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ReoNa「なぜ失恋ソングがあって絶望ソングがないの?」 その、絶望に優しく寄り添う歌に集まる注目

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

まるで、ハグをして背中をポンポンと優しく叩いてくれるような、寄り添ってくれる歌

1stフルアルバム『unknown』(10月7日発売/通常盤)
1stフルアルバム『unknown』(10月7日発売/通常盤)

“アニソンシンガー”と聞くと、アニメに興味がない人にとってはそのシンガーの作品に対する興味のレベルは、少し低くなってしまうのだろうか。だとしたら、もったいないことこの上ない。“絶望系アニソンシンガー”というインパクトのあるキャッチフレーズでデビューしたReoNaの歌は「背中を押さない」し「手も引かない」、その人の心に徹底的に“寄り添う”ことで、不安やその先に存在する絶望から、救ってくれる。デビューから2年。まるでハグをして背中をさすってくれたり、ポンポンと優しく叩いてくれるような――そんな歌を歌い続けているReoNaの1stフルアルバム『unknown』が、10月7日に発売された。アルバムに込めた思いと、そして彼女にとっての“お歌”の存在を改めてインタビューした。

「失恋ソングはあるのに、なんで絶望した時に寄り添ってくれる歌はないんだろうって思っていました」

“絶望系アニソンシンガー”というキャッチフレーズは、彼女の思いを映した言葉だ。「失恋して傷ついた心を代弁してくれる歌があって、自分を重ねながら聴いて泣いたり、カラオケで歌って泣いたり、そういう曲はあるのに、なんで絶望ソングってないんだろうって思いました。学校や友達関係、家の中でも傷ついて、孤独感を感じている人が多いし、私自身もそうでした。私も色々なことに向き合うことができなくて、学校にも家の中にも居場所がなかった。そんな身近な絶望に寄り添ってくれる絶望ソングがなんでないんだろうって思って。私にとってはそれがアニメやゲームのお歌でした。それで自分自身がお歌を紡ぐ側になった時に、絶望系アニソンシンガーになって、みなさんの心に寄り添うお歌を歌いたいと思いました」。

「自分の声だからこそ届くお歌というのがすごく暗いところにある、そこに自分自身がいるんだということを感じました」

“絶望”ではなく、絶望系アニソンシンガーだ。聴き手を絶望させたいわけでもなく、自身も今は深い絶望の淵にはいない。絶望のそばに寄り添えるようなシンガーだ。彼女の声は、光と影のどちらかというと影の部分が色濃く立体的で、言葉が温度感を失うことなく伝わってくる。

「アニメの音楽って、アッパーな激しい歌が多くて、そういう音楽を歌えないとアニソンシンガーになれないのかなって思っていた時期もありました。でも初めて自分の声を録音して聴いた時、改めて自分の声に合うお歌というか、自分の声だからこそ届くお歌というのがすごく暗いところにある、そこに自分自身がいるんだということを感じました」。

ReoNaは、大人気TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』の劇中歌アーティスト「神崎エルザ」の歌唱役を担当し、「神崎エルザ starring ReoNa」として、2018年7月にミニアルバム『ELZA』をリリース。そしてTVアニメ『ハッピーシュガーライフ』のエンディングテーマ「SWEET HURT」で同年8月29日にソロデビューした。海外にも熱狂的なファンを持つ「ソードアート・オンライン」(SAO)シリーズの歌を歌い続け、TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』最終章のOPテーマ「ANIMA(アニマ)」(7月22日発売)を歌っている

「SAOという作品自体が、音楽との結びつきが強い作品だなって、デビュー前から観ていて思っていました。そのシーンとか、クールの物語ごとに主題歌のイメージがものすごく結びついてる「神崎エルザ starring ReoNa」が、曲を聴いたらその時の物語が思い出せるような、本当に寄り添ったお歌になった。今度はどうやって寄り添おう、どうやってReoNaとしてオープニングテーマをつなごうということを感じました。それは今も変わっていません」。

「自分自身が言葉に救われてきたので、言葉を大切にし、いつもその時に伝えられる全てのことを伝えたい」

彼女のこれまでのインタビュー記事を読んでいると、作品、ファンへの強い思いが、丁寧に紡いでいる言葉一つひとつから伝わってくる。常に一人ひとりに寄り添いながら歌っている彼女の歌への姿勢が、自然と言葉になって出ている。

「言葉を大切にするということを、デビュー前から今までずっと大切にし続けてきました。受け取ってくれる方のことをものすごく考えますし、自分自身が言葉に救われてきたので、まだまだ自分の中でも伝えきれてない部分というか、納得いっていない部分はありながらも、いつもその時に伝えられる全てのことを伝えたいと思っています。今こういう状況の中で、今まで当たり前のようにあった会話ができなくなったり、目から入ってくる言葉をアウトプットする方法とかも変わってきて、以前にも増して、ものとか人からもらう思いみたいなものを抱えて過ごしているという感覚がすごくあります」。

「アニソンとして紡いでいるお歌がその作品の解釈を広げるきっかけになれれば嬉しいし、純粋にひとつの作品として受け取っていただいでも、きっと感じてもらえるものがあるはず」

未曽有の状況によって、閉塞感が漂う世界の中で、言葉が持つ力や言霊ということを強く感じさせてくれ、それを立体的に心に届けてくれる歌で心が浄化されるような感覚にいざなってくれるのが、ReoNaの1stアルバム『unknown』だ。

2019.10.20 Zepp Tokyo“Birth2019”/ライヴPhoto:山本哲也
2019.10.20 Zepp Tokyo“Birth2019”/ライヴPhoto:山本哲也

「SNSはもちろんですが、すごく傷つく場所があるなって感じていて。例えばLINEとかでコミュニケーションを簡単にとれるようになったから、一部屋一部屋ごとの自分自身がすごくたくさんいて、色々な方向から自分に向かって言葉が飛んでくる、向かってくる。でもそれによって傷ついた心は、どうやって癒やされているんだろうということは、私自身も感じます。この閉塞感の中で年齢関係なくストレスを感じていると思うし、傷ついている人も多いと思います。どんな小さな傷でも、そこに私のお歌が寄り添えたらいいなと思います。私はアニソンシンガーなので、もちろんアニソンとして紡いでるお歌が作品と掛け算になればとか、作品の入口になってその作品の解釈を広げるきっかけになることができればと思って歌っています。でもやっぱりひとつの“お歌”でもあるので、純粋にひとつの作品として受け取っていただいても、きっと感じてもらえるものがあると信じています。今回のアルバムでは、今まで伝えることの難しさという壁にずっとぶつかり続けてきていて、それを解消したいという思いで取り組みました。デビューから一緒に歩んできたクリエイターさんたちに、少しでも言葉やメロディが生まれるきっかけになればと思い、とりとめもないことも含めて、自分が普段思っていることを今まで以上に踏み込んで自分自身を伝えさせていただきました。一年以上かけて一曲一曲深く、丁寧に作りました」。

今までReoNaの作品を聴いたことがないという人にも1stアルバム『unknown』は入門編になり、彼女の歌への姿勢がきちんと伝わってくる、その思いを確認できる「場所」でもある。

「1stアルバムは、デビューからずっと応援してくださっている方、アニメが大好きな方、私の作品の中で一曲だけ知っていて他は知らないという方、色々な方が出会ってくれるものであって欲しいというか、出会った時に本当に届くものであって欲しいと思っています。初めましての方にも、私の原点で、ずっと歌い続けてきた「SWEET HURT」も含めて12トラック、届いて欲しいです」。

その“ブレス”が、歌の物語をより深く伝える武器になっている

“本当の自分って、一体どこにあるんだろう?”という表題曲「unknown」から、アルバムはスタートする。この曲もそうだが一貫して感じるのは、ReoNaの歌に含まれる“ブレス(息継ぎ)”が、より想像力を掻き立ててくれているということだ。ブレスも音楽の一部になり、“生命”を感じさせてくれ、歌の世界観を彩る。

「歌詞のどこからどこまで、この言葉とこの言葉の間は絶対に切りたくないとか、言葉として届ける上でブレスって自ずと入る場所が決まっていく。それが少しでもずれると、言葉が違って伝わってしまいます。だからその場所で目一杯息を吸おうとしているので、たぶんそういう風に聴いていただけるようになったのだと思います」。

「歌って、感情って込めれば込めるほどいいというものではないんだなって思いました」

アニソンというと、言葉数が多く疾走感があるというイメージが強いが、このアルバムには「余地」や「余白」を感じさせてくれる楽曲も輝きを放っている。シンプルなアレンジの「いかり」では、強い言葉が並んでいる歌詞のその行間で、聴き手がいかに想像力を膨らませて、そこに自分自身を置くことができるかという楽しみ方ができる。彼女の歌がその言葉本来の温度感を伝えてくれるが、そこから先の解釈、感じ方は聴き手に委ねる、そんな「余地」に惹かれる。

「これだけ尖った言葉が並んでいる中で、これ以上感情が入ってしまったらまた聴こえ方が変わってしまうというのは、他の楽曲でも感じることで、感情って込めれば込めるほどいいというものではないんだなって思いました。“余白”の部分って、受け取る側の解釈によっていかようにも変えられます。“痛い”という言葉ひとつとっても、その前後の言葉やストーリーによっては物理的に痛いのか、心が痛いのか、痛いだけじゃない痛いの時もあるし、そういう部分は、本当に解釈の「余地」がすごくあるし、難しい部分でもあります」。

「絶望年表」という名のReoNa自身の物語

ReoNaが17歳の頃、クリエイターの毛蟹(LIVE LAB.)から受け取った初のオリジナル楽曲「怪物の詩」(2019年)では<転んだ 軋んだ 滲んだ 嘆いた 溶かした 塞いだ~>と、それまでの彼女の感情のヒストリーを綴ったような歌詞の中に並ぶ単語、そのひとつひとつの表現力に、心を掴まれてしまう。7分半の「絶望年表」も受け取り方によっては“問題作”になり得る“傑作”だ。歌からエネルギーが迸り、心の深いところまで響いてくる。

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「『怪物の詩』は、自分が届ける側に立つということを教えてくれた楽曲で、それまでどう過ごしてきたか、その時間が歌詞に込められているので、それを受け取っていただけていると思うと、改めて感慨深いです。『絶望年表』の元になっているのは、改めて、なぜ絶望ということを歌っているのかとか、何故あの時絶望していたのか、自分自身の今まで抱えてきた傷や闇の部分を長文で書き起こしたものがベースになっていて、そのメモのタイトルがまさに“絶望年表”でした。いつから人間って“普通”を知るんだろうってすごく思っていて。自分の環境が普通じゃないって知るまで、私にとってはそれが普通でした。誰一人として全く同じ人はいないはずなのに、何故か普通って言葉が使われてしまう不思議さ。幸せの形を色々なところからインストールされて、そこに収まらないものを不幸せという形にされる理不尽さを感じながら、でも気づいてしまったらそれは不幸せで。きっと気づくことで自分のためになった部分もすごくあったと思うし、私自身がその当時抱えていたものを毛蟹さん、ハヤシケイさんにお歌にしてもらって、でも『なんでこの曲私が書いてないんだろう』っていう悔しさを覚えた瞬間もありました。ただこの曲が完成して、自分自身ではできなかったって思った時に、お二人には感謝しかなかったです。お歌を歌う上で、ものすごく苦しかったというか、悔しかった部分もたくさんあって、ここに行き着くまでに。お歌一本で7分半という長さを聴いてもらうために、どう物語をつけたらいいだろうとか、この言葉ってどうやってお歌にしたらいいんだろうってすごく悩んで、実はレコーディングも2回やっていて。2回目で納得がいく仕上がりになりました」。

「まず一曲目から最後まで聴いて欲しい」

ReoNaというシンガーの過去と現在、そして未来を感じさせてくれるストーリー性を重視した1stアルバムだ。

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「最初から最後まで聴いてもらるように曲順も考えに考えました。このアルバムはまずは、一曲目から最後まで聴いて欲しいです。最後の12トラック目に隠されている『ピルグリム』は、神崎エルザ starring ReoNaとしてリリースしたミニアルバム『ELZA』(2018年)に収録されている曲で、それを今回ReoNaバージョンということで、アレンジも新しくして、お歌も再度レコーディングしました。どうしても私自身と切っても切り離せない作品で、人生で初めて大きな夢を叶えてくれた曲です。初めて大好きなアニメに携われて、大好きなお歌を届けることができた曲。それを今回どうしても入れたくて、でも『ピルグリム』はReoNaだけの曲じゃない。このReoNaバージョンの『ピルグリム』をどうやってアルバムに入れようって思った時に、このシークレットトラックという形になりました。新しい命を吹き込まれた『ピルグリム』は、あの時とはまた違う響き方がすると思います。この曲と共に「SWEET HURT」という自分自身の原点の楽曲がトラックでつながっていることで、1stアルバムが本当に完成しました」

12月8日、約一年振りの有観客オンラインライヴで、一人ひとりに思いを届ける

12月8日にはLINE CUBE SHIBUYAで、有観客生配信ライヴ『ReoNa Online Live "UNDER-WORLD"』を行う。約一年振りのワンマンライヴになる。ようやく直接ファンに思いを届けることができる。

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「その瞬間にありったけの思いを届けられる準備をして臨みたいです。ライヴと音源って違うものですが、重なる部分はやっぱり届く先に届けたいあなたがいるということです。私はずっとライヴは一対一って言っていて、その瞬間を私にくださっている人たち、その日、どんな思いで来てくれているのかわからないその一人ひとりに、どうしてもその人の状態によって受け取る重みって変わってきたりとか、解釈もその瞬間で変わってくる中で、一番前から一番後ろまで、余すことなく言葉が届いて欲しいと思いながらお歌を歌っています。ライヴには正解はないですし、その時だけっていうのはまた特別だと思います」。

ReoNa オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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