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orange pekoe 結成20周年「自分達が理想としている“ポップス”を追求していきたい」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

orange pekoeが結成20周年を迎え、2008年にリリースされたベストアルバム『SUN & MOON』を初アナログ化し、12月25日にソニー・ミュージックダイレクトのアナログ専門レーベル「GREAT TRACKS」からリリースした。ヒット曲「Happy Valley」をはじめ、「やわらかな夜」「太陽のかけら」など19曲を2枚組に収録し、名匠バーニー・グランドマンのカッティングにより、極上の肌触りを感じさせてくれるポップスアルバムに仕上がっている。藤本一馬、ナガシマトモコにこのアナログ盤について、そして20年という時間について、これからのオレペコが目指す場所、また、それぞれのソロ活動についてもインタビューした。

「CDでは“Sun&Moon”という2つのコンセプトを一枚にまとめた感じだったので、今回はアナログ盤2枚組になって、本来の姿になったと思う」(ナガシマ)

「世の中的にアナログ盤が聴かれているなあという実感はあって、都内のレコードショップもお客さんで賑わっているし、先日ドイツに行ったときにも、レコードショップを覗くと、ものすごい品ぞろえで、デジタル化が進む中で、手に取るものがアナログになってきているのかなって。そんな実感がある中でのアナログ盤の発売になるので嬉しいです」(藤本)。

「アメリカも家でアナログを聴く人が増えていて、移動している時、車や電車の中はデジタルで聴くという聴き方が主流になっています。よく行く洋服屋さんでも、アナログがたくさん売っていたりして、やっぱり大きいジャケットっていいなって思って。ファンの方も、今回の『SUN & MOON』の CDは持っている方が多いと思いますが、アナログになって、大きなジャケットになるのはいいなって思いました。実際に聴いてまず感じたのは、過去の作品なので、ここをこうしておけばよかったなということでした(笑)。でもバーニー・グランドマンさんのカッティングで、温かみがある音で、華やかで、ポップスとしてスムーズに聴くことができて、楽しめる作品になっていると思います。CDの時は“Sun&Moon”という2つのコンセプトを一枚にまとめた感じだったので、今回はアナログ盤2枚組になって、本来の姿になったと思います」(ナガシマ)。

『Best Album SUN & MOON』(12月25日発売)
『Best Album SUN & MOON』(12月25日発売)

ジャケットのイラストは、orange pekoeのアートワークには欠かせない、カンバラクニエ氏が新たなカラーリングに新装した、目に飛び込んでくるオシャレなイラストだ。orange pekoeは、ジャズ、ボサノヴァ、そしてクラブミュージックなどを絶妙のバランスで、ポップスとして昇華させ、ナガシマトモコのソウルフルでクールかつ、温もりを感じさせてくれる歌と相まって、聴き手をとりこにしてきた。様々な音楽を取り込み、アルバムごとに新たなorange pekoeの音楽スタイルを提示し続けた20年だった。そして2018年からニューヨークに拠点を置き(現在は帰国)、さらに新しいorange pekoeの音楽を探し続けた。

「自分達らしい純度が高いものを作れるという思いを持ちながら、毎作品トライしている」(ナガシマ)

「ある意味成功の10年であり、試行錯誤の10年。そこからの10年は、色々な『確信』を手にすることができた10年」(藤本)

「20周年の時はアメリカにいたので、そのことを忘れていて(笑)、それくらい私たちはまだまだやりたいこと、前に進みたいという気持ちがあって、自分達らしい純度が高いものを作れるという思いを持ちながら、毎作品トライしています。でも今回、こういう形で作品を出すことができて、20周年を実感していますし、プレゼントをもらった感じです」(ナガシマ)。

「いいことも、大変なこともありましたが、自分達の感覚だけを信じて音楽をやってきて、20歳という比較的早い時期にCDを出すことができて、そこから色々なことにトライして、まず10年経ちました。ある意味、成功の10年であり、試行錯誤の10年でもあったと思います。そこからそれぞれのソロがあったり、ミュージシャンとしては、ようやくお互いに色々な「確信」を手にすることができた10年だったと思います。なので20年という時間をかけて作品を残しながら、ミュージシャンとしての自分達を少しずつ開拓したり、開発したりしてきたと思っています」(藤本)。

「これまでの作品は、今とは違う瑞々しさを残せたというのは、ありがたいことだなと思います」(藤本)

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穏やかな雰囲気を醸し出す二人だが、今がまさに充実の時、そんな自信が輝きとなって表情から伝わってくる。2人は、2001年4月ミニアルバム『orangepekoe』でインディーズデビューし、同年2002年2月に発表した「やわらかな夜」が注目を集め、同年4月シングル「Happy Valley」でメジャーデビューを果たし、スマッシュヒット。同年8月に発表した1stアルバム『Organic Plastic Music』」でブレイク。その後、コンスタントに作品をリリースしてきた。

「デビューして、色々な流れが決まっている中で、自分達は、音楽的責任だけ背負って、よりよいものを作ろうという思いだけでした。でも途中から『私のペースはこれじゃないな』って思い始めてきて(笑)」(ナガシマ)。

「20代の時にレコーディングした作品は、10代後半~20代前半の時に作ったものがほとんどで、その“記憶”を残せたことは、よかったと思います。今聴くと、こうはしなかっただろうなと思う曲もありますが、自分で言うのも変ですが、今とは違う瑞々しさを残せたというのは、ありがたいことだなと思います」(藤本)。

「あの時にしか作れなかったものですし、それが真空パックされていて、そうやってこの先も残していきたいですし、例えば私たちが死んでしまった後にも音源は残るので、ありがたいですね」(ナガシマ)。

「その日の全てを吸い込んで歌にするので、絶対に昨日と同じ歌にはならない。それはバンドの編成に左右されないということ」(ナガシマ)

orange pekoeの作品は、時に、ライヴでは再現不可能と思えるゴージャスなサウンドがあったり、時にライヴ向きのバンドサウンド中心の作品があったり、色とりどりだ。

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「音源とライヴは別ものとして、考えすぎていたのかもしれません(笑)。若い頃に作った曲は、削ぎ落すというより、頭の中に湧いてきたアイディアを、全部詰め込む感じでした(笑)。そもそものコンセプトとして、当時は打ち込みを多用していたので、生で再現することは難しかったです。当時から録音芸術に興味があったので、ライヴでどう表現するかということより、作った音源がどう聴こえるかが大事でした。もちろん作った音源をライヴで再現したいと思い、大所帯編成でのライブを行ったこともありました。その後、全て生での一発録音をCDに残したいと思い、4枚目のアルバム『Grace』以降は特にバンドサウンドを追求してきました。」(藤本)。

「初期は、DJカルチャーの中にもいたので、ダンスフロアで流れるものという見方で、音源を捉えていた自分もいました。でも二人ともオーセンティックなジャズも大好きなので、ミュージシャンシップという観点から見ると、題材としての曲を、その時のメンバーで演奏するというのは、ジャズスタンダードを歌うような感覚でした。今日はギターとボーカルだけという編成だったら、どういう解釈で歌おうかとか、そこにオルガンが入るなら、3人でどう表現しようか、という楽しみもありました。ビッグバンドとやるときはショウとしての面白さがあるし、二人でやるときは自由なインプロビゼーションのよさもあります。でももっと根本的な話をすると、インプロビゼーションのあるなしに関わらず、歌うということには、その日の表現があると思っていて、絶対に同じ歌は歌えないし、それは即興で音を変えるという意味ではなく、私がその日の全てを吸い込んで歌にするので、絶対に昨日と同じ歌にはならないということです。同じものをやろうともしないし、当たり前ですけど、その時の気持ちを入れているので、それはバンドの編成に左右されないということです。だからどのライヴもそういう気持ちで私は臨んでいました」(ナガシマ)。

「orange pekoeの音楽を好きでいてくれる人に、僕のギタリストとしてのマニアックな趣味を、強要したくないので(笑)。そういう思いでソロ活動を始めた」(藤本)

「私と一馬の共通している音楽性の部分を表現しているのがorange pekoeで、重なっていない部分でやってみたいなと思ったのが、ソロを始めたきっかけ」(ナガシマ)

二人はソロ活動にも力を入れている。ソロはorange pekoeではできないもの、やらない方がいいもの、という考え方なのだろうか。そしてソロで得たものを、orange pekoeに還元したいという思考なのだろうか?

「(藤本)一馬はギターをいっぱい弾きたかったんだよね?(笑)」(ナガシマ)

「そうなんです(笑)。やっぱりギター好きなので、ギタリストとしての自分にフォーカスした作品を作りたいと思いました。もちろん自分の音楽的志向の変遷も少しずつあって、orange pekoeの初期に作った曲と、しばらく経った時の僕の志向性のギャップも出てきて。ギタリストとしての自分は、ヨーロッパのジャズに傾倒していって、orange pekoeもジャズやブラジル音楽、当時のクラブミュージックの影響を受けていますが、僕のギタリストとしての影響とは、また別でした。orange pekoeもソロも、僕が作るので、今は共通性があると思いますが、音楽が持っている方向性は少し違うところにあるように思っています。大きな影響を受けているのはラルフ・タウナーやジョン・アバーロンビーというギタリストが、ドイツのECMレーベルから出している作品で、いわゆるポップスの流れとは違うところに位置している音楽なので、僕の中ではプロジェクトとしては分けています。一時はorange pekoeの中にもそういう要素を入れたこともあるのですが、やはりフォーカスしきれないというか。orange pekoeの音楽を好きでいてくれる人に、僕のギタリストとしてのマニアックな趣味を、強要したくないというか(笑)。なのでorange pekoeとしては、これからも自分達が聴きたいボーカル音楽、ポップスというか、ポップスという言葉の意味自体が、大きなものを内包しているので、ひと言でポップスは語れないけれど、そのポップスというものが持っている、ひとつの自分達の理想を追い求めていきたい。ソロはインストゥルメンタルを中心に、影響を受けたジャズ、民族音楽、クラシックを集約したものを作りたいという、なんとなくすみわけができています。彼女の場合は、R&Bとかブラックミュージックの影響をすごく受けているので、そっちを追求していっている感じですね」(藤本)。

「一馬と似ていると思いますが、orange pekoeは私と一馬の共通している音楽性の部分を表現しているので、重なっていない部分で、やってみたいなと思ったのがソロを始めたきっかけです(ソロプロジェクトNia)。ネオソウルとかR&Bが好きで、一馬が好きな音楽はたゆたうリズムが特徴で、もちろんそういう音楽は私も好きですが、ラウンドするグルーヴものもすごく好きなので、それを自分のソロでやりたいなって」(ナガシマ)。

20年という時間は、CDからデジタルへの変化や、リスナーも音楽を育く環境がガラッと変わり、その変化はさらに続いていきそうだが、そんな中でorange pekoeとしては次の10年、20年をどう捉え、活動していこうとしているのだろうか。

「今、音楽シーンは過渡期。作り手も聴き手も、選択肢が増えているというのはいいことだし、やろうと思えばなんだってできる時代。よりフレキシブルなことが求められ、ある意味、ギミックが通用しなくなったともいえる」(藤本)

「今、ソロの2作目の制作をやっていて、演奏も全部自分でやっています。ニューヨークに住んでいた時に、仲間とオールデジタルで音楽を作って、その可能性を感じました。その経験から、次の作品は自分ひとりで作ってみようと思いました。時代感という意味では、世の中の変化を割と俯瞰して、面白いなって見ている部分があって、CDが売れなくなったと言われていますが、一方でYouTubeが発信の場になったり、サブスクリプションとかでリスナーも気軽に色々な音楽が聴けるようになって、ソーシャルメディアを通してリスナーとのコミュニケーションの距離が近いし、実験的なこともできるし、そういう自由な風が吹いていると感じていて。それを単純に面白いと思いながら、自分も

その風に吹かれながら、自分が持っているものを、世の中の流れの中にどう出していくと面白いのかなって考えながらやっていきたい。orange pekoeのいいところは、彼が作るメロディ、さっきも出ましたが、ポップスというものを、普遍的なよさがあるという解釈で捉えていて、そして、“核”になるエネルギーが、私たちが作るものの中に存在していれば、音楽がどういう服を着ていても、聴き手には伝わると信じています」(ナガシマ)。

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「今は確かに過渡期ではあると思いますが、作り手も聴き手も、選択肢が増えているというのはいい事だと思うし、やろうと思えばなんだってできる時代だと思います。よりフレキシブルなことが求められると思う。ある意味、ギミックが通用しなくなったともいえます。例えば、今まではライヴでは撮影禁止だったのが、今はOKの場合もよくあって、さらにSNSに拡散されて、ある日のライヴを、その場にいなくてもどこかで誰かが観たり聴いたりしている可能性があります。それはもう何も隠すことができないということ。でもそれは本来の姿に戻ってきたという見方もできるし、そういう意味では、芯を持って音楽をやるということが、ミュージシャンにより求められていると思う。そのミュージシャンの本質が見えてくるというか、逆にいうと、自分はどういうことがやりたいのかということを発信していければ、そういうものは何らかの形で、必ず伝わっていくという夢が持てると思っています」(藤本)

二人の核となる、orange pekoeのポップネスを大切にしながら、さらに深く深化したポップスをこれからも聴かせてくれる。

■ライヴ 『Winter Live2020』2月12日(水)、13日(木)Motion Blue YOKOHAMA

otonano orange pekoe『SUN&MOON』特設サイト

orange pekoe オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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