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シンガー・ソングライター湯木慧 メジャーデビュー3ヶ月、“表現者”の目に、新しい日々はどう映ったのか

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/LD&K

今年6月メジャーデビューを果たしたシンガー・ソングライター湯木慧。その唯一無二の世界観が広がりを見せている。思いを届けるための作品と発言は、“純度”がまますます高くなり、メジャーのフィールドに立ち位置を変えても、生きるために表現をするという、表現者としての“芯”の太さ、まっすぐさは、何も変わらない。

2ndシングル「一匹狼」(8月7日発売)
2ndシングル「一匹狼」(8月7日発売)

8月7日には2ndシングル「一匹狼」をリリースし、8月18日大阪・Shangri-La、24日に東京・キネマ倶楽部でワンマンライヴ『繋がりの心実』を行い、自分がいるべき「場所」を改めて感じ、確認した彼女が次に作り上げるものが、ますます楽しみになる。ライヴ後、彼女に話を聞くと、ライヴ前に自分自身を一旦“リセット”し、ライヴに臨んだことを教えてくれた。

「6月にメジャーデビューをして、ワンマンライヴをして、8月に2ndシングルをリリースして、ワンマンを控えて、怒涛のようにデビュー後走ってきて、自分がどこにいるのか、どうなっているのか、何を思っているのか、誰に何を伝えたいのか、時の流れに自分が追いつけていないような感じがしたので、ギターも持たず、身ひとつで故郷・大分に帰りました」。

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「短い期間だったということもあり、東京で待っている物事が頭によぎり、落ち着けなかったのですが、発見もたくさんありました。今回は、自らを“蘇生”するために帰省した昨年とは違い、“頼りすぎていた事に気づく機会”でもあり、そう思えるようになった時間でもあって、大分の森の匂いや風や水に触れて救われるという感覚がなくて、『まだ疲れてないな。まだまだやれるな』と思いました。本当に死にそうだったら、風の匂いで泣いちゃうくらいだったので、この森の匂いを感じても、涙が出ないなら、まだまだだなって思いました。東京に戻ってきても、大分に戻りたい戻りたいという気持ちではなく、『よし…。するべきことをしよう。これからだ』という気持ちになっていました。控えているワンマンライブに向けて一心になれた帰省でした」と、大分の森で大きく呼吸をして、心と体を整えてきた。

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「そして今、ワンマンを終えて、大好きなバンドメンバーとの一ヶ月間の日々や、私の表現したいことに協力してくれる、舞台監督さん、PAさん、スタッフさん達、照明さん…全てに愛が溢れていました。準備期間から、リハーサルも、本番も、色々なところで、本当に多くの人がこのステージを作るために動いてくれていて、緊張とか身が引き締まるとかではなくて、ただただ感謝で溢れました。そんなワンマンを終え、よかったところ、改善するところが多くある中、私の繋がりはまだまだ広がっていき、また新しい姿を見せていくぞ、という思いで満ちあふれています。そして今の頭の中は次の作品でいっぱいで、次の音源制作に励んでいます。なんだか、メジャーでのシングル2枚のリリースから、帰省してのリセットと、色々な事を発見し、ワンマンライヴを無事終わらせ、また音源制作へ…これの繰り返しなのかも、と思う一連の流れを終えた気がします。ひとつひとつを、その時できうる力と愛で終えてきて、これを何周もしていく中、色々な面で大きく成長していくんだろうなと思う、一周目が終わり、次の周が始まった感じがします」。

2ndシングル「一匹狼」のMUSIC VIDEOも森が舞台だ。メジャーデビューシングル「誕生~バースデイ~」で、“誕生”したばかりの彼女が、襲いかかる不安や孤独の中でも、立ち上がり、前へ進もうとする様が描かれている。ワンカットで撮影されたというMVには、うっそうとした森の中を歩き、走る湯木の姿が映し出されている。

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「怖い森なんです。初回盤のパッケージの中にも、MVに登場する森を描いていて、MVと繋がっているのですが、その絵を描くときも綺麗な森、生命を感じる森というよりも、迷いこんだら、抜け出せないような森をイメージして描きました。撮影の時は、目の前が見えないのに前へ踏み出す“恐怖”と、周りの人からかけられる“声”を全く信じられなくなるあの感覚が、とても“ひとりぼっち”を感じる時の感覚に似ているように感じました。そんな中でも、進む方向を示す誘導の音は確かに信じられて、その“音”に向かって歩いていたんです。人の言葉は信じられなかったけど、目の前で鳴っている音だけは信じられて、“音”は“光”だと、思いました」と、MVに込めた思いを教えてくれた。

彼女にとっての“光”でもある音楽への思いの大きさ、熱さは尋常じゃない。彼女は自分のことを「不器用」だという。

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「「一匹狼」は1stシングルの「誕生〜バースデイ〜」後のストーリーを歌っているのですが、実はメジャーデビュー日である6月5日、“誕生”をまだ迎えていないのに、生まれた後の話である「一匹狼」を作っていて、あの時は地に足がついていない感覚でした。だから「誕生〜バースデイ〜」のインタビューをしていただいていた時も、そういった時間軸のズレもあって、混乱していて…。気持ちを切り替えられればいいのですが、ひとつの事に集中すると、振り切ってしまうタイプなんです。「一匹狼」という作品を作りながら、でも6月5日は”誕生”っていう感情に戻らないといけなくて、強引に戻して。そんな状態だったので、何かすごく取りこぼしてる気がしてしまいました。もっと、「誕生〜バースデイ〜」という作品のことだけを考える時間がなければいけなかったんだと思う。創作者としては悔しいというか、歯がゆいというか、何やってるのって感じなんですよ。こぼしてしまったものたちのことを考えると、もったいないことをしたなって思います。こぼしたものを拾うのは私しかいないので、もうちょっと現実を見て、地に足をつけながら、表に立たなければいけないと、この長かったようで短かった2ヶ月で思いました。音楽以外のことは器用に立ち回れるけど、こっちが大切すぎて、不器用になってしまいます」。

作品の純度と熱量の高さは、不器用さゆえ、という見方もできる。湯木慧の表現の旅は、まだ始まったばかりだ。魂の物語は続いていく。

湯木慧 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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