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いきものがかり 有観客ツアー初日でファンと共に涙「僕らとみなさんを繋げるのは音楽だけ」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/ハヤシマコ(hayashi maco)

吉岡聖恵
吉岡聖恵

考えられる感染症対策を徹底的に行ない、有観客ツアー初日大阪城ホール公演を開催

4月14日(水)、『いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! THE LIVE 2021!!!』が大阪城ホールで初日を迎えた。大阪では新型コロナウイルスの感染者が増えていることが、連日ニュースなどで報じられていて、チケットの払い戻しも可能というアナウンスが流れ、また中止になってしまうのかという心配がファンの間には広がった。それはメンバー、スタッフも同じだ。難しい判断が迫られる中、開催を決定した。関係省庁、団体のガイドラインに沿った感染対策に則り、会場の外では「来場者情報」の入力・送信を行なってもらい、入場の際に、一人ずつ「入力完了ページ」の確認を徹底させていた。そして新型コロナウイルス接触確認アプリ『COCOA』のインストール確認も行い、検温、消毒、マスク着用を義務づけ、考えられる対策を徹底し、通常の半分の動員に抑え、ソーシャルディスタンスを確保していた。こんな大阪城ホールの光景は初めてで、ショックだった。しかしコロナ禍でのライヴはここまでしなければできない、ここまでしてもファンはライヴを観たい。

客席出入口のドアも開けたまま、ライヴが“静かに”スタート。まずは三人が登場し客席を見渡す。いきものがかりは、3月14日に横浜アリーナで無観客オンラインライヴを行ない、誰もいない客席で歌った。あれからちょうど一か月、3人の目には全員がマスクをし、その登場を待ち浴びていたファンの姿はどう映り、何を感じたのだろうか。「僕らとみなさんを繋げるのは音楽だけ」という水野良樹の言葉が胸に響く。ツアー自体が6年振りになる。「一体何をやっていたんだろうと思っていたら、放牧していました」と山下穂尊が言うと“静かな笑い”が起こる。クラシックコンサートのような静けさの中で、バンドメンバーを一人ひとり迎え入れ、一曲目「からくり」からスタート。

水野良樹
水野良樹

山下穂尊
山下穂尊

まだツアーは始まったばかりなので、セットリストの詳細を書くことは控えたいが、最新アルバム『WHO?』(3月31日発売)からの楽曲を始め新旧のヒット曲を、バンマス本間昭光が率いる最高のミュージシャンが揃うバンドの極上の音に乗せ、吉岡聖恵の伸びやかな歌が客席の隅々にまで響き渡る。そう、空気が震え、心と体にその振動が伝わってくる感覚を、お客さんは久しぶりに体感し心が潤っていく。メンバー、バンドも感じているはずだ。

「やっと会えたね」

「やっと会えたね」――一番感じていたこと、伝えたかった言葉を水野が伝える。さらに「去年ツアーが2本も中止になって、それでもへこたれずにもう一回チケットを買ってくれてありがとう」と、この日ライヴに来るという選択をしてくれたファンに、感謝を伝えた。「リーダー最初から(瞳が)ウルウルしてたよね」と吉岡が語っていたように、誰もが色々な思いを抱え、久々に、魂の交感の場であるライヴに臨んでいる。「アイデンティティ」では、吉岡と一緒に客席も大きく手を振り、心の中でラララと歌っていた。どこかシリアスな空気を感じる新曲「きらきらにひかる」では、客席をグッとひきつけ、さらに近い距離で歌ってくれているような感覚にしてくれる。バンドの演奏が熱を帯び、吉岡の歌と相まって、会場の温度も上昇していくようだ。

MCでは誰もが気になっていた「放牧」の事実と裏側や、吉岡の結婚報告と、本当は去年伝えたかった“積もり積もった話”を丁寧に伝えていた。「BAKU」を歌う前には、「立てる人は立ってみましょうか」と、声出し、タオル回し禁止のライヴの中で、できることを最大限楽しむべく水野が客席に声をかける。お客さんはタオルを広げ、誇らしげに前に突き出す。いきものがかりの歌はファンに寄り添い、ファンはいきものがかりにいつも寄り添っている、そんなメッセージがステージに向け、送られたようだった。ライヴには欠かせない「じょいふる」もタオルではなく手を回し、楽しむ。

「色々なことを乗り越えて、今日来てくれてありがとう」

「色々なことを乗り越えて、今日来てくれてありがとう。日本一おしゃべりな街なのに、みんなしゃべれなくて…。またいつかみんなでお祭り騒ぎしましょう」と吉岡が瞳を潤ませながらメッセージ。そして名曲「風が吹いている」。その溢れる思いを歌に込め、吉岡が懸命に歌う。スケール感がある、でも繊細な楽曲だ。客席に感動が広がっていくのが伝わってきて、多くの人が涙を拭っている。誰もが、先が見えない不安な毎日を過ごす中で、音楽がささやかであるが、でも大きなエネルギーとなって聴き手の心に何かを届け、それが心の支えになるのだ。だから、ここまでしても、ファンはライヴを観たい。歌の強さ、音楽の豊かさを改めていきものがかりは教えてくれる。

当然アンコールの拍手は鳴りやまない。「こんな状況の中で、丁寧に暮らすこと、ありふれた日々をきちんと前に進めたいという思いを込めて書きました」(水野)という新曲「TSUZUKU」を、吉岡がひと言ひと言丁寧に伝えるように歌う。

圧巻のバンドサウンドが歌を盛り上げ、聴き手の感情も盛り上げてきたこのライヴのラストに3人が選んだのは、3人で歌う“始まりの歌”「SAKURA」だ。アコギとハーモニカ、歌というシンプルなスタイルだからこそ、歌の強さ、メロディの美しさが際立ってくる。大きな拍手が沸き起こる。全て歌い終えた3人は、何度も何度も客席に名残惜しそうに手を振り、感謝の言葉を伝える。

「今日のライブは絶対に忘れることはない」――ファンから感動のコメントがSNS上を飛び交う

ライヴ終了後は、SNS上にファンからの熱いコメントが飛び交った。「声出せないから色々不安があったけど一体感があってよかったー」「観客数制限に加え、泣く泣くキャンセルした人もかなりいたと思う。声出しもタオル振り回すのもNG 今まで見たことのない城ホールの光景…でもなぜだろう、本当にあたたかい」「今日のライブは絶対に忘れることはないと思う」「何か心がフッと軽くなった。重く、どこにも置き場所のなかった荷物を一旦下ろせた感じ。まあ、言うならば前向きになれました!!」「今日もマスクが濡れマスクになるほど最幸のライブでした。汗と心の汗が流れました」――これだから演奏する側も、聴き手もライヴはやめられないのだ。ライヴは止められない――このツアーはこの後、4月24・25日愛知・日本ガイシホール、5月7・8日千葉・幕張メッセ、そして6月10・11日には地元・神奈川・横浜アリーナで行なう。

いきものがかり オフィシャルサイト

BSフジ『BSいきものがかり』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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