通も初心者も虜にする注目の落語家・三遊亭兼好「初めて来た人も楽しめる落語をやらなければダメ」 

「なんだかわからない言葉が一杯出てきたけど、面白かったと思ってもらえるのが一番」

人気・実力を兼ね備えた、今最も注目を集めている落語家のひとり

落語人気の勢いが止まらない。寄席には若い人の姿も目立ち、さらに手軽に、カジュアルな値段で落語が聞ける場所が、どんどん増えていることもブームを後押ししている。定席はもちろん、「渋谷らくご」などの初心者向けの落語会や、落語を聞きながらお茶や食事が楽しめる「らくごカフェ」などで、都内では、月に1000件を超える落語会が開催されているといわれている。人気落語家の落語会、独演会はチケットが争奪戦になっている。そんな中でも、今、飛ぶ鳥を落とす勢いの落語家のひとりが、三遊亭兼好だ。その芸風は、とにかく明るい。古典に独特の巧みなアレンジを加え、その軽妙な高座で落語通のファンも、初心者も虜にしている。人気・実力を兼ね備えた、今、最も注目を集めている落語家のひとりで、芸歴20周年を迎えた三遊亭兼好にインタビューし、その素顔に迫った。

サラリーマンを経験し、28歳で落語の世界に入った異色の経歴。とにかく「楽しい落語」を追求

兼好は28歳で三遊亭好楽師匠に入門。それまでは、築地の魚河岸やタウン誌の営業など、サラリーマンとして働いていたという、異色の経歴の持ち主だ。落語家への道を選んだ時は、妻と二人の子供がいた。

Photo/山田雅子
Photo/山田雅子

「本当に何も考えてなかったんでしょうね(笑)。いつも落語家連中としゃべるんですけど、本当に考えて決断した人は来ないんです、この世界には(笑)。本当にちゃんと考えたら、やめると思います。別の形で落語に関わろうとしたりするのに、私の場合どこかで面倒くさくなっちゃって、『一応行ってみるか』くらいの感覚なんですよね。女房の存在も大きかったと思います。変に止められたり、悲壮感が漂っていたり、逆にそこまでやるんだったら私も応援するから、頑張りなさい!という熱い背中の押され方だったら、途中でやめていたかもしれません。でも、好きにどうぞみたいな、そんな感じだったので続けられたのだと思います(笑)」。

築地の魚河岸で働いている時、仕事柄、午前中で仕事が終わると、時間を持て余していた。そんな時、上野の鈴本演芸場の前を通り、ふと入ったことが、落語との出会いだった。昼からお酒も飲めるし、2~3000円で長時間のんびりでき、楽しめる「場所」を求めていた。寄席こそが探していた空間だった。そこから落語の魅力に憑りつかれ、寄席や落語会に通うようになった。何度か通っているうちに噺家になることを決意したという。そして好楽師匠に弟子入りのお願いに行くも、家族構成などを話すと断られ、それでもめげずにお願いに行くと、また断られ、それを何度か続け、手紙も書き、思いを伝え、ようやく入門が許された。1998年のことだ。前座名「好作」、2002年、二ツ目に昇進、「好二郎」となる。2008年9月、真打昇進。「兼好」となる。その芸はとにかく明るい。マクラ(導入部分)から抱腹絶倒で、最後まで「楽しい落語」だ。最初から最後までサービス精神溢れる、まさにエンターテインメントとして楽しませてくれる。

「笑いは、時に人を傷つける武器になる。でもひとりも傷つかず、気持ちよく帰ってもらえるような笑いを目指す」

「例えば平日に落語を観に行こうと思うと、特にサラリーマンは色々と仕事と時間のやりくりが必要で、やっとの思いで落語会に駆け付けて、そこで演者が『今日はたくさん集まってくれてありがとう。他に行くとこないんです『』って笑わせようと言ったときに、自分の贔屓の落語家や、キャリアのある面白い人ならともかく、そうではない演者から言われると、腹が立つ時があるんです(笑)。『うるさい、お前を観に来たんじゃない』って。そう思う時ってあるじゃないですか(笑)。それが経験としてあるので、自分が出たときには、おそらくここに来ている半分以上の人は、何かしら、会社に嘘をついて来ているとか(笑)、時間がなくて、飯も食べられずに飛び出して来たとか、もしかすると、中入り(休憩)の時に、仕事をしている人もいるかもしれないので、お客さんが不快に感じることだけはしないように、という思いはあります。笑いというのは武器にもなります。でも武器になるということは、それによって傷つく人もいるかもしれないということです。私は80人の人にどかんとウケたけど、20人の人が傷ついた、というよりは、ウケはそこそこでも、100人全員が誰も傷つかずに気持ちよく帰ってくれた、という方を目指しています。それでも誰かを傷つけてしまうことはあるかもしれないですけどね」。

“必殺”のマクラからの、古典落語の数々は、ゆうに170を超えるという。独自のアレンジが効いた落語は、情景が瞬時に浮かんできて、その時代、その世界に引き込まれる。

「落語を知らないでこの世界に入って、古典落語を色々聞いたら本当に面白いし、よくできているんですよ。だから古典落語をっていうよりも、面白い話をちゃんとやろうと思うと、古典をきちんとやった方が伝わりやすいということに気づきました。古典落語は先輩方が色々工夫して築き上げたものなので、昨日今日考えてやったものでは太刀打ちできないことがたくさんあります。例えば自分で考えたギャグは、ワッとウケたら、『ほらみろ!』って思いますけど、2回3回やっていくと、刺激が強い分、お客さんも慣れてきてウケなくなってくるんですよ。ところが古典落語の笑いは『わはは』くらいなんですけど、ずっと「わはは」なんです。これがすごい。不思議で仕方ないです(笑)」。

寄席、落語会の楽しみ方、楽しませ方

現在、落語会に兼好の名前を見ない日はないというくらい、引っ張りだこだ。その落語会も、組み合わせの妙を楽しむ場であるはずが、実はその組み合わせが非常に難しいという。

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「メインの師匠が誰かでも、全然お客さんは違います。一番うまくいかないのが、主催者の方は、古典落語でしっかりと正攻法でやっている人と、新作で、勢いよくやっている人とを組み合わせたら面白いだろうと思ってブッキングするんだと思いますが、まずうまくいかない(笑)。お客さんの好みの振り幅は、それほど大きくないですから。例えば、昨年11月に桂雀々師匠の独演会(日本青年館)に出させていただきましたが、師匠は大先輩であり、上方落語なので、それを聞きにきているお客さんが大半です。そんな中、こっちがやることといったら、軽く、ワッと笑ってもらう(笑)。そんなに深刻になっちゃいけない(笑)。そういう方が喜ばれたりしますし、逆に私よりも後輩がメインで、そこにゲストで出ますという時は、ネタは渋めのものをやってあげた方が、彼らが引き立つと思います。寄席でもそうだと思います。本来落語自体が、俺が俺がという芸ではないと思うんですよ。なんとなくトリの師匠が目立てばいいんですよね。中入り前とトリの師匠、この二人が目立って、あとの出演者は盛り上げ役なので(笑)。これをいうとまた怒られそうですが、寄席は絶対につまらない人が必要なんです(笑)。退屈な人が間にいて、その退屈な時間がいかに大事かなんです。だから例えば『シブラク』(渋谷らくご)なんかは、とにかく全員がそれなりに頑張ってしまいますが、私より先輩方の柳家喬太郎師匠とか、4、5人でやる落語会の場合は、皆さん大人ですから、「じゃあ今日はトリの師匠に任せて、こっちはちょっと軽いものにしよう」という算段ができます。でも若手が集まると、みんなが俺が俺がって、全力投球になるので、疲れるんですよね。やっぱり脳みそが疲れない程度に、ぼんやりしている人が何人か出てくるのが、すごくいいんですよ、寄席は(笑)」。

兼好は『三遊亭兼好落語集 噺し問屋』というCDシリーズをコンスタントに発売しているが、これは「残す」という目的というよりも「寄席、生の高座に来てもらうためのチラシ」だという。「でもYouTubeにも色々アップされていて、そこで観られるからCDが売れないんです(笑)。だからそこは複雑な感情で、というのは、仕事の依頼の連絡をもらった時に、最近はみなさん正直ですから『YouTubeを観て面白かったので、呼びたいんです』とおっしゃってくれます。で、『どのネタを観たんですか?』って聞くと『この話を聞きました』とネタを教えてくれます。それで、当日、よかれと思って、場所や客層を考えてその話以外のネタをやろうと思うと、『いや、あの話をやって欲しい』という人が結構多いです。CDは、残していくという感覚よりも、今現在やっているのはこんなことですということなので、もしかすると同じ話をもう一回出すかもしれないです。何年前はこうだったけど、今は同じネタがこんなになりました、だから聴いてくださいという感じになると思います。口が回ってなかったりして(笑)」。

豪華ゲストを迎え、芸歴二十周年記念公演を開催「それで30周年?40周年?と言われないように、これからも精進していきたい」

そんな兼好が芸歴20周年を迎え、記念公演『まるっと兼好。』を2月から埼玉、東京、千葉、神奈川、そして故郷・福島で行う。各公演、豪華なゲストが花を添えてくれる。

2/23千葉公演のゲスト、柳家権太楼
2/23千葉公演のゲスト、柳家権太楼

「いや、そうじゃないと思いますよ(笑)。だってメンバーを見てください(桂雀々、立川志らく、柳家権太楼、柳家喬太郎、三遊亭好楽)。なんとかして自分の方が目立とうとすると思います(笑)。20年といっても、まだまだここからです。芸歴40年、50年の師匠がたくさんいます。20年というと、ようやく声ができあがってくる時だと思います。それと、もっと年代が上がっていった時に、何周年って言いたくない状況にはしたくないです(笑)。例えば40周年の時に、『それで40周年ですか?』って言われないように、精進していきたい。落語のお客さんは、マニアックな人と初めての人が入り混じっていて、歌手のコンサートのように、みんながその人のことを知っているという状況ではない中で、常にやっていかなければいけません。だから年齢を重ねていった時に、若い人たちから、生理的に嫌われないようにしたい(笑)。落語通の方たちには、少しは信頼度が上がっているかもしれません。こいつが出てきたってことは、多少はまともで楽しい話をしてくれるのだろうという(笑)。でも初めて観るという人に、出てきた時に『嫌!』って言われないようにしたいです(笑)。何はともあれ、初めて来た人に楽しんでもらう落語をやらなければダメです。なんだかわからない言葉がいっぱい散りばめられていたけど、面白かった、と思ってもらえるのが一番です」。

サラリーマン時代を経て、落語の世界に飛び込み「あっという間」の20年。結果的に一番長い「仕事」になっている。「落語が好き」ということと「落語家になる」ということは、次元が全く違うことではあるが、選んだ道は間違いではなかった。

「いえ、うちの女房に言わせると、まだわからないそうです(笑)」。

BSフジ「三遊亭兼好芸歴二十周年記念公演 まるっと兼好。」特設サイト