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ましのみ「目的の一番きれいなところを見失いたくない」 学生最後のライヴで見せた決意のその先にあるもの

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ポニーキャニオン

トレードマークのペットボトルの水は透明。でもそこを通してみる向こう側の景色は歪んだり、屈折しているように見える=ましのみポップス

2ndアルバム『ぺっとぼとレセプション』(2月20日発売)
2ndアルバム『ぺっとぼとレセプション』(2月20日発売)

ライヴの途中、2リットルのペットボトルに入っている水を、何度もゴクゴクと飲む彼女は、美しかった――ペットボトルは、先日大学を卒業したばかりの、22歳の女性シンガー・ソングライター、ましのみのトレードマークだ。大学在学中の2018年2月にアルバム『ぺっとぼとリテラシー』でメジャーデビュー、今年2月に2ndアルバム『ぺっとぼとレセプション』をリリースしたが、2作のジャケットはペットボトルがデザインされている。ペットボトルを通して向こう側の景色を見ると、歪んだり、屈折しているように見えるが、それがましのみ流ポップスで、言い換えると多角的にものごとを捉えると、もっと世界は広がり、面白くなるのではないか、という彼女の作品に貫かれているテーマでもある。

遊び心溢れる、ポップでキャッチーで、ひねくれているポップスな楽曲が多かった1st。メジャーシーンという得体の知れない世界に打って出て、手探りで走り出した彼女は、とにかく強い姿勢を見せるしかなかった。しかし2ndアルバム『ぺっとぼとレセプション』は、自分の走っている場所、聴いてくれている人の顔を確認できた“余裕”が、曲と言葉に表れている。スタンダードなポップス、ラヴソング、バラード、聴き手に対して能動的になった彼女の姿がそこには強く表れている。

3月21日、大学生としての最後のライヴ

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それは、3月21日渋谷ストリームホールで行われた、『ぺっとぼとリテラシー vol.3 ~レセプションパーティー in TOKYOでひとつになりまショータイム~』と題し行われたワンマンライヴでも感じられた。この日彼女が客席に向かい投げかけた真摯な言葉の数々は、とにかく今を、少し先の未来を明るく過ごすためのヒントになる、非常にポジティブな空気を纏ったものばかりだった。「心と体を自由に柔らかくして存分に楽しんでくださいませ」というアナウンスから暗転し、藤井洋(Key)とMIZUKI(Dr)が登場し、ショウの幕開けだ。

オープニングナンバー「‘S」から、早くもトップギアに入ったような凄まじいエネルギーで、一気にましのみワールドに引きこむ。「ましのみという概念の中に入ってもらって、心のわだかまりを粘土みたいに柔らかくして、フラットにして、楽しんでもらいたいです。ライヴは“感情の交換”をできる場。楽しみにしてきました」と語り、しっかりとお客さんの目を見て、一人ひとりと感情の交換をきちんとしたいと話す。この日の会場がある、渋谷を舞台にした「Hey Radio」を歌い、彼女のライヴではおなじみの一人芝居の寸劇から、「美化されちゃって大変です」をステージをいっぱいに使って歌い、客席を煽る。エモーショナルな歌が印象的な「凸凹」の前にも、一人芝居を差し込んできたが、この一人芝居でストーリーを作り出すことで、絶妙な“間”と空気を生み出し、ライヴの中でいい“差し色”になっている。

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「時間に逆らえないという経験をしているからこそ、みんなとの関係が、時間とともに薄れていったり、熱量が下がっていってしまうのはすごく嫌だ。ひとつわかったことは、お互い凸凹がぴったりハマっていたとしても、お互いを完全に理解することはできないのだから、それを認めるからこそ、ずっと興味を持ち続けられるし、熱量や関係性も傲ることなく続けていける」と、現在の彼女の嘘偽りない思いを素直に語り「錯覚」を披露。この言葉が、歌の温度を真っすぐに客席に届ける力になっている。「今の記憶のまま赤ちゃんになりたいという、人間の不思議な心理を描いた」アップテンポのナンバー「AKA=CHAN」、「ストイックにデトックス」、そして、人気曲の「どうせ夏ならバテてみない?」は、今の季節に合わせ「どうせ春ならバテてみない?」として披露した。

「苦しいことやしんどいことがあって、そういう時に私の曲を聴いて元気になったり気持ちが少しでも軽くなってくれたらいいな」

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「日々生活していく中で苦しいことやしんどいことがあって、そういう時に私の曲を聴いて元気になったり、気持ちが少しでも軽くなってくれたらいいな。私は夢を追って生きていく上で、嫌なことが積み重った時、前が見えなくなることがある。そういう中で、いつも念頭に置いているのが、目的の一番きれいなところを見失わないようにしようということです。私は辛いところに寄り添えるような曲、一番きれいな目的に、立ち帰れるような曲を書きたいと思い、届けています。曲を聴いて、みんなにも幸せになってもらえたら」と、真っすぐ前を向いて、真っすぐなメッセージを贈る。

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そして「恋愛の一番幸せな部分を切り取った」ミディアムナンバーの「ゼログラビティのキス」を本編の最後に披露。もちろんこれで終わらない。「名のないペンギン空を飛べ」を披露し、5月と6月にツーマンライブ『ましのみpresents 心が上昇するツーマン』を行うことを発表し、客席を喜ばせた。

「私が夢を追いかけ、頑張り続けることができるその支えは、みんなの存在」

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「今を幸せだと思えない人に、これからの人生も幸せだと思えるはずがないということに気づきました。今までは今を犠牲にして、未来の幸せのために行動してきました。未来の幸せを追いかけて、人生が終わってしまうと感じた事もある。楽しんで頑張ったことが未来へ繋がっていくのが健全で、自分にとってもいいことだと思いました。私が夢を追いかけ、頑張り続けることができるその支えは、みんなの存在です。私もみんなにとって最高のアーティストになっていきたいです。これからも冷めることなく、みんなといい景色を見ていきたいです」と、4日後に卒業式を控え、学生ではなくなる22歳の一人のアーティストの等身大であり、“次”に進むという強い決意を感じさせてくれる言葉に、胸を打たれた。最後に「ターニングポイント」で全員でタオル回し、ひとつになり大団円。

最後まで全力で“感情の交換”

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かと思いきや、鳴りやまない拍手に導かれ、ましのみは再びステージに登場。「みんなの“それ”であり続けますように」と、弾き語りで「それ以外」を歌う。ファンとの絆を確かめ合い、最後まで全力で“感情の交換”を楽しむ。ファンのことをどこまでも思うましのみの優しさと、表現者としてのいい意味での“貪欲さ”、そして彼女の口から放たれる、リアルさの中に夢を忘れない、ある意味、純度が高い数々の言葉は、これからもっと音楽シーンの中で強い光を放ってくれそうだ。

『ましのみpresents 心が上昇するツーマン vol.1』

【出演】ましのみ/とけた電球

2019年5月1日(水・祝)渋谷eggman

17:30開場/18:00開演

\3000(ドリンク代別)

『ましのみpresents 心が上昇するツーマン vol.2』

【出演】ましのみ/番匠谷紗衣

2019年6月7日(金) 渋谷eggman

18:30開場/19:00開演

ましのみ オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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