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唐沢寿明  主演ドラマ『ハラスメントゲーム』で実感 「働き方より、生き方を改革しろ」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
(C)テレビ東京

ハラスメント問題がテーマの好評ドラマが、スペシャル版として帰ってくる。「脚本とキレのある演出の力で、見応えあるエンタテインメント作品になっている」

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昨年10月クールにテレビ東京系で放送され、ハラスメントの真髄に真っ向から挑み話題を集めた、唐沢寿明主演のドラマ『ハラスメントゲーム』(井上由美子原作・脚本)が、1月10日(金/21時~)、ドラマスペシャル『ハラスメントゲーム 秋津VSカトクの女』として帰ってくる。唐沢と、過重労働撲滅特別対策班(通称・カトク)の鮫島冴子役として出演する、仲間由紀恵との初共演ということでも注目を集めている。唐沢に、前作に続いて「大どんでん返し」が待っている今回のスペシャル版について、そして改めてハラスメントという厄介な問題の根本にあるものについて、インタビューした。さらに、役者として演技と向き合う際に必要なことまで、今まさに充実の時を迎えている人気俳優の口から、次々と金言が飛び出した。

「ハラスメントは結局人間性の問題。人間がダメだからハラスメントをする」

今回のスペシャルでは、パワハラ、過重労働問題、食品異臭騒動と、文字にするとかなり強烈なテーマが並び、どんでん返しに次ぐどんでん返しの、ノンストップ・エンタテインメントドラマに仕上がっている。難しい問題がテーマになってはいるが、唐沢演じる秋津渉のキャラクターがいいバランスとなって、エンタテインメント性を強く感じることができる。マルオ―スーパー函館店店長となって一年経った秋津はある日、本社からコンプライアンス室臨時特任社員として呼び出されるところから物語は始まる――。

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塚本高史、萩原聖人
塚本高史、萩原聖人

「そうなんです、今回も際どいテーマを取り上げていますが、自分で言うのもなんですけど、最後の最後によく収まっているなと思います。やっぱり井上由美子さんの脚本の力、西浦(正記)監督のキレのある演出の力が大きいでしょうね。前作同様、井上さんの脚本はエンタテイメント性に富んでいて、それがこのドラマにすごくプラスに出ていると思う。ハラスメントという問題だけ掬うと、すごく重くなるし、ハラスメントって、何されたとか、やったとかやらないとか、表面的な話がドラマでは浮き彫りになるけど、そこに秋津のコミカルな部分が加わるとバランスが取れて、よりエンタテインメント性が増すのだと思う。ハラスメントって、本来は人間的な部分、人となりが一番大切な部分で、人間がダメだからハラスメントをするわけで。だから人間性が問題なんです。まともな人間はハラスメントなんてしないじゃないですか。今の社会はやった側のほうがすごく攻められるけど、やられた方にも原因がある場合もあって、そちらが問われる時代がこれから必ずくると思う。根本的なことを言えば、日本の古くからの縦社会にも問題があるし、人間的に成長できていない人が会社の中で偉くなって、ハラスメントをしてしまうのだと思う」。

「秋津という役は、視聴者が言いたいけど言えないことを言える、代弁者になれる面白い役だと思う」

左から古川雄輝、廣瀬アリス、唐沢
左から古川雄輝、廣瀬アリス、唐沢

ドラマの中では、コンプライアンスを遵守し、客観的に問題を解決しようとするコンプライアンス室や会社の人間と、「ハラスメントはメモに取れることだけでは測れない、心と心の問題だ」という、義理や人情を大切にし、なるべく人を傷つけないように解決しようとする秋津の思いとが交錯して、物語は進んでいく。唐沢にインタビューしているのに、まるで秋津と話をしているような錯覚に陥ってしまう。

「秋津は普段はエプロンを付けて店頭でお客さんと接しているのに、会社で問題が起こると、スーツで走り回るというのは面白いと思う。この役は、いい塩梅で言いたいことが言える役ではありますよね。視聴者の人が言いたいけど言えないことを言える、代弁者としても面白い役だと思っています。完璧な人間はいないと思いますが、そもそも上司が部下を怒鳴りつける時点で、もうだめじゃないですか。注意するにしてもそこに愛情があればいいんです。何もないから問題になって、訴えられたりするわけじゃないですか。で、最後泣きながら謝るわけでしょ?だったら最初からやらなきゃいいじゃんって話になりますよね」。

「自分がどういうタイプの人間なのかを改めて考えなければ、職場はもちろん、家族、恋人関係にもゆがみが出てくる」

今回のテーマは今社会的に関心が高い「働き方改革」。今まさに取り上げるべきテーマだし、こういう問題を抱えている人の解決の糸口になるようなヒントが、このドラマにはあるかもしれない。「働き方より、生き方を改革しろ」という秋津の言葉が胸に刺さる。

「解決方法がわからないから、忘年会で上司が部下にお酌するとか、その程度の発想しか出てこないんだと思う。人間として人をまとめる力とか、求心力とか、人間力みたいなものを磨く、という考えに辿り着かない人が多いのでは?表面的にうまくまとめようという発想しかないから解決しない。個人個人がそこに焦点を当てて、役職とかにぶら下がっているだけじゃなくて、自分のことをもっと考えるべきなんでしょうね。自分という人間はどういうタイプで、どういう風にしなければいけないのかを、一人ひとりが改めて考えなければいけないのだと思う。そうしないと、家族関係、恋人関係にもゆがみが出てくると思う。それは年齢関係なく、いくつなっても考えなければいけないことだと思います」。

「仲間由紀恵さんの存在感が、これまでとはまた違う見応えを生み出している」

今回のスペシャルでは、レギュラーキャストが再集結、プラス若干メンバーが変わり、さらに仲間由紀恵という豪華ゲストも出演するということで、現場は前回と比べ、どんな雰囲気だったのだろうか。

仲間由紀恵
仲間由紀恵

「現場は変わらずいい雰囲気で、さらに面白くなったと思います。仲間(由紀恵)さんのように、レギュラーではいなかった方が、話の中で大きな位置を占めると、また違う見応えがありますよね」。

これまでさまざまな役を演じてきた唐沢だが、これからやってみたい役を聞いてみると――。

「僕は今までこういう役がやりたいということは言ったことがなく、オファーがきたもので判断しています。『あまんじゃく 元外科医の殺し屋が医療の闇に挑む!』(テレビ東京開局55周年特別企画/2018年9月放送)に関しては、ずっとドラマ化して欲しいなあって思っていたものでしたが、基本的には会社の判断に任せているし、自分でこれやりたいあれやりたいって言っていると、全部同じような役になってしまうと思う。衣装合わせの時も、僕は一度も意見を言ったことがなくて、衣装さんが選んでくる衣装は、その人が僕のことを知らなくても、ちゃんとキャラクターの事をわかってイメージしたものなので、それを素直に着た方が、役に入り込めます。自分で選ぶと、ついカッコいいスーツとか時計を選びそうじゃないですか(笑)。ヘアスタイルだってカッコ悪くていいんです」。・

「役者はいつも変わる努力をしなければいけない」

出演作品は、圧倒的に客観性に委ねている。スタッフが、あらゆる方向から唐沢に光を当て、唐沢自身が、次はこの光に当たってみようとピンときた役を選んでいる。

「それが自分のやった事がない役で、興味を持つことができたらやりたいなと思います。見ている人が僕の印象が少しずつ違うと感じているのは、そのせいだと思います。役者はいつも変わる努力をしなければいけないと思っています」。

「サラリーマンも役者も、明確な目的を持つことで、色々なことが変わってくるはず」

このドラマの合同会見で唐沢は「4年後はちゃんちゃんこなんだから。レザーのちゃんちゃんこを着て活躍する“ちゃんちゃんこ刑事”とかやろうかなと思って(笑)」と取材陣を笑わせていたが、60歳という年齢が視界には入ってきた今は、50歳を迎えた時とは、心持ちは違うのだろうか。

唐沢と高嶋政宏
唐沢と高嶋政宏

「50歳になった時も『イン・ザ・ヒーロー』(2014年)という映画で、忍者の格好させられて、100人と立ち回りやってたからね(笑)。30年ぶりにくらいに2回転捻りをやって、できたんだけど、今かよって思いましたけどね(笑)。でも50半ばの今の方が、元気な気がする。いつも主演じゃなきゃダメというタイプでもないですが、ハードな役でも話をいただいたらやらなければいけないと思っています。役者に定年はないけど、やっぱりセリフがスラスラ出てこなくなったら、もう終わりかなと思いますね。あとはセリフがない役を受けるしかない(笑)。演技をするのが楽しいうちが花ですよね。でも楽しくするのは自分次第だと思うし、今の若い役者を見ていると、自分のセリフだけ覚えて、あまり先を見ないで仕事やっている人が多い気がする。ただ台本をもらって、ただセリフを覚えて、ただ現場に行っている感じで、本当はセリフを全部覚えてからが役作りなのに、それをやっていない人が多い気がする。サラリーマンの人の中にも、ただ会社に行っているだけ、という人もいるじゃないですか。でも会社に行く意味や目的をきちんと持っている人は、出世すると思います。それは俳優も同じで、ただやっているだけの人というのは、なかなか代表作に恵まれない。それはその人のよさが演技に出ていないから。ただやっているだけだから。目的を持ってやると、色々なことが変わってきます。目的を持つためには自分にできること、できないことをよく知っておく必要があるし、知らないことで勝負しても負けるに決まっています。僕も20代の頃からバラエティもやっていて、色々なことをやりたいからビラを撒いてきて、それが今ようやくみんなが認知してくれたのかなって思います。だから若手で今からビラを撒いていない人は、ずっと同じことしかできなくなると思う」。

役者・唐沢寿明は今、気力、体力とも充実していて、いい意味で余裕を感じさせてくれる、まさに“あぶらが乗っている”時と言っていい。そして努力を積み重ね、今手にしたこの“感覚”を、若手にしっかり伝えていくことも、自分の使命だと感じているようだ。今作はもちろん、これからの唐沢の出演作品にますます注目したい。

ドラマスペシャル『ハラスメントゲーム 秋津VSカトクの女』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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