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SHIN バンド解散から「地獄」の空白期間を経て復活し、今また大きな注目を集めるシンガーの生き様

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ユークリッド・アーティスト

ViViDのボーカリストとして2011年メジャーデビュー

「いつも首の皮一枚で繋がっている気がします。絶対死なないので運は悪くないはずなんです」――そう語ってくれたのはシンガー・SHIN。ヴィジュアル系バンドViViDのボーカル“シン”として眩いばかりのスポットライトを浴び、多くのファンを熱狂させたスターは、バンド解散後2年間のニート生活を経験。誰もが認める圧巻のボーカルパワーとそのテクニックは、人々の耳に届くことがなかった。味わったことがない不安の中で生活を送る過程で「本当の人間になれた気がする」と覚醒し、ソロ活動をスタートさせる。その歌声はまさに規格外。“圧倒的なボーカリスト”の光と影の日々に迫った。

2015年ViViD解散後、2年間の空白期間を経て再び歌い始める。「あの期間があってようやく“人間”になれた」

ViViDは2011年にメジャーデビューを果たし、翌2012年には日本武道館公演を成功させるも2015年に解散。4年間でシングル6作、オリジナルアルバム2作という短い活動期間だったが『機動戦士ガンダムAGE』『BREACH』『マギ』など数々のアニメのオープニングやエンディングテーマを担当するなど、熱狂的なファンを多く獲得した。バンド解散後、他のメンバーはそれぞれがソロ活動を行なうなど“動いて”いたが、SHINは“止まった”。

「ViViDの解散ライヴ(2015年4月パシフィコ横浜)でも、僕は“これからも歌い続ける”と言って、でもその部分はライヴDVDではカットされていましたが(笑)、すぐにソロでやるつもりでした。でも色々なことがあってうまくいかなくて、結局活動をストップさせてしまいました。SNSもやめて情報も遮断して、まさに姿を消しました。ニートなのでもちろん収入もないし、食費を一日1000円って決めて、貯金を切り崩しながら筋トレばかりやっていて、筋トレ後に食べるプロテインバーが唯一の楽しみでした。朝起きて、カーテンを開けて晴れていることに幸せを感じる、そんな日々でした。それまで苦労らしい苦労ってしてこなかったなってこの時思いました。人の痛みも自分の痛みさえも、そこまで感じてこなかった人生だったんだなって。バンドはいいことも悪いことも、悲しいこともみんなで分割できたので、解散が決まってからも、なんとなかなるだろうというふわふわした気持ちでした。だからこの期間があってようやく人間になれたというか、自分の中に“芯”のようなものができたと思います。ある日、ジムに行く途中、開かずの踏切があって、そこを通る満員電車を眺めていたら、みんななんであんなギュウギュウの電車に乗って働くんだろうと思って…。それは待っている人、誰かのため、もちろん自分の生活のために働いているんだと。僕も待っていてくれているかもしれないファン、好きな音楽、自分の未来のためにもう一度やってみようと思ったら、いてもたってもいられなくなって、ライヴをやろうと思いました」。

新たなスタートとなった、バンド解散から605日後のライヴ

どんなに生活がつらくても、音楽以外のことをしようとしなかったSHINは冒頭の「いつも首の皮一枚で繋がっている気がします。絶対死なないので運は悪くないはずなんです」という言葉を強く感じる舞台を、自ら用意する。ViViD解散から605日後となる2016年12月24日に六本木EXシアターで『SHIN 1st LIVE 20161224「約束」』を行なう。SHINを待ってくれていた人が2000人も集まった。そして「このライヴがなければ今の僕は存在しない」と教えてくれた。

「昔の仲間に手伝ってもらってEXシアターでライヴをやらせてもらって、ご祝儀ということもあって2000人も集まってくれました。その中には今の事務所の会長さんも駆け付けてくださいました。それで事務所への所属が決まり、新しい自分を見せる活動ができるようになって、1stアルバム『Good Morning Dreamer』(2017年8月)を発売することができました。このアルバムにはSHINとしての初期衝動を全部詰め込むことができました。2ndアルバム『on my way with innocent to 「U」』(2018年) では思い切りオルタナティブに振り切ってみたり、3rdアルバム『AZALEA』では新しいことがやりたくて作家(宮崎歩)の方と組んだりしましたが、やっぱり1stアルバムの熱量の高さに負けないものを作らなければいけない、という気持ちが常にどこかにあるくらい、それくらい『Good~』は“強い”アルバムでした」。

初のカバー「GLAMOROUS SKY」が注目を集める

2018年春、初めてのカバー「GLAMOROUS SKY」(NANA starring MIKA NAKASHIMA)を配信し、MUSIC VIDEOも制作するとこれが大きな反響を呼んだ。

「EXシアターでのライヴの後、恵比寿リキッドルームも満杯にできて次の目標はO-EASTという感じでライヴをやっていたのですが、動員が思うように伸びていないと感じて、これは自分の音楽をもっと多くの人に届ける必要があると思いました。ソロを始めた時は“俺の音楽”をいいと思ってくれる人が1000人いたら、その人たちだけのためにおじいちゃんになるまでライヴができればいいと思っていました。でもやっぱり自分の歌を一人でも多くの人に聴いてもらうことこそが、シンガーとしての幸せなのでは?と思うようになって、カバーをやってみました。そうしたらたくさん人にいいねと言っていただけて」。

YouTubeチャンネル「SHIN LOID」は登録者数10万人超え

歌が届いていることの喜びを再認識したSHINは、2018年12月にYouTubeチャンネル「SHIN LOID(シンロイド)」を開設し、カバー動画やコラボ動画を次々と配信し、登録者数は10万人を超えている。そのコメントには、ViViDの時代のSHINを知らない、新しいファンからの絶賛コメントが数多く寄せられている。2019年にはストリートライヴも行なった。また、SHINのボーカル力に魅かれた人達から様々なオファーが届くようになる。人気番組『THEカラオケ★バトル』(テレビ東京系)にも登場し、当日の最高点を叩き出した。

「カバー動画を始めたのが早かったこともあって、周りからも『こういうことやるようになったんだ』とか色々言われました。でも僕にはキャリアやプライドよりも、歌を聴いてもらうことの方が大切なので、なんとも思いませんでした。『THEカラオケ★バトル』のオーディションを受けた時も、プロデューサの方から『あまりミュージシャンの方はこういう番組に出たがらないのですが、大丈夫ですか』って逆に心配されて、その時も『今この時代に自分の歌を広げられる機会をいただけるのはありがたいですし、そんなことを気にしている人から消えていきます』と言いました(笑)。今は以前から応援してくださっているファンと、SHINになってからのファン、半々くらいになっていて男性ファンも増えました。YouTubeチャンネルの登録者も実は男性の方が多いんです。バンド時代も、ソロになってからも、自分がやってきたことは間違いではなかったと思っています」。

SEESAW
SEESAW

「カッコいいヴィジュアル系をやりたくて」NIGHTMAREのギタリスト・咲人とSEESAW結成

2020年にはソロ4年目で初のシングルとなる「RE:(アールイー)」をViViDのベーシスト・イヴと制作したり、NIGHTMAREのギタリスト・咲人とSEESAW(シーソー)を結成し、4月にシングル「弾丸アラート」でメジャーデビューした。自分の中で鳴っている様々なロックを、様々な形で聴き手に届けている。

「SEESAWではむちゃくちゃカッコいいヴィジュアル系をやりたくて。ソロとSEESAWとカバー動画で、今現在のSHINはきちんと表現できています。これからどう変化していくか自分でも楽しみです」。

「ソロになってずっと支えてくれているファンひとり一人に、感謝の気持ちを伝えたい」

強い推進力で、道を切り拓いている中での、昨年から続くコロナ禍での生活。表現者としてこの状況をどう捉え、どう進んでいこうとしているのだろうか。

「色々な制限で思うように活動ができないこともあって、辛いこともあります。でもあの2年間の地獄のような辛さを経験しているので、落ち着いていられます。それでも、コロナに自分の心と体を潰されないようにして生き延びる、という気持ちが強いです。生き延びて、ソロになってからずっと支えてくれているファンクラブの方一人ひとりに、感謝の気持ちを改めて伝えたいです。ファンを始め、色々な人に支えられて、今ようやくスタートラインに立てたというのが実感です」。

真っすぐな気持ちで、とにかく前に進もうとしているSHINの瞳からは強い光を感じ、パワーが漲っているのを感じた。

SHIN オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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