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小山豊 多方面から注目の津軽三味線奏者の作品が、小説・舞台・ドラマ『向こうの果て』と“セッション”

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

民謡界の革新者・津軽三味線小山流三代目・小山豊

津軽三味線小山流三代目・小山豊。昨年アルバム『obi』でメジャーデビューし、伝統音楽・民謡に尊敬と理解を示しながら、自由自在に進化させた音楽を提示してくれた。その活動は民謡界だけにとどまらず、アニメ、ゲーム音楽を始め、嵐やSixTONES、ずっと真夜中でいいのに。など話題のアーティストの作品にも参加するなど、まさに自由自在、縦横無尽にエンタメシーンを駆け抜け三味線の素晴らしさ、民謡のよさを伝えている。

『obi』(2020年8月12日発売)
『obi』(2020年8月12日発売)

そんな小山の『obi』に収録されている作品「時雨」が起点となり、小説・ドラマ・舞台というメディアミックスが実現する。それが『向こうの果て』だ。人気劇団ゴツプロ!の公演で初の女性キャストとして小泉今日子を迎える舞台『向こうの果て』(脚本・竹田新/演出・山野海)が下北沢・本多劇場で4月23日に開幕(4月24日まで有観客公演、4月30日まで無観客にてauスマートパスプレミアムでマルチアングル生配信)し、5月14日からはドラマ(主演・松本まりか/監督・内田英治)がWOWOWでスタートする。同名の小説(竹田新 著)も幻冬舎から発売された。主題曲を作曲した小山に、「時雨」と『向こうの果て』の関係、舞台とドラマの音楽について、さらに自身の多岐に渡る活動についてインタビューした。

『向こうの果て』(竹田新 著/幻冬舎)
『向こうの果て』(竹田新 著/幻冬舎)

小山豊「obi」が小説・舞台・ドラマとメディアミックス

――アルバム『obi』に収録されている、小山さんがずっと大切にしてきたバラード曲「時雨」が『向こうの果て』と化学反応を起こし、メディアミックスへと展開されます。同作はゴツプロ!の座付き作家・竹田新(女優・山野海の別名義)書き下ろしの物語ですが、どのようなきっかけで「時雨」が起用されることになったのでしょうか?

小山 『向こうの果て』は山野さんが書いた原作です。ゴツプロ!ではここ数年津軽三味線や阿波踊り、民謡など日本の伝統文化を取り入れた人情劇をやることが多かったのですが、『向こうの果て』は”男と女の物語”で、この物語に合う三味線の曲はないかと山野さんから相談をされたのがきっかけです。その時「時雨」を聴いてもらったら「曲全体にスペースがあってイメージを投影しやすくて、深くて切なくて、でも真ん中の芯は温かいところが、ストーリーと同じ。これしかない」と言ってくださいました。

――小山さんと山野さんは、古典の戯曲を二人で奏でる「tagayas」としても活動しています。三味線×朗読という珍しいスタイルですが、このユニットはどういうきっかけで生まれたのでしょうか?

小山 ゴツプロ!さんと一緒にやるのは今回で4作目なんですが、最初は三味線を使った舞台をやるので協力して欲しいという話から始まり、主宰の塚原大助さんを始め劇団員の方に一年間三味線を教えて、初演に臨みました。5年程お付き合いがある中で、その時山野さんは脚本ではなく演出を手掛けていたので一緒にやってはいなかったのですが、山野さんが「私も何かやりたい」と。それで俳優と音楽、異業種ながら”文化を耕す”というコンセプトを基に山野さんの盟友である小泉今日子さんにプロデュースを依頼、快諾して頂き共に創作をしています。言葉を追いながら音を出すのですが、ここでこういう音を求めているんじゃないかなというのが感覚としてわかるんです。民謡の唄付けとよく似ていて、役者さんの呼吸の“間”に合わせて音を入れるのが、すごく好きなんです。山野さんはすごい女優さんなのでそこがわかりやすく、その時その時でお互いがその場で出し合う。これもセッションなんです。

舞台『向こうの果て』(宣伝衣装協力:YOHJI YAMAMOTO Inc.)
舞台『向こうの果て』(宣伝衣装協力:YOHJI YAMAMOTO Inc.)

「昔から三味線で情景描写をやっていて、その蓄積でどんなシーンでも応用が効く」

――山野さん、ゴツプロ!主宰の塚原さん、小山さんの対談記事を読ませていただいて、塚原さんが小山さんについて「舞台の稽古中にその場でどんどん音楽を作るのが凄い」とおっしゃっていて、「しかもその音楽はよりミニマムなものを追求していて、それは演技にも通じる感覚です」とおっしゃっていたのが印象的でした。

小山 今も舞台『向こうの果て』の音楽を作っています。現状ではたくさんの音が乗っていて、でもそこからどんどん削っていって、結果的には音がなくなるんじゃないかと思うくらいです(笑)。公演中もどんどん変わっていくと思います。曲に余白というか、ここはセッションにしようと最初から決めている箇所もあって、そこは毎回お楽しみの部分です。昔から三味線で情景描写をよくやっていて、例えば“春の風”というお題だったらこういうイメージかな、とか蓄積があるので今回の舞台もそうですが、どんなアーティストやシーンでも、応用が効くのだと思います。アニメやゲームも事前に脚本をいただけるものもあれば、タイトルも伏せられていて、曲をいただいてそこに三味線を乗せるということも多々あります。で、発売されてから「あれ、この音楽やった気がする」ということもよくあります(笑)。

ドラマ『向こうの果て』(監督:内田英治,主演/松もまりか/WOWOW 5月14日~全8話)
ドラマ『向こうの果て』(監督:内田英治,主演/松もまりか/WOWOW 5月14日~全8話)

ゴツプロ!の求心力

――舞台では生で演奏しますが、ドラマでは音楽への向き合い方は、やはり違いましたか?

小山 今回苦戦したのが、小説を読んだ時に例えば登場人物の表情を想像しますが、ドラマになった時はその役者さんの顔が見えて、舞台ではまた違う役者さんが演じるので、音やリズムが見つけづらくて手こずりました。でもそれが逆に面白かったです。ドラマは脚本の山野さんが描きたいものと、内田英治監督の描きたいものがそれぞれあるので、そこも音楽を作る上では難しかったです。山野さんとは「噓がないものを作ろう」という話をしました。例えば、小説に出てくる青森県弘前市の三世寺という街は、僕の祖父が育ったところで、その街の描写、そのシーンで流れる音楽は監督ともよく話し合って表現しました。

――先ほど出ましたが、ゴツプロ!との関係はどういう感じでスタートしたのでしょうか?そして小山さんから見たゴツプロ!の魅力を教えてください。

小山 ゴツプロ!さんと出会うまでにも、いくつかの劇団と一緒にやる機会がありました。でも自分の技量が追いつかず納得がいくものではありませんでした。ゴツプロ!さんに声を掛けていただいたときも、面白そうだなと思いつつも、それまでの感覚が残っていたので「どうなんだろう?」と少し懐疑的に感じながら参加してみると、これが抜群に面白くて。とにかくその求心力がすごくてかっこいいんです。そんな姿に僕もそうですが、お客さんもどんどん引きつけられて、どんどん人気劇団になっていきました。役者のみなさんの真摯な姿勢はとても勉強になりますし、いくつになっても舞台で輝けるあの姿は、自分も目指すべきものだと思いました。小劇場発の劇団が色々な人を巻き込みながらどんどん大きくなっていくさまを、この4年間目の当たりにして勉強になります。

――小山さんは本当に様々な分野で、色々なアーティストや作品のレコーディングに参加しています。

小山 海外の方によく聴いていただけているようで、アメリカやブラジルからオファーをいただいたり、先日は『obi』を聴いたという香港のプロデューサーから「民謡を広東語でもやりたいので弾いて欲しい」と連絡をいただき、レコーディングしてきました。日本の場合は、長きに渡ってお付き合いさせていただているプロデューサーやミュージシャン、関係者の方が多く、三味線が必要になったら「じゃあ小山呼ぼう」という感じになっているのだと思います(笑)。

――現在注目のアーティスト、ずっと真夜中でいいのに。の2ndアルバム『ぐされ』に収録されている「機械油」にも参加しています。

小山 “ずとまよ”のことは、申し訳ないのですが最初は存じ上げなくて、担当者から「『ずっと真夜中でいいのに。』ですけど…」と話をされて、スケジュールが真夜中のレコーディングだと思ってしまって(笑)。でもその音楽を聴かせてもらったら、ものすごい才能の持ち主で世界観がすごくて、そういうアーティストのレコーディングに参加できて光栄でしたし、久しぶりに楽しいレコーディングでした。レコーディングに参加しているのは若いミュージシャンの方ばかりで、みなさん自分のパートを録り終えてもスタジオに残って、もっとこうしよう、ここはこの方はカッコいいとか、色々アイディアを出し、セッションしているようでした。僕は16小節くらいのソロパートがあって、ジャズっぽい感じやラテンっぽい感じで弾いたのですが、最後に「津軽っぽいものを」とリクエストされたのでそれを弾いたら「すごい!それ新しいですね!」と、結局それがOKテイクになって、若い人たちにとってはオリジナルの音のほうが奇抜に感じるのだと思いました。

――今をときめく若いアーティストに、三味線の音を評価されるのは嬉しいですよね。

小山 若い人に三味線の音色を届けることができて、こんなに嬉しいことはありません。そのためにこの活動をやっているようなものです。

「野外でライヴやり、“空間とセッション”したい」

――自由に色々な人と“セッション”を楽しんでいますが、小山さんがこれからやりたいことを教えてください。

小山 野外でライヴをやってみたいです。環境音も含めて音楽として捉えて、やる場所の重要性にフォーカスして活動できたらなと思っています。例えば神社仏閣や雑木林とか、自然の環境で演奏した時に、その空間がどうなるか、空間とセッションするというか、そこでレコーディングもできたら面白いものができそうな気がしています。そこでいつも一緒にライヴをやっているピアニストの林正樹さんと演奏したいので、グランドピアノをどうやって運ぶのかを考えなければいけません(笑)。(2021年4月10日 取材)

ゴツプロ!『向こうの果て』特設ページ

WOWOW『向こうの果て』オフィシャルサイト

幻冬舎 オフィシャルサイト

小山豊 オフィシャルサイト

ソニー・ミュージックダイレクト 小山豊『obi』特設ページ

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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