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藤井フミヤ 35周年記念ツアー完遂 「生きている限り、歌います」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「ステージの上で歌わせてもらえているのは、来てくれるみんなのおかげ」

チェッカーズ、ソロ、F-BLOOD、藤井のアーティスト活動の軌跡を辿る、35周年ツアー

写真提供/BSフジ
写真提供/BSフジ

9月22日からスタートした、藤井フミヤのデビュー35周年ツアー『35th ANNIVERSARY TOUR 2018 "35 Years of Love"』が12月16日、東京・NHKホール公演でファイナルを迎えた。藤井はチェッカーズとしてデビューし35年、ソロデビュー25周年を迎え、7月18日にソロデビュー曲「TRUE LOVE」(1993年)から、最新アルバム『大人ロック』(2016年)まで、発表した全277曲の中から、ファンのリクエストによる上位100曲を収録したベストアルバム『FUMIYA FUJII ANNIVERSARY BEST "25/35" 』を発売。このアルバムを中心にチェッカーズ、ソロ、そして弟・藤井尚之とのユニット・F-BLOODと、藤井のアーティスト活動の軌跡を辿るベスト的なセットリストに期待し、多くのファンが全国の会場に駆け付けた。

新たなバンドが作り出す極上のバンドアンサンブルと、パワフルかつ色気のある歌

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その11月9日の大阪フェスティバルホール公演を観た。翌日10日にはWOWOWの生放送を控え、さらに11日には、9月の香川公演の振替え公演と、3日連続公演はこのツアーでは初めてだった。しかし、当たり前だが一切力を抜くことなく、パワフルかつ、色気のある歌を響かせ、大きな感動を与えてくれた。大島賢治(Dr)、川渕文雄(B)、真壁陽平(G)、岸田勇気(Key/P)、藤井尚之(Sax/G)という、このツアーで初めて顔を合わせたとは思えないほどの、極上のバンドアンサンブルを聴かせてくれた。ビンテージ感を感じさせてくれる芳醇なロックサウンドは、音響が素晴らしい同会場でさらに輝きを増し、歌の表情をさらに引き立て、聴き手の心により感動的に伝えていた。

キャリア35年、56歳のシンガーの底力

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ベスト盤の発売タイミングで藤井にインタビューした際には、このツアーについて「お祭りだと思うんですよね。もちろんバラードもアップテンポの曲もやるんですけど、ある意味35歳の藤井フミヤの歌のテクニックと、パフォーマンスと多少年齢老いたからこそ生まれる緩さと、そういうものを感じるしかないでしょうね(笑)」と語っていたが、まさにキャリア35年、56歳のシンガーの底力を見せつけてくれた。構成、演出の素晴らしさはもちろん、色褪せないポップソングの数々を、変わらないキーでパワフルにそして繊細に歌い、その多彩な表現力が“説得力”となって、このライヴ、そしてツアーの意味が伝わってきた。

「こうやってステージの上で歌わせてもらえてるのは、来てくれるみんなのおかげです」

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オープニングナンバーは最新アルバム『大人ロック』に収録され、ベスト盤のファン投票でも5位と人気の「GIRIGIRIナイト」で、ロックショウはスタート。しなやかな動きで、次々とヒットナンバーを披露する。MCでは「35年間思い起こせば……思い起こせない(笑)。でもこうやってステージの上で歌わせてもらえているのは、来てくれるみんなのおかげです。どうもありがとう」と客席に向け、感謝の言葉を贈る。インタビューでも「「よくここまで歌ってこれた」という思いから、「歌わせてもらっている」「聴いてください」という気持ちに変わってきています。残るということは、本当に大変なことだと思う」と語っていたが、常にファンの事を思い、活動してきたということはもちろん、この日改めて感じたのが、チェッカーズ時代のものも含めて、「いい曲」が多いということも、35年間第一線で歌い続けてくることができた大きな要因だ。この日も歌った、ちょうど30年前に発売された「素直にI'm sorry」は、新しい曲達の中に入っても新鮮さを失っていない。それは藤井の「あまり流行に乗ることもなく、いつ聴いても古くない、スタンダードになりうる音楽というか、そういうものを常に目指した」という、歌い手としての“プライド”を35年間貫き通した結果だ。

「35年間、兄弟二人ともこうやってステージに立っていられるなんて思っていませんでした」

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「ここからは友情の歌」と披露したのは、猿岩石に提供した名曲「白い雲のように」(1996年)、チェッカーズ「Friends and dream」(1989年)、そして藤井フミヤ&憲武とヒロミ「友よ」(2015年)だ。チェッカーズはラブソングはもちろん「友情」や「夢」をテーマにした作品が多かった。「白い~」も「友よ」も弟・尚之が作曲を手がけている。このツアーでもサックスとギターで、藤井を支えていた。藤井は「35年間、兄弟二人ともこうやってステージに立っていられるなんて、思っていませんでした」と、感慨深そうに語っていた。

「ベスト盤のファン投票で選ばれた100曲を見ての感想は「おー、やっぱりこの曲は入るよな」「え?この曲入ってんの?へぇ~」「ふーん、あの曲入れてくんなかったんだ(笑)」と、この3パターンでした。その中から上位のバラードを3曲聞いてください」と人気のナンバー「Another Orion」「大切な人へ」「DO NOT」を披露。

「35年間歌ってきて、音源はレコードからCDへと形を変え、今は配信で、形がないものに。でもコンサートは変わらない」

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藤井はMCで色々なことを語りかけていた。「コンサートはデート」だから、恋人に、彼から音楽と自分について、たくさんのメッセージが贈られる。「35年間歌って来て、最初はレコードで、そこからCDと形が変わっていって、今は配信。形がないものになってしまいました。でもポケットに入れられるし、コンサートはこうやって変わらない」、「芸術ってほどじゃないけど、ポップスは大衆的な芸術かな。我々は音楽をやってますが、芸術の中で音楽だけは平和なんです。歌詞の中で人を殺したりしないでしょ?たまーにそういう前衛的なのもあるけどね。それはそれでいいと思いますが」――これも歌の“説得力”につながっている。

そして「これも30年以上前の曲で、俺と尚之がスーパーアイドルだったころの曲です。スーパーアイドルだったころの気持ちを思い出したいから名前を呼んでくれ!」というと、客席から「フミヤー!」という絶叫に近いの声が飛び交い、「I love you, SAYONARA」へ。尚之のサックスは時に爽やかに、時には甘くセクシーな音色、表現力で楽曲に彩りを与える。

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その後も「I」「女神」「孤独のブラックダイヤモンド」「NANA」など、次々とおなじみの曲を披露し、アンコールへ。「TRUE LOVE」「夜明けのブレス」、そしてファン投票1位の、聴く人全てを勇気づける「ALIVE」を最後に歌ってくれた。アンコールのMCでも、何度も何度もこれまでの35年間をファンに感謝していた。そして別れを惜しむファンに「そうだ、約束しよう。またここで会おうな」とこのステージでの再会を約束し、ステージを去っていった。

「この職業は引退がない。だから生きている限り歌います」

そしてその約束は来年の夏、実現することが発表された。来年7月からバンドと弦カルテットでの全国ツアー(26公演)が開催される。その前に12月31日に「藤井フミヤ 日本武道館 LAST COUNTDOWN PARTY 2018-2019」を行う。1999年から藤井が大切にしてきた恒例のお祭りライヴも、今回が日本武道館改修前最後となる。来年にはオリジナルアルバムの発売も期待され、次の40周年に向けその歩みは止まらない。「35年歌って来て思うのは、この職業は引退がない。周りの先輩方を見ても誰も引退していない。生きている限り歌います」と、大阪フェスティバルホールのステージ上で、生涯現役宣言もした。藤井の“大人ロック”を楽しむ旅は続く。

藤井フミヤ オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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