Yahoo!ニュース

岩田剛典×新田真剣佑 映画『名も無き世界のエンドロール』が描く絆の意味 “その後”の物語にも注目

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
(C)行成薫/集英社 (C)映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会

岩田剛典と新田真剣佑が共演。人が人を思いやる気持ち、深い絆を描くサスペンス

三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのパフォーマーとして、また先日公開され大ヒットになった映画『新解釈・三國志』などにも出演し、俳優としても活躍している岩田剛典と、新田真剣佑の共演で話題を呼んでいる映画『名も無き世界のエンドロール』が、1月29日公開された。二人のイケメンが揃うと、“キラキラ”した映画と思う人もいるかもしれないが、濃厚なサスペンス・エンターテインメントで、しかしひと筋縄ではいかないサスペンスだ。人の気持ち、記憶を丁寧に掬い取って描き、謎に満ちたストーリーの中での二人の、光と影の濃淡をはっきり感じさせてくれる演技は、それこそキラキラと輝いている。「ラスト20分の真実。」というキャッチコピーが付いているが、そこに至るまでの構成が濃密がゆえに“衝撃のラスト20分”になっている。

原作は行成薫の同名小説、監督は『ストロベリーナイト』を始め数多くの人気作を手がけた佐藤祐市。物語は―――

複雑な家庭環境で育った、幼なじみのキダ(岩田)とマコト(新田)。そこに同じ境遇の転校生・ヨッチ(山田杏奈)も加わり、3人は支え合いながら青春時代を過ごす。しかし20歳の時に、ヨッチが突然いなくなってしまう。そして彼らの元には、政治家の令嬢でトップモデルのリサ(中村アン)が現れ、興味を持ったマコトが食事に誘うが、全く相手にされない。キダは「住む世界が違うからあきらめろ」と忠告するが、マコトは仕事を辞めて姿を消す。そして2年後、裏社会に潜り込んだキダは、ようやくマコトと再会。マコトは、リサにふさわしい男になるために、会社経営者に転身しようとしていた。2人は10年もの歳月をかけて、表と裏それぞれの社会でのしあがり、マコトはリサに近づき、プロポーズをしようとする。しかしそれは、日本中を巻き込む10年にも渡る壮大なプロポーズ作戦だった――。

最初は、高校生三人が織りなす青春の日々が明るくポップに描かれ、「三人でできている世界」が眩しい。しかしその空気は徐々にシリアスに、ダークになっていく。そんな三人だけの世界こそが、ラストに向け熱を帯びて、観る側の心に響いてくる。「世界が違うんじゃない、分けられているだけなんだよ」という言葉を残し、キダの前から姿を消したマコトを、裏世界の交渉人となって探すキダ。彼こそがこの作品のストーリーテラーで、岩田の一挙手一投足、表情の動きに、観客の感情は揺れる。キダとマコトの現在と過去が交錯し、そこに鮮やかなコントラストが生まれ、さらに展開が読めないスリリングさが、ストーリーへの没入感を高める。キャッチコピーにもなっているラスト20分は、リサの感情も大きく動き、それぞれ演者のエネルギーが爆発し、その演技からは熱いものが伝わってきて、インパクトを与えてくれる。

須田景凪が書き下ろした主題歌「ゆるる」が物語に溶け込み、そして光を当てる

この映画の大きなテーマとなっている“絆”を、より深いメッセージとして伝えてくれるのが、須田景凪が書き下ろした主題歌「ゆるる」だ。須田はこの楽曲について佐藤監督から「虚無感を書いて欲しいと言われました。虚無感や寂しさは人によって価値観が違うけど、より多くの人に当てはまるようにこの曲を書きました」と、プロモーション映像の中で語っている。須田はこれまで2019年の『二ノ国』、2020年の『水曜日が消えた』で映画主題歌を担当している。自身の音楽もそうであるように、抜群の距離感でそこに、その人に寄り添い、溶けこむ歌詞とメロディを作り上げる。この作品でもキダの心情を代弁しているような言葉を紡ぎ、まさにエンドロールまで観て完結するタイプの映画の一翼を担っている。

この映画は観たあとに、すぐに「こういう映画だった」と説明するのが難しい作品、つまり心の深いところで様々なは感情が交差する良作に仕上がっている。原作に感じる、悲しみや憎しみを超えるほどの喪失感を、人はどのように受け入れ、昇華させるのかという深いテーマが、より薫り立ってくる。

しかし、キダの物語はこれで終わりではなかった――。

(C) 行成薫/集英社 (C)映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会 (C)エイベックス通信放送
(C) 行成薫/集英社 (C)映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会 (C)エイベックス通信放送

映画のその後を描いたdTVオリジナルドラマ『Re:名も無き世界のエンドロール~Half a year later~』

映画のその後を描いた、全3話のオリジナルドラマ『Re:名も無き世界のエンドロール~Half a year later~』が、映画公開日と同日の1月29日からdTVで配信される。映画の原作者・行成薫が書き下ろした、本編とは違うストーリーで、映画のラストから半年後が描かれている。キダは今どうしているのか――映画を観た人が感じることを映し出したドラマで、新しいヒロイン・ミチルを演じるのは松井愛莉。そんなミチルが偶然「1日あれば、世界は変わるんだからさ」と、以前ヨッチが言っていた言葉を口にする。幼なじみ3人しか知るはずのない言葉を口にしたミチルに興味を抱いたキダは、彼女の素性を突き止めようとする。ここからドラマが動き出す。

あのクリスマスイヴから半年後、キダが孤独を纏い過ごしていたことがわかる冒頭。しかしミチルの存在が、キダの人間性にさらに光を当て、やはり魅力的な男だということが伝わってくる。映画では観られないキダを観ることができ、また映画の中でのキダも垣間見ることができる。

ミチルが働く店のオーナーで、人を恐怖で支配するケイ役に金子ノブアキ、また、新田真剣佑、山田杏奈、石丸謙二郎、柄本明と映画出演キャストも顔を揃える。様々な映画やドラマへの出演を経験し、役者としての引き出しを増やし続ける岩田。そしてキダという魅力的なキャラクターに辿り着いた。そう感じさせられるほど見事に演じ切っている。このドラマを観終わると、さらにキダという人間の人生が観たくなるはずだ。

映画『名も無き世界のエンドロール』オフィシャルサイト

ドラマ『Re:名も無き世界のエンドロール~Half a year later~』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事