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大村雅朗 “時代の音”を創った早逝の天才音楽家が、日本のポップスシーンに残したもの

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

1600を超える作品にたずさわり、46歳という若さで急逝した天才音楽家・大村雅朗

人気番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の9月23日放送回は、人気アレンジャーの島田昌典と関口シンゴが出演し、名曲の裏には必ずあるアレンジの凄さを解説するという、同番組の面白さでもある、“ポップなマニアックさ”が前面に出ていて、非常に興味深い内容だった。番組内で島田が「ゼロから1を生み出すのがアーティスト、1を10にするのがアレンジの力」と語っていたが、印象的なイントロを生み出すのもアレンジャー、楽曲により深みを与える間奏を生み出すのも、アレンジャーの腕だ。この番組を観ながら、偉大な作・編曲家の事が頭に浮かんできた。1600を超える作品にたずさわり、日本の音楽シーンに大きな影響を与え、1999年に46歳という若さで急逝した、大村雅朗だ。

後世に残る名曲、松田聖子「SWEET MEMORIES」の作・編曲ほか、多くのヒット曲を手がける

4枚組CD『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1976-1999』(9月25日発売)
4枚組CD『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1976-1999』(9月25日発売)

松田聖子の一連のヒット曲のアレンジ、そして彼女の作品で80年代を代表する不朽の名曲「SWEET MEMORIES」の作・編曲手がけ、その他にも、八神純子「みずいろの雨」、岸田智史「きみの朝」、佐野元春「アンジェリーナ」、大沢誉志幸「そして僕は途方にくれる」、渡辺美里「My Revolution」、大江千里「Rain」、鈴木雅之&ポール・ヤング「COME ON IN」etc…書ききれないほど膨大な数のアレンジを手がけ、ヒット曲の誕生に大きく貢献している。そんな大村の作品を70曲収録した『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1976-1999』が、9月25日に発売された。作・編曲家として駆け抜けた46年の生涯と、その功績から代表的な作品を中心にレコード会社の垣根を越えて、4枚組CDにコンパイルしたもので、70曲の中には最初の編曲作品である、西田恭平とホワイトハウスIIの「鐘」といった珍しい音源も含まれている。

高い美意識の元、先見性と人間性が音に表れていた、大村のサウンド

『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1951-1997』(DUブックス)
『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1951-1997』(DUブックス)

大村のアレンジの魅力、素晴らしさは、このCDと連動している、2017年に発売され、注目を集めた書籍『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1951-1997』(DUブックス)と、CDに封入されたブックレットの中で、様々なアーティスト、ミュージシャン、関係者が語っているが、最新の洋楽のサウンドをうまく取り込みつつ、それぞれの時代感を薫り立たせる、その時の「今」の音を作りあげてきた。高い美意識の元、先見性とその人間性が音に表れていた。ブックレットの中で鈴木雅之は大村について「はっきり歌心がわかるようなメロディセンスを持っている方。一緒に楽曲を一から作りあげていったという思いにさせてくれるほど、入り込んできてくれる。そこが大村さんならではの深さだと思う。大村さんの優しさと思いやりが音符に表れている」と、語っている。また、大村のレコーディングに欠かせなかったレコーディングエンジニア鈴木智雄氏は「空間にある“無音”の音まで感じる」と、その感性と才能を絶賛している。

「『そして僕は途方に暮れる』は、1984年時点での画期的な座組のトラック」(本間昭光)

いきものがかりを始め、数多くのアーティストを手がける、現在のJ-POPシーンを代表する作・編曲家/音楽プロデューサの一人、本間昭光は、大村とレコーディング現場で一緒に仕事をし、感銘を受けたという一人だ。「僕がまだ駆け出しアレンジャーだった時期に、色々なアドバイスを頂きました。そのどれもが経験に裏付けされた重みのあるお言葉で、そんな重要な事をサラリと教えてくださる理由を大村さんにお尋ねしたところ、『ノウハウを教えても、作る人によって発想が違うんだから、絶対に同じ作品にはならないよ』と、優しく答えてくださった事を思い出します。それ以降、僕も大村さんの考えに習って、後輩たちに全てのノウハウを伝えるようにしています」と、大村の考え方、言葉に大きな影響を受けていると話す。さらに本間に、数ある大村作品の中で、どれが一番好きかという非常に難しい質問をぶつけてみると、「そして僕は途方に暮れる」(大沢誉志幸/1984年)を挙げてくれた。「どれか一曲を選べと言われても困るのですが(笑)、CMで印象的なシーケンスが流れてきた時に一目(聴き)惚れしました。トニー・レヴィンやエイドリアン・ブリュー、錚々たるミュージシャンが参加していて、やはり84年時点での画期的な座組のトラックでしょう。その後、この作品のプロデューサーの木崎賢治さんから、制作秘話もお伺いした事も有り、ますます思い入れが強くなりました」と、のちに多くのアーティストによってカバーされる名曲の魅力を教えてくれた。

スタイリッシュさの中に、品と優しさを感じさせてくれる大村サウンドが、80年~90年代の日本の音楽シーンを牽引していたといっても過言ではないほど、その楽曲達は圧倒的な熱量と親しみやすさで、多くの人の心に響き、聴き継がれていていった。膨大な楽曲から70曲をセレクトした『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1976-1999』を聴くと、決して色褪せない、瑞々しさを失っていない大村の音楽の素晴らしさに、驚かされると共に、早すぎる死が、返すがえす残念で仕方ないという思いに駆られる。

福岡、佐賀地区で大村のドキュメント番組がオンエアされ、話題に

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9月21日にはFBS福岡放送が開局50周年記念特番として、福岡県出身の大村のドキュメント番組『風の譜〜福岡が生んだ伝説の編曲家 大村雅朗〜』がオンエアされし、話題を集めた。長年のパートナーだった作詞家・松本隆が、大村の故郷・博多へ行き、墓前で故人を偲び、大村の実家、母校を訪ね、その“体温”と“匂い”を感じる。さらに「SWEET MEMORIES」の制作秘話や、チューリップ・財津和夫、鈴木雅之も登場し、大村の仕事ぶりを語っていた。八神純子と渡辺美里が対談形式で大村の魅力を語り、ファンを公言するシンガー/声優・中島愛が、当時大村のレコーディングに参加していたミュージシャンと共にスタジオライブを行った。音楽監督&キーボード西本明、ドラム島村英二、ベース高水健司、ギター今剛、ピアノ&コーラス山田秀俊、シンセサイザー&プログラマー松武秀樹、コーラス木戸やすひろ、比山貴咏史、ストリングスRUSH by 加藤高志他、名ミュージシャンが大村のアレンジを再現した。貴重な記録映像といえるこの番組、しかし放送エリアは福岡と佐賀エリアのみで、全国ネットでの再放送を期待したい。

otonano 『作編曲家 大村雅朗の軌跡 1976-1999』特設ページ

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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