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TiA 7年半ぶりのアルバムで“新しい人生”を歌う「自分らしくありのままでいることで、輝ける」  

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/Ryosuke Kanesaka

TiAが帰ってきた――2004年16歳で華々しくデビューしたものの、2014年「日本では自分は必要とされていない、歌をやめよう」と単身渡米したことが“奇跡”の始まりだった。ゴスペルに出会い、魂を開放して歌うことの楽しさ、歌える喜びを再び取り戻した彼女は全米で評価されるまでに進化。昨年には『世界が認めたジャパニーズ6人』(クーリエ・ジャポン)にも選ばれ、デビュー15周年を迎えた今年、7年半ぶりのオリジナルアルバム『MIRACLE』を6月5日にリリースした。

7年半ぶりのオリジナルアルバム『MIRACLE』(6月5日発売)
7年半ぶりのオリジナルアルバム『MIRACLE』(6月5日発売)

そして6月6日、デビュー15周年記念ライヴ「MIRACLE~奇跡の軌跡~」をマウントレーニアホール渋谷プレジャープレジャーで行い、渋谷のど真ん中で、高らかにゴスペルを響き渡らせた。ニューアルバム『MIRACLE』からはもちろん、15周年を彩る様々な楽曲を披露し、圧倒的なボーカル力と圧巻の表現力で、そこにいた全ての人の心の深い部分まで歌を届けた。表現力はもちろん、高度なテクニックを持っているからこそのものだが、彼女の歌は、彼女の生き様そのものだから、心に響くのだ。彼女はこの約7年半ぶりのアルバム『MIRACLE』にどんな思いを込め、どんな思いで向き合っていったのか、インタビューをした。

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「15年前にデビューした古巣のソニーミュージックさんから、オリジナルアルバムとベスト盤(初回生産限定盤に付属)を同時にリリースしましょうとお話をいただいた時は、一人で泣きました。ニューヨークに渡ってからのこの5年間、日本でどうにかなりたいとか、もう一度メジャーからリリースしたいとか、そういうことは考えずに活動していました。なぜそう思っていなかったか、それはもちろん今歌を歌うことがただただ楽しいからです。5年前に日本での活動も一度は諦めたので、まさかまたオリジナルアルバムを日本で出せるなんて思ってもいなかったので、ビックリしました。それと担当の方が、こういうアルバムを作りましょうとアイディアを出してくれた時、『ゴスペル大会で優勝した時に歌った「RIDE ON KING JESUS」はTiAの“きっかけ”の曲でしょ?、教会で初めて歌ったゴスペル曲「CENTER OF MY JOY」は、一番忘れられない曲だと思うから、カバーをした方がいい』とか、こんなに愛を持って一緒に音楽を作ろうって言ってくれる人がいることに、私は全力で応えたいと思いました。歌手を辞めようと思ってニューヨークに行ってからの5年間の全てを、このアルバムに込めたいと思いました」。

「ニューヨークでもう一度、歌がただ大好きだった自分に戻れたことが、今、自分にとって一番大切なこと」

ベスト盤には渡米前の全シングルや人気曲計9曲を収録し、『MIRACLE』にはTiAが人生をかけ、歌い続けてきたカバー曲や、オリジナル曲が11曲収録されている。TiAのこれまでとこれからを映し出す内容になっている。

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「ベスト盤のマスタリングで、15年前のデビュー曲から1曲ずつマスタリングルームで聴いていて、あの時どうだったなとかあの時こんな気持ちだったなとか、色々な感情が湧いてきました。でもそれも一瞬で、やっぱり私は日本や世界でこうなりたいとか、そういう夢を追いかけているわけではなく、自分にとって一番大事なことは人生を楽しむことなんだって改めて思いました。16歳の時はインタビューで『歌が大好きなんです』ということしか言わなかったよねって、スタッフの方に言われましたが、今思えば、私は逆にそれでよかったと思いました。日本で売れるために試行錯誤しながら歌い続けていくうちに、歌が好きかどうかさえわからなくなってしまったという悲しみを経験して、ニューヨークでもう一度、歌がただ大好きだった自分に戻れたことが、今、自分にとって一番大切なことなんです。だからこのアルバムをたくさんの人にもちろん聴いて欲しいとは思っていますが、でもそこが一番重要なのではなくて、自分らしく、ありのままでいることが一番輝いていることで、それがきっと聴いて下さっている方々にも伝わると思うので、忘れないようにしたいなと」。

「とにかく悔いのないアルバムしたかった。ミュージシャンもクワイアも全て私の人生につながっている」

“ありのまま”を“自分らしく”表現したアルバムはエネルギーと優しさで満ちあふれている。

「今回のアルバムはとにかく悔いのないアルバムにしたかったですし、入っている楽曲には全て意味があるし、一緒に演奏する人も、クワイアの声も、全てが私の人生につながっている人たちとレコーディングすることができたので、後悔はひとつもありません。アルバムタイトルの『MIRACLE』も、私のこの5年間はミラクルでしかなかったし、本当に奇跡が重なって今があるので、しかもそれが続いているという状況の中で、今の自分にふさわしいタイトルになったと思います」。

「強くなれたからこそ、今は、歌うことで誰かに思いを伝えたいという気持ちがすごく強い」

その奇跡を引き寄せているのは、TiAの人間性や人柄だと思う。彼女の歌を通して、そういう情熱や大きな愛を感じる事ができるからだ。

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「ニューヨークに行く前の自分だったら、ここまで自分の気持ちをしっかり伝えられなかったし、ものすごく弱かったと思うんです。でも弱かったからこそわかる気持ちを語ったり、愛を知らなかったからこそ、愛を知って、みんなにも愛を伝えたいと思うようになったり、今の私には歌うことで誰かに思いを伝えたいという気持ちがすごく強くて。ニューヨークでは無我夢中で、生きることに必死だったので、ずっと色々なことに気付く余裕も無かったのですが、思い返せば相当勇気が必要なことに挑んだりもしてきましたし、その度に、たくさんの方の愛に支えられていたんだなって、今だから気付けることがたくさんあって」。

「愛がちゃんと自分の中にあるからこそ歌えた『君は愛されるためにうまれた』」

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「いつから歌手になりたかったんですか?って聞かれた時、生まれた時からですって言えるのが、自分にとってすごく自然なことなんですよね。だから呼吸することと同じで、私は歌えなくなったら死んでしまうかもしれない。それくらい大切なことをやめようと思っていたあの頃は、本当に生きているのが辛かったのだと思います」と語っているように、歌う意欲や思いを、木っ端微塵に打ち砕いたのも日本だし、でも強い愛情で彼女を支える人がいるのも日本で、ニューヨークは蘇生させてくれた街だ。結果的にTiAは多くの人に愛され、多くの人の優しさに包まれている。

TiAの生き様を歌ったアルバムの、最後に収録されている韓国のゴスペルを日本語で歌った「君は愛されるため生まれた」が、これまでの経験を通して感じた、一番大きな力になっている言葉だ。

「一番変わったことは、今、愛されているというのをすごく感じることができていること。愛がちゃんと自分の中にあるから、歌う時も自分が愛で満たされているから、みんなにも愛を届けたいというか、淋しい気持ちの人にも、誰にも愛されていない人なんていないんだよということをしっかり伝えたいです」。

「『Milacle』という曲は、音楽を続けてきたからこそのミラクルでできた曲」

表題曲「Miracle」も、アルバム中で唯一の全編日本語詞のオリジナル曲で、ひと言ひと言に深い愛情を感じる。

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「7年半ぶりのフルアルバム、しかも日本でリリースさせていただけるということで、日本語で届けたかった。アメリカでは歌うのも聴くのも英語なので、日本語の歌をたまに耳にすると、やっぱり私は日本人だからダイレクトに心に入ってくるんです。だから私は日本人シンガーとして、日本でリリースする上で、日本語の曲もしっかり届けたいと思いました。この曲を作ってくださったのが7年半前にも曲を書いてくださった春川仁志さんで、音楽を続けてきたからこその再会、これもミラクルでした。歌詞も私のことを全て見てくれていたかのような、私の気持ちを代弁してくれているような言葉が送られてきて感激して、初めてデモを聴いた時は泣いてしまいました。こういう曲と向き合うことができたのも、成長できている証だと思うし、自分自身と楽しく向き合えました」。

「ゴスペルという素晴らしい音楽を、もっと知ってもらいたい」

5月28日にTiAが出演したTBS系の音楽番組『PLAYLIST』で、総勢30名を超えるクワイアとダンサーと共に、自由に歌い、踊り、熱狂のパフォーマンスを披露した「Praise Break」の世界も、アルバムで伝えたかった。

「あれがまさに私のゴスペルです。悲しいことも苦しいことも嬉しいことも、感謝の気持ちを全部出す、それをシャウトして出すというのが、私のゴスペルのスタイルです。ニューヨークの黒人教会に通っていた時、そこで聴いていたゴスペルです。みんな歌い踊り、クラップして、祈り、賛美が止まらなくなって、クライマックスに達してきた時に、2ビートを刻むドラム音が入ってきて、もう誰も私達を止めることはできないと言わんばかりに、叫び、踊るという状況を「Praise Break」と言います。それを日本でも広めたいと思って日本語で「Praise Break」というオリジナル曲を作りました。自由にすべてを解放して、生きる素晴らしさを手に入れようという内容です。ゴスペルって日本では、まだまだ一般的には知られている音楽ではないですが、でも知られていないからこそ私はアピールしていきたいし、こんなに素晴らしい音楽があるということを、日本でもたくさんの方に知ってもらいたくて」。

「これからの私は、今までもそうだったように、導かれるままに」

「I’m On My Way」は、2015年に作った、初の全編英語詞曲の「夢の途中だけど、あきらめない」というTiAのテーマソングともいえる一曲だ。

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「このアルバムは、私的には15周年に繋がっていますけど、5年前から自分の中では人生をリセットをしていたので、新人アーティストTiAとしての、現時点での集大成という感じはあります。新しくデビューするという感じです。これからどういう私になるのか、どういうアーティストになっていくのかはわかりません。でも今までもそうだったように、導かれるままにいくというのが一番いい方法だと思うので、これからも導かれることで、答えはフッと現れると思います」。

音楽番組で、“歌怪獣”・島津亜矢と圧巻のコラボ。絶賛の声が飛び交う

6月11日、TiAは『うたコン』(NHK総合)に出演し、視聴者に衝撃を与えた。“歌怪獣”の異名をとる島津亜矢と、ホイットニー・ヒューストンの「I Will Always Love You」をコラボしたが、オンエア後SNS上では「鳥肌」「圧巻!素晴らしい!!」「二人とも歌うますぎ」「日米“歌怪獣”コラボ」など絶賛の声が飛び交った。この曲はTiAが初めてニューヨークのライヴハウスや、アポロシアターのステージに立った時に歌った曲でもあり、数々のコンテストやオーディションで優勝した時にも歌い、人生の節目節目でTiAの力になってくれた曲でもある。その曲を日本のテレビで、多くの人に向け、歌えることは「奇跡だと思いました」(TiA)。TiAのミラクルはまだまだ続いている。

TiA オフィシャルサイト

TiA オフィシャルブログ『NEW YORK to JAPAN』

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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