだろうか思いましたが、歌いながら励まされて、元気になれる自分がいたので、それを素直に出そうと思いました」。

「まだまだ発見も課題もある。挑戦し続けることが元気に過ごせている秘訣」

前作に続いて、様々なアーティストや作家陣が書いた「今の伊藤 蘭に歌って欲しい曲」たちは、今回もバラエティに富み、伊藤も改めてシンガーとして大きな刺激を受けた。

「出ない音をどんな風に出したら届くかなとか、じゃあファルセットにしてみようとか、色々なことを試してレコーディングに臨みました。でも逆にそうやって歌い手としての新しい部分を見つけられることが嬉しいし、楽しかったです。まだまだ発見もあるし、課題もあるし、挑戦を続けることが、今元気に毎日を過ごせている秘訣かもしれません。自分のものにできるまでに時間もかかるし、気が重くなる時もあります。でもそういうことを与えられていることが、幸せなんだということを日々感じています。歌を歌っているとやっぱり演技のお仕事もしたくなるし、だから本当に自分はまだまだ元気だなって思います(笑)」。

「最初はキャンディーズの歌を私が一人で歌っていいのか、悩みました」

2019年6月に行った「ファースト・ソロ・コンサート」、2020年の「伊藤 蘭コンサート・ツアー2020 ~My Bouquet & My Dear Candies!~」も多くのファンが駆け付け、9月20日からは東京・大阪でのコンサート「Beside you & fun fun Candies!」がスタートする。

「ファーストの時は、皆さんが喜んでくれるかどうかもわからないし、キャンディーズの歌も、私が一人で歌っていいのかもよくわからないというのが、正直なところでした。でもお客さんが凄く盛り上がってくださったので、2020年のツアーはもっと喜んで頂けるように思いを込めました。キャンディーズという言葉がツアータイトルに入っていて、やっぱり二人がいない淋しさはあるし、お客さんに改めて、三人が揃うことはもうないんだなって思わせてしまうこともどうかなと思ってみたり…。正直そういう気持ちは時々よぎります。でも概ね喜んで頂けていると信じて歌っています。キャンディーズの楽曲って時間が経っても全く古さを感じさせないのが強みだと思います。コンサートではオリジナルのアレンジを大切にして、だから私もスッと当時に戻ることができて、歌えるのかもしれないですね」。

9月26日、“伝説”の日比谷野音に44年ぶりに立つ。「あまり難しいことは考えず、あの場所に元気に戻れたことを、ファンの方と喜び合えるコンサートにしたい」

9月26日には日比谷野音のステージに立つ。1977年7月17日、この場所でキャンディーズが解散宣言をしてから44年。伊藤にとってもファンにとっても、特別なコンサートになりそうだ。

「キャンディーズのことに詳しい若いスタッフがいて、野音でコンサートをやるというのはどうでしょうか?と熱い思いを提案してくれました。でもその時は、なんで今野音?どうして?という感じだったと思います。私の中でもやっぱり特別な場所だし、でもファンの方が喜んでくださるならと決めました。このステージに立つ意味がどういうことなのか、それは当日わかると思います。でもあまり難しいことは考え過ぎないで、私も思い切り楽しみながら、あの場所に元気で戻れたということをファンの方と喜び合えるコンサートにできたら嬉しいです」。

※「Beside you & fun fun Candies!」の正式表記は、funとCandies!の間にハートマークが入ります。

『otonao』伊藤 蘭スペシャルページ

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事