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注目ドラマ『共演NG』の音楽ができるまで――KIRINJI堀込高樹は、大根仁監督と音をどう紡いだのか

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/テレビ東京、ホリプロ
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今クールのドラマで注目を集めているといえば、なんといっても『共演NG』(テレビ東京系/月曜22時~)だろう。“共演NG”という、いわゆる業界のタブーを扱った話題作で、このキーワードだけでも視聴者は興味をそそられ、そのセリフ一つひとつがあまりにリアルすぎると各方面で盛り上がっている。『モテキ』シリーズ他、数々のヒット作を手がける大根仁氏が演出と脚本を手掛け、その大根氏がドラマの盛り上げに欠かせない音楽、劇伴のクリエイターとして指名したのがKIRINJIの堀込高樹だ。印象的なオープニングナンバーを始め、笑いあり、涙あり、サスペンス要素あり、キュンとしてしまう場面もある、クールな大人のラブコメを彩る音楽の数々を、大根監督と共に作り上げた堀込高樹に話を聞いた。

「大人のラブコメなので、ヘンリー・マンシーニとかウッディ・アレン作品で流れる、ジャズっぽい感じかなと勝手に想像したら、全然そういう感じではなく…」

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「最初に、企画が秋元康さんで、監督と脚本が大根さん、さらに主演が中井貴一さんと鈴木京香さんと聞いた時に、なるほど大人のラブコメみたいな感じで『あ、そういう音楽か』と勝手に想像したのが、ヘンリー・マンシーニとか、ウッディ・アレンの作品で流れるジャズっぽいものでした。KIRINJIではあまりそういう感じのものは書かなくて、そういう機会があればいいと思っていたので、お受けしました。でも蓋を開けてみたら全然そういう感じじゃなかったんですよ(笑)。打ち合わせをしていくうちに、『そうじゃなくて、もうちょっとエレクトロっぽい感触のものが欲しい』という監督からのリクエストがあって、なるほどと思いました。ウディ・アレン的な音楽とか、そういう1950年代や60年代のアメリカ映画のような音楽が流れてしまうと、知っている人は『なるほど』と思うかもしれませんが、それを知らない若い人にとっては、なんか古臭い音楽が流れているという感じにしかならないじゃないですか。だからそういう限定した観られ方をされないように、エレクトロ中心の、淡白な音楽の方が適しているのだろうと、監督は判断したのかなと思っています」。

「OP曲は最初『カッコつけてるんじゃない、もっとベタベタにダサくしてこい』という監督からのディレクションがありましたが、結果的にカッコよくなりました」

そして堀込は、中井貴一演じる遠山英二と鈴木京香演じる大園瞳が、25年間積もり積もった恨みと、しかし今もどこかでそれぞれのことを思っている、そんな愛憎半ばするその関係性をソーシャルダンス風のダンスで表現する、ドラマのメインとなるオープニング曲を作りあげ、大根監督に送ったところ――。

「『タイトルバックは、社交ダンスっぽい感じなんだけど、曲は四つ打ちっぽいのがいい』というお話があって。四つ打ちといっても幅があるので、ひとまずたたき台として、こんなのどうですかってお渡ししたのが、UKジャズファンクっぽい感じのものでした。確かにちょっと気どっている感じが出ますよね。そうしたら、監督から『カッコつけてるんじゃない、もっとベタベタにダサくしてこい』というディレクションがあって、もうちょっと下世話な感じが欲しいと。それで『堀込さん歌ってみたらどうですか』って言われて、『いやいや、僕が歌ったらもっとお洒落になっちゃいますよ』って返しました(笑)。結果的にああいう感じになっていますが、確かに言葉が乗ってディスコっぽい歌い方をすると、ちょっと下世話な感じにはなるなと思って、あのメロディがつきました」。

“険悪”“殺伐”“一触即発”というキーワードが散りばめられた歌を堀込が歌う、オシャレかつコミカル、まさにこのドラマを象徴するようなポップスになっている。

「『歌詞を何か考えて欲しい。テーマは“共演NG”』、『そりゃそうですよね』っていう話で(笑)。台本の最初の方のイメージ、第一話の感じが歌にしやすかったので、それを簡潔に言葉にしてみました。できるだけリズミカルな言葉を選ぼうと思って、“険悪”、“殺伐”、“一触即発”までは出てきたのですが、あともうひとつがなかなか出てこなくて。それで台本を読んでいたら、鈴木京香さんの台詞に「殴っちゃうんじゃない」という言葉が出てきたので、そこから“撲殺”を思いつきました」。

堀込は大根監督からドラマ全体の音楽のイメージとして「DX7(80年を代表するシンセサイザーで、80年代前半のヒット曲には、ほぼ使用されていたといっても過言ではない名機。透明感のあるエレクトリック・ピアノサウンドが特徴)のような音色を基調にして欲しい」というリクエストがあったという。

「『DX7のような、ああいう音色を基調にしてくれないか」と言われて、「ええー、難しい…」と思って。それでDX7的なシンセの音を基調に作り始めて、そこからどんどん逸脱というか、派生していって、結果的にそこまでDX7っぽい感じの仕上がりにはなっていないと思います。ただ取っ掛かりとしてはそういうテーマがあって、で、画がない段階で曲を作るというのは結構難しくて、画があればそこに共通の認識が具体的に存在しますが、台本しかない状態で、最初の頃はお互いに別の画をイメージしていたと思います。その中で擦り合わせようとしていたので、ちょっと戸惑いはありました。とりあえずいくつか作ってみた曲を監督にお聴かせして、「ああ、いいですね」という反応があって、『あ、このラインでいくんだ」と。でもどの曲をどのシーンに使うというのは見えてこなくて。だから“焦っている感じ”とか“コミカルな感じ”とか、とにかく量産していきました」。

「自己の表現のためではなく、その作品のために音楽を作るという、別の楽しみがあることを発見した」

大根監督はKIRINJIのファンでもあった。ドラマ『モテキ』ではキリンジの「悪い習慣」が使用され、映画版のミックスCDには「野良の虹」が収録されている。あらゆる音楽に精通していて、映画『バクマン。』ではサカナクションの音楽を起用し、映画「奥田民生になりたいボーイ』(2017年)では、奥田民生の音楽を全編に渡って使用するなど、常に新しい映像表現と、その音楽センスで我々を楽しませてくれる。その音楽へのこだわりは堀込も大いに感じているという。

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「とにかく音楽に詳しい方で、今回も例えば『80年代や90年代的なものを』、という風に注文してしまうとぼんやりしてしまうから、多分そういうリクエストの仕方は避けていたと思います。もっと具体的に攻めてくる感じでした。だからDX7のような音色とか、あと『ブレードランナー』とか『南極物語』のヴァンゲリスとか、『そこかあ!』と。そういう色々なキーワードが出てきました。曲として、一応『何とかのシーンのBGM』って作りますが、それを今度は監督の方で音を解体するんです。『各楽器のばらばらのデータも欲しい』と言われて、そうするとあるシーンでは違う曲のシンセの音が単音で使われていたり、自分でも想定していなかった使われ方をしていて、すごく面白いと思いました。もちろんそれぞれの楽器のデータが欲しいといわれた段階で、そういう使い方をするというのは想像しました。でもそれが思っていた以上に細かいというか、リミックスというか別曲を作るぐらいの勢いで、『あれ?こんな曲書いたっけ?』て思ってしまうほどの仕上がりになっているんです。そこまで曲をしっかり“見て”くれて、細かいところまで音色の一音一音までチェックしてくれる人ってなかなかいないと思います。だから大根さんが作った、大根仁リミックス盤が欲しいです(笑)。確かに僕が音楽を作ってはいますけど、自分の作品というよりも、ドラマの中で機能するものを作らなければいけないと思って取り組みました。自己の表現のためではなく、その作品のために音楽を作るという別の楽しみがあることを発見しました。監督からは僕の作家性みたいなものが、もう少し出るようにした方がいいんじゃないかというようなことは言っていただけて、でもそれを出す方が難しかったです。コード展開とかメロディ、声、言葉が自分らしさだと思いますが、それがドラマの中だと、情報が多すぎる分、ちょっと過剰というか、余分なものになったりするわけです。自分らしさとか作家性をどうやって出すのか、考えてもわからなくなっていったので、考えるのをやめて普通に作ろうと思って臨みました』。

すでにレコード会社からも、このドラマのサントラ盤をリリースしたいというオファーが届いているという。

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KIRINJIは2020年いっぱいでバンドの活動を終了すると発表し、同時に「以後は、堀込高樹を中心とする変動的で緩やかな繋がりの音楽集団(現在のメンバーも含まれます)として活動する」と表明した。11月18日にベストアルバム『KIRINJI20132020』を発売し、12月9、10日にNHKホールで行う『KIRINJI LIVE 2020』が現体制でのラストライヴとなる。2021年からどんな活動、どんなクリエイティブを見せてくれるのか楽しみだ。

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11月9日(月)放送の『共演NG』注目の第3話では、“不倫”が今年も芸能界を賑わし、その度に謝罪会見が繰り返し行われたが、その謝罪会見の在り方に切り込むなど、見どころ満載だ。更に中井貴一演じる遠山英二の妻、雪菜を演じる山口紗弥加の演技について、SNS上では「山口紗弥加の怪演見たさについ見ちゃう」「雪菜がゾッとするほど怖い」というコメントが飛び交い話題になっている。そんな山口の怪演にもさらに注目が集まる。

テレビ東京『共演NG』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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