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斎藤工 ドラマ『共演NG』で演じる“ショーランナー”を語る「視聴者の目線の先にあるものを見せる存在」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
(C)「共演NG」製作委員会

注目ドラマ『共演NG』でショーランナー・市原龍を演じる。「ショーランナーという職業を見せること自体が、このドラマを多角的に見せている」

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今クールのドラマの中でも話題を集めているといえば、なんといっても『共演NG』(テレビ東京系/毎週月曜22時~)だろう。秋元康企画・原作、大根仁脚本&監督、中井貴一と鈴木京香が共演する豪華な布陣でも注目を集めている。「テレビ東洋」を舞台に、ドラマ制作の裏側を描くラブコメディで、この劇中劇『殺したいほど愛してる』の全てを取り仕切る“ショーランナー”という、日本ではあまりなじみのないポジションの役で、存在感のある演技を見せているのが斎藤工だ。このドラマについて、そしてハリウッドではメジャーな存在のショーランナーの役割について、映画製作にも注力している斎藤にインタビューした。

「ショーランナーって、テレビを観ている人には伝わらない職業だと思いますが、その職業を見せること自体が、このドラマを多角的に見せることができているなと、自分が演じる、演じないは関係なく思います。とても興味を持ちました」。

このドラマへ、そしてショーランナーという役へのオファーが来た時にまず感じたことをそう教えてくれた。さらに“製作総指揮”と訳されるショーランナーの仕事について「映画『トランスフォーマー』などを手がけるマイケル・ベイ、そしてスティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスとか、自分で撮るのではなくそのポジションで色々な人を動かしている人」と具体的に教えてくれた。劇中劇『殺したいほど愛してる』のショーランナー・市原龍を演じる斎藤に、この『共演NG』というドラマを俯瞰で捉えると、という質問をぶつけてみた。

「中井貴一さん、鈴木京香さんをキャスティングできた時点で、勝っているドラマ。大根監督の脚本が素晴らしい」

「中井貴一さんと鈴木京香さんをキャスティングできた時点で、ひとつ勝負には勝っていると思います。そこに何が付随していけば総力が上がるのか、という構造になっている気はします。お二人ありきです。そしてお二人のコメディセンスがこのドラマのライフラインになっていると思います。中井貴一さんは紫綬褒章を受章されて、改めてすごい役者だと思いますが、コミカルな中井さんの“間”が本当にすごくて。大根(仁)監督の脚本も素晴らしくて、全体の会話の内容の要点とリズムがよくて、字幕で補っている部分も含めて、説明しすぎていないというか。登場人物一人ひとりにちゃんとリズムが均一にあるので、それが観やすさにつながっていると思います。これはこういう意味でと説明するために立ち止まって視聴者に寄り添いすぎると、リズムが狂うというか、一気見しづらいと思います。そういう意味では全体のバイオリズムがしっかりありながら、粒立ったワードが結実している巧妙さは、大根さんらしいと感じました」。

「ショーランナー・市原の言葉は、これからの日本のドラマ、エンタメがどう進化していくべきか、秋元さんや大根さんの思いが込められていると思う」

ショーランナーというポジションが、これからの日本のドラマ業界、エンタメ業界では絶対的に必要になってくると、コロナ後のエンタメ界の流れを指し示しているドラマだともいう。

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「市原って怪しい役だと思っている人が多いかもしれませんが、大げさではなく、これからの日本のドラマ、エンタメがどう進化していくべきかという、芯を食ったことを肚の中では持っている人物です。彼の真意の部分に、もしかしたら秋元さんや大根さんの根幹にある思い、遠くない未来のテレビ、ドラマ業界に対する大きなエールが込められていると思っています。これはドラマ後半での僕のセリフにも出てくるのですが、今年はSTAY HOMEという状況があったこともありますが、Netflixやアマゾンプライムなどの配信系メディアを通じて、海外の優れた作品に触れる機会が多くなったという時代の流れに対して、日本ではまだまだコンプライアンスという問題が大きく、それによって表現の不自由というか制約が生まれています。その世界の時流とのコントラストが最もわかるのが、まさに今です。だからショーランナーの目線というは、視聴者の方の目線に近いのかもしれません。視聴者の方の目線の先にあるものを捉えて見せていくのが、ショーランナーなのかもしれません。大切な存在なのに、ないがしろにされがちなポジションだし、そのポジションに光を当てることで視聴者の方は、これから色々なドラマを観る上で楽しみが増えると思います」。

「出演者も視聴者も、コロナ禍の中でテレビ東京への期待が大きくなっている」

さらにテレビの未来というものを考える上でも、このドラマはかなり先進的だと説明してくれた。キリンとサントリーという、競合しているメーカーがスポンサーになっているということに、「“共演NG”じゃないんだ」と誰もが驚き、SNS上でも盛り上がった。

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「出演している我々もそうだし、視聴者からのテレビ東京への期待が、コロナ禍の中で“希望”に変わっているのではないでしょうか。今YouTubeを始めメディアハザードというものが起こっている中で、テレビ局は今まで通りのものを作っているのがいいのか、それともこの時代の様式の変化に対して、どれだけ深く鋭利なものを作れるかということも試されていて、これはスポンサー企業さんもそうだと思います。そんな変化の中で、テレビ東京への期待値はますます高くなっていると思います。コロナ禍の中で、エンタメはものすごい真実か、ものすごいファンタジーかで二分化されている気がしていて。コロナ禍のことを描く必要はないと思いますが、そういう意味ではこの『共演NG』というドラマは、普段視聴者の方が思っていたことを見せるエンタテインメントで、真実のベールを剥がしていくような、今の時代にあったテイストに、結果的になっていると思います。コロナ前に戻ることなんてないのに、そこにこだわってアップデートしようとしない人も多い中、今回の僕のようにリモートで出演という、撮影現場も全部ではないですが、新しいところに向かっていっている気がします。それがテレビ東京であり、秋元さんであり、大根監督であり、その作品の主役が中井貴一さんであり、鈴木京香さんであるということに、すごく意味があると思います」。

“齊藤工”名義で総監督を務めた、日本のコンプライアンスの輪郭をコメディタッチで描いた映画『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』

斎藤は俳優業と並行して映画監督としても活動し、自身が出演する「blank13」で長編監督デビューし、今年も企画・原案・撮影・脚本他総監督として作り上げた映画『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』が、2月に公開(全国で順次公開)されるなど、映画製作に注力している。そんな映画人・斎藤にとってショーランナーは理想的なポジションという捉え方をしているのだろうか。

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「ケースバイケースだと思います。自分が監督をした方がいい作品と、後ろに回って一切表に出ない方がいい作品があったり。今公開中の映画『アイヌモシリ』では、スチールカメラマンとして参加しています。最初は福永(壮志)監督から出演オファーをいただいたのですが、脚本を読んで、アイヌの方を描いたリアルな世界が存在するこの作品に、自分の出る幕はないと感じ、色々鑑みた結果、スチールだけの参加にさせていただきました。そういう意味では、その作品においての自分のベストな立ち位置は毎回探っているつもりなので、今の自分に今回ショーランナーという役をいただけたことに、意味を感じました。そして僕が作って、ちょうど公開中の『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』という映画がありますが、自主規制の波に対する忖度や、コンプライアンス問題に一石を投じた作品になっています。規制もないのに問題が起こらないよう、あらゆる表現が控えめになってしまう今の日本のコンプライアンスというものに対して、なぜなんだろうと探るところから始まった作品です。ある意味皮肉を込めて、日本のコンプライアンスの輪郭をコメディタッチで描いた作品になっていて、映画の自由度というものを僕は信じています。まさに「共演NG」で描かれているような、『なんでだめなんだろう』って思っていても『こういうもんだから』のひと言で、片付けられてしまっていることを調べようと思ったのがきっかけです」。

安藤裕子「一日の終わりに」のMUSIC VIDEOの監督・脚本を担当。「自粛期間中に感じたことと安藤さんの歌詞とが必然的に線でつながりました」

斎藤は映画だけではなく、シンガー・ソングライター安藤裕子の「一日の終わりに」のMUSIC VIDEO(出演/門脇麦、宮沢氷魚)の監督・脚本を担当している。音楽ありきで作るMVと映画というのは、同じ映像作品とはいえ全く違うものという捉え方なのだろうか、それとも延長線上にあるものなのだろうか。

「僕は完全なるフィクションというのは生み出せなくて、『blank13』も僕の友人の実話で、実際に起こることを超えるフィクションってない気がしていて、誰かの実際の物語に作品のライフラインの手綱を設けているつもりです。『一日の終わりに』に関しては、自粛期間中の自分の時間というものが基になっていて、孤独を感じる時間が多くて、その時間と安藤さんの歌詞とが必然的に線でつながり、リンクしてしまったので、あの映像が生まれました」。

『一日の終わりに』は短編映画化され、『ATEOTD』として公開中

STAY HOME期間中の思いが投影された作品ということで、やはり人とのつながりや誰かの存在の大切さを、改めて気づかせてくれるMVになっている。

「歴史を調べてみると、人類の歴史上100年周期で伝染病に襲われていて、これは人間に対する地球からの警告が100年周期で行われているのでは?と思い、次の100年後、2120年を舞台にしました。他の生物を差し置いて人間ファーストになっている我々への警告かもしれないし、『風の谷のナウシカ』で宮崎駿さんはすでにそれを描いているし、僕の中でも真実味が増してきて、そういう世界を描いてみようと思いました。彼女の声がシネマティックというか、元々映画を作りたいということが、彼女のクリエイションの始まりだったということを聞きました。どの曲もMVとは別に、彼女なりの絵コンテのようなものがあるようで、今までもどれも短編小説のような世界観で楽曲を作ってきたと言っていました。そんな作品のひとつを映像化できてよかったです」。

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このMVを短編映画化した『ATEOTD』が9月に公開された(全国で順次公開予定)。斎藤は映画、ドラマ、そしてエンターテインメント全体の“これから”をいい意味で貪欲に追求し、風穴を開け、前へ前へと進んでいる。その熱量が多くの人の心を動かし、大きな“うねり”になっているようだ。なお『共演NG』は見逃し配信が第1~4話までTVerで無料配信中で、12月7日放送の最終回、そして14日放送の特別編で、謎多きショーランナー・市原龍の全てが解き明かされる。特別編は斎藤もインタビューで語っているように、視聴者はもちろん業界人必見の内容になっている。

テレビ東京『共演NG』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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