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森口博子 ガンダム楽曲のカバー集が話題「ずっとテーマ曲を歌える表現者でいるために、自分を磨き続ける」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/キングレコード

ガンダムソング361曲の中から、ファン投票で、デビュー曲「水の星へ愛をこめて」が1位、「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」が3位にランクイン

『GUNDAM SONG COVERS』(8月7日発売) 初回プレス盤ジャケットは、ガンダムキャラクターデザイ ナーの、ことぶきつかさによる描き下ろし。(C)創通・サンライズ
『GUNDAM SONG COVERS』(8月7日発売) 初回プレス盤ジャケットは、ガンダムキャラクターデザイ ナーの、ことぶきつかさによる描き下ろし。(C)創通・サンライズ

2019年は「機動戦士ガンダム」がテレビシリーズ放送開始から40周年を迎えるということで、2020年にかけて「機動戦士ガンダム40周年プロジェクト」がスタートしている。その一環として、2018年にNHKで放送されたのが『発表!全ガンダム大投票』で、ガンダムソング361曲の中からファン投票でランキングを発表した。その結果、森口博子のデビュー曲「水の星へ愛をこめて」が見事1位に輝き、同じく「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」が3位にランクインした。名曲の宝庫と言われていガンダムソングの中で、森口の作品が支持され続けていることを受け、カバーアルバム『GUNDAM SONG COVERS』(8月7日発売)の企画がスタートした。同番組のランキング1位~10位をランキング順に収録し、「国民が選んだガンダムソングベスト10」を、森口が全曲カバー&セルフカバー。レコーディングは、豪華アーティストとの一発録りで、情熱的なセッションがパッケージされている。来年35周年を迎える森口に、このアルバムについて、そして34年を迎えた“今”の思いを、聞かせてもらった。

「ガンダム、そしてファンの皆さんと、歴史を積み重ねてこれたからこその結果」

――「国民が選んだガンダムソングベスト10」の中で、森口さんの曲が1位と3位という結果を受けて、今回のアルバムが企画されました。

森口 360曲以上あるガンダムのテーマソングの中で、私の「機動戦士Ζガンダム」のテーマソング「水の星へ愛をこめて」がランキングの1位に選ばれて、初めて「紅白歌合戦」に出場した時に歌わせて頂いた「機動戦士ガンダムF91」のテーマソング「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」が3位にランクインして、号泣しました。30年以上経っても、こんなにもファンの皆さんが私の曲をずっと大切にしてくださっていることに、感動しました。ガンダム、そしてファンの皆さんと、歴史を積み重ねてこれたからこその結果だと思います。今でも本当に夢のようで、歌い続ける力をもらいましたし、自信にもなりました。感謝の気持ちでいっぱいです!40年創作し続けてこられた富野由悠季監督をはじめ、スタッフの皆さんにも大リスペクトです。このアルバムはファンの皆さんと創ったアルバムなんです。

「ガンダムは、私の人生を変えてくれた存在」

――ガンダム自体、進化を続けながら、でも根っこの部分は変わっていないので、支持され続けているのだと思います。

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森口 善悪では語れない複雑な人間関係や矛盾の連鎖が、79年から一貫して続いています。そこには深いメッセージがあって、愛、絆、裏切り、復讐と重厚なテーマが流れていますが、小学生も魅了されます。世代を超えて、国境を越えて、響く作品だからこその名曲揃いだと思います。そして、人格形成の時期に聴いたアニソンは裏切らない!と感じています!!私にとってもガンダムという作品は、人生を変えてくれた存在です。4歳から歌手になりたいと思い続けて、オーディションを受けては落ちを繰り返して、最後に手を差し伸べてくれたのがガンダムでした。人生をガラッと変えてくれた運命の作品で、今回1位をいただいたて、生涯の縁を感じています。

――アルバム『GUANDUM SONG COVERS』は、そのランキングの1~10位までをカバーしていますが、他の曲と改めて向き合い歌ってみて、いかがでしたか?

森口 こんなに素敵な楽曲に、改めて出会えて、触れられたことが幸せであり刺激的で、興奮の連続でした。このアルバムのレコーディング前に、「哀・戦士」(『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』主題歌)を、歌番組で歌っている井上大輔さんの映像を観て衝撃を受けました。井上さんがサックスを吹きながら熱唱!こんなにアグレッシブな方で、カッコよくて、こんなに震える楽曲だったんだと。この曲のことを、知っているつもりで知らなかった。その動画を観ながら泣いてしまいました。

――原曲は血がたぎってくる感じで、森口さんと押尾コータローさんとのコラボで、どう生まれ変わるのか楽しみでした。

森口 生まれて初めての一発録りがこの曲でした。押尾さんのスラップギターがカッコよくて、心地よかったです。ギターの独特の余韻を纏いながら、一緒に駆け抜けていけた楽曲でした。この曲の<名を知らぬ戦士を討ち 生きのびて血へどはく>という富野監督の歌詞にグッときます。今現在も世界中で色々な戦争、紛争が終わらず、繰り返されていて、でも攻める方も攻められる方も、どちらにも家族がいるということを考えると、両方が戦争犠牲者だと思います。そういうことをこのフレーズは考えさせてくれます。79年からこの思いを発信し続けているガンダムは、やっぱりすごいと思います。

「めぐりあい」で多重録音に挑戦。「この声は私一人のものではないと改めて感じた」

――もう一曲、井上大輔さんの作品「めぐりあい」(『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』主題歌)は、アカペラでカバーしています。

森口 一人多重録音で31声録って、メインボーカル森口博子が、30人コーラスの森口博子を背負っています(笑)。自分で言うのもなんですが、どこか神々しい仕上がりになっていて、声ってやっぱり神様からの贈り物なんだと改めて感じました。デビュー30周年の時に感じたことでもあるのですが、この歌声って、神様から預かっていると思ったので、最後の眠りにつくまで、ちゃんと磨いて、聴いてくれる人の心に届けたいと思いました。これだけたくさんの人と歌で繋がることができているのは、この声は私一人のものではない。この多重録音にはそういうメッセージや尊い生命を感じました。

「17歳で『水の星へ愛を込めて』という作品に出会えたいうことは、永遠の宝物だと思った」

――そして「水の星へ愛を込めて」では、改めてデビュー曲と向き合ってみて、何か思うところはありましたか?

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森口 作詞をしてくださった売野雅勇さんの歌詞の美しさや、哲学的な部分、ニール・セダカさんの壮大なメロディに、年齢を重ねてきたからこそ震えるというか……。17歳の時はただひたむきに、一生懸命大きな気持ちで歌っていて、その意味は深く理解できなかったと思います。先日、売野さんとお話しをしている時にこの歌詞について、「神様レベルの世界」とおっしゃっていて、17歳でそんな素晴らしい歌をいただけたということは、永遠の宝物だと思いました。当時、レコーディングの時にディレクターさんから「水の星って意味わかる?」って聞かれて、緊張していた私は「水星です」って答えて(笑)。ディレクターさんが、何事もなかったような穏やかな笑顔で「地球のことだよ」って言ってくださったところから、この歌と私の歴史は始まっているんです(笑)。「この曲は君が大人になってもこれから先、ずっと歌っていける曲になるから。そういう歌手になって欲しい。大きな気持ちで、でも語尾を大事にして歌ってね」とアドバイスされたことを、今でもハッキリと覚えています。今回、世界的ジャズヴァイオリニストの寺井尚子さんの魂の演奏に痺れる、同時レコーディングになりました。声は17歳の時とは変わっていますが、当時の歌い方が出てきたりして、染みついている部分と成長した部分とがミックスされていると思います。ファンの方は「今の歌声で聴きたいです」と言ってくれます。アニソンって、最初のイメージが強烈に残りますよね。だから声が大人になったら「違うんだよね」って言われると、淋しいじゃないですか。でもファンの方は、今の私の声を受け入れてくださって、「ますます進化してるね」って言ってくださって、本当に歌手冥利に尽きます。

――デビュー当時に戻ってしまう瞬間があったとおっしゃっていましたが、まさに冷静と情熱の間という感じの、感情の揺れが心地いいですね。

森口 ピュアな部分が残っているところと、年輪を重ねてきた歴史だなと思える部分、色々な自分が、今回のセルフカバーでは出てきていると思います。寺井尚子さんの情熱的でドラマティックなバイオリンの演奏が圧巻だったので、その熱量の中に溶け込んでいけて、気持ちよかったです。

「『フリージア』では、塩谷哲さんのピアノが、今までの自分にはなかった声を引き出してくれた」

――難しい質問だとは思いますが、どの曲が特に印象的でしたか?

森口  「フリージア」(『機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ』EDテーマ)です。塩谷哲さんとの一発録りでは、透明感のある美しいピアノの音色に泣きそうになりました。生の魅力といいますか、今までの自分にはない声を、レコーディングで引き出してもらいました。Uruさんが書かれた歌詞が素晴らしくて、<希望の花 繋いだ絆を 力にして明日強く咲き誇れ>というフレーズは、福岡の友達のことを思い出して、グッときました。

――歌が本当に繊細です。

森口 普段ならぶつけていくところも、抑えめに歌って、それは<果たせなかった約束や 犠牲になった高潔の光>という、哀しみを湛えた歌詞の世界を、どう表現するかを考えて、泣けてきました。

――「RE:I AM」(『機動戦士ガンダムUC episode 6「宇宙と地球と」』主題歌)ではインストゥルメンタルユニット・TSUKEMENとコラボしています。

森口 TSUKEMENさんは、メンバー同士が大学時代に出会って、そこからずっと一緒に奏でているので、絆の音色とでもいうべき心地いい音を作りあげて下さって、そこにスッと入っていけました。難しい楽曲でしたが、不安が集中力にいつの間にか変わっていて、気がつくと気持ちを解放できていました。これが一発録りの魅力なんだなって思いました。別々に録っていたら、全く違う仕上がりになっていたと思います。音楽って素敵です。

――今の森口さんだからこそ、今回のアルバムを作ることができたのかもしれませんね。

森口 そうですね。歌の受け止め方も20代と今では違います。長く生きてきたからこそ、感じることも深くなってきたので、こうやってインタビューに答えているだけで、曲のことを考えると涙が出そうになります。歌うということに対して、一回一回の大切さを感じるようになったし、何をするにも感謝の気持ちが大きくなってきました。

もう34年、まだ34年

――デビュー34年経って、長かったという感じですか?それともまだ、という感覚が強いですか?

森口 ブレずに必要としてくれるファンの方や、私が知らないところで、日夜支えて下さって動いてくれているスタッフの方々の事を考えると、34年も経ったんだなって思いますが、でも自分の夢への進化を問うと、まだ34年しか経っていないと思います。

――キャリアの中で、ジャズとの出会いもやはり大きかったのでしょうか?

森口 昔は歌い方も優等生って言われていて、それがすごく嫌で、ちゃんと心を伝えたいのに優等生って思われるのは、致命的だなと思ったこともありました。でもジャズって、スタンダードを歌うとその人の歌い方によってどういう表現になるのか、真価が問われます。自分自身もまだ発展途上だと思いますが、ジャズをやり始めて、自分だったらこう歌うということがわかり始めた気がします。ジャズを知らないお客様も、歌謡曲やポップスをジャズアレンジにして歌うと、いいですねって喜んでくださって、世界が広がっていくので、すごく刺激的です。

「ライヴは毎回“ここが私の生きる場所”と実感できるし、歌うたびに命をもらえているから、それをまた歌でみなさんにお返しする」

――ジャズのライヴも通常のツアーも精力的に行っていますが、森口さんにとってライヴはどういう存在ですか?

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森口 ライヴが生命線ですね。そこに向かっていけるから、全てを頑張れるモチベーションになっています。ライヴって本当に一期一会という言葉通りだなって思います。会場の中で、お客様一人ひとりの生きる喜びや辛さとか、その思いが共鳴し合うというか。色々あるけど、でもやっぱり明日に向かって歩いていこうねって、音楽を通してみんなで思い合えるあの場が、本当に愛おしいです。毎回ここが私の生きる場所なんだと実感していますし、歌うたびに命をもらえている感じがします。だからこそ次のライヴでは、また歌でお返ししたいと思います。エネルギーの交換ができる幸せを感じています。もちろんレコーディングも、これが一生残るんだという緊張感と、愛おしさを感じます。ステージに立てる歓びを感じるように、レコーディングは、待ち時間でさえ幸せです。

32年ぶりの森口博子×『機動戦士Zガンダム』のコラボ、最新曲「鳥籠の少年」がロングヒット

――昨年は、32年ぶりに『機動戦士Zガンダム』とコラボ(『CRフィーバー機動戦士Zガンダム』)復活で、新曲「鳥籠の少年」をリリースしましたが、各配信サイトのランキングを席捲し、ロングヒットになっていますね。

「鳥籠の少年」(2018年2月14日発売)
「鳥籠の少年」(2018年2月14日発売)

森口 お話をいただいた時は「こんなことってあるんだ」と、震えました。高揚感のある、アップビートのサウンドで、次への一歩を踏み出すパワーと勇気を与えてくれる楽曲です。10代20代30代40代とシリーズごとに、ガンダムのテーマソングを歌わせていただいている事は、ボーカリストとして最高の誇りと使命を感じています。50代、そして60代、70代、80代になってもテーマソングを歌える表現者として、自分を磨き続けていきたいですし、ファンの皆さんと、これからも積み重ねていきたいです。

森口博子 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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