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MACK JACK 神戸発、元球児の4本マイクのレゲエクルーが放つ、“泥臭さ”が眩しい応援歌が話題

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックエンタテインメント

神戸発、全員元高校野球球児の4本マイクのレゲエクルー・MACK JACK

神戸在住、全員元高校野球球児の4本マイクのレゲエクルー・MACK JACK(マックジャック)の配信シングル(7月2日配信スタート)「泥だらけドリーマー」が話題になっている。いい意味で、文字通り泥臭い歌詞と親しみやすいメロディは、どんな人の心も鼓舞させ、背中を押してくれる全方位型応援ソングだ。

この曲について、そしてMACK JACKというグループが目指すものについてM.C.L(ミッチェル)、ALI(アリ)、CHAI(チャイ)、JAGA-C(ジャガシー)の4人にインタビューした。

左からALI、M.C.L、CHAI、JAGA-C
左からALI、M.C.L、CHAI、JAGA-C

全員元球児のMACK JACKのメンバー。M.C.L、ALI、CHAIの3人は神戸から、高知県の野球の強豪校・高知中央高校に進学し甲子園出場を目指し、日々練習に明け暮れた。厳しい練習の毎日の中、唯一の楽しみは野球部の寮でみんなで聴いたNANJAMANや湘南乃風の音楽だった。次第にレゲエにのめり込んでいった。「文化祭でも湘南乃風の曲を歌ってウケて注目されたことも、その後音楽の道を選ぶ時、影響したのかもしれません」(CHAI)。

そして高校3年最後の夏、高知県の甲子園常連校、明徳義塾高校に敗れ甲子園出場の夢は絶たれた。厳しい練習から解放されると同時に、打ち込んでいたもの失ってしまい、気持ちの整理がつかなかったという。

「最後の夏、予選で明徳義塾に負けて、その日の夜は一つの部屋にみんなで集まって、寝るのが怖いって言っていました。それは朝起きたらもう野球がないという状況が怖かったからです」(CHAI)。

「野球の次に燃えるものを見つけた」

高校を卒業し地元・神戸に帰り、全員が自分は何がやりたいのか、やるべきなのか考える時間が続いた。それぞれ仕事やアルバイトを続けながら、大好きな音楽、レゲエを追求する道を模索するようになった。そして大小問わず色々なライヴやイベントに遊びに行き、そこで色々な世代のミュージシャンのパフォーマンスを観て「自分達もいけるんじゃないかと思った」(M.C.L)。

「リーダのM.C.Lがみんなを奮い立たせました。MACK JACKは元々M.C.LとALIが作ったチームで、僕とJAGA-Cは最初はメンバーではなくて、JAGA-Cは大学に行きながらイベントの手伝いをしていて、M.C.Lに誘われて加入しました。僕は料理人をやっていたのでM.C.Lに誘われたものの、やりたいけど音楽で食っていける人なんてほんのひと握りだし、という葛藤がありました。でもM.C.Lの『野球の次に燃えるもの見つけた』という言葉が心に刺さって決意しました。他のメンバーもそうだと思います」(CHAI)。

「絶対に必要なメンバーだったので、ラブコールしまくりました(笑)。夢を叶えるために全員が必要でした」(M.C.L)。。

2012年結成、2014年にジャマイカで武者修行

音楽という目標を見つけてからは、高校野球で培った集中力と突破力で道を切り拓いていき、2012年にMACK JACKを結成した。

「レゲエ独特のカルチャーで“ラバダブ”という、パーティ(ライヴ)の後に、レゲエのビートに合わせて自分の曲や、即興で歌うパフォーマンスの時間があって、オープンマイクで誰でも参加できるので、そこでオリジナル曲を披露していました」(ALI)。

“ラブダブ”はエンタテイメント的な要素が強く、その時の空気をつかむ力が試されるが、そこで徐々に認められ、2012年に主催イベント「MACK JACK PARTY」を行なう。神戸のクラブシーンで注目を集める存在になった。

「ジャマイカへ行き、感じたことで自分達から出てくる音楽、言葉が変わった」

そして2014年には、レゲエをやるなら本場の空気を吸い音楽を経験しなければいけないと、仕事の都合がつかなかったCHAI以外の4人で、アルバイトを掛け持ちして懸命にお金を溜めて、ジャマイカへ武者修行へ出かけた。

「思い立ったらすぐ行動するタイプで、今しか行けないかもしれないと思って迷わず向いました。約一か月間毎日パーティに出かけて最新のジャマイカンミュージックを聴いたり、曲を作ってスタジオに行って、という毎日を過ごしていました。現地で色々な意味でショックを受けたので、出てくる歌詞がそれまでと変わったり、リズム感が全然違うので、その影響を受けて、できあがってくる曲が変わってきました。それが現在のスタイルにつながっていると思います」(M.C.L)。

「向こうでレゲエ音楽とダンスはセットなので、帰ってきてレゲエダンサーを見る目が変わりました。それは、ジャマイカの文化をしっかりキャッチしながら日本で踊っているんだなってその凄さを感じました」(ALI)。

2017年「COMIG KOBE」に出演した時、レコード会社のスタッフから声をかけられる

そんな彼らにチャンスが巡ってきたのが2017年に出演したイベント「COMING KOBE」だった。

「このイベントへの出演が決まった時、何万人もの前でライヴができると感違いしていて、実際は一番小さい、誰も集まらないようなステージでした。その時はさすがの僕もネガティブになっていました。でも別の大きなステージに集まっている人達を見てJAGA-Cが『あいつら俺達を見たがってる』って訳のわからないことを言い出して(笑)、でもその言葉で火が点いて、『あいつらに届けるぞ!』って気合を入れて、30分間とにかく吠え続けていたら、最終的には70人くらい集まってくれました。その中にレーベルのスタッフの方もいて、そこで声をかけていただきました。あの時のJAGA-Cの言葉は、僕の人生の中の最高のパンチラインになりました」(M.C.L)。

等身大の自分をさらけ出した「泥だらけドリーマー」は、がむしゃらに努力する全ての人に贈る応援ソング

「泥だらけドリーマー」
「泥だらけドリーマー」

配信シングル「泥だらけドリーマー」は、現在も仕事しながら音楽活動を続け、夢を諦めない4人の熱い思いと自信とが歌詞から伝わってくる。そしていい意味で文字通り泥臭い等身大の応援ソングで、今意外と少ないタイプの楽曲かもしれない。

「曲を作り始めた頃は、どうしても自分を大きく見せるような、カッコつけた歌詞を書いていました。でも8年活動して、やっと角が取れてきたというか(笑)、自分という存在を全開で出していっていいんだ、それが聴いてくれる人の心に響くんだという感覚はつかめてきている気がします」(M.C.L)。

「レゲエシーンって、ヤンキーぽいというか(笑)、“強そう”な人が多いイメージがあるじゃないですか。そうするとオープンマイクの時とかも、どうしても普段の自分よりも強く見せなければいけない、大きく感じさせなければいけないと思ってしまいます。それで学んだこともありますが、やっぱり本当の自分ではないと思ってきて、そこから今の僕達の音楽になっていったのだと思います。今時代的にはスタイリッシュな人たちが歌う、かっこいい曲が多いと思う。そんな中で僕らのこの泥臭さというのは、確かに言われてみれば今あまりない感じもしています」(CHAI)。

「『泥だらけ~』は4人で歌詞とメロディを持ち寄って構成した王道スタイルですが、トラックを作ってくれてプロデュースを手掛けてくださったYANAGIMANさんの感性、力が大きいです」(M.C.L)。

YANAGIMANとの出会いで、自分達を更新できた4人

これまでケツメイシやFUNKY MONKEY BABYSなどを手がけたプロデューサー・YANAGIMANとの出会いが、4人の大きな力になり、進化につながった。

「YANAGIMANさんに最初に言われたのは、今売れているアーティストに勝たないと上にはいけないということです。その人たちをただ眺めているだけではどうにもならない、ということをいわれた時にグッときました」(ALI)。

「そこはやっぱり考えが甘かったことを思い知らされた部分で、逆に覚悟ができました」(JAGA-C)。

「レコーディングの時も、求められるレベルがそれまでとは全然違っていて、歌詞も全部ダメ出しされたり、最初はつらかったですね。でもそれによって自分達のレベルがよくわかったし、これで売れようって思っていたなんて図々しいってメンバー全員が感じました」(M.C.L)。

「それまでは全てセルフプロデュースでやってきたということもあり、YANAGIMANさんの目線で足りない部分を次々と指摘されて、初めて自分達でも気づいたと思います」(CHAI)。

4本のマイクとターンテーブルがあればどこででもライヴができる

4本のマイクとターンテーブルがあれば、どこででもライヴができるのがMACK JACKの強みだ。コロナで活動がストップする前は、月10本ほどのライヴ、イベントを行なっていた。しかしそれが思うように活動ができなくなり、悔しい思いしている。

「バンドと対バンをやる時はアウェイ感を感じることもありますが、今はターンテーブルにマイク4本というスタイルが、自分達にしかできない強みだと思えるようになりました」(CHAI)。

「去年の5月に自分達主催のイベントをやろうと準備を進めていたのすが、直前に中止が決まって、その時は落ち込みました。その後も活動ができなくなって精神的にきつい時期が続きましたが、メンバーで何度も話し合って、今しかできないことをやっていこうと気持ちを切り替えました。もちろん音楽を辞めるという選択はなかったし、逆に今がチャンスだと思っています」(M.C.L)。

「泥だらけドリーマー」が「2021tvk高校野球神奈川大会中継応援ソング」に選ばれる

ちなみにグループ名はリーダーM.C.Lが高校時代愛用していたRawlings(ローリングス)社製の金属バット「MAC JACK」を参考にした。今グループ結成以来最大のチャンスを迎えているMACK JACK。夏の甲子園を前に、そのバットが火を噴く――というのも、このインタビューの後、「泥だらけドリーマー」に最高にマッチするコラボが決まった。7月10日に開幕した「第103回全国高校野球選手権神奈川大会」で、サーティーフォー保土ケ谷球場で行われる全試合を生中継するtvk(テレビ神奈川)の“中継応援ソング”に同曲が選ばれた。さらに7月21日には「泥だらけドリーマー」発売記念配信ライヴを行ない、8月21日には地元・神戸あじさいスタジアムで行われる、野球の関西独立リーグの神戸三田ブレイバーズ主催ナイターでも「泥だらけ~」を披露する。この夏、MACK JACKの言葉とメロディが、多くの人の心に刺さりまくるはずだ。

MACK JACKオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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