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郷ひろみ 稀代のエンターテイナーの美学とは?「僕はいつも“郷ひろみ”をやるだけ」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ/ソニー・ミュージックレコーズ

2022年にデビュー50周年を迎える郷ひろみ。貪欲にエンタテインメントを追求し続ける稀代のエンターテイナーは、進化を続けとどまることを知らない。70年代から現在まで、ジャパニーズポップスのど真ん中を闊歩する郷の注目のニューシングル「ウォンチュー!!!」が、7月22日に発売された。通算105枚目のこのシングルについて、そしてその活動の中で最も大切にしているライヴについて、さらにアーティストとして大切にしていること、こだわりを聞いた。

「テーマは“歌謡曲”。僕ら世代の人には懐かしくて、歌謡曲を知らない世代には新鮮だと思う。歌謡曲の存在を若い人にもっと知ってもらいたい」

イントロからキャッチーで、ギターが“ギュインギュイン”唸り、聴き手の気持ちを煽る、刺激的な恋の駆け引きを描いた王道ポップス「恋のウォンチュー!!!」。一度聴くと忘れられない“郷ひろみ節”が炸裂し、元気を与えてくれる。

「ウォンチュー!!!」(7月22日発売/通常盤)
「ウォンチュー!!!」(7月22日発売/通常盤)

「候補曲が200曲くらいあって、その中からスタッフが色々なことを鑑みてセレクトした4~5曲を僕が聴いて、ダントツでこの曲に決めました。今回のテーマは“歌謡曲”にしたいなと思っていて、レコーディングの時に仮歌を聞いて、昔の歌謡曲だったら“ウォンチュー!!!”とか言ってるよな、こういうのが入ったら盛り上がるよなと思って、アドリブで“ウォンチュー!!!”って歌ってみたら、スタッフ全員から拍手喝采で(笑)。結局このフレーズがタイトルにもなっちゃいました。歌謡曲を知らない世代の人たちには新鮮だと思うし、僕らの世代の人たちは懐かしくて、スッと入っていけると思います。サビのフレーズも覚えやすくて、頭の中でリフレインして、気づいたら口ずさんでいるような、そんな曲になると嬉しいですし、それこそが歌謡曲のよさだと思います。僕が歌ってきた歌謡曲を知らない若い人には、こういう曲をずっと経験してきているんだということを知ってもらう機会になるし、どこまで浸透していくかはわからないですが、これが音楽をやっている人間のひとつの仕事という感じもします」。

「コンサートは、デジタルなものに頼りすぎず、マンパワーも駆使して人間の能力の凄さを見せたい」

カップリングの「dreamer1.2.3」と共にライヴで盛り上がること必至の、アップテンポなナンバーで、ファンが盛り上がっているのが目に浮かんでくるようだ。

「コンサートはいつも試行錯誤していて、現代はAIとかコンピュータに依存している部分が大きくて、それは仕方ないと思います。でもそういうデジタル化されたものの中に、やっぱり生身の人間でなければ出せないグルーヴ感があると思っていて。「ウォンチュー!!!」のイントロのギターだってそうです。人が弾いて作り出すグルーヴというか、マンパワーというところで人間の能力の凄さを見せる、デジタルなものに頼り過ぎないという意志です。そこはコンサートも今回のシングルも連動しているんじゃないかなと。どちらかというと今の音楽ではなくて、僕が70~80年代にやったような音楽に少し戻っています。時代は戻ってはいるけれど、でも“今”の気分もどこかに入れています」。

「シングルは、その年の郷ひろみがどんな音楽をやっていたのかが一目瞭然でわかるのもの」

2015年に通算100枚目となるバラードシングル「100の願い」を発売。この時の“節目”はどう捉え、その後も発表し続けるシングルとどう向き合っているのだろうか。さらにデジタル時代の中で、シングルというものの存在についてはどう考えているだろうか。

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「僕の区切りよりも、時代が何を求めていくのだろうかということを、ある程度理解をしていって、そこでどんな音楽を響かせるべきか、時代を知らないといけないと思います。でもそれがたまたまマッチするということはありますけど、わからないことの方が多いし、それが面白いところでもありますよね。僕がバラード3部作と言われている「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」(1993年)、「言えないよ」(1994年)、「逢いたくてしかたない」(1995年)を出した時は、ヒットチャートをロックが賑わせていて、それが少しずつトーンダウンしてきた時に、僕のバラードをみなさんが聴いて下さって。たまたまタイミングがよかったのだと思います。シングルというものの存在については、昔は3か月に一枚、年間4枚くらいは出していましたが、今は年に一枚のペースで、ペース自体も変わってきているように、音楽もアナログからまさかデジタルの時代に変わりました。でもデジタルの時代になったからこそ、永遠に残っていくものという意識が強くなりました。だから、さっきも出ましたが、その時代を考えて作っていくのはいいと思いますが、本当にしっかり考えて、大切に作っていかなければいけないと思います。この年代の郷ひろみは、こういう音楽をやっていたと一目瞭然なのが、シングルの在り方だと思います。一年に一枚と、ある意味コンスタントに出しているのは、シングル一枚聴くと、例えば2020年の郷ひろみはこういう感じだったと理解してもらえる、そんな感覚です。まだまだ歌っていないジャンルもあるし、例えば僕自身が明るいイメージなので、ブルースのようなものとは真逆のところにいると思っていて、でもだからこそブルースを歌ってみたいという気持ちはあります。それをシングルにしていいのかはわかりませんが、たまにはいいのかなとも思うし(笑)、でも一年に1枚だからどうなんだろう、やっぱりみなさんの期待に応えた方がいいのかなとか、もうわからなくなってきています(笑)」。

「オリジナリティはどこから生まれてくるのかというと、まずは100%のコピーからという持論があります」

105枚というとてつもない数のシングルを出している郷をして、「シングルって実際に歌ってみないとわからないんです」といわしめる、楽曲選びの難しさにいつも直面しているという。しかしそこにも郷の流儀があり、これはという曲を“作品”にまで磨き上げていくその方法とは?

「作家が歌った方が遥かにいい時もあって、やっぱりこれは僕には合わないと思うことも多々あります(笑)。特にバラードはそれが顕著です。仮歌を歌っている人の方が全然いい時があります。僕の中でオリジナリティはどこから生まれてくるのかというと、まずは100%のコピーからという持論があります。マネをするだけでは70%の完成度にしかならなくて、そこにオリジナリティは生まれてきません。だから元歌よりもうまく歌おうとは考えない。完璧にコピーできるまで歌います。それをやっている時に、やっぱりこっちの曲より他の曲の方がいいよなという感覚が初めて出てきます。それをやらないで、こっちの方がいいんじゃないっていうのは、僕が歌えないからそういう判断をしているんだって思われるのが癪なので嫌なんです(笑)。完全にコピーできて、でもこっちの方がいいっていう方が、説得力があるじゃないですか。まずマネをする、マネをする中から初めてオリジナリティが生まれてきます」。

この負けず嫌いな性格は昔からだといい、例えばコンサートの演出でも、舞台監督が提案するプランに対して「きついと思っても、できないというのが嫌なので、やってやろうじゃないかという気持ちになる」と、何事にも妥協を許さないと共に、一度やると決めたら最後でやり遂げるというモットーは、デビュー以来変わらない。

「ジャニーさんとは3年間しか一緒にいなかったけど、その3年間で教わったことは、今でもステージに立つ時に大切にしています」

郷は毎年、全国ツアーやイベント、ディナーショーを含めると100本近くのステージに立っている。「変化の先にしか進化はない」という言葉通り、毎回趣向を凝らし、ファンを楽しませ、感動と元気を与えている。そんな郷が今もステージ立つ際守っている、恩師から言われた心構えとは?

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「三つ子の魂百までも、ではないですが、15~16歳の時にジャニー(喜多川)さんに教わったことは、いまだにどこか守っている部分があると思います。それは下を向いてはいけないということです。ステージ立ったら絶対に下を向くなと。そうすることで大きく見えるからということでしたが、実は横隔膜って開くので、歌を歌うときに絶対に肩が前に出てはいけないんです。あとは立ち姿を僕はジャニーさんから褒められたことが一度もなく、厳しいことをずっと言われてきたので、すごく気を付けています。この世界に入ってきて、ジャニー喜多川という人が郷ひろみの生みの親なので、その人の教えはずっと心の中に残っています。3年間しか一緒にいなかったけど、その3年間で教わったことは、今でもステージに立つ上で大切な色々なことに結びついています。僕が教わったこと、そして自分の中で自分にしかわからない、ソロシンガーとして培ってきたことがたくさんあるので、それが伝わるかは別として、若い人に伝えていかなければもったいないなという気持ちはあります」。

「難しいことを、こともなげにやるのが僕の美学」

郷が普段から体を徹底的に鍛え、食事にも気をつけ、アスリートようなストイックな生活を送っていることは、都市伝説にもなるほど有名だ。トレーニングが生活の一部になっている。ライヴを観ていても、あれだけ歌って踊って息が上がっている郷を見たことがない。全て“郷ひろみでいるため”なのだ。

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「アスリート以上ですよ(笑)。僕の年齢でこんなにやっている人、アスリートにはいないですよ。だってみんな監督とかコーチになっているから(笑)。人間の筋肉というのは、今日やったらその効果が出るのは3か月後、肉体改造するのに3か月かかるんです。なので例えばコンサートの2週間前に一生懸命やっても、追いつかないんです。だったら1年を通してやった方がいいなというのが、基本的な考え方です。トレーニングは週3日で、週に1回スポーツマッサージを受けますが、そこで階段で上り下りをするのは僕だけだとトレーナーにいわれています(笑)。5階だろうが6階だろうがエレベーターは使わないです。それでもあまり息が上がらないんですよね。コンサート前にも100メートルダッシュをやっています。 僕の美学なんですよね、難しいことも難しくない顔をしてやるのが。僕は郷ひろみとしてパフォーマンスをやるだけだといつも思っていますし、アイドルなのか、エンターテイナーなのか、大人の歌手なのか、それは観てくれる人が決めてくれればいいと思っています。僕はいつも”郷ひろみ”をやるだけです」。

郷ひろみ オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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