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松井玲奈 主演ドラマ『30禁』が好評 役者、作家として“表現すること”に向き合う日々

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/フジテレビ

松井が9歳年下の男性と恋に落ちる30歳OLを演じる、FODオリジナルドラマ『30禁』が好評

松井玲奈主演の動画配信サービスFODオリジナルドラマ『30禁 それは30歳未満お断りの恋。』が、9月15日(毎週火曜0時~最新回放送/全8話)から配信され、好評だ。NHK連続テレビ小説『エール』、『行列の女神~らーめん才遊記』(テレビ東京系)、『浦安鉄筋家族』(同)と出演作が続く松井が演じるのは、9歳年下の男性と恋に落ちる30歳の会社員・森山志乃。結婚を意識しはじめた30歳の女性が、大人としての理性や現実に迫られながらも、理想の恋を追いかける姿を描いているが、年齢的に等身大ともいえるこの役とどう向き合い、役作りをしたのだろうか。そしてバラエティ番組、映画、舞台でも活躍し、さらに作家としても注目を集めるなど、その活動の幅をどんどん広げていく彼女の目指す場所とは? 松井にインタビューした。

ドラマのストーリーは――住宅メーカで広報課長として働く、30歳の森山志乃(松井)。彼氏はいないが、30代は“要領よく”同年代と恋愛して、結婚しようと考えていた。しかし、ある日、顔も知らない9歳下の佐藤真雪(鈴木仁)から、急に「付き合ってください!」と告白される。あっけにとられていた志乃だったが、その実直さにほだされ、“結婚相手ができるまで”という条件で交際をはじめることになり――。

「考え方とかマインドや、その人の空気感が自分に合っていれば、歳の差は関係ないと思う」

まず、志乃と真雪のような歳の差の恋愛について、実際はどう考えているのかを聞くと、「考え方とかマインドや、その人の空気感が自分に合っていれば、歳の差は関係ないと思う。30歳になった時に20歳の男の子と付き合うというのは、可能性としてはないことではないと思います」と、志乃と真雪の関係はリアルなものとして捉え、演じている。

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志乃は真雪と付き合っていく中で、彼の言葉や行動によって、それまで築きあげてきた価値観が変わっていく。そんな真雪のセリフの中でグッときたものを聞くと「志乃と真雪君が初めてぶつかった時に、真雪君がマンションを出て行ってしまって、戻ってきた時に言った『1秒も無駄にしたくなかったんだ』という言葉は、一番真っ直ぐな言葉だと思いました。ごめんね子供だった、とかそういう言葉よりも、やっぱりあなたとの時間がすごく大事なんだという、彼の若いなりの真っ直ぐな言葉だなと思って。これは原作を読んだ時から好きなセリフでした」と、真雪の嘘偽りない心からの言葉が響いたと教えてくれた。心に残る、数々の名セリフが出てくる関久代の脚本にも注目だ。

志乃のセリフの中で印象的だったものを聞いてみると、「自分の胸の内を語るナレーションの言葉になりますが、『……若いこの子を、結婚に縛りつけていいわけない』という言葉です。志乃が悩んでるいるのって、歳の差の中で、かつて自分もそうだったように、真雪君にはまだまだこれから恋愛の経験ができるのに、その可能性を全て投げうって志乃に全部時間を費やそうとしてくれていて、彼の未来を考えた時の罪悪感や、本当に正しいのかなっていう迷いを感じつつ、でもそれは彼へのある意味優しさからの不安だと思うので、そのセリフはすごく印象に残っていて。志乃は志乃で、自分が20歳の子と付き合っているという引け目も最初はあったけど、ちゃんと真雪君と向き合っていく中で、歳の差ということよりも、彼のこれから先の時間のことを考えている彼女の思いを、きちんと表現しようと思いました」と教えてくれた。

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30歳。なんでも要領よくやれると思っていた。もちろん結婚も。しかし9歳年下の男の子とまさかの展開の恋愛を続けていく中で、志乃は気がついたことがあった。それは経験しているはずなのに「20代だろうと30代だろうと恋愛に囚われるんだよ」「要領よくいかないんだよ、恋愛だけは」ということに、改めて気づいた。「すごく共感できるし、恋愛ってやっぱりシステムチックじゃないですか。自分だけのことだけではなく、相手のこともあるし、その色々なタイミングがあって、初めて成立するものだと思うので、要領よくっていうは難しいんだなって。うまくいってるように見えている人たちも、それぞれの中で葛藤があると思うし、悩み、考えながら、自分の好きな人と向き合っているんじゃないかなと思ったセリフです」。

「志乃は新しい可能性を見い出してくれた役」

志乃という役は、松井と年齢は近いが、決して“等身大”ではないという。

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「どんな役も楽しみながらやっていて、確かに志乃という役は年齢は近いですが、等身大かといわれるとそうではなくて。彼女の恋愛観に共感するというよりも、仕事第一だけど、でもその中で将来のことを考えると恋愛もしたい、みたいな、その仕事に対する気持ちの面に共感できることが多くて。なので自分とはかけ離れてるキャラクターなんです。これまで演じてきた役だと、悪い女の役だったり、かわいらしい、キャピっとした女の子っぽい役が多かったので、志乃という役は、改めてこれまで出演させていただいた作品を思い返してみても、トーンがすごく落ち着いていると思います。今までは声もワントーン高い感じで、若さとか女の子の部分を出すことが多かったのですが、志乃という役は、そこからベクトルを変えて真雪君との歳の差、大人の女性という部分を強く出さなければいけなかったので、落ち着きながらも彼に振り回されると、女の子の部分が出てきてワタワタしてしまう、そういうところを作っていくのが楽しかったです。そういう意味で新しい可能性を見い出してくれた役だと感じています」。

「ドラマも舞台も現場は毎回本当に勉強になる。両方とも大切にしていきたい」

松井はこれまでドラマ、映画に加え『新・幕末純情伝』(2016年)、『ベター・ハーフ』(2017年)、『24番地の桜の園』(2017年)、朗読劇『ラヴ・レターズ~青井陽治追悼公演~』(2017年)、『神の子どもたちはみな踊る after the quake』(2019年)と数々の舞台へ出演。日本を代表する演出家と向き合い、それまで気が付かなかった色々な“自分”を引き出してもらい、役者としてどんどんその引き出しを増やしていっている。演じる「場所」で、それぞれのフィールドで得た経験が相乗効果となって表れているという。

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「ドラマは瞬発力が必要とされる現場で、その時にそのシーンをいかにみんなで協力して、瞬発力でいいものを作り上げていくかです。相手が思いもよらない表現をしてきても、そこに対して役というベースがちゃんとありながら反応していって、相乗効果でいいものを作っていくのがドラマだと思っていて、すごくエキサイティングな現場です。それと逆とまではいいませんが、舞台は稽古期間の中で、全体で作品の方向性を決めて、演出家の方とよりいいものをブラッシュアップして作っていくという感じです。それは幕が上がってからも、千秋楽まで妥協することなく、同じ物語を更にいいものにするべく追求していきます。決まった動きや同じセリフでも、その日の自分の体調や感情、会場にいるお客さんの反応で空気感が変わってくるので、ドラマとは違うライヴ感があって、鍛えられる“演技の筋肉”が違うのだと思います。その場で起きた瞬発力に対応するということは、舞台ではすごく経験して、ドラマは自分の発想力と起きたことに対する対応能力が必要とされ、似てはいるんですけど、頭と体と心の使い方が全く違うと感じています。それと台本を繰り返し読むことの大切さというのを、舞台をやると改めて感じます。ドラマでもそれは変わりませんが、ドラマの現場はシーンをバラバラに録ることも多々あるので、自分の中でも状況や感情をすごく計算しなければいけません。心のスイッチの切り替えも早くできるようにならなければいけなくて、どちらの現場も勉強になることが毎回あって、大事にしていきたいです」。

「バラエティの現場はただ楽しくて面白いだけではなく、芸人さんやタレントのみなさんの瞬発力、対応能力に刺激を受けています」

松井の多才ぶりは、8月29日にオンエアされ好評だった、サンドウィッチマンらが出演した“どストレート”のコント番組『ただ今、コント中。』(フジテレビ系)でも発揮され、アンジャッシュ・児島一哉やカマイタチ・濱家隆一らとコントを繰り広げ、共演者から絶賛された。

「バラエティは好きです。これもお芝居につながるのですが、コントの現場で面白かったのは、芸人さんはきっちりセリフを言わなくて、それってドラマの現場だと絶対ないことなんです。ニュアンスでセリフを言うので、アドリブも含めてそれが芸人さんたちのナチュラルなお芝居だと思って。劇場とかでやってきた漫才やコントも、大筋の話が決まっている中で、自由なその日のやりとりなんだろうなと思うと、それはそれで空気を読む力も必要ですし、これもお芝居のひとつの形だと思います。バラエティのひな壇にいたりすると、芸人さんたちのやりとりが飛び交うそのキャッチボールも、間の読み取り方だと思うので、変なところで入らないとか、ここは入っていいとか、爆発力とかは、お芝居の現場では経験できないことです。なので、バラエティの現場に行くとただ楽しくて面白いだけではなく、そこにいる芸人さんやタレントのみなさんの瞬発力とか対応能力に、刺激を受けて帰ってくることが多いです。それからキャラクターが立っている方が多いので、こういう人もいるんだと、そういうちょっとした人間採集みたいな感じで楽しいです(笑)」。

文芸誌で連載小説がスタート。「物語を作るということは、お芝居をする上でもいい影響があるし、大切なことだと思うので続けていきたい」

昨年初の短編小説集『カモフラージュ』(集英社)を発売するなど小説家としても注目を集める存在だ。2018年に文芸誌『小説すばる』で小説家デビューを果たし、文筆活動を重ね、現在女性誌『anan』(マガジンハウス)でエッセイ「ひみつのたべもの」を連載中だが、8月から『小説すばる』(集英社)で連載小説『累々』がスタートした。

「表現することは元々好きで、文章を書くことも大好きで、でもまさか自分が物語を書くなんて思っていませんでした。実際にやってみると、自分の頭の中にあるものを文章に落としこむことがいかに難しいかを痛感しました。台本はできているものをいただいて、1になっているものをスタッフの皆さんとキャストでどんどん膨らませていく作業で、でも小説を書くことは何もないところから1を生み出す作業で、その大変さや、物語の展開の難しさを初めて知ることができました。台本の読み方や、このキャラクターはどうして今このシーンにいるんだろうとか、なぜこの物語に必要なんだろうということを、以前よりもより深く考えられようになって、文章を書くようになってすごくプラスのことが多いと感じています。これからも物語を作るということは、自分がお芝居をする上でも大切なことだと思うので、続けていきたいです。日常生活の中でもちゃんと日々あったことを心に留めて、受け止めていくことが大切だと思えるようになって、それは文章を書くようになってより大きくなっていきました。これはお芝居に使えるかもしれない、こっちは文章に使えるかもって思う感覚が、今までよりも広がっていったと思います」。

「コロナ禍の中での生活では、自分が今まで決してやらなかったことに挑戦して、敢えてストレスにぶつかっていきました」

多方面で活躍し、心身ともに充実しているように見える松井だが、まだまだ満足できる状況ではないと教えてくれた。そしてコロナ禍で「すり減っている部分もある」というが、そんな時だからこそと、新たなことに挑戦したという。

「現状に決して満足はしていなくて、もっとお仕事がしたいとか、もっとこういう人と出会ってみたいとか、こういうものが書けるようになりたいとか、挑戦してみたいことがたくさんあって、もちろん全てが叶うわけではないのですが、もっと頑張らなければいけないと思っています。今、状況が状況だったりもするので、そういうところですり減っている感じもあります。でもやりたいこと、目を向けたいことはたくさんあるので、これからに期待しているという言葉が合っているかもしれません。今は制約が多いというか、やらない方がいいことが多い、色々なNOが多い中で嫌いなことに挑戦してみようと思いました。自分が今まで決してやらなかったことに挑戦してみるという、敢えてストレスにぶつかっていきました。それはランニングなんですけど、日常生活の中で走ることが一番嫌いで(笑)、でもそこに敢えてぶつかっていって、精神強化を図っています」。

FODドラマ『30禁』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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