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現代美術家・笹田靖人 東方神起とのコラボは「二人の絆、信頼し合っている証を表現したかった」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン

0.3ミリのボールペンから生まれる、緻密かつ大胆な唯一無二の世界観

0.3ミリのボールペンが描き出すその世界観はどこまでも繊細で、それを突きつめた先に表れる圧倒的なエネルギーに、見た人全てが衝撃を受け、そして多くのエネルギーを受け取る――そんな現代美術家・笹田靖人が放つエネルギーと、今年日本デビュー15周年を迎え、多くのファンを熱狂させている東方神起とのコラボが実現。企画展『TOHOSHINKI 15th ANNIVERSARY MUSEUM “XVision”』として、11月の東京を皮切りに、来年4月まで全国で開催される。東方神起との出会いからコラボが実現するまで、笹田の東方神起愛が炸裂した激アツインタビュー。果たしてその熱さをまっすぐ届けることができるのか――。

高校時代、韓国からの留学生に教えてもらった東方神起の存在

まずは、笹田と東方神起からの出会いから教えてもらった。

「岡山県の高校に通っていた時、そこに交換留学生で韓国から女子留学生がやってきました。それで彼女たちと好きな音楽やアーティストの話をしていて、そこで韓国では東方神起さんが人気だと聞いて。韓国に帰った彼女たちからクラスにお土産が送られてきて、その中に東方神起さんのCDも入っていて、まだ日本デビューされる前でしたが、そこで初めて聴きました。そこから時を経て、東方神起さんのスタッフの方から、日本デビュー15周年記念の企画で、様々な展示を通して東方神起を体感できるミュージアム“XVision”を開催するので、その中で東方神起を表現してみませんか?と声をかけていただきました」。

元々東方神起のスタッフが笹田の個展に足を運んでいたこともあり、東方神起と笹田、同世代のアーティストがコラボした時に生まれるケミストリーを想像したのかもしれない。東方神起スタッフは改めて笹田のアトリエを訪れ、作品と本人と向き合い今回のコラボが決定した。そして笹田は昨年11月に行われた『東方神起 LIVE TOUR 2019 ~XV~』の東京ドーム公演で初めて彼らのライヴを体感した。

初のライヴで大興奮、『ちょっと待って、目が合ったよ!』

「2階席の一番前で観させていただきました。まずステージが巨大でビックリして、お二人がトロッコに乗って会場を回ってくれたのですが、途中で2台のトロッコが合体して、お二人が僕達の前で踊って、こっちを指さしてくれるんですよ!そんなはずもないのに『ちょっと待って、目が合ったよ!』って興奮して(笑)。ライヴは芸術という感じでした。視覚的にもすごくて、凝った演出で、MCも面白いですし本当にカッコよかったです。幕間に流れたストーリー性の高い映像にも、うるっときてしまいました。興奮状態のまま終演後、お二人に初めてご挨拶させていただきました。ツアーのスタッフTシャツを僕が作らせて頂いていたのですが、それをお二人がわざわざ着てくださっていて。そのTシャツはPAの方を始め、ツアースタッフのみなさんが客席で、僕が背中に描いた絵をファンのみなさんに見せて下さっているような気がして、とても誇らしい気持ちになりました。お二人はビッグスターなのに、こちらが恐縮してしまうほどの低姿勢で接してくださって、『一緒に頑張りましょう』と盛り上がりました。実はその時お二人の横顔を徹夜して描いて持っていったんです。自己紹介だけしても何者かわからないと思い、僕の情熱を見てもらおうと思って…。そうしたらお二人がとても褒めてくださって。『こんなにうまく書いてくれたのは初めてです』って言ってくださって、本当に嬉しかったです。その興奮を持って帰って、展示会で使われるかどうかは関係なしに、猛烈に描き始めました」。

「コラボが決まって、東方神起さんのファンの方からいただいたメッセージの数々に、本当に感激しました」

追加も含めて、結果的に30点近い作品を描いたという。ライヴで受けた衝撃、そして二人の人柄やストーリー、あの日感じたこと、音源から伝わってくるメッセージなどを全て掬い、溢れ出てくるものをとにかく作品へと昇華させていった。それは本人の性格、制作手法でもあった。

「絵を描いている人間って、やっぱり途中経過を見られるのが嫌なんですよ。途中まで仕上げたものを、意見を取り入れて変えると、自分のいいところ、熱が薄まってしまうと思っていて。でも今回は思い切りやらせて下さいました。この企画展は当初春に開催予定だったので、そんなに時間がなかったのでとにかく描いていきました。それとすごく嬉しかったことが、今回の企画を発表した時に、僕のInstagramって普段は海外の方からコメントが数件届くくらいなのですが、東方神起さんのファンの方達から本当にたくさんコメントが届いたことでした。そのコメントは『東方神起とコラボレーションしてくれてありがとうございます』っていうものがほとんどで、僕の方からしてみれば「こちらの方こそありがとうございます」という思いだったので、感激しました。東方神起さんって本当にファンに愛されているんだってその時改めて感じ、本当に嬉しくてそれが心の支えになって、頑張ることができました。今でもそのコメントを見返して、心の栄養にしています。よくアーティストの方たちが、ファンの人達の声、応援してくれる気持ちが嬉しくて、頑張ることができるということをおっしゃっていますが、実際に自分がそういう言葉や思いを受けると、こんなにも嬉しいものか!と。こんなにもしびれるものなのかということを実感しました」。

「実は男性を描くのは初めてなので、すごく想像が膨らみました」

アーティスト本人はもちろんファン、そしてスタッフを含む“チーム東方神起”に惚れたという笹田のペンは冴えわたり、作品は完成し、延期になっていた企画展も11月28日に東京で初日を迎えた。

「実は男性を描くのは初めてということもあって、すごく想像が膨らみました。お二人を虎(ユンホ)と鹿(チャンミン)にイメージしたものや、彼らが好きなものを画の中に潜ませて描いたり、Tシャツになっている“機械戦士”では二人が向きあっていて、これは二人の絆、信頼しあっている証のようなものを描きたかったんです。だから展示では2枚の画がひとつの額に入って飾られています。色々なアプローチをして色々なことをやって、お二人のドット絵を立体物にしたり、かなり技術的難しい事を工場にお願いしてやっていただきました。あんなにエネルギーのある東方神起のライヴを観ることができなくて、ファンの方はかなりストレスを感じていると思います。少しでもこの企画展でお二人と僕のエネルギーを感じていただけると嬉しいです。僕はできれば来て下さったおひとりお一人に、ありがとうございますとお伝えしたいです。

笹田の元には次々とコラボレーションの話が舞い込んでくる。現在とりかかっているのは、“かわいすぎる台湾チアガール”と話題になっているチュンチュンの1st写真集『一見峮心』とのアートコラボTシャツだ。チュンチュンも笹田の作品のファンということもあって意気投合、お互いのInstagramを“いいね”し合う間柄だ。

「チュンチュンさんの好きなものをひとつの画にまとめています。これから公開されていくので『ファンも、チュンチュンさん自身も喜んでくれるかな』って気になります(笑)」。

「コラボレーションは学習の場、自分の作品の深みにつながる」

改めて笹田にとって“コラボーレション”とはどんな“場”なのだろうかを聞いてみると――。

「コラボレーションにも色々あって、例えばYohji Yamamotoさんとは、同じクリエイターとしての製作のコラボレーションになります。『僕はここまでやるから、あとは任せる』というやり方で100%のものにしようという感じで製作しました。ミュージシャンやタレントの方とのコラボレーションは、僕に全て任せていただくことが多いです。自分の発想だったら描かないものを描くということになります。例えば東方神起さんの鹿や虎、チュンチュンさんならエジプトのスフィンクスとか、その方の好きなものや興味があるものを教えていただいて、そこには僕がこれまで目を向けていなかった素材がたくさんあります。そのモノに対して、色々と調べて『ここに使おうかな、あそこに使おうかな』と考えることが、自分の作品に奥深さをもたらせてくれるというか。だからコラボレーションはすごく重要なもので、定期的に行なっていきたいです。自分の中にあるものだけではとても足りないし、他のものがほしいです。相手の好きなものを知って、それを自分の中に取り入れて消化して、昇華させて自分の色を出して、また自分の次の展覧会に生かしていく。だから僕にとっては必須というか、コラボーションというよりは“学習の場”という言い方が合っているのかもしれません。相手のものを盗みにいくような感覚です。今度は何を描かせてくれるんだろうという、ありがたくて楽しみな場です」。

「みなさんに作品を観ていただけること、そしてその反応が“心の栄養”になります」

コロナ禍で、色々な人が色々な思いでこれまでとこれからに向き合ったはずだ。芸術家は今回のような状況の中、その胸中はどのようなものだったのだろうか。

「大分心がやられました。シンプルなんですが自分の生活のリズムがあって、“作品を溜めたら出す”という行為で、作品を世の中に出した時に、みなさんからの反応でやる気が出ます。社会に認知されている、みんなに観てもらえているという感じで、そういう“心の栄養になる”ことがこれまでは当たり前にありましたが、でもそれが出せるときに“出せなくて”、それでも次に行かなければいけない状況になると、そのモチベーションがかなり下がってしまいます。東方神起さんの作品に関しても、15周年は1回しかなくて、それが過ぎてしまうと、意味がなくなってしまうのではとも思いました。僕のスタッフさん達が、猛烈にやる気が出ることを言ってくれて、それに支えてられてやってきた感じです」。

「一年に一回個展をやって、その場でみんなが感想をくださったり、みんなの顔を見て、しゃべってということでバランスを取ってこれまでやってきたのが、作品を発表できないということで「みんなに観せることができないのにずっと描くのか?」と、毎日電話がかかってきていました(笑)」(マネージャー)。

「逆に、描いてみなさんに観てもらうということが、こんなにも栄養になっていたんだということに気づきました。でも後から考えると、めちゃくちゃ製作に集中している期間でした。だから第三者からみると最高にいい製作時間だったじゃないか、ということなんですよね」。

東方神起『XVISION』特設サイト

笹田靖人オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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