「君は天然色」に注目再び 大滝詠一、TV関連楽曲と“新曲”が収録された、50周年記念の美しき新作

写真提供/ソニー・ミュージックレコーズ

大滝詠一デビュー50周年。TV関連の音源で構成された『Happy Ending』は、“最後のソロアルバム“!?

『Happy Ending』(3月21日発売)
『Happy Ending』(3月21日発売)

1970年、はっぴいえんどのメンバーとしてデビューした大滝詠一が、今年デビュー50周年を迎える。それを記念してアルバム『Happy Ending』が3月21日に発売された。このアルバムは1997年に月9ドラマ『ラブ ジェネレーション』(フジテレビ系)の主題歌として発表した12年ぶりのシングル「幸せな結末」、そして2003年に発売された『東京ラブ・シネマ』(同)の主題歌で、「幸せ~」以来6年ぶりのシングルとなる「恋するふたり」などを始め、大滝がTVドラマを中心に書き下ろした楽曲を中心に構成され、劇中インスト曲、提供曲の大滝ボーカルヴァージョン音源、未発表曲を集めたものだ。収録されている楽曲の制作秘話を関係者にインタビューし、最後のソロアルバムともいわれているこの作品が完成するまでを追った。

大滝と“TV”の素敵な関係を楽しませてくれる作品

3月21日、今年もまた“大滝詠一の日”がやってきた。毎年この日は決まってマニア垂涎のアイテムがリリースされてきたが、今年は何がくるのか、と、待ちわびていたファンの元にこの作品の詳細情報が届けられたのは、昨年末。そして「君は天然色」が、4月2日から放送開始となるTVアニメ『かくしごと』(TOKYO MX、BS日テレほか)のエンディングテーマに起用されることが発表されたのが、3月頭だった。この「君は天然色(かくしごと Ver.)」は、今回のアルバムの初回生産限定盤Disc-2『NIAGARA TV Special Vol.1』に収録されるということで、今年は改めて大滝と“TV”の素敵な関係を楽しませてくれる作品となっている。

オープニングナンバーの「Niagara Dreaming」は、大滝の一人多重コーラスに女性コーラスがプラスされたロマンティックなアカペラで、アルバム全体の“空気感”を予感させてくれるようだ。このアルバムは、月9ドラマ『ラブ ジェネレーション』(1997年10月~)と『東京ラブ・シネマ』(2003年4月~)の主題歌「幸せな結末(Album Ver.)」と「恋するふたり(Album Ver.)」が大きな核となっている。

「幸せ~」はオリジナル・ヴァージョンの他にも異なるヴァージョンが存在するが、今回は井上鑑アレンジの、スウィートで煌びやかなストリングスを前面に出した未発表ミックスで、圧倒的なストリングスの音圧に負けない、大滝の凛とした、かつ繊細なボーカルが多幸感を感じさせてくれる。「スペクターサウンド的なイメージ、実はオケの方で目立っていたイメージが大滝さんにはあると思いますが、大滝さんがいなくなってからの我々のポイントとしては、歌の凄さを届けたい、聴いてもらいたいというテーマがずっとあって。だとすると、単純にストリングスとボーカルだけというミックスは、その部分がより際立った形で聴いてもらえるのでは、と思いました。もうひとつは、やはり井上鑑さんの活躍がすごく大きくて、井上さんのアレンジの力が大滝さんのアレンジの底上げにつながっていると思います。『幸せな結末』にしても、あそこまでのオーケストレーションが実はシングルヴァージョンでは聴こえていないところがあって、とても丁寧に作り込んでいたということ、ストリングスだけのオケでも全然成立するということを、知ってもらいたかったんです」。

そして「幸せな結末」の制作過程では、“ラブジェネ”の監督/演出を務めた永山耕三氏の存在も大きい。大滝と永山氏の間で一体どんなやり取りがあったのだろうか。「大滝さんと永山さんは他のスタッフを入れないで、二人だけで話をすることが多かったので、ことの詳細はわからないのですが、割と細かい話はあった気がします。モチーフになっているのはハル・デイヴィッド&バート・バカラックの作品で、ジーン・ピットニーが歌った「True Love Never Runs Smooth」(邦題"恋は異なもの")で、この“True~”と書かれたポスターが、番組内で効果的に使われていて、ストーリーの展開を暗示していました。このキーワードが出てきたことによって、永山さんと大滝さんが意思疎通、合致して、色々な事が動き出したのだと思います。音楽を愛してくださる演出家・永山さんとの出会いがあったからこそ、我々も新たな大滝作品を楽しむことができます」。ちなみにそのポスターに登場する、市川実和子が手に持っているガラスのリンゴは、永山氏の私物だったという。

生前最後のオリジナル曲「恋するふたり」の、シングルとは異なるミックスが初めてアルバムバージョンとして収録

『東京ラブ・シネマ』(主演/江口洋介)の主題歌「恋するふたり」は、結果的に大滝にとって生前最後のオリジナル曲となった。全体から60年代のアメリカンポップスのフレーバーを強く感じるこの曲は、ドラマをより印象的にする大滝の歌と芳醇なサウンドが今もしっかりと耳に残っている。「よくよく聴くと、シングルになったものと劇中で使っていたミックスは全然違います。実は今回、劇伴としてかかっていた音が、初めてアルバムヴァージョンという形で世に出ます」。

このアルバムのもうひとつの聴きどころは“スキャットの大滝”ともいうべき、大滝の声、スキャットが醸し出す空気感とその余韻を再発見できるという楽しみがある。いずれも井上鑑アレンジで、まずはM3のロマンティックなインストゥメンタル「ナイアガラ慕情」、そしてM7の松田聖子へ提供した「ガラスの入江」は、ナイアガラ・フォール・オブ・サウンド・オーケストラルの演奏によるストリングス・インストゥルバージョンで、ここでも甘いスキャットを聴くことができる。M8「Dream Boy」では後半部分では、“ネタバラシ”的に「夢で逢えたら」のメロディをスキャットで聴かせてくれる。「今回は“スキャットの大滝”という魅力が、よりスタンダード感を醸し出せるという思いがあって、歌うのではなくスキャットによって、新たな魅力が発見できると思います」。

「So Long」は本邦初披露の“新曲”

「So Long」は完全未発表だった貴重なトラックで、“新曲”だ。女性キーで作られているので、大滝のボーカルキーが低く、落ち着いた雰囲気のポップスという肌触りで、作詞・小野小福、作曲・大滝詠一、編曲・Chelseaというクレジットから察するに、そして歌詞までできあがっている未発表曲ということは、市川実和子への提供曲として存在していたのかもしれない。聴き方によっては<いつかまた会えるね>という歌詞が違う意味として伝わってきて、せつなく感じてしまう。「この曲はそういった意味では、どこか終焉感が漂うじゃないですか。アルバムタイトルも含めたところで、ひと区切りという感じがありますね」。M9の佐野元春作詞・曲の「ダンスが終わる前に」のカバーは、井上鑑アレンジのストリングスをバックにした大滝のボーカルヴァージョンで、こちらも貴重な音源だ。M11「Happy Ending」も、ナイアガラ・フォール・オブ・サウンド・オーケストラルの演奏による「幸せな結末」のストリングス・インストゥルメンタルヴァージョンで、やはり井上のアレンジが光る一曲。どこまでも美しいストリングスと大滝の声、歌が堪能できるアルバム全体を締めくくるにふさわしいエンディングだ。

アナログ盤も同時発売

さらにこの『Happy Ending』はアナログ盤LPも同時発売される(A面:M1~6、B面:M7~11)。今回も英ロンドン・メトロポリススタジオのマット・コルトンの手によるハーフスピードカッティングが施され、ソニー国内プレスによる180g重量盤の高品位仕様になっている。ジャケットデザインはナイアガラ・レーベルには欠かせないグラフィックデザイナー・中山泰が手がけている。思わずジャケ買いしてしまいそうなインパクトを感じる仕上がりで、ファンにとっては垂涎のアイテムになりそうだ。「ナイアガラ・レーベルは世界的ハイクオリティな音でみなさんに提供するのというのも、役目のひとつだと考えていますので、音、品質共に最高のものができあがりました」。

『NIAGARA TV Special Vol.1』
『NIAGARA TV Special Vol.1』

初回限定盤に付属している『NIAGARA TV Special Vol.1』は「本人が90年代頃から温めていた企画」で、ナイアガラCMスぺシャルのTV版というべき、自らTVサイズにエディットしたもの、TVスポット用のミックスが異なるバージョンなどが収録された貴重な音源集だ。「普通テレビサイズって、シングル用の音源が完成してそれをテレビサイズに編集するものですが、大滝さんに関しては、TVスポットの30秒バージョンから始まって、劇伴サイズや最後にシングル盤のリリースサイズといったように、何度も何度もレコーディングしながら仕上げていきました。『Happy Ending』もその姉妹作といえる『NIAGARA TV Special Vol.1』も、一般の方には同じ曲がいっぱい並んでいるなと思われるかもしれませんが、ファンの方にはミックス違いとか、同じ曲でもレコーディングのセッション違い、ボーカル違いとか、そういうところを楽しんでもらえると思います」。

「君は天然色」がTVアニメ『かくしごと』のEDテーマに決定。新たな層への訴求

『NIAGARA TV Special Vol.1』の1曲目に収録されている「君は天然色(かくしごと Ver.)」は4月2日から放送されるTVアニメ『かくしごと』(TOKYO MX、BS日テレほか)のエンディングテーマに起用されることは、冒頭でも紹介したが、これまでのリスナー層とは異なるアニメファンへの訴求となり、どんな反応、反響が返ってくるのかが楽しみだ。さらに『かくしごと エンディングテーマ「君は天然色」イメージアルバム』が5月27日に発売されることも発表され、大滝が歌うフルバージョンに加え、「めぐろ川たんていじむしょ」のメンバー、後藤 姫役・高橋李依、古武シルビア役・小澤亜李、東御ひな役・本渡 楓、橘地莉子役・和氣あず未と、千田奈留役・逢田梨香子ら、豪華声優陣によるカバーヴァージョンが収録される。

2021年は名盤『A LONG VACATION』発売40周年。すでに本人企画の施策が決定している!?

デビュー50周年を迎え、再び大滝詠一にスポットが当たっているが、さらに来年は名盤『A LONG VACATION』40周年記念盤のリリースが決定している。「その仕様・内容・ボーナス等の指示は2011年の時点で本人からすでにあった」という。その発売を楽しみにしながら、そこへとつながる最後のソロアルバムといわれている『Happy Enling』と、『NIAGARA TV Special Vol.1』を堪能したい。

大滝詠一『Happy Ending』特設サイト