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作詞活動50周年、松本隆の名曲を亀田誠治のアレンジで横山剣、川崎鷹也が歌う その作詞術にも迫る

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BS-TBS

“時を超えた、ここでしか聴くことができないサウンド”がコンセプトの音楽番組『Sound Inn S』(BS-TBS)の7月17日(土)放送回は、作詞活動50周年を迎えた松本隆トリビュートスペシャル。7月14日に発売されたそのトリビュートアルバム『風街に連れてって!』の製作総指揮を手がけた音楽プロデューサ・亀田誠治のアレンジで、同アルバムにも参加している横山剣(CRAZY KEN BAND)と川崎鷹也が登場。それぞれ「ルビーの指環」「君は天然色」を披露した。さらに松本と亀田のクロストークでは、その作詞術や歌詞の世界観などを紐解き、松本隆という稀代の作詞家の魅力が熱く伝わってくる、濃密な30分間だ。

横山剣「ルビーの指環」

「松本さんは言葉の魔術師。言葉とメロディが一緒になった時にケミストリーが起きる」――そう語るのは横山剣(CRAZY KEN BAND)。この日横山が歌ったのは1981年に寺尾聰が歌い大ヒットした「ルビーの指環」(作曲/寺尾聰)だ。寺尾の魅力的な低音と都会的で洗練されたアレンジの原曲を、亀田はそこに横山が持つダンディズムや大人のカッコ良さを更に加え、都会の夜景のようなサウンドスケープを描く。夜の街に溶け込んでいくような横山のボーカル。イントロ~歌~アウトロまでドラマティックなパフォーマンスだ。

川崎鷹也「君は天然色」

亀田がYouTubeで聴いたその歌声に惚れ込み、トリビュートアルバム『風街に連れてって!』への参加をオファーしたという注目のシンガー・ソングライター川崎鷹也は、アルバムでも歌っている「君は天然色」(作曲/大滝詠一/1981年)を、豪華バンドをバックに披露した。川崎の声は爽やかさ、明るさと共にどこか陰も感じることができる懐の深さが魅力だ。その声が、このキラキラした明るいポップスの歌詞の裏側に流れているストーリーを、鮮明に映し出す。この作品が収録されている大滝詠一の不朽の名作『A LONG VACATION』の制作前、松本の最愛の妹が26歳の若さで他界してしまう。松本は「渋谷の街がモノクロに見えてしまった」ほどショックを受け、言葉を失ってしまい、歌詞が書けなくなってしまう。そんな松本の復活を大滝は待ち続け、完成したのが「君は天然色」だ。川崎の歌が松本と大滝の思いを届け、新たな色彩を感じさせてくれる。

「特別に起きたことは詞にならない。ふとしたことで心は動く。それを言葉にする」(松本)

両作品とも名フレーズも含めて、ひとつの作品として多くの人の記憶の中に残っている。その名フレーズを生かしながら、新たなアレンジを作り上げなければいけなかった亀田のプレッシャーや苦労は計り知れない。

そんな亀田と松本のスペシャル対談も見逃せない。「松本さんの歌詞は辞書のような存在」という亀田は、「歌謡曲とニューミュージック、歌謡曲とロック、相容れないものをつなげたのが松本さんの歌詞だと思う」と、多くの“松本ポップス”に触れてきたことで、それが血となり肉となり自身の音楽活動をする上でのベースになっていると語っている。作詞術を聞かれた松本は「特別に起きたことは詞にならない。ふとしたことで心は動く。それを言葉にする」と教えてくれる。歌詞の世界観については「ネガティブなところから入っても、ポジティブになって終われるようにするのがポリシー」と、その歌詞に息づく松本の思いが明らかになる。さらに50周年を迎えての感想を聞かれると「一瞬。あっという間に過ぎちゃった」と語っているが、その“一瞬”はJ-POPシーンの歴史を作り上げた“一瞬”でもある。その作品の数々は今も輝きを失わず、瑞々しさを感じさせてくれる。そんな名曲の数々を紹介する、貴重なアーカイブ映像も見どころだ。

『Sound Inn S』(BS-TBS)松本隆トリビュートスペシャルは、7月17日(土)18時30分からオンエアされ、番組放送終了と同時に「Paravi」で未公開映像と共に独占配信される。

BS-TBS『Sound Inn S』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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