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森口博子 24年ぶりのオリジナルアルバムに込めた熱い思い 「心と心でつながっていることが生命線」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/キングレコード

24年ぶりのオリジナルアルバム『蒼い命』には、35年間の感謝、今伝えたい思いがつまっている

デビュー35周年を迎えた森口博子が、24年ぶりのオリジナルアルバム『蒼い生命』を8月4日に発売した。アルバム『GUNDAM SONGS COVERS』(2019年)と『~COVERS 2』(2020年)がヒットし、ガンダムファンのみならず幅広い層から支持され、ボーカリスト・森口博子が再評価された。そしてまさに満を持してのオリジナルアルバムだ。これまでリリースした人気楽曲と新録4曲で構成されたこの作品には、森口からの35周年の感謝と祈り、そして24年間の思いと今現在伝えたいことが詰まっている。森口にこのアルバムについてインタビューした。

24年ぶりのオリジナルアルバム。率直にどう捉えているのだろうか。

「24年ぶりと聞くと、長かったなって思うと同時にあっという間だったなって思います。その間ずっとシングルや、近年ではカバーアルバムをリリースさせていただきながら、歌い続けてきた24年だったので、このアルバムにはそんな近年のシングルはもちろんですが、今一番伝えたい思いを込めることができました。このアルバムの発売を発表した時、ファンの皆さんから様々な歓喜の声をいただいて、それが震えるほど嬉しかったですし、大きな力になりました」。

“GUNDAM SONGS COVERS”2作が高い評価を得る。その世界観からつながる『蒼い生命』

森口は1985年「機動戦士Zガンダム」のオープニングテーマ「水の星へ愛をこめて」でデビュー。この曲は2018年にNHK「発表!全ガンダム大投票」で361曲のガンダムソングの中で1位に選ばれた、聴き継がれ、歌い継がれてきたスタンダードナンバーになっている。そして2019年の『GUNDAM SONGS COVERS』と翌年『~COVERS 2』が高い評価を得たことで、今回の『蒼い生命』も、世界中がコロナで包まれてしまっても、地球という一つの生命でつながっているという大きな愛、ガンダムの世界観が色濃く反映されている。

「今何を伝えたいんだろうって思った時に、つながることの大切さ、“絆”の尊さを改めて届けたいなと。やっぱり緊急事態宣言が発令されて、人と人とが直接触れ合うことを禁止される閉塞感をすごく感じてしまって。私は福岡にいる84歳の母親と毎日電話で会話をしているのですが、親に限らず友達、恋人、大切な人たちに思うように会えない、触れ合えない、スキンシップもできないという方が大勢いる昨今、私は毎日とにかく励ましてくれる母の声が心強かったです!そして、ファンの皆さんからSNSを通してメッセージがたくさん届いて『森口さんの歌声でこの状況を乗り切れています』と言っていただけて、私のほうこそみなさんとつながっているんだという思いを胸に、強く生きてこれました。この状況の中で、心と心でつながっているということが、生命線なんだなって改めて感じました。これは地球規模の問題なので、地球という一つの命でつながって、私たちはこの危機を乗り越えようとしているという思いを『蒼い生命』というタイトルに込めました。地球となると、やっぱり『水の星へ愛をこめて』というデビュー曲と、スケールがリンクするし、“蒼”という字は、“青”でもあるし、緑が蒼々と生茂るという時にも使われて、それはまさに地球の色だなって思ってこのタイトルにしました。そのスケールの大きさはガンダムの世界に通じるものがあると思います。デビュー曲のAメロに売野雅勇さんが作詞された歌詞にもこの“蒼”が使われていて、実は裏テーマはデビュー曲のオマージュでもあるんです」。

「ここ何年か、“平凡は奇跡”という言葉がより心に響く」

オープニングを飾るタイトル曲の作詞は、森口とシンガー・ソングライターQoonieの共作で、コロナ禍で感じたことと、森口が日ごろ大切にしている言葉や思いを紡いだ「大きな感謝も込めた」壮大なバラードだ。

「Qoonieさんの温かい歌詞と私の思いを共作で表現しました。いつも“平凡は奇跡”ということを口にしていて、それはここ何年か、震災や災害が起こった時にその言葉がより自分の中で響いていたんです。地球がこういう事態になった時に、さらに深く響いてきました。本当に日常の中の些細なことがいちいち愛しく思えるし、気づかされること、見つめ直したことが多いです。嘆き、悲しみ、祈り、願い、感謝、全部の感情をこの歌に込めました」。

「神前 暁さんが書いて下さった『陽だまりのある場所』は、最初に聴いた時号泣しました」

「陽だまりのある場所」でも自身で歌詞を書いている。作編曲は「涼宮ハルヒの憂鬱」「らき☆すた」「化物語」など数々の大ヒットアニメの主題歌や劇伴を手がける神前 暁で「神曲誕生です」(森口)。故郷・福岡の思い出、そして上京しここまで頑張ってきた自分を振り返り、また決意を新たにする、森口の人生を映し出した言葉が胸に沁みるミッドバラードだ。

「現在放送中のレギュラー番組『Anison Days』(BS11)に神前 暁さんをゲストでお招きして、神前さんの楽曲をカバーさせて頂いた時、メロディの美しさに感動して涙が溢れたんです。 いつか神前さんに曲を書いていただきたいってずっと思っていました。今回お伝えしたキーワードは“切ない陽だまり”です。大人の日常の中で辛い出来事とかどうにもならないことがあるかもしれないけど、それでも夢には締め切りがないんだという、優しい陽だまりの中での頑張りのようなものを、伝えていきたいと思ったんです。曲が上がってきて切ないメロディにまた号泣しました。細胞レベルで神前さんの曲が大好きだと実感しました。そのタイミングで子供の頃によく行っていた地元・福岡の遊園地『かしいかえん』が閉鎖されるという悲しいニュースを耳にしました。緊急事態宣言がなければ閉園されることもなかったのに、そうやって日常生活が一変して失われていくものの中で、私たちはどう夢と向き合っていくべきかという思いと『かしいかえん』への感謝を綴りました。私自身も、時代の変化が激しい中でも、皆さんに求めていただけるということが自分の存在意義というか、歌い続けられる力にもなっていますし、それでも打撃を受けて、マイナス思考になってしまうこともあります。だからこの歌詞に関しては全て事実で、そのままの自分を投影させました。神前さんにも『歌と歌詞が入ったことでこの曲が大化けしました。素晴らしかったです、感動しました』と言っていただけて、こちらが大感動しました」。

「何があっても歌い続けたい、歌い続けないといけない」と、改めて気づかせてくれたレコーディング

仮のレコーディングでは涙で歌えなかったという。しかし改めて歌うということがどういうことなのかを自覚し、歌と向き合えたという。

「神前さんのメロディの美しさと故郷への想いで、歌っていて涙が止まらなくて。それでもエンジニアさんやスタッフのみなさんが演奏を止めなかったんです。まるで人生だなと。何があっても歌い続けたいと思ったし、歌い続けないといけないし、でも歌えない時は歌えない自分もいて。それとどう向き合っていけばいいのかって、1曲終わった後に涙を拭き取って冷静になって考えました。きちんとその思いを伝えたいんだったらきちんと歌おうって、本番では一滴も涙を流さずに歌えました」。

「ホイッスル」から28年、アンサーソングの「ポジション」は「大人へのエールソング」

森口は「ポジション」でも歌詞を書いている。この曲は1993年のヒット曲「ホイッスル」(作詞:西脇 唯、森口博子 作曲:奥居 香)のアンサーソングという位置づけで、28年経った今、本人がストレートに思いをぶつけた等身大のサマーソングだ。作曲にも挑戦(時乗浩一郎と共作)している意欲作で、<深く深く 生きよう>という歌詞が、コロナ禍で、丁寧に生きることの大切さを感じている多くの人の心に響くはずだ。

「元々は、コンサートでファンのみんなが一緒に声を出して歌える、書き溜めておいた曲を入れようと思ったんです。でも今はライヴでお客さんは声を出せなくて、だったら声は出せなくても聴いただけで元気になれるライブの定番『ホイッスル』のような夏歌を、とディレクターさんに言われて、それならその続編を描こうと『ポジション』を書きました。あれから28年、大人になった私達には日々色々なことが起こって、その度に気持ちが揺れて、でも誰にでも“譲れない場所”ってあると思います。私はそれが音楽でありライヴであり、その核がブレないように前を向いて歩いて行こうという、大人へのエールソングです」。

一人で35声を重ねていった「水の星へ愛をこめて~35人の森口博子によるアカペラヴァージョン」は、「35年の歴史を一年一年振り返る作業だった」

デビュー曲『機動戦士Ζガンダム』のオープニングテーマの新録となる「水の星へ愛をこめて~35人の森口博子によるアカペラヴァージョン」は、「3日間かけて」アカペラ多重録音にチャレンジして、35周年の感謝の気持ちをひと声ひと声に刻み込んだ。繊細で、でも迫力を感じる、生き生きとした生命力あふれる一曲に仕上がっている。

「35周年に因んで35人の森口博子のアカペラバージョンです。コーラスはもちろんベース、ストリングス、トランペットなど楽器パートなど全部声で奏でました。1トラックずつ重ねていく作業って、35年間、一年一年色々なことを乗り越えて生きてきた、その歴史を重ねていく作業だなって感じました。35人の森口博子=みんなとの歴史がこの曲には詰まっていて、まさに歌手としての35年の人生だなって。声だけ積み重ねるって、とても神聖な作業だなと感じました。この先40年、45年、50周年に向けて、これからも神様から与えていただいたこの声を大切にしながら、みなさんに届け続けるんだっていう、感謝と決意っていう意味で声のみのアカペラでこの曲をアルバムの最後に持ってきました」。

一枚を通して森口のファン、そして全人類への一途で熱い思いが伝わってくる。熱く切ない曲達を聴き、涙を流すことで心を浄化し、明日への一歩を踏み出す、その背中を押してくれるようなアルバムだ。

『蒼い命』(8月4日発売/通常盤)
『蒼い命』(8月4日発売/通常盤)

「新曲の他には近年のシングルでミュージックビデオ再生回数550万回再生を突破(8月6日現在)した『鳥籠の少年』やTVアニメ『ワンパンマン』のエンディングテーマで畑 亜貴さん作詞、前山田健一(ヒャダイン)さん作曲のホロッとくる名曲や、ガンダムのテーマソングでお世話になった西脇 唯さんの作品など……私をずっと応援してくださっているファンの皆さんにも、ガンダムファンの皆さんにも、新たに興味を持ってくださった方にもきっと気に入っていただける、自信作になりました。ファンの皆さんの真っ直ぐな思いと、厳しい業界で一緒に戦って守ってくれるスタッフの皆さんの愛あってこその、35周年記念アルバムになりました」。

10月に、昨年中止になった35周年記念ライヴを開催。「みなさんとつながれるライヴは私の生きがい」

10月3日には東京国際フォーラムホールCで、去年中止になってしまった35周年アニバーサリーライヴを開催予定だ。「ライヴこそ私の核」と語る森口のライヴに賭ける思いは並々ならないものがある。

「“つながり”をテーマに、35年間の思いをみなさんに届けたいです。私の夢はずっと変わらずライヴをたくさんやることです。とにかく“ふれあいが大好物“の、“つながりたがり屋”なので(笑)、みなさんとつながることができるライヴは生きがいです。生のエネルギーで生きている喜びや、悲しみがお客様と共鳴する場=ライヴが、私にとって譲れない場所です。健やかな地球に生まれ変わると信じて、一曲一曲が聴いてくださった方の細胞にまで沁みる、生きる力につながるようなライヴを増やしていきたいというのが、私の願いです!!」。

森口博子 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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